016 出発準備と最後の同行者
新キャラ登場。そして今回、白夜が微妙にゲスイです。
アスラント王国にてリオンと光司が密談を交わしているその頃、『月京』の城でも魔王軍幹部の面々、それと月夜姫が集まり会議をしていた。
「招待状……でござるか?」
竜魅が訝しげに眉を顰めながら呟いた。
「ああ。アスラント王国の国王から直々に俺に届いた、2週間後に開かれるパーティーへの招待状だ」
白夜は先ほど届いた手紙をひらひらと竜魅に見せる。
「封蝋を見た限りじゃ本物みたいだぜ。勇者としての俺の人間の救済と、魔王就任を祝ってのパーティーらしい。中々興味深いだろう?」
「ですが、何故突然パーティーの招待状が届いたのでござる? 主君が魔王となってからまだ2ヶ月とそこそこ。人間の国であるアスラント王国まで完全に情報が行き渡るまでは些か早過ぎる。随分と急ではござらんか?」
どうやら、竜魅はこのパーティーに何か裏があるのではないかと疑っているらしい。
しかし白夜は、「大丈夫大丈夫」と軽い調子で言った。
「現在の国王は俺の友人だ。どうやら2年間の間に新しく王になったみたいだ。それに今でも手紙で情報のやり取りはしているんだ。大丈夫さ」
「国王と……友人なのでござるか? ふむ、だからこんなにも早くアスラントに情報が……」
「あの変態国王の事だ。かつて『反逆勇者』として悪逆の限りを尽くしてきた俺を招いて、大臣共の驚く顔が見たいんだろ。面白い事のために全力を尽くす。変わった国王だぜ」
そう言って白夜は昔を思い出すようにクツクツと笑みを漏らす。そんな白夜の言葉を聞いた竜魅達は「お前にだけは言われたくない」と内心で呟いた。
現在のアスラント国王は変態。だからこそ、白夜は国王の事を気に入っている。常人には理解出来ないような人格者でなくては、国を纏め、変革をもたらす事は出来ない。白夜もそういう人間だからこそ、『月詠』の他種族と魔族の共存、そして人間の魔王の誕生と言う歴史に残る偉業を成し遂げる事が出来たのだ。
「それで主殿。そのパーティーとやら、どうするのでありますか?」
「もちろん行くさ。だからこうして会議を開いたんだ」
「では何人で行くのでありますか? 流石に全軍で行くという訳にはいかないであります。最近はルーンテリア帝国が活発に活動しているという噂を聞いたであります。この国を守護する者を残しておかなければならないであります」
確かに、和水の言う通り以前の影鳶との戦いが終わった頃からルーンテリアは活動を活発化させていた。
世界最大の人間大国ルーンテリア。人間至上主義を掲げるこの国は魔術の研究、兵器の開発の最先端を行く国だ。そして最近では大規模な兵器のデモンストレーション、人体実験などが頻繁に行われているらしかった。最先端の技術を行く国であるが故、多大な犠牲が払われているのである。
白夜もルーンテリアの動向を諜報の者に調べさせていたため大方の情報は把握している。だからこそ、どうするべきかも既に決めていた。
「安心しろ。流石に全軍で行こうとは俺も思ってねぇよ。行くのは俺を入れて5人だけだ」
「そんなに少なくてよろしいのでござるか? 一応他国へ行くですからもう少し人数を増やしても良いのでは?」
「いや十分だ。むしろ大人数を連れて行って危険なのはこの『月詠』だ。何たってこの俺が不在になるんだからな。だから一緒に行くのは少人数で良い」
「……そうでござるか。分かったでござる。ですが、一体誰を連れて行くのでござるか?」
「まず月夜は決定だ。どうせ旅行みたいなもんなんだ。一緒に楽しみたい。良いよな?」
白夜がそう言うと、月夜姫は首肯する。
「はい。私も『月詠』以外の国を見てみたいです」
以前の月夜姫ならば確実に遠慮して答えを渋っていただろうが、今ではすっかり白夜の嫁らしくすっきりとした答えを返した。
「んじゃ、後は3人か」
すると桜花が元気良く立ち上がって挙手をする。
「はいはいは~いッ! じゃあアタイも行きたい! パーティーに出たい!」
「ほい決定。桃華はどうするよ?」
桃華はふむと顎に指を添えてしばらく考え込み、
「……桜花が行くのならわたくしも行くとしましょう。若様が召喚された国と言うのも気になりますしね」
「んじゃ決定。後は1人だ。和水はどうする?」
「私は残るであります。主殿が不在の間、戦力の穴埋めはこの私が請け負うのが良いと思うであります。主殿に比べれば頼りないかも知れないでありますがね」
「そうか。じゃあ頼んだ。じゃあ後1人は誰にすっかなぁ」
白夜がぼやくようにそう呟くと、竜魅が、
「では某が付いて行くでござる。主君が行く所へ御供するのが我が役目」
「いや、竜魅。お前は『月京』に残れ」
しかし、白夜は竜魅の付き添いをあっさりと拒否した。
「俺が不在の間、戦力は和水が埋めるが、魔王の仕事はお前に任せる。だから『月京』に残って民のために働け。これは命令だ」
「……御意。この竜魅、魔王の命に従い民のために尽力するでござる」
「じゃあ任せたぞ。んじゃ後は……」
白夜はチラリと蜘蛛丸へと視線を向ける。しかし蜘蛛丸は呆れたように肩を竦ませた。
「おいおい。人間の国へ行くんだろう? だったらオレみたいなデカイのが付いて行ったら人間共が警戒しちまうだろうが。それに別の国に大して興味もねぇしな」
「そうか。じゃ、誰を連れて行くかなぁ」
白夜はそう言って悩むように眉を顰めるが、不意に何かを思い付いたのかニタリとした笑みを浮かべた。
「よし。あいつを連れて行こう」
◇◆◇◆◇
会議を終え、2週間後のパーティーに備えて各々準備を開始した。最後の同行者は白夜が説得してくると言って出掛けてしまったので、女性3人はそれぞれ準備を進める事となった。
とりあえず持って行く物を決めようと、着替えを纏めてみた月夜姫だったが、それ以外に何を持って行けば良いのかが分からない。『月詠』以外の国に出掛けるなど初めての事なので、思わず準備の手が止まってしまう。
「一体何を持って行けば良いのでしょう……?」
そう呟いて首を傾げる月夜姫だったが、一向に答えは出て来ない。白夜に訊こうにも出掛けているため戻ってくるまで待たなければならない。それ以前に自分は女性なので男性である白夜とは持って行く物も違いがあるはず。なので白夜に訊ねるのは得策では無いだろう。しかし、他の国へ行くというのは月夜姫にとっても待ち遠しい事なのか、今すぐにでも準備をしておきたかった。
そこで、月夜姫は同じ女性である猫姉妹こと桃華と桜花に何を持って行けば良いのかを訊ねる事にした。
猫姉妹の部屋へと訪れた月夜姫。そして部屋の戸を開けたと同時に視界に飛び込んできたのは、何故かマイクロビキニを纏って鏡の前でポーズを決める桜花の姿であった。
桜花のあまりにも突飛な格好にポカンとした表情を浮かべて固まる月夜姫。
何も驚いたのは桜花の格好にに対してだけではない。自分とはあまりにもかけ離れた小柄ながらに抜群のプロポーションと、更にそれを扇情的に浮き立たせるマイクロビキニ。突飛な格好にもかかわらず似合っている事に対して驚いているのだ。
自分には絶対に真似出来ない。月夜姫はそう内心で呟きながら、思わず胸に手を持って行った。
桜花には一際成長した、たわわに実った2つの果実が存在しているが、月夜姫は俗に言う貧乳というやつである。大きさで言うのなら桃華よりも小さい、いやむしろ魔王軍の中の女性陣では最も小さいと言っても良い。だから扇情的で大人な格好はどう転がっても月夜姫には似合わないだろう。
そこでハッと我に返った月夜姫は、改めて桜花の格好を確認し、微妙に歯切れを悪くしながら問いを投げ掛けた。
「桜、花さん? ええと……な、何故そのような、か、格好をしてらっしゃるのですか?」
「あれ? 月夜姫。どうかしたの?」
「あ、いえ、準備の事でちょっとお訊ねしたい事があって来たのですが……その格好は?」
「うん? ああ、これは着れる水着を選んでたんだよ。アスラントには海があるみたいだからさ、ちょっと泳いでみようかな~って思ってね。でも昔の水着は着れるのがあんまし無いんだよね~……結構成長しちゃってるから」
桜花はむにむにと自分の胸を揉みながら呟く。
月夜姫は桜花の胸の弾力を目の当たりにし、ショックを受けたように一歩後ろに後ずさった。あの胸はただの脂肪の塊などではない、レッキとした女の武器だ。男を誘惑するのに十分な魅力を秘めている兵器だ。
半ばショックで崩れ落ちそうになっていると、そこに桃華がやって来て桜花の胸をパシンと叩いた。
「痛ったぁ! ちょっと桃華! いきなり何すんの!」
「ただ目の前に目障りな肉の塊があったので叩いただけですが何か? それといつまでそんな格好をしているつもりですか? はしたない」
「そんな事言ってぇ、本当はアタイのプロポーションが羨ましいだけでしょ~? 背は同じなのに胸だけ成長しな『パシンッ』痛ったぁ!? また叩いたね!」
「今すぐその目障りな肉の塊を仕舞いなさい。はしたない上に、今は姫様の前ですよ」
「む~、分かったよぉ」
桜花は不機嫌そうにツーンと唇を尖らせながらいそいそとその辺に放ってあった着物を着る。それを見て桃華は月夜姫へと向き直る。
「それで姫様、訊ねたい事とは何ですか?」
「あ、そうでした。えっと……実は私、この『月京』からあまり出た事が無いのです。なので他国に行く際何を持って行けば良いのか分からないので、御2人にお聞きしようかと」
「ふむ、そうでしたか。丁度時間もお茶時ですし、お茶を飲みながらゆっくり話し合いましょうか」
「じゃあアタイがお茶とお菓子を用意してくるよ。ちょっと待っててね」
そう言って部屋から出て行く桜花を見送り、とりあえず月夜姫は桃華が用意した座布団の上に正座して待つ事にした。
「では桜花が帰って来るまで基本的な持ち物を説明しておきましょうか」
そう桃華が切り出してきたので月夜姫は「はい」と言って頷いた。
「まずは、そうですね……最も重要な物は着替えですかね。普段着と寝巻き両方を持って行った方が良いでしょう」
「着替えは用意しました」
「ふむ、ですが姫様の着替えは全て着物ですよね? ただでさえ魔族と言うだけで目立ちますし、姫様ならばわたくし達よりも更に目立つでしょう。一応服だけでも向こうの物を用意しておいた方が良いでしょう」
「そう、なんですか? でもどうやって服を用意すれば良いのでしょう?」
「そこは安心してくださいませ。若様行きつけのよろず屋に頼めば異国の服でも揃えていただけます。彼女はとても優秀なよろず屋ですから」
そのよろず屋には月夜姫も覚えがあった。以前白夜にデートと称して連れて行かれた事がある。その時に白夜に買ってもらった透明な鈴を月夜姫は宝物として常に身に付けているので、忘れるはずがない。
最近では月夜姫の着物もあのよろず屋で服を購入する事が多い。白夜が見繕ってくれる事の方が多いのだが、時々1人で訪れる時にも必ずと言って良いほど自分好みの着物を見つける事が出来る。確かにあのよろず屋ならば異国の服くらい仕入れる事は容易だろう。
「では今度行った時に頼んでみる事にしますね」
「ええ、そうして下さい。まあ、もし用意出来なくとも向こうに着いてから買えば良いんですけどね」
「はい、分かりました。それで、他に何か必要な物はありますか?」
「後は……そうですねぇ、先ほど桜花が言っていたように、アスラントには海がありますので、もし興味がおありなら水着を持って行く事をおすすめします」
「海……ですか? でも私、泳いだ事なんて1度もないので泳げないんですが……大丈夫なんでしょうか?」
「ふふふ……姫様。むしろそれは好都合です」
「ふぇ? どうしてですか?」
どこか含みのある笑みを浮かべる桃華に月夜姫は不思議そうに首を傾げて訊ねる。
「姫様、泳げないと言う事は誰かに教わらなければなりません。わたくしもうそうして泳げるようになりました」
「は、はぁ……? そうなんですか?」
月夜姫は桃華が何を言いたいのか理解出来ないのか、頭の中に疑問符を乱立させながら首を傾げた。
「では、誰に教われば良いのでしょう?」
「ふふ……姫様、手取り足取り丁寧に教えてくれる御方。分かるでしょう? 厳しいながらに丁寧に、細かく助言してくれる方なんて1人しか居ませんよ」
「……白夜様の事ですか?」
「その通りです。姫様が頼めば若様はきっと断りません」
「まあ、そうだとは思いますが、何故教えてもらう事が好都合なのですか? むしろ白夜様の手を煩わせる事になると思うのですが?」
「ふふっ、姫様、逆ですよ。手取り足取り丁寧に教えてもらえるという事は、それほど若様と2人きりで密着出来ると言う事なのですよ。つまり若様との仲をより深め合う事が出来るのです」
「密着……すると、仲が深まるのですか?」
「若様も殿方ですから、自分と恋仲の女性と密着するのは嬉しいのですよ。姫様も若様に密着されると嬉しいですよね?」
「え、ええっと、その…………は、はい。とても、嬉しいです」
月夜姫は小さな声でそう言うと、顔を赤く染めながら俯いてしまう。そこまで意識していなかったのだが、改めて白夜と密着した事を思い出してみると自然と顔が熱くなった。
恥ずかしそうに顔を伏せる月夜姫を見ていると、桃華はまるで新しい妹が出来たかのような気分にさせられ、大変姉心がくすぐられた。
「ふむ、その分なら大丈夫そうですね。後はより若様の好感を得るためにとびきり可愛い水着を用意しましょう」
と、桃華が言ったその時、桜花がお茶と和菓子の載ったお盆を手に部屋へと戻って来た。
「あれあれ? 何の話をしてたの? 若がどうとか聞こえてきたけど?」
「桜花。姫様のために若様をメロメロに誘惑出来るほどのとびきりの水着を用意しますよ」
「うん? まあよく分からないけど、りょーかい♪ ふふふ、すっごいの用意しちゃうよぉ~♪」
2人は顔を見合わせながらふふふと笑いを漏らし、月夜姫を振り返る。
にんまりとした、以前2人が戦闘で見せた猛禽類が獲物を狙うような笑みを向けられ、月夜姫は思わず『水守』を発動してしまいそうになるほどの戦慄を覚えた。
◇◆◇◆◇
「――と言うわけでお前には同行してもらいたい。理解したか?」
「何が、と言うわけだ。貴方の都合だろう? 理解しても同行なんてしない」
白夜の言葉につっけんどんな態度で返す黒髪を1つに結った少女。女性にしてはそれなりに高身長であり、少しツリ目気味で自他共に厳しそうな顔は男顔負けに凛々しい。
丈の短い袴に小袖と言う格好をしているが、少女の傍らには籠手に手甲、そして脛当という戦闘の時に彼女が用いるであろう装備が並べられていた。その中でも一際存在感を放っているのは黒い鞘に収められた鍔なし刀。魔術を嗜んでいる者なら一目見ただけでそれが魔力の宿った妖刀だと気付くだろう。所謂魔導具と呼ばれるそれは竜魅が持つ大太刀と同じであり、並の剣士では扱う事すら難しい代物だ。しかし、その妖刀を当然のように自らの装備に加えていると言う事は、この少女は並以上の実力を秘めている剣士という事なのだろう。
「それに何故私なんだ? 貴方の部下を連れて行けば良いだろう?」
少女の厳しい視線を向けられながらも、相変わらずの軽薄そうな笑みを崩さず白夜は答える。
「俺が不在の間、必ずどこかの勢力がこの国に攻めて来る。だからこれ以上この国の戦力を削るわけにはいかねぇのさ。だから俺の部下じゃないお前を連れて行く」
「断る。何故貴方の都合に私が巻き込まれなければならない。勝手に行けば良い」
「んじゃお前国外追放な。異論は認めない」
白夜のその発言を聞いた瞬間、少女は元からツリ目気味だった目付きを更に吊り上げ、険しい表情を浮かべて白夜を睨み付けた。
「随分と横暴だな」
「当然だ。お前は俺の国の一国民。この国は俺こそが法でありルールだ。故に王である俺は『月詠』の国民であるお前をどうこうする権利がある」
「権利の乱用だな。王だからって慢心して、有頂天にでもなっているのか?」
「王が慢心して何が悪い? とにかくお前の処遇はお前の返答次第で変わる。別に断っても良いんだぜ? それで一番困るのはお前だからな。俺は痛くも痒くも無い。
お前は俺の下に居るからこそこうして生活出来るんだ。良く言えばお前を保護してやってる状態だ。少しくらい言う事を聞いてもらわねぇとなぁ」
ニタニタと不気味なくらい微笑みながら少女を脅す白夜。これこそが真の魔王の姿だ、と言っても良いくらいの非道っぷりである。
少女は舌打ちをしそうなほどに嫌そうな顔を浮かべてキッと白夜を睨み付けると、凛とした雰囲気を崩してうんざりしたように溜め息を吐いた。
「はぁ……仕方ない。この国に居られなくなるのは私としても困る。ここは素直に貴方に同行するとしよう」
「おお、そうかそうか。本当に付いて来てくれるのか?」
「嘘は吐かない。しばらくは貴方と行動を共にしてやる」
「はっ! そうかい。言質は取ったからな? んじゃ1度城に行くぞ。他の3人とも顔を合わせておけ」
「了解した」
そして白夜は魔王城に戻るために歩き出したのだが、不意にぴたりと立ち止まって「そうそう」と急に何かを思い出したかのような、白々しい態度で言って少女を振り返り、
「さっき断ったら国外追放って言ったが、嘘だからな? 断ろうと断るまいと国外追放なんてしねぇよ。罪人じゃあるまいし、お前の居場所はここしか無いんだからな」
「貴様……叩っ斬られたいのか? それならば私は降りる。行く理由が無い」
「おやおや~? さっき同行するって言った上に、嘘は吐かないんじゃなかったのか?」
「それは貴方がっ……!」
「言質は取ったって言っただろ? もうお前に拒否権は無い。黙って同行するんだな。ハッハッハ!」
白夜はそう言って、カラカラと楽しそうに笑いながらさっさと1人で歩いて行ってしまう。その背中を少女は忌々しそうに睨んでいたが、やがて諦めたように肩を落とすと仕方なく後を追って行った。
3/6 移動の時間を考えると早過ぎた為、パーティーを1週間後から2週間後に変更




