表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/22

019 迫る帝国の影

ほんの少しエグい描写があります。苦手な方はご注意くださいませ。

 丑三つ時。先ほどまで夜空に煌いていた星々はすっかり墨に染まり切ったかのような黒い雲に包み込まれ、全てを呑み込むような闇の帳が『月京』の都に降り注いでいた。

 城下の明かりはすっかり消え失せており、唯一茫々とした灯火の光が漏れ出ているのは魔王城の最上階である白夜の自室のみであった。

 提灯の中の魔力で作られた小さな光球が部屋の中をぼんやりと照らす。そんな中、白夜は書庫から持ち出した大量の書物を長時間の間読み耽っており、遂に最後の1冊を読み終わり本の山にその1冊を重ねた。そして小さく吐息すると、眠るように目を瞑り黙想を始めた。

 眠っている訳でもなく、かと言って何もしていない訳でもない。白夜はただ自分が一番落ち着ける体勢で精神を落ち着け、たった今無理矢理頭の中に詰め込んだ情報を整理しているのだ。

 必要な情報は記憶に刻み付け、必要のない情報は忘却の彼方へ放り捨てる。そうする事で記憶しておくべき情報を最小限に留めて置く事が出来るのだ。

 白夜は忘れるという行為こそが知識を身に染み込ませる最善の方法だと思っている。必要な情報と必要でない情報が頭の中で混在する事で、真に必要な知識が分からなくなるのを防ぐのだ。白夜の記憶力と身に付けた知識を行使する力は凄まじいものであり、例え不要な情報が頭の中に残留していたとしても真に必要な知識を引き出す事は出来るだろう。がしかし、白夜は自分の知識と言うものをまるで1冊の本のように再構築して保存してしまうという癖がある。そして得た知識はその本の目録となり、その目録を見てどこに必要な知識が載っているページがあるのかを探し出す。故に不要な知識が目録に載ってしまうと真に必要な知識を見つける手間になってしまうのだ。

 常人ならば無意識の内に必要な情報も不要な情報も一緒くたに記憶し、無意識の内に必要不必要問わず忘れて行くのが普通だ。しかし白夜はそれを意識し確実に行っていかなければならない。

 パッと目を開け、10秒ほどの黙想を終え、身体を起こしポキポキと首を鳴らすと、白夜は窓の外へと視線を移し不愉快そうに舌打ちをした。

「隠し切れない殺意と敵意。どうやら、身の程を弁えないどこかの鼠が纏めて殺されに来たようだな……」

 城の敷地内に侵入者の気配を感じたらしい。

 自ら惨たらしい死を選ぶとは馬鹿な奴らだと呟きながら立ち上がり、命知らずな虫けらを蹴散らすために窓から飛び降りようとしたその瞬間、白夜の超人的な視力の目が闇の中を歩き侵入者の方へと向かって行く人物の姿を捉えた。

 1つに纏めた黒髪に凛とした横顔。腰には刀をいており、手甲を腕に、脛当を脚の脛に装着した、速く動く事に重点を置かれている彼女、悠刕の完全武装。

 真っ直ぐに侵入者の気配へと向かって行く悠刕を目で追い、白夜は先ほどまでの不機嫌な表情から面白そうな事を見つけた子供のような表情にパッと切り替えると、クツクツと笑い声を漏らした。

「クク……そうかそうか。お前が出てくれるのか。それならちょいとばかし御手並み拝見と洒落込もうか。月夜の護衛に相応しいかどうか、見極めさせてもらうぜ」

 そう言って、白夜は悠刕の姿を見下ろしながら、高みの見物を決め込むのだった。


    ◇◆◇◆◇


 何やら不快な気配を感じ取り深夜遅くに悠刕は目を覚ました。

「この気配は……」

 完全に隠し切っているようで隠し切れていない気配。隠し切っているため逆にその者が居る部分だけぽっかりと穴が空いたように気配が抜け落ちてしまっているのだ。

 そしてその気配の空洞から感じ取る事が出来る感情は何者かに対する明確な殺意。この城にやって来る者でそれを抱いているのは主に、かつて『反逆勇者』の手によって蹂躙され、思うがままに弄ばれた国の暗殺者である。

 吐き気を催すような汚らしい殺意に悠刕は気分を害したのか、布団のすぐ傍らに置いてある妖刀を手に取り、素早く寝巻きから普段着ている丈の短い袴姿へと着替えると、自らの安眠を妨害した愚かな輩に制裁を加えるべく部屋を出た。

 このまま放っておけば見張りの誰かが気付くか、気付かなくとも白夜が自ら手を下すだろう。しかし、この城の者は白夜を含め少々大雑把な性格の者が多い。戦いにおいては技術と知識を駆使し数々の強敵を屠るほどの実力を持っている魔王軍の面々だが、抑えが利かないのだ。

 例えば白夜が自ら出て行って暗殺者に制裁を加えたとしよう。その際白夜は暗殺者を容赦なく殺害するのだが、力を抑えようという考えを持って戦わない。故に騒音や大小異なれど被害が発生する。が、魔王軍の者達も思考回路があまり変わらないため騒音や被害を特に気にしないのだ。

 だがしかし、悠刕はあくまで城の客でありぶっちゃけて言うなれば部外者だ。騒音も被害も気にする。

 魔王軍内の問題であるため部外者の悠刕が首を突っ込む事こそ大きなお世話なのかもしれないが、碌な事をしない輩に気が付いているのに放っておく事は悠刕には出来ない。

 侵入者の気配が感じられる所まで歩いて行き、悠刕は言い放つ。

「闇に紛れて城へと忍び込んだ不貞な輩よ。隠れているのは分かっている。即刻その身を私の前へと曝せ。もしくは早々にこの城より去るが良い。さもなくば問答無用で斬る事も辞さない所存だ」

 そう言い放つと、闇の中に潜む侵入者が徐々に動き始めるのを悠刕は感じ取った。

 闇に気配を紛れさせる、または溶け合わせる何らかの魔術を使用しているのか姿を視認する事は一切出来ないが、気配と魔力の流れに敏感な殲魔流剣士である悠刕には侵入者達が一体何をしようとしているのか容易に予想出来た。

(数は15人……ふん、数に任せて私を囲み、畳み掛ける作戦か。この程度であの男に挑もう等とは片腹痛いわ。早々に立ち去れば許してやったものを)

 自分の周りを侵入者の気配が囲むのを感じ取りながら、悠刕は呆れたように鼻を鳴らし、黒塗りの鞘に収められた鍔なしの妖刀の柄に手を添え、僅かに鯉口を切る。

(魔力が周囲に満ち満ちて行くのを感じる……一斉に魔術を放つ算段か)

 悠刕は侵入者の行動をそう予測し、ふっと小さく笑みを浮かべた。

 確かに今の状況を鑑みるならばそうするのが一番正しい判断だ。魔術の知識に乏しいただの剣士ならば為す術もなく彼らの魔術の餌食になるのがオチだろう。だがしかし現在彼らが相手にしているのは、どんな剣士よりも魔術の知識に長け、並の魔術師以上に魔力の流れに敏感な殲魔流剣士。その策は下策である。

 悠刕が殲魔流剣士である事など微塵に知らない侵入者達は、お互いに無言の合図を感じ取り、悠刕に向けて同時に雷撃を放った。

 15の方向から同時に肉薄する雷撃。魔術の中で最も速いと言われている属性魔術。悠刕はそれが自らの肉体に触れるよりも速く妖刀を抜刀した。

 目の前に迫り来る雷撃を居合いの要領で抜刀した妖刀で斬り裂き、更に居合いによって『発生させた』遠心力によりその場で回転。魔力を流され淡く禍々しく輝く妖刀は、雷撃と言う魔術に触れると同時にそれを構成する魔力を問答無用に霧散させて行く。

 これこそが『殲魔流』の魔を以って魔を断ち切ると言う事の基本であり、魔力の流れを敏感に感じ取る事の出来る殲魔流剣士のみが実現可能とされる、魔術の綻びを見抜き魔力を纏った武器でその魔術自体を破壊する、『殲魔流』では当たり前の事過ぎて名前すらない奥義。

 たった一閃と言う壁の前に15の雷撃は一瞬の内に霧散させられ、姿の見えない侵入者達の気配が動揺に揺れ動く。

 そして悠刕がその動揺を見逃すはずもなく、タンッと地面を蹴り侵入者の気配へ肉薄すると、闇へと向けて一閃。するとその瞬間、闇の中に魔術によって溶け込んでいた侵入者の姿が斬られた闇の裂け目から露わになる。

 顔面を驚きに染める魔術師然とした格好の男。悠刕は眼前まで肉薄したその男を容赦なく斬り裂いた。

 その光景を見て我に返ったのか、残り14人の侵入者は再び魔術を発動し悠刕へと向けて放った。が、悠刕は先ほどと同じように魔力を纏わせた妖刀で魔術を、もとい魔術の綻びを斬り裂き、その魔術を完全に滅した。

 得意の魔術が全く通じない悠刕を前に侵入者達は戦慄をする。そして気付いた。自分達が一体どんな所へと忍び込み、どんな相手を敵に回そうとしていたのかと言う事を。

 この悠刕よりも更に強大な力を持つであろう魔王と言う存在を、彼らは出会ってすらいないのに認識したのである。

 そして今から、目の前に立つこの剣鬼により、自分達が蹂躙されるであろう未来も彼らは容易に予知する事が出来た……


    ◇◆◇◆◇


 約1分。たったそれだけの時間の間に、侵入者15人は1人残らず悠刕の妖刀の餌食となった。

 地に伏し、呻き声を上げながら悶え苦しむ1人の侵入者を悠刕は見下ろしながら、妖刀の刃を黒塗りの鞘へと戻す。

 悠刕は唯一生かしておいた侵入者の傍らにしゃがみ込み、そして問うた。

「訊こう。貴様らは、一体何者だ?」

 そう問い掛けるが、男は呻き声を上げるばかりで質問には答えない。

「貴様は『人間』だな? 何が目的でこの城に侵入した? 誰の命令だ? どこの国の手先だ?」

 再度そう問い掛けると男は掠れた声で何かを呟き始める。

「ぐぅ……る、ぅ……い……ぅ」

「何だ?」


「い、う訳……ないだろうッ」


 そう搾り出したように言い放つと、男は手の中に隠し持っていた玉を宙へと放り投げた。その瞬間、投げ出された玉から眩いばかりの閃光と耳を劈くような爆音が響き渡った。

 閃光発音玉。閃光と爆音により相手の視力と聴覚を奪う、以前敵対していた頃の竜魅が影鳶を助け出す際使用していた閃光玉を強化した物である。起爆スイッチであるピンを引き抜く事により、内に超圧縮された魔力が解放される仕掛けになっている。

 悠刕は咄嗟にその場から後退し、目をきつく閉じ両の手で耳を塞いだ。しかし、閃光発音玉は内包された魔力が起爆の時にしか感じ取れない程に超圧縮されている。故に悠刕の反応も僅かばかりの遅れを取り、男が閃光発音玉を発動するのを防ぐ事が出来なかった。

 悠刕が硬直している内に男は傷を押さえながらその場から逃げ出した。

「チッ! ま、待て!」

 ほんの一瞬だけ閃光を直視してしまった悠刕は目を開けられず、無理矢理脳髄を揺らされたかのような不快感を覚えその場に膝を着いた。そして遠ざかって行く男の気配に向けて叫ぶ。

 しかし男はしてやったりと笑みを浮かべ、この地獄より逃げ出せるという安堵に胸を撫で下ろした。

 そして遂に城壁を越えようとした次の瞬間、彼の希望は空から降って来た悪夢の権化によって絶望に染められる事となった。

 トンッと軽い音を立てながら城壁の上に降り立ったのは、一切の色が抜け落ちた白髪に白磁の如く白い肌を持つ蒼瞳の青年。不気味なほどに幻想的な雰囲気を纏っている青年だが、表情は目の前の虫けらを愉しげに嗤っており、ケタケタと狂ったような笑声を漏らしている。

 闇夜に生まれた白い人型は、侵入者である男の脳内を真っ白に染め上げ、その身から発せられる圧倒的な存在感は視線を逸らす事を許さない。

 白い青年こと現魔王、三日月白夜は閃光発音玉の効果によって不快感に膝を着く悠刕を一瞥した後、今まさに逃げ出そうとしていた男に視線を向け、獲物を見つけた猛禽類……と言うよりは、遊び甲斐のありそうな『玩具』を見つけた、純粋故に情け容赦のない残酷な子供のような笑みを浮かべた。

「おいおい悠刕ぃ、随分と情けない姿を曝してんじゃあねぇか? 相手があまりにも雑魚過ぎて油断しちまったのかぁ?」

「びゃ、白夜か!?」

「例え雑魚でも油断は禁物だぜぇ? 相手が雑魚だろうと強者だろうと容赦油断は身を滅ぼす。そして情報を訊き出すってんなら身包み剥いで両腕ふん縛って完全に行動を封じろ。または四肢を斬り落としちまうのも良いかもなぁ?」

 凶悪に顔を歪める白夜を見て、侵入者の男はこれから自らの身に起こるであろう凄惨な末路を想像せずにいられない。

 白夜は「さて」と前置いて、男へと視線を向け、再びニヤと笑んだ。

「まあ、俺のために『玩具』を残しておいてくれたのは褒めてやっても良い」

 そう呟き、ピョンと城壁から飛び降ると、白夜は男の目の前へと降り立った。

「俺は昔から貰った玩具はすぐに壊しちまうんだ。人形は綿を引きずり出し腕を引き千切って首をもぐ。でも無機質な人形じゃあすぐに飽きちまうから、もっと良い玩具を用意するようになった。そう、人間だよ。指を1本1本圧し折り、腸を引きずり出し、四肢を千切り落とす。良い声で鳴くんだぜ? 知ってるか? 人間って結構簡単に壊れるんだ。肉体も精神もあっさりな。

 さあ、お前はどんな壊れ方をしたい?」

 そう言って、白夜は完全に硬直している男の顔に自らの顔をギリギリまで近付ける。怯えたように1歩だけ後退する男だったが、やがて自分が助かる道は無いと観念したのか、その場に崩れ落ちた…………フリをして、魔力を収束させた右拳を突き出した。

 男の右拳に収束した魔力は白夜の顔面に触れると同時に爆発し、その首を跡形もなく吹き飛ばした……ように思われた。

「ふぅん……諦めたフリをしての不意打ちかぁ。中々楽しい事してくれんじゃねぇか?」

 土煙が晴れ、勝利を確信していた男の顔が驚愕に染まる。

 至近距離で魔力爆発を受けたはずの白夜の顔は、ほんの少し焦げて黒ずんでいる程度で全くダメージを受けていなかった。

「俺、普通の人間よりも全然丈夫なんだわ。即席の魔力爆発程度じゃあ火傷の1つも負わせらんねぇぞ?」

 そう呟き、白夜は自らの頬にめり込んでいる男の拳を手の甲でハエを払うのと同じような仕草で払った。

 ベギャベギッ!

 肉が潰れ、骨が粉々に粉砕される聞くに堪えない音が響き、男の右拳は完全に破壊された。

「ぐ、ぎぁ、あああああああああああああああああああああああああぁぁぁッッ!!」

 男はただ手で払われただけで骨を粉々に粉砕された右拳を押さえ、その場に倒れ込み、右拳を粉々に破壊されるという経験した事のない痛みに絶叫する。

「ヒ、ヒャハ、ヒャハハハ、ヒャハハハハハハッ! 良い声で鳴いてくれんじゃあないの! ほーらもっと来いよ! 俺を楽しませてみろよ? それとも右手が駄目になったってだけで何も出来なくなっちまった訳じゃあねぇよなあ?」

 白夜は狂ったように笑いながらしゃがみ込み、痛みに悶える男の顔を覗き込みながら言う。男は白夜を睨み付けると、左手に隠し持っていたナイフを白夜の咽喉元へと突き立てる。

「な、に……?」

 男が突き立てたナイフは白夜の咽喉を切り裂き、頚動脈を貫通……する事無く止められた。

「魔術が駄目なら物理的にってか? 駄目駄目。こんな鈍らナイフじゃ俺を殺す事は出来ねぇよ。俺を殺すならせめて魔剣を持って来な!」

 咽喉にナイフを突き立てられながら、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべて白夜は言う。

 男のナイフは完全に止められていた。しかしそれは白夜の手によってではなく、ナイフが突き立てられている白夜の『咽喉の皮膚』によってだった。

 まるでゴムでも突き刺したのではないかと言うその感触に、男は完全に動きを停止させた。この目の前の白い青年は果たして人間なのか、実は人間の皮を被った悪魔なのではないか? そんな思考が男の脳内をぐるぐると駆け巡り、逃げる事さえ出来なかった。

 白夜は咽喉に突き立てられたナイフの刃を親指と人差し指で軽く摘み、ペキリと半ばから圧し折った。まるでナイフが細い木の枝にでもなったかのような軽い動作。

 そしてナイフを圧し折ったその魔手は男の左手の指へと伸び、小指から1本1本、ナイフを圧し折った時と同じように力を込めて曲がってはいけない方向へと曲げ折って行く。

 男は恐怖絶叫しその魔手から逃れようとするが、振り解けそうで絶対に解けない白夜の手によって全ての指が逆の方向へと曲げられた。

 そして白夜はゆっくりと男の首筋へと右手を伸ばして行き、その間男はただただ体を硬直させ、ゆっくりと近付いてくる目の前の恐怖から目を離せないでいた。

 男の首筋にそっと当てられた白夜の右手は徐々にその首筋を締め上げて行き、男から呼吸する権利を奪って行く。

 そして男は右腕1本で宙へと持ち上げられ、ゆっくりと近付いてくる死の足音に恐怖し、身を震わせる。

 ああここで自分は死ぬのだと、意識が遠退き始めたその瞬間、不意に咽喉を締め上げる圧力が緩められ、ハッと男は正気を取り戻した。

「このまま殺すのが普通なんだが、チャンスをやるってのもまた一興か。ただ殺すってのも面白味がないからな」

 白夜は心底楽しそうににんまりと笑みを浮かべ、思いついた事を口にする。

「おいお前、チャンスをやるよ。俺の質問にちゃんと答えられたら、生きて解放してやる。俺は優しいんだ。特別だぜ?」

 そう言った白夜の言葉に小さな希望を持ってしまった男は、恐らく正常な判断が出来ていなかったのだろう。コクコクと頭を縦に振り、白夜の質問に答える。

「まず訊こう。お前はルーンテリア帝国の手の者か?」

 首を締め上げられているため言葉を発する事が出来ない男は、頭を縦に振り肯定する。これは白夜も何となく気が付いていたため、飽くまで確認に過ぎない。

「次の質問だ。ここに来た理由は俺の弱点を探り弱みを握る事。またあわよくば殺害。そうだな?」

 これも男は頭を縦に振る。この質問も魔王になってから何度も訪れている襲撃者に訊ねているため既に分かり切っている。

「成る程。じゃあ次の質問だ。近々ルーンテリアは大規模な侵攻作戦を決行しようとしている。そうだな?」

 男は頭を縦に振って肯定する。

 近頃ルーンテリア帝国が活発に兵器のデモンストレーションなどを行っている事を考慮し、思い付いた質問だ。そしてどうやら予想は的中していたらしい。

「どこに侵攻しようとしているのかは不明だが……お前達はこの『月京』の近辺を探るように言われていたな?」

 男はコクコクと頷く。

 これは『月詠』の中から外まであらゆる場所を調査し、集めた情報を魔王軍へと届ける使命を持つ、魔王軍の中の組織の1つである『鳴雷調査団』よりもたらされた、

【『月京』の近辺を怪しい集団がうろつき、何やら『月京』の視察を行っている】

 という情報から考え出した質問だ。

 男がこの質問に頷くだろう事は調査団の報告書を読んだ時点で分かっていた。どうやら『鳴雷調査団』はしっかりと自分達の使命を果たしているらしい。

「よし分かった。次で最後だ」

 そう言われ、男はようやく解放されるという安堵感に胸を撫で下ろした。

 白夜はにんまりと笑みを浮かべ、そして問うた。

「最後の質問。お前は……本当に助かると思ってたのかな?」

 言葉の意味が解らず呆気に取られたような表情を浮かべる男だったが、急激に強められた首筋の圧力に苦悶の表情を浮かべながら、どうにか抗おうと足を振ってもがく。しかし圧倒的な白夜の握力の前に男は為す術なく、

 ベギャッ!

 首の骨を圧し折られ、地面へと投げ捨てられたのだった。

 白目を剥いて痙攣する男は、やがて完全に事切れたのか動かなくなった。

 白夜は最後に盛大に男を鼻で嗤い、興味を失ったのか、ようやく視力と気分が回復してきた悠刕の下へと歩み寄る。

「おい、大丈夫か?」

「ふん、大丈夫に決まっているだろう。心配するフリはやめろ」

「一応本気で心配してんのよ、俺? そんな突き放すような態度取んなよ」

「断る」

 相変わらず白夜にのみ厳しい態度で接する悠刕。しかし白夜の手に掛かり既に事切れている侵入者の男を見て、普段崩す事のない凛々しい表情を嫌悪感に歪める。

「貴方が何をしていたのかは見えなくても容易に想像出来た。とんだ外道だな、貴方は。とても元勇者とは思えない」

「カカッ! 当然だ。勇者は勇者でも『反逆勇者』だからな。正義心溢れる王道なんか歩いてやんねぇよ」

「自らを満たすためだけに他人を喰らう魔王道……か」

「誰だってそうだろう? 人は誰しも他人を喰らって満たされる。正義心だって、他人を助けた事で生まれる満足感を喰らって自分を満たす感情の1つだ。俺はただ当然の事を言ってるだけだぜ?」

「そうか……だが」

 悠刕はそう呟いて再びあらゆる骨を粉々に砕かれて絶命している侵入者の男を見る。

「この殺め方は少々どころか、大分趣味が悪いとしか言いようがないな。お嬢様がこの事を知ったらどう思うだろうな?」

「今更って思うだろうが……月夜は優し過ぎっからなぁ。ちょいとばっかし叱られちまうかもしんねぇな。ま、やっちまったもんはしょうがねぇわな」

「貴方のその性格、やはり私は好きになれないな。このような殺め方はただおぞましいだけだ」

「刀で斬り殺すのと大して変わらんだろう? 苦しみが多いか少ないか程度の違いだ。それに、俺は単純に情報を訊き出そうと思ってただけだしな。鞭で痛め付けてから飴をチラつかせる。ちぃとばかし鞭の方が多かったけど、効率は良かっただろう?」

「はぁ……貴方のその考え、私は解りたくもない。疲れたから部屋に戻らせてもらう……」

 悠刕はそう言い残して白夜に背を向けて城の寝室へと戻って行った。

 白夜はそんな悠刕の背をじっと見据え、ポツポツと水の雫が降り始めた暗雲が浮かぶ空へと視線を移し、真面目過ぎる誰かさんに向けた何とも言えない笑みを浮かべた。

「お前には、俺を理解する所か、誰かを理解する事なんか出来ねぇだろ。どっち付かずで、悠刕じぶんにすらなる事の出来ねぇ、誰でもないお前には」

 白夜はそう呟き、ドンッと地面を蹴り上げて最上階の自分の部屋へと帰って行った。

悠刕はあっさりと目潰しを喰らってしまいましたがあれは単純に油断していただけです。悠刕の実力は猫姉妹と同等位と考えていますが、今の所は猫姉妹の方が多分上でしょうね。

因みに今回白夜が見せていた記憶法は真宵が勝手に考えた物なので効率的かは定かではありません。でも忘却により知識を厳選する事はとても重要だとどこぞの名探偵が言っていた気がするので何となく書いてみました。

後、最後に白夜が言っていた言葉ですが、いずれ悠刕メインの話も書くと思うのでその時に説明されるでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ