閑話 ―謀略の匂い―
「ああ、そこの愛らしい貴女。少しの間お付き合い願えませんか?」
今日も情報収集の為、アンドレ王子は麗しい笑顔で一人の侍女を捉まえる。
しかし侍女は褒めれば頬を染め、笑いかければ惚けるように見惚れるが、決して聖獣に関する話を漏らそうとはしない。
内心舌打ちしながら、アンドレ王子はターゲットを変えることにした。
近くに控えている年若い侍従を呼びつけて、聖獣の愛らしさについて語り合う。
飼い犬自慢をする飼い主心理をご存じだろうか、楽しげに喋る侍従の口から重要な情報が漏れる。
「なるほど、シエルのケーキですか。食べる様子なんて蕩けるほどに可愛らしいんでしょうね」
「ええ、それはもちろんでございますともっ!」
鼻息荒くちょっと興奮気味の侍従から、アンドレ王子はまんまとベスの大好物を聞き出すことに成功した。
薄暗い城の一室で密やかに行われる謀略の匂い。
「アンドレ王子、これでございます」
白いローブ姿の男が小さな箱を差し出す。
「おお、これが例の物か……」
アンドレ王子の顔に抑えきれない喜悦が浮かぶ。
「ふふふ、これさえあれば……」
最近人気のケーキ屋『シエル』。
王室ご用達の噂の為、さらに人気に拍車がかかり、店は連日大行列の繁盛ぶりだ。
そのシエルのケーキを買う列に、若い娘に混ざって並ぶ、白いローブ姿の怪しい男。
男はここ数日毎日並んではシエルのケーキを買い、無駄のない動きで立ち去っていく。
きっと、たぶん、おそらく、彼はすんごい武術の達人。




