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001 反逆勇者と月夜姫

早速メインヒロインが登場します。今回はいきなり過ぎる展開のシーンがありますのでご了承ください。

 魔王が討ち取られてから半日の時間が過ぎた。白夜は城の中を観察するように1つ1つの部屋を歩いて見て回っていた。

 魔王が討ち取られたと言う事実は瞬く間に城中に響き渡り、現在ではすっかり魔族の気配も無くなってしまっている。ただでさえ広大なこの城が余計に広く感じるのは気のせいではないのだろう。

 などと思いながら、故郷である日本の城を思い出させるこの城の構造を細かく丁寧に把握していっていた。今日から魔王になるに当たって、自分の城の間取りくらい覚えていなければ格好が付かない、むしろそれが今1番重要な事だと思っていた。下僕など後でいくらでも集めれば良いし、何より自分が魔王の下まで辿り着くまでの道中破壊してしまった場所を確認しなければならなかった。新しい魔王としての門出に魔王城がボロボロなのは如何なものだろうか? なので後々直すために確認しているのだ。

「しっかし広いねぇ~。流石は魔族の王の城と言ったところか? ヘタしたら迷っちまいそうだな」

 と、ここまでの道程を道の幅まで記憶している、絶対に迷わないような規格外の記憶力を有している白夜は呟いた。道程だけならまだしもここまでの道程にあった物や幅などを把握し、記憶するなど普通では不可能に近いだろう。白夜にとっては当たり前の事であり、気にもしていない。自然と頭の中に情報が入って来ているようなものなのだ。

 城を上へ上へと昇って行く白夜。そして遂には天守閣のような最上階まで辿り着いてしまった。

「多分ここが魔王が使っていた部屋だな…………あ?」

 魔王の部屋と思われる最上階の部屋の前で訝しげに眉を顰める白夜。

「(魔力の気配……? 魔族の連中は全員城から逃げ出したと思っていたが……まだ残ってたのか?)」

 白夜はそう思いながらも扉を蹴り開けて部屋の中へと入って行く。白夜はこの国最強である魔王を倒しているのだ。今更どんな魔族が中に居ようと恐れる必要はない。それ以前に魔王にすら白夜は恐れてはいない。この世で最も肝が据わった男なのだ。

 部屋の中はどことなく埃っぽかった。恐らく魔王が乱心してからはこの部屋はほとんど使われていなかったのだろう。私物のような物も全くと言って良いほど無く閑散としていた。

 そんな部屋の、城下町を一望する事が出来る高欄こうらん付き廻縁まわりぶちへ出る唐戸からとの近くにちょこんと座っている1人の少女。

 黒く長い艶のある髪、魔族の魔人種まじんしゅの証である少しだけ尖った耳、瞳は兎のように赤く、肌は外に出る事が少ないのか髪とは正反対に雪のような白さがある。月が描かれた赤と黒の着物を身に纏い、月明かりが差し込む外をじっと見詰めるその姿は、まるで日本の輝夜姫を連想させるような幻想的な雰囲気を身に纏っている。

 少女は白夜の方をゆっくりと振り返ると、目を伏せて小さく御辞儀をした。

「(こいつ……)」

 少女の顔を正面から見た白夜は一瞬呆気に取られたように目を見開いた。別の少女の美しさに見惚れたからと言うわけではない。確かに少女は小柄な割に幻想的で物語の中に出てくる姫のような美しさを持っている。正面から白夜を見据える瞳はどことなく優しさを秘めており、それでいて決意の色が見える。が、白夜が驚いたのはその事についてではない。

 白夜は少女の傍らまで歩み寄り、見下ろすように少女を見詰める。

「お前、逃げ遅れか? それとも、魔王の仇を討つために待ってたのか?」

 そう白夜が問うと少女は首を横に振った。この答えは予想出来ていた。元々分かっていて確認のためにとりあえず訊ねたのだ。

「じゃあもう1つ。お前、もしかして『魔王の娘』か?」

 その問いに少女は首を縦に振る。

 それを見た白夜は合点が行ったようにふむと顎に手を当てる。

「んじゃ、ここに残っていた理由は? まあ、何となく見当は付いているがとりあえず訊ねとく」

 そう訊ねると、少女は少しだけ考えるように目を伏せそして言った。

「お礼を言うためです」

「『魔王の娘』であるお前が、父親の仇であるはずの俺にお礼ねぇ」

 そう先ほど白夜が驚いていたのは、この少女の白夜に対する感謝の念が見えていたからだ。先ほどの丁寧な御辞儀はどう考えても父親の仇にするようなものではない。まるで自分を救ってくれた恩人にするような御辞儀なのだ。そして少女は白夜にお礼をするために待っていた。つまりそれは……。

「乱心した父親を止めてくれた、お礼か……」

 そう独り言のように白夜が呟くと、少女は少しだけ悲しそうに眉を顰め肯定するように頷いた。

「そのためだけに他の連中が逃げて行ってもここに残ったのか。お前は馬鹿か? それとも……俺好みの面白い女か? まあどっちでも良いか。お前の気が済むまで言いたいだけ言いな」

 白夜はクツクツと笑って少女の傍らに腰を下ろす。つまりこれは「特別に対等な立場で話を聞いてやるよ」と言う意の表れである。先ほどまでは自分が常に上であると思い知らせるために見下していたのだ。しかし、白夜は気に入った相手とは対等な立場で会話に臨む。それは果てしない懐の広さを持っている事の証明でもあった。

 少女は白夜の考えている事を悟ったのか、意を決したように深く頭を下げ、そして言った。

「魔王の1人娘、『月詠つくよみ』の姫、月夜姫つくよひめと申します。この度は乱心した父上の魂をお救い頂き、まことにありがとう御座います。つきましては、お礼を差し上げたかったのですが、今やこの城含め『月詠』の都は貴方様の物。なので私の身も心も貴方様に捧げる事にしました。面白味の無い小娘で御座いますが、どうぞ貴方様のお好きなようにお使いくださいませ」

「おう分かった。そんじゃあ今日からお前は俺の『嫁』な」

「ふぇ?」

 素っ頓狂な声を上げる月夜姫を白夜は間髪入れずに抱き寄せる。そして唇が触れ合いそうなくらいに顔を寄せると悪戯っぽく笑みを浮かべた。

「こうやって見るとますます美しいな。幻想的な大和撫子。輝夜姫が存在したのならお前のような美貌を持っていたに違いないな。ククッ……この世界、中々どうして面白いもんだ」

「あっ……」

 月夜姫の口から吐息と共に小さな喘ぐような声が漏れる。白夜は月夜姫を抱き締めつつ黒髪を撫でながらニィと笑みを浮かべる。

 月夜姫は宣言通り身も心も白夜に捧げているのか、困ったような安心したような曖昧な表情を浮かべながら為すがままにされている。魔族である月夜姫は一体何をされるのだろうと思っていたのだが、まさか人間である白夜が自分の事を気に入り、あまつさえ嫁になれなどと言ってくるとは露ほどにも予想していなかった。

 白夜は悪戯っぽい笑みを浮かべたまま月夜姫の耳に唇を近付ける。しかし、ただ耳に唇を近付けられただけで月夜姫は緊張したように体を硬直させてしまった。それを見て白夜は興味深そうにほうと呟きを漏らす。そして、

「お前、男を知らないな?」

 そう耳打ちをされた月夜姫はビクリと体を震わせる。今までほとんど城から出る事がなかったため、男性経験が皆無な月夜姫は男がどうすれば満足してくれるのかを理解していない。それ以前に男が満足するというのは、一体どのような行為をすればそうなるのだろう。その行為が一体何なのかを想像するだけで、月夜姫の胸の内に小さな恐怖心が生まれた。

 しかし、そんな月夜姫の考えとは裏腹に白夜は満足そうに頷いて笑みを一層深くする。

「そうかそうか。んじゃ、俺がお前の最初の男って事になるわけだ。良かったな。他の誰でもない、この三日月白夜がお前の初めてになるんだ。誰よりも優れた夫を持つ事が出来てお前は幸運だ。光栄に思えよ?」

 白夜がそう言うと、月夜姫は呆気に取られたような表情をして、

「ええ……あっ……えっと……はい……」

 どこか恥ずかしげに顔を紅潮させながら俯きがちに頷いた。


    ◇◆◇◆◇


「さて、城の中も大体回ったし、まず何から始めるべきか」

 先代魔王の部屋にて月明かりに照らされる城下の街を見下ろしながら、白夜は呟く。

 すると月夜姫が遠慮がちに小さな声でこう言った。

「あの、白夜様」

「あ? どうした?」

「その……父上の遺体はどうなっているのですか?」

「玉座の間にそのまま放置してあるぜ」

「その……白夜様と父上は敵対関係だった事を承知でお願いしたいのですが、父上を埋葬させてはもらえませんか? 乱心して暴走したとは言え、私の父なのです」

「ああ、それくらいなら構わない。それに……俺は別に魔王の事は嫌いじゃなかったからな」

 白夜はどこか含みのある笑みを浮かべると、埋めるならさっさと行くぞと言って部屋を出て行く。それを追うように慌てて月夜姫も部屋を出て行った。

 玉座の間へと戻ると月夜姫は早足に隅の方に横たわっている魔王の遺体へと駆け寄っていく。

 魔王には上着のような物が掛けられており、それは元は白夜が着ていた服だった。別に嫌いではないという言葉は嘘ではない。白夜は強者である魔王に最大限の敬意を払っている。それは掛け布のように掛けられている上着を見れば分かる事だ。白夜は普段自分が殺めた相手にこんな事はしない。

 月夜姫は既に冷たくなった父親の手を握ると悲しそうに目を潤ませ、何言か遺体に向かって呟くと小さく微笑んだ。

 白夜はそんな月夜姫を腕を組みながら観察していた。

 月夜姫を初めて見た時無表情で氷のような冷たさを持っている少女だと思っていた。しかし今亡き父を弔おうとしているその姿は、夜の世界を照らす月のように仄かで優しい光を秘めているように見えた。

 そんな事を考えながら白夜はクツクツと内心で笑った。こんな女も居るのか、と。

「そろそろ埋めに行ってやろうぜ。あんまり放置してると腐っちまう」

 そんなに早く腐るはずもないのだが、白夜はいつまでも死んだ人間に縋っていても意味は無いという念を込めてそう言った。それに月夜姫は首肯し、魔王は2人の手によって代々の魔王の遺体が埋葬されている墓所へと運ばれて行った。

10/15 まことに勝手ながら月夜姫の名前を『つきよひめ』から『つくよひめ』に変更させていただきました

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