表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/22

015 招待状

 反抗勢力との戦いから1ヶ月、白夜が魔王になる事を宣言してからは2ヶ月が過ぎた頃。竜魅達旧魔王軍の面々も徐々に現在の魔王軍に馴染んできていた。竜魅が必死になって説得したお陰か、特にいがみ合う事もなく新魔王軍と旧魔王軍は良好な関係を築き始めていた。

「ふぁ〜あ……暇だな」

 大きな欠伸をしながら玉座に腰掛けている白夜。この1ヶ月起きた出来事と言えば旧魔王軍の説得をした事、『月京』以外の全ての都市が魔王軍の傘下に入れられた・・・・・事、それとちょっとした事件・・・・・・・・が1つ発生しただけであり、まことに平穏な日々を過ごしていた。しかし、平穏という事は平和で穏やかだと言う事。騒動、騒がしく動く事が好きな白夜にとって平穏過ぎる日々は退屈以外の何物でもなかった。

「主君。頼むからもう少々やる気を出してもらいたいでござる」

 傍らで控えていた竜魅が呆れたように言う。

「そうは言ってもなぁ……書類仕事は全部終わらせたぜ? 後は部下に指示を出すか、こうして玉座に座って謁見を希望する民衆の話を聞くだけ。正直言わせてもらうが退屈だな」

「先代も同じような仕事をしていたでござる。主君も文句を言わずに自分の職務を全うするでござる」

 そう竜魅に言われた白夜だが、謁見を希望する民衆すらやって来ないためやはり退屈だった。

「それは先代のやり方だろ? 俺は俺のやり方を貫かせてもらう。だからここはお前に任せた」

「あっ、ちょ、待つでござる!」

 竜魅の制止を無視し、白夜はさっさと玉座の間を後にし、自室へと足を運んだ。

 いつも通り扉を蹴り開け部屋の中に入ると、そこには月夜姫が正座をして外を眺めていた。

「あ、白夜様。すみません、勝手に上がらせて頂きました」

「別に構わねぇよ。それで、最近は随分と俺の部屋に来てるようだが、どうかしたのか?」

「いえ、特に用事らしい用事は無いのですが、ここから外の様子を眺めるのが好きなので」

「ん、まあ確かに良い眺めではあるな」

「はい。見える景色が変わりました。魔族と人間が共に生活している様子を見る事が出来ます。以前の戦いを経て『月詠』に変化が訪れている事を実感出来ました」

 民を慈しむ優しげな表情で月夜姫は城下町を見下ろす。

「クク……確かにそうだな。だが、変化したのは本当に『月詠』だけか?」

「ふぇ? ……あっ」

 音も無く月夜姫の傍らへと移動した白夜は、そっと包み込むように背中から月夜姫に抱きつく。そして月夜姫の黒髪に鼻先を近付けると、すんすんと匂いを嗅いだ。

 そんな白夜の行動に月夜姫は顔を赤くして俯いたが、やがて白夜の腕にそっと触れて嬉しそうにはにかんだ。

「……白夜様、恥ずかしゅうございます」

「ふっ、相変わらず恥ずかしがり屋さんだな。この前は自分から口付けまでしてきたのに」

「あ、ぅ……あれは、その……」

「もう1回、するか?」

 白夜はそう耳元で囁くと、月夜姫の頬に優しく触れ、顔を自分の方に向けさせる。お互いの息遣いが分かるほどに接近した白夜の顔に、思わず月夜姫は釘付けになる。ただ自分だけを一心に見詰めている真っ直ぐな瞳。まるでその瞳に吸い込まれるかのような錯覚さえ起こったほどだ。

 白夜はクイッと月夜姫の顎を持ち上げると、お互いの息が掛かるほどに顔を近付け、そして……


 バッ、バサバサッ!


 突如聴こえた羽音にピタリと動きを停止し、折角の雰囲気をぶち壊しにした原因の方を振り返る。

 すると高欄の上に1匹の小さな飛竜が留まっていた。飛竜の背中には何やら小さな箱が取り付けられている。

 そんな飛竜を見た瞬間、白夜は髪をガリガリと掻きながら、何とも間が悪いと言いたげな表情を浮かべる。

「何でこんな時に来るのかねぇ」

「あの、白夜様。この小さな竜は一体……?」

「伝書竜だ。背中の箱に手紙とか荷物を入れて運んで来る」

「へぇ、そうなんですか」

「しっかし、間が悪い時に来てくれたもんだぜ」

「……箱の中身、見てみますか?」

「そうだな。と、その前に」

 白夜はそう呟くと月夜姫の頬にチュッと口付けをした。

「興が冷めちまったから今回はこれだけな。また改めて、誰も邪魔が入らない時にゆっくりと、じっくりと、しっとりとしようぜ」

「え、あ、ふぁ、はい! よろこんで!」

 月夜姫は突然の口付けに混乱しながら返事を返す。白夜は言質は取ったと言わんばかりの笑みを浮かべると、伝書竜の箱を外して中身を取り出した。

 箱の中から出て来たのは1通の手紙。そしてその手紙をじている封蝋ふうろうは、

「アスラント王国の王家の紋章か……」

 それを見た白夜は、ニヤリとした笑みを浮かべた。

 その時月夜姫は、何故アスラント王国の王家の紋章の封蝋で綴じられた手紙が白夜の下へと届いたのか、そしてそれを見て白夜が何を考えているのか全く分からなかった。しかし、これから何かが始まるのだろうと言う事だけは、白夜の表情から何となく読み取る事が出来た。


    ◇◆◇◆◇


 アスラント王国の城のとある一室。あらゆる場所のあらゆる名産品や置物で飾られ、まるで博物館のようになっているその部屋では、絹の糸のような銀髪にエメラルドのような碧眼の美男子がベッドに腰掛けて窓の外をニコニコとした表情を浮かべながら眺めていた。

 誰もが振り返るような美男子の名前はリオン・F・アスラント。アスラント王国の若き王であり、この世界へと白夜が召喚される瞬間に立ち会った事もある。その美しい容姿とは裏腹に変わり者として有名であり、勝手に城を抜け出してはどこかの名産品を持ち帰って自室に飾っている。でも王の責務はしっかりと果たしているためヘタに文句を言ってくる、いや、言える輩はいない。

「ふふ~ん♪ そろそろ白夜の所へ僕の手紙が届いた頃だなぁ。彼は応じてくれるかな。いや、絶対応じるね。彼の性格ならこんな騒がしくて面白そうな事に応じないわけがない」

 確信するように呟くリオン。

 リオンと白夜は変わり者同士馬が合うのか、召喚されて以来の友人である。白夜にとってアスラントで友人と言えるのはこのリオンだけと言っても良いくらいの仲だ。

「ふふ。楽しみだね。彼に会うのは2年振りかな。僕はあの時はまだ王じゃ無かったしなぁ。僕が王になったって聞いて少しは驚いてるかな? いや、きっと笑ってるね。彼だもの。僕も彼が魔王になったって聞いて驚くどころか笑っちゃったし。2年前は歴代最強の勇者なんて呼ばれてたのに、ホント、彼は僕の予想の斜め上を行く。ううん、斜め上どころか波打って回転して最終的には上に向かって一直線にぶち抜いてるね」

 と、そんな事を苦笑交じりに呟いていると、トントン、と部屋の扉が叩かれた。

 リオンは「どうぞ」と言って、部屋に入ってきた人物にニコニコとした笑みを向ける。

「やあや、光司。来てくれたんだね」

「王に呼ばれたんですからそりゃ来ますよ。それで、用件は何でしょうか?」

 そう言った少年の名前は天龍光司。生来の明度の高いブラウンの髪、リオンに負けず劣らずの整い過ぎていると言っても良い凛々しい顔、細身ながらもしっかりと鍛え抜かれた肉体、腰には立派な鞘に収められた一際存在感を放つ剣が提げられている。

 そんな光司は、とある理由からアスラント王国でリオンに仕えている。

「ふふっ、そう急かさないでくれよ。座ってゆっくり話そうじゃないか」

「了解しました」

 光司はリオンにそう促され椅子に腰掛ける。

 リオンはベッドに座ったままである。とても一国を担う国王とは思えない振る舞いだが、いつもの事なのか光司は別段気にしていない。

「さて、じゃあいきなりだけど本題から入ろうか」

 リオンは悪戯っぽい子供のような笑みを収めると、どことなく真剣味を帯びた一国を担う国王としてのカリスマを帯びた表情を浮かべた。その表情から光司も真面目な話だと理解したのか、しっかりと背筋を伸ばしてリオンが口を開くのを黙って待った。

「今から話す事は、まだこの国では僕しか知らない事だ。とても大切な事だから聞き漏らしのないようにね?」

「大臣達にも話していない事なのですか?」

「ああ。それに大臣達なんかに話しても面倒な事が増えるだけさ。この件を話すだけで大臣達は怯えてしまう。きっと躍起になって僕の邪魔をしようとするだろうね」

 一体どんな話なのだろうと光司は内心で首を傾げる。

 この国の大臣達は傲慢で常に偉そうに胸を張っているだけの無能ばかりだ。大概の事は金と権力に物を言わせて解決しようとする。そんな腐った国だからこそ、更生させるためにリオンは王となった。しかし、腐っている故に大抵の事では驚きもしないこの国の大臣達が、怯えて躍起になるような事。それがどんな話なのかは光司は想像すら出来ない。

 リオンは話す事柄は2つあると言った。

「まず1つ目。これは僕の特別なコネがあったから知る事が出来た情報だ。何と……約2ヶ月前に魔王が死んだ」

「えっ!?」

 光司は驚いて目を丸くする。そして聞き間違いではないかと一瞬自分の耳を疑ったが、リオンの真剣な表情からその言葉が真実である事を悟った。

「ま、魔王が死んだって、どういう事ですか?」

「具体的には討ち取られたって言うのが正しいかな。魔王はある人物の手によって約2ヶ月前に討ち取られた。それも1人であっさりとね」

「そ、そんな馬鹿な……」

 あまりにも突拍子の無い話に光司は頭を抱えたくなった。魔王は世界最強とも言われていた人物だ。全ての人間が死力を尽くして魔王軍を退けるのでやっとだったのに、そのある人物はあっさりと、しかもたった1人で世界最強の魔王を討ち取ってしまったのだ。

 何度も魔族との死闘を繰り広げた事のある光司は魔王が脅威である事を知っていた。しかし、平和を取り戻すには乱心したと言われている魔王を討ち取るしか方法は無い。だが、その魔王があっさりと討ち取られた。これは魔王をも凌ぐ更なる脅威とも成り得る存在が現れた恐れがある。

 そんな光司の考えをリオンは察したのか、笑みを浮かべて「大丈夫大丈夫」と手をひらひらと振りながら言う。

「この情報をくれたのは他でもない、魔王を討ち取った人物なんだ。僕もよく知っているしヘタに刺激しなければ敵に回るような事はないよ」

「そ、そうなのですか? では、その人物とは一体?」

「それが2つ目の事柄だね。魔王は討ち取られたんだけど、何と、その直ぐ後に新たな魔王が誕生したんだ」

「え、え~……?」

 突拍子もない話の第2弾であった。光司は既に混乱を通り越して半ば呆れている。とんでもない情報を何でこんな軽く話せてしまうんだこの王は、と。

「えっと……して、その新たな魔王とは何者なのですか?」

「ああ、魔王を討ち取った彼だよ。何と彼は現在、前魔王の軍を全て自分の軍門に下らせ、『月詠』の都を中心にして全ての魔族と都市を支配してしまったんだ。それもたった2ヶ月の間にね。前魔王なんて比べ物にならないくらい危険な奴だよ」

「そんな強い力を持った魔族・・なのですか」

「ん? あはは! 違う違う。彼は魔族じゃなくて人間・・だよ。僕の友人なんだから当然だろう?」

「はぁ!? 人間なのに魔王を名乗ってるんですか?」

「うん。中々面白い奴だよ」

 今度こそ、光司は呆れ果ててしまった。その話の彼とは人間でありながら魔族の王を下し、他の魔族すら自らの軍門に下してしまうような、どこかのネジが500本くらい抜け落ちているような危険な人物なのだろう。そんな危険人物の彼と、更にその彼と情報交換を平然としているリオンに対して呆れてしまったのだ。

 光司は彼の顔すら見ていないにもかかわらず、リオン以上の変人である事を悟った。

「しかし、この世界にもそんな人間が存在していたんですね」

「いやいや、彼は君と同じ・・・・異世界から・・・・・召喚された者・・・・・・だよ」

「えっ? つまりそれって……」

「そう、君と同じ・・・・、このアスラントの勇者だった男さ」

 その言葉を聞き、光司は何とも言えぬ複雑な表情を浮かべた。

 実は光司は『勇者』なのだ。先代勇者が姿を消してしばらく経った頃、リオンがアスラントの国王となった際に地球から召喚された。つまり、二代目の勇者・・・・・・なのである。

「……それで、その先代の勇者が一体どうしたと言うのです? 王の友人なのですから危険では無いのでしょう?」

「さっきも言ったようにヘタに刺激しなければ危険では無いね。基本的に面白い事が大好きだけど、つまらない事には滅法腹を立てるから気をつけた方が良いよ」

「はあ、そうなんですか。覚えておきます」

「うん覚えておいてくれ。それでね、実は僕は彼をこの国に招待しようと思っているんだ」

「えぇ?」

 またまた突拍子も無い国王の提案。そんな珍人物を国に招待してしまっても大丈夫なのだろうか。いや、大丈夫なはずが無い。

 光司は少しだけ偏頭痛を起こしそうになりながらリオンに続きを促す。

「それで、招待する理由は何なんです?」

「それはね、面白そうだから……ってだけじゃ無いんだ。彼は人間の前から姿を消した事によって、人間に反逆した勇者、『反逆勇者』と呼ばれているんだけど、それは知っているよね」

「はいそれは噂で聞いたので何となく。でも、先代がこんな無茶苦茶な人だとは思いませんでしたよ」

「ふふ、確かに無茶苦茶だ。それでね、そんな『反逆勇者』の彼が結果的に魔王の手から僕達人間を救ってくれているんだ。だからそれに対しての感謝の意と、彼の魔王就任を祝ってパーティーにでも招待しようと思っているんだ」

「は、はあ、パーティーですか。それは良いんですがその……本当に先代を招待してしまっても良いのですか? 一度人間に反逆した事になっているのですから、国民の反発を買うのでは?」

「はは、確かに反発は買うだろうね。でも、彼の事を好いている人間は意外と多いんだ。その証拠に彼が新しく造ったって言う魔王軍にも人間は大勢いる。彼は僕以上のカリスマを持っているからね。だから魔族を従える事が出来たんだろう。安心して良いよ」

「そうですか」

「それに反発なんて起こっても何も出来やしないさ。彼に歯向かえる人間はこの国には居ない。もし歯向かった場合は……ふふっ」

 何かを思い出したかのように微笑むリオンの表情に、光司は何とも言えぬ寒気を感じた。もしその先代勇者に逆らった場合、一体どうなってしまうと言うのだろうか。

「まあ周りの人間がどう反発しようともうどうしようも無いよ。既に招待状は彼の下へ送っちゃったからね」

 テヘペロと効果音が聴こえてきそうな、「やっちゃった」と言いたげに舌を出して微笑むリオン。もう『反逆勇者』がこの国に来る事を止める事は出来ないようだ。

「この話を君にしたのは、彼の遊び・・を止められる可能性が一番高いのが君だけだからだ。もしもの場合は君が彼を止めてくれ。時々彼はやり過ぎちゃう事があるから」

 そのリオンの言葉に、光司は一抹の不安、どころか多大なる不安を感じずにはいられなかった。

第2章開始です。番外編はその内投稿すると思います。


2/3 誤字訂正。「頬にチュッと頬をした」→「頬にチュッと口付けをした」

3/7 先代魔王が討ち取られたのが「1ヶ月」になっていたため「2ヶ月」に修正。それと色々と抜けていた説明不足で抜けていた部分があったので追加。後リオンの名前にFを追加。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ