タイムマシン
私の夢はタイムマシンを作ることだった。
タイムマシンで、幼い頃に病気で亡くなった母に会うことが夢だった。幼い頃に死んでしまったたので話したことは一度もなかった。だから、その夢をどうしても叶えたかった。
そして、私はそういう科学や数学的なことを学ぶ学校に入った。そこで、様々な人と出会い、ガールフレンドもできた。
でも、そんなことはどうでもよかった。
私はただ早く母に会いたかった。それだけが私を動かす原動力だった。
月日が流れ、学校を卒業する間際。
タイムマシンは完成した。数年の歳月をかけただけの完成度だった。
その日はガールフレンドが遠いところに引っ越しをする日だった。駅で会うとは約束したものの、私の中でのプライオリティはタイムマシンの方が上だった。
タイムマシンを置いてある倉庫に向かう。その途中の交差点で交通事故を見てしまった。40代くらいのおじいさんのようだ、おそらく見た感じ即死だろう…縁起が悪い…
倉庫に着きタイムマシンのスイッチをいれ、レバーを下げる。
あたりは光に包まれて私の身体を不思議な感覚が包む。
そして、光が消えるとそこは過去だった。
見覚えのある景色、いまは潰れてなくなったパン屋さん。すべてそのままだった。
過去に戻れたのだ。
私は一目散に母の元に走る。息を切らしながら家に着く。そこには、引っ越す前の家があった。庭には子供と遊ぶ母がいた。
私は母に話しかける。
『こんにちは、いい天気ですね。』
『えぇ、久しぶりの晴天ですね。ところで…昔にどこかで会ったことがありますか?』
母から聞かれてギョッとした。
『いえ…気のせいですよ。』
『そうですよね、すみませんね…。』
その時玄関から父が出てきた。私は父親が苦手だ。
そろそろ戻ろうかな。でも、お別れの挨拶くらいはしたいな。
『それでは…あぁ、そうそう。』
『大切な人との時間を大切にしてくださいね。』
『…?』
『じゃあね、母さん。』
私は足早にそこからタイムマシンの元に戻った。
そんな…
タイムマシンがない。
私の頭に最悪の発想がよぎった。
もしかすると
"過去"に夢が叶ってしまったため、タイムマシンを作るという動機がなくなってしまった。つまり、タイムマシンは作られてないことになった、ということになったのか…?
ただ運がいいことに、そこまで遠い過去ではない。
私はこの過去で生きて行くことにした。
前とは違い夢が叶ってから、他のことに目がいくようになった。そして、人への優しさや友情などの大切さを知った。
そして、あの日まで時間が経った。
タイムマシンに乗った日。
もし、この時タイムマシンを乗ろうとした自分を止めたら私の若さは戻るのだろうか?
…やめた、私はこのまま生きて行くことにしたんだ。
そうだ、そういえば今日はガールフレンドの引っ越しの日だった。
あの日は彼女の元へ行けなかった。
でも今は違う。もう私は変わったんだ。
今まで大切にしてあげられなかった。それでも私といてくれたお礼とお詫びくらいはしよう。…でも、老いた私を見て気づいてくれるだろうか?
それでも、私は彼女の待つ駅へ向かっていた。
今ならまだ電車に間に合う。
お礼くらいは言おう、そして謝ろう。
この交差点を通ったらすぐに駅だ。