閑話 -ベアトリーチェの奮闘-
ベアトリーチェは大きなお屋敷に飼われている真っ白な子猫だ。
目は青く煌めき、手入れされた毛は極上の触り心地をしている。
最高級のミルクを繊細な美しい食器でお上品にいただき、最高級の猫用ベッドで寝転がり毛づくろいする様も愛らしく、ベアトリーチェは使用人達にも可愛がられ、女王様のごとく振る舞う。
ご主人様はちょっとごついが逞しく、顔もよくみれば整っている紳士で、忙しそうだが毎日顔を見に来てくれる。
「ベアトリーチェ、ベア、ああ、今日もなんて可愛いんだろう」
優しく抱きしめられ頬擦りされ、蕩けるような声音で名前を呼ばれる。
ふふ、ご主人様は私に夢中ね。
ベアトリーチェは愛され甘やかされ、何不自由ない生活に満足していた。
しかし、ある日彼女は気づいてしまう。
ご主人様の自分を見る目が他の誰かを思っていることに。
そして、決定的瞬間はやってきた。
「ああ、ベス様」
ベアトリーチェを抱きしめながらご主人様が小さくつぶやき、ベアトリーチェの目がギラリと光る。
ベスって誰?
ご主人様、浮気?
それからのベアトリーチェは帰宅したご主人様に付きまとい、用心深く全身をチェックするようになった。
数日後、ベアトリーチェはご主人様から別の女の匂いを感じ取った。
いそいそとまっすぐ書斎に向かうご主人様。
あ・や・し・い。
こっそり後を追えば、布に包んだ何かを大事に引き出しにしまいこんでいるご主人様。
ベアトリーチェは、その引き出しを器用にあけると、布の中身を確かめた。
折りたたまれた布に挟まれているのは白い数本の毛。
これが、ご主人様の……。
ベアトリーチェは憎々しげにそれを見つめると、フンッと鼻息一つでそれらを吹き飛ばした。
ふふんっ、ざまぁみろっ!
まだ見ぬライバルへ不敵に笑うベアトリーチェ。
薄汚れた路地裏から突然拾い上げられ、世話してくれた男たちのいうところの『金持ちのご主人様』の為に磨き抜かれた彼女。
元野良猫の彼女は雑草のごとく逞しかった。
その夜、某将軍は聖獣様の毛紛失に気づき、滂沱の涙を流したが、悄然とした彼を慰めたのは、天使のようなベアトリーチェだった。