014 終戦(2)
今回で一応第1章が終わりです。物語は続きますが、第2章の前に番外編でも書こうかな。
「ほぉ〜? 近くで見ると滅茶苦茶デケェなぁ? まあ、的がデカくなっただけなんでけどな。むしろ小型にした方が良かったんじゃねぇかぁ? 逃げ易くて」
影鳶を見てニヤニヤしながら呟く白夜。その態度が影鳶の癇に障ったのか、肉鎧が拳を振り下ろす。
迫り来る巨人の拳を小バカにしたように鼻で笑いながらじっと見据える白夜。
眼前まで迫ってきた巨人の拳。しかし白夜は避ける素振りすら全く見せず、呆れたように肩を竦めている。
そしてグッと拳を握り締めると、ポツリと呟きを漏らした。
「一言言っておきたい事がある……」
ズドンッ!!
「素直に俺の軍門に下ってりゃ、少しは可愛げがあったのになっ、てね!」
白夜の拳が巨人の巨大な拳にめり込んでいる。そして更にそのまま腕を振り抜くと、巨人の拳は膨張するように内側を走る衝撃で破裂した。
地割れすら引き起こす白夜の拳から放たれた攻撃。当然巨人の、それも巨人の偽物如きの攻撃では1%すら衝撃を相殺する事は出来ない。
「そもそもデカ過ぎんだよ。んな巨体じゃ、攻撃が遅くなってしょうがねぇ。兵器を造るってんならもっと小型で力強く、そしてすばしっこいのを造れよ。俺の和水みたいに、な?」
まるで自慢話でも聞かせるかのように言い放つ白夜。しかし、内部の影鳶は既に正気を失っているため聞こえてすらいないのか、呻き声を上げながら蹴りを放った。
「もう聞こえてねぇか…………つまんね」
白夜が立っていた場所に影鳶の足がめり込む。しかし、既に白夜の姿はそこには無く、影鳶が気が付いた時には、もう白夜は自分の肩に立って腕を組んで心底詰まらなそうな表情を浮かべていた。
「はっきり言わせてもらうが、今回この戦いで俺が戦場に出張る必要は無かった。たかが巨人程度ならば和水達4人でも数分で殲滅出来ただろう。だが、それじゃあ俺は全く面白くない。だからこうしてわざわざ出向いてやったというのに……面白くない」
白夜は吐き捨てるように言い放った。影鳶は肩上に乗った白夜を攻撃するために自らの体に向けて平手を放つ。が、自らダメージを負うのを覚悟をした攻撃にもかかわらず、平手はただ肉鎧を傷つけただけで白夜を仕留める事はやはり出来なかった。
白夜はいつの間にかに影鳶の反対側の肩へと移動すると、再び語り出す。
「俺は自分の欲を満たすためだけに行動している。『反逆勇者』になったのも、魔王軍を造ったのも、先代魔王を殺して自ら魔王になったのも、月夜を嫁に迎えたのも全て俺の欲を満たすためだ。今こうして戦場に出張ったのも同じだ。だが、貴様は俺の欲を全くと言って良いほど満たせていない」
何とも酷い言い分である。
影鳶は先ほどと同じように白夜に向けて腕を伸ばすが、既に白夜は肉鎧の頭上へと移動していた。
「俺は自己中心的な人間であると自負している。だからこそこの世の全てを支配したいと思っている。この世界を俺の物にしたいと思っている。そして面白い世界を造って行く。とりあえずはぁ…………月夜とイチャラブ出来る世界になれば良いと思う。
生きとし生ける者の自由はそれなりに保障してやるつもりだ。そうじゃねぇと俺に挑んでくるような面白い馬鹿が現れなくなっちまうからな。だがなぁ影鳶。テメェは駄目だ。俺の世界をつまらなくするテメェの自由は今この場で、この俺が根こそぎ奪う。これは決定事項だ」
眼下に広がる影鳶の頭部を見下ろしながら、白夜は吐き捨てるように言った。
『ゆ、勇者ぁぁぁああああああああああああああああああああああああッ!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すゴロスゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!』
肉鎧から影鳶の怨嗟の籠った呪詛のような狂った声が響き渡る。
「ギャハッ♪ 地獄に落ちろ♪ クソ野郎♪」
ニッコリと微笑むと、白夜は硬く握り締めた拳を影鳶の頭部に叩きつけた。
ズブッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!
第三宇宙速度を越える白夜の一撃は、巨人肉鎧の頭部のみならず全身を破裂させ、肉の雨を戦場に降らせた。しかしそれだけでは衝撃は治まらず、戦場の大地に巨大な亀裂を発生させ、更には轟と戦場全体を揺るがすほどの小規模な地震を発生させた。
返り血に全身を濡らしながら、華麗に着地を決めた白夜はぺロリと頬の血を舐め取りながら、悪魔のような笑みを浮かべた。
「あばよ、影鳶。これで次にテメェに会うのは俺が地獄に落ちた時だ」
◇◆◇◆◇
影鳶が白夜の手で討ち取られた事によって、全ての巨人の統制は乱れ、和水達隊長格の手によってあっさりと全滅した。
「白夜様!」
顔に付着した返り血を拭う白夜のもとに月夜姫が駆け寄ってくる。そしてそのまま白夜の胸へと飛び込んだ。
「おいおいどうした? こりゃまた随分と積極的だな。嬉しいけど、汚れるから離れた方が良いぞ」
「ここに来るまでにもう十分汚れたので大丈夫です」
確かに月夜姫の着物は所々血に濡れていた。白夜達5人が戦場じゅうに作った血溜まりに『巨人肉鎧』の肉片。ただ戦場を歩いて来ただけだが、戦場の中心地にいる白夜の所に辿り着く頃には肉片などに触れ、汚れてしまうのは必然だろう。
「そうか。だったら良いか」
白夜はどことなく自然で、表情を綻ばせるような笑みを浮かべながら月夜姫を抱き返した。
正直、いつもならば白夜が半ば強引に月夜姫に抱きついていたのだが、こうして月夜姫から抱きついて来たのは初めての事だったので少し嬉しかったりする。いつも白夜より一歩下がったような態度で月夜姫は接してくるため、このようにあからさまな好意の表れは珍しい事だ。先ほども無意識に殺気を放って怖がらせてしまったため、しばらくは自分の事は避けるだろうと考えていたのだが、何事も無かったかのように抱きついて来た事に内心安堵している。
「しかし、何でまたこんな所まで来たんだ? あそこで待ってりゃ、俺が迎えに行ったのによ」
「いえ、その……白夜様の勝利が嬉しくて、居ても立ってもいられなかったものでして、その……来てしまいました」
恥ずかしそうに頬を朱に染め、それでいて嬉しそうに頬を綻ばせる月夜姫を見て、白夜はいつものようにカラカラと笑うと、月夜姫の艶やかな黒髪をわしゃわしゃと乱暴に撫でた。
「あうぅ……やめてください〜」
そう言う月夜姫だったが、その表情はどことなく嬉しそうである。
と、その時、丁度全ての巨人の処理が終わったのか隊長格4人が2人の所へとやって来た。
「あー! 若がイチャイチャしてるー!」
「こら、桜花。折角若様がお楽しみ中なのですから邪魔をしてはいけませんよ。ふふふ」
「そう言う桃華も口元が緩んでるでありますよ。それに我々が来た時点で必然的に邪魔になるので桜花1人をどうにかしても手遅れであります」
「と言うか、終わったとは言え戦場の真ん中でイチャついてんじゃねぇってオレは言いてぇな」
「竜魅が元々いたんだからお前らが来ようと俺には関係ないぜ」
一言も言葉を発していなかったため分からなかったが、竜魅は月夜姫と一緒にここまで来ていた。そして黙って事の成り行きを見詰めていた。
「おっ? お前ぇが竜魅かぁ? ほぉー、中々強そうじゃねぇか」
「見て見て桃華! イケメンだよ! 長身のイケメンだよ!」
「落ち着きなさい桜花。はしたないですよ」
戦いが終わっても興奮しっぱなしの桜花を桃華が嗜める。
和水は竜魅へと歩み寄ると見上げるように(背が低いため必然的に見上げる形になる)して、竜魅に話し掛ける。
「貴方が竜魅でありますな? これから主殿の傘下に加わると言う事でよろしいでありますか?」
「うむ。そのつもりでござる。部下もこれから説得して行くつもりでござる」
「そうでありますか。そう言う事なら、これからよろしく頼むであります。私は和水であります」
「アタイは桜花だよ! よろしくぅ! イケメンのお兄さん!」
「だから落ち着きなさいと……いえ、まあ良いでしょう。わたくしは桃華と申します。桜花の姉です」
「オレは蜘蛛丸だ! 白夜とはライバルみたいな関係だ! まあ勝った事はないがな! とにかくこれからよろしく頼むぜぃ! ガハハハハハ!」
「う、うむ。よろしく頼むでござる」
4人の勢いに思わず気圧されながらも竜魅は言った。
そんな様子を見て、それなりに良好な関係を築けるだろうと白夜は思い、ニヤと口元を歪めた。
「よぅし! そんじゃあ今夜は勝利と竜魅達の魔王軍入りを祝って宴会だぁ! さっさと帰って準備すっぞぉ!」
「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!」」」」
そして隊長格4人は半ば強引に竜魅を引っ張って『月京』へと帰って行った。
「うし。んじゃ俺達も帰るぞ、今夜は騒がしくなりそうだ」
「はいっ!」
そして白夜は月夜姫を伴って歩き出した。
その時、近くの肉片がぐにゃぐにゃと蠢く。肉片は徐々に一部分を盛り上げて行くのだが、その事に2人は気付いていない。
そして肉片の中から何かが飛び出す。小太刀である。
肉片の中から飛び出した小太刀が2人……白夜に向けて飛来する。
小太刀は白夜へと肉薄し、そして、
パァン!
薄い水の膜に弾かれて地面へと落ちた。
あらゆる衝撃を吸収し自由に変形させて身を守る水の膜『水守』。それを素早く発動し、白夜を守った術者はもちろん月夜姫である。
月夜姫は『水守』に包まれながら、普段の温和な表情を冷たく凍りつかせ、視線を鋭く尖らせながら肉片の中から出て来た人物を睨み付ける。
白夜も肩を竦めながら呆れたように笑みを浮かべると、後ろを振り返った。
「おいおい、こりゃまた随分と早い再会だな。そんなに俺に会いたかったのか?」
肉片の中から出てきたのは、全身を血で真っ赤に染め、肉体を半分近く失い、満身創痍の体ながらも憎しみに顔を醜く歪ませて白夜を睨み付ける、白夜の一撃によって屠られたと思われていた影鳶だった。
「ふぅ……俺が攻撃を放つ寸前に脱出していたのか。まあそれでも大怪我は免れなかったようだがな」
「ゆ゛、勇者ぁぁあああああああああああああああああああああああああッ!!」
影鳶は既に白夜への殺意しか頭に無いのか、狂ったように叫ぶ。
「やれやれ。完全にぶっ壊れてんなこりゃ。苦しまねぇように一撃で殺してやろうと思ったのによぉ。とことん面倒な奴だよ、お前は」
白夜は肩を竦めて影鳶に止めを刺すために歩み寄ろうとするが、月夜姫がそれを制止する。
「月夜?」
「白夜様。ここは、私に任せてもらえませんか? もし、彼が父上の乱心に関与しているのならば、私の手で決着を付けなければなりません。お願いします」
真剣な眼差しを浮かべながら月夜姫が願う。白夜は肩を竦めると、薄っすらと口元を歪めて1歩後ろに下がった。
「嫁の頼みだ。自分でけじめを付けたいってんなら止めねぇさ。行って来い」
「ありがとう御座います」
月夜姫はペコリと一礼すると、影鳶が投げた小太刀を拾い、1歩1歩ゆっくりと影鳶へと歩み寄って行く。
「貴方は父上の乱心に関与していたんですよね?」
ポツリと言葉を零すように語る。
「そして魔王の座を狙っていた。いずれは父上を自らの手で殺めて自らが魔王となろうと画策していた。そうですよね?」
影鳶は月夜姫の言葉が聞こえていないのか、意味も無くうーうーと唸り声を上げるだけである。
「ですが白夜様が現れた事で計画は破綻。父上が亡くなっても貴方は魔王になる事は出来なかった。そして反抗勢力として白夜様を殺めようとした。ですがそれも失敗。現在に至るわけですね?
まあ、結果的に白夜様が父上を殺めたのですが、貴方の所為で白夜様はそうせざるを得なかった。つまり間接的に父上を殺めたのは貴方という事になります。ですがまあ、過ぎてしまった事はしょうがありません。許すわけではありませんが、父上の死に関しては置いておきましょう」
そしてもう動く事すら出来ず、ただ立って唸っているだけの影鳶の目の前で立ち止まると、眼光を鋭く尖らせながら影鳶の顔を睨んだ。
「何よりも許せないのは、私の『夫』となる御方…………白夜様を背後から討とうとした事です!」
ズシャッ!
月夜姫は影鳶の咽喉を小太刀で一突きし、倒れる影鳶を見下ろす。
「ぐぉ……ゆ゛、う、じゃ……ゴロ、ズゥ」
「例え私が『水守』で防がなくとも白夜様は小太刀に気が付いたでしょう。結局貴方では白夜様を殺める事は出来ませんよ」
その言葉が届いたのか届いていないのかは定かではないが、影鳶は最期にプツンと糸が切れたように絶命した。
月夜姫は影鳶に背を向けると、冷ややかな声で静かに言い残す。
「その小太刀はお返しします。白夜様を殺めようとした貴方の小太刀です。皮肉ですね。さぞ悔しいでしょう。ですから、後悔だけを胸に逝きなさい」
そして月夜姫は白夜のもとまで歩み寄ると、「帰りましょう」と一言だけ発して歩き出した。
白夜は後ろ髪を掻きながら小さく溜め息を吐くと、
ひょいっ。
不意に月夜姫を抱き上げた。
「ふぇ? びゃ、白夜様。突然何を?」
「泣いても良いぜ」
「え……?」
「震えてる。人殺し、初めてなんだろ?」
月夜姫はそこで初めて自分が誰かを殺め、自らの体が震えている事を自覚する。
「俺の胸で泣いて良いぜ。ちょっと血生臭くて居心地悪いかもしれんが、泣き顔は見せたくないだろ? 俺もお前の泣いてる顔は見たくない」
白夜の言葉を聞いて、月夜姫はしばし震えている自分の手を見詰めると、ギュッと目を閉じ、決意したように手を握り締めた。
「……白夜様」
「何だ?」
「ん」
月夜姫はすっと白夜の首に腕を回すと、白夜の顔を引き寄せ、
チュッ。
触れるような、短い口付けをした。
突然の事に一瞬驚いて目を見開く白夜。月夜姫は初めて白夜の不意を突く事が出来て嬉しかったのか、恥ずかしそうな嬉しそうな表情を浮かべた。
「お気遣いありがとう御座います。それではお胸をお借りしますね」
「お、おう」
そして、月夜姫は白夜の胸に顔を埋めると、静かに嗚咽を漏らしながら涙を流して泣いた。
その様子を見た白夜は慈しむような笑みを浮かべると、城へと向けて歩き出したのだった。
「やれやれ、俺の方がいずれ主導権握られそうで怖ぇなあ……」
ぼやくようにそう言う白夜だったが、その表情はどことなく嬉しそうだった。
◇◆◇◆◇
謎の空間
世界から逸脱した次元の狭間。何も無くて何かが在るこの空間。
そんな空間で、宙に浮く鏡に映った白夜の姿を見詰めているのは見目麗しい姿をした絶世の美女と言っても良い1人の女性。
「あ〜らら、やっぱり影鳶ちゃんったらやられちゃったかぁ〜、ざんね〜ん」
そうは言ったものの、女性の口元にはニマニマとしたいやらしい笑みが浮かんでいる。元より影鳶が白夜に敗北する事を予想して、その予想が当たっていて喜んでいるような笑みである。
「まっ、影鳶ちゃんの事は別にいっかぁ。どうせ魔王になれる器でもないから途中で切り捨てるつもりだったしぃ〜」
女性ははんっと詰まらない男だったとでも言わんばかりに鼻を鳴らすと、ニタァと不気味に微笑んだ。
「でも〜、中々に狂っててそれなりに好みの男ではあったのよねぇ。今回の戦いもそれなりに楽しめたしぃ。『反逆勇者』の戦いも改めて見る事が出来たしぃ、よしとしますかぁ」
女性はうふふと微笑むと額へと手を伸ばす。そこには2本の交差する線のような傷跡が刻まれていた。
傷跡に触れた女性はどこか恍惚とした、慈しむような表情を浮かべる。
「白夜に付けられた傷跡が疼く……はぁ、早く会いたいわぁ。この私にこぉーんな傷を付けちゃうんですもの。あの時よりも成長してるならさぞ良い男になってるんでしょうねぇ〜。うふふ……それじゃあ、次はルーンテリア辺りをけしかけてみようかしら?」
女性はクスクスとした笑みを漏らすと、スゥッと空間から消滅した。
――ホント、楽しみだわぁ。
月夜姫はもう完全に白夜に惚れていると言っても良いでしょう。恋愛の過程と言うのは書くのが本当に難しいですね。まあ、戦闘シーンよりは断然書き易いんですが。
白夜の無双、そして父親の仇の影鳶を討った月夜姫。暗躍する謎の女性。忍び寄るはルーンテリア帝国の影。ぬるっと、それなりに第2章を期待してくれると嬉しいです。




