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010 『家族』

「ほぉらほらっ、足元ががら空きだぜ!」

 白夜は竜魅の大太刀をしゃがんで回避すると、そのままその場で回転して竜魅の足を払う。竜魅は大太刀を床に突き刺し、それを杖のようにして踏み止まる。そして数メートル離れた場所でニヤニヤとした軽薄そうな笑みを顔に貼り付けた白夜を睨み付ける。

 戦いが始まってからというもの、竜魅は常に白夜の翻弄されっぱなしだった。それは白夜の四肢から繰り出される変幻自在な攻撃によるものだった。竜魅は大太刀による強力な一撃を放ち相手を倒す事に重点を置いた戦法を取っているが、逆に白夜は素手による素早く変則的な攻撃を何度も仕掛けるという戦法を取っている。柔軟性に優れた戦いをする白夜と、性格故か強力ではあるが柔軟性に欠ける戦いをする竜魅。

 更に白夜はよく学び、効率良く実践する事をモットーとしているためか、戦闘技術においても竜魅を凌駕していた。白夜の強さの真髄は腕力や戦法だけでなく、今まで学んできた技術を最大限に生かせる事でもあるのだ。

 柔軟性と戦闘技術。それを併せ持っているからこそ白夜は強い。そして、それはまだ白夜の実力のほんの片鱗に過ぎない……。

「中々面白い物を持っているよなぁ竜魅。刀身を伸ばす事が出来る魔装具まそうぐの大太刀。それも自由自在に長さを変化させられるから間合いも取り難い。動きも速いし常人なら剣筋を視認するのがやっとだろうな。だが、お前はその力を生かし切れていない。真っ直ぐ突っ込んでくるだけじゃ俺は倒せない。それは以前戦った時にも言ったよなぁ?」

 白夜はまるでこの戦いを楽しんでいるかのように言う。

「さあ、もっと来いよ。お前の強さをもっと俺に見せろ。お前の持つ全ての技術、お前が背負っている責任、先代魔王に誓った忠誠心。その全てを力にしてこの俺にぶつかって来い!」

 瞬間、白夜を中心にして力の奔流が周囲に渦巻き始める。それは魔力なのか、それとももっと別の何かなのかは定かではない。

 しかし、確実に白夜の中の感情の鎖の1つが外された。これが意味するのは、白夜は自分自身を竜魅に魅せ付けようとしている。魔王としての資質を存分に、余す事無く竜魅に魅せ付けている。

 魔王に必要なのは圧倒的な『力』、常人には理解出来ない海のように深い『知謀』、そして誰にでもこの者には敵わない、共に行きたいと畏敬の念さえ抱かせる『器』。

 竜魅は既に白夜の力と知謀を垣間見ている。そしてその両方を認めている。

 しかし、今だに竜魅は白夜の器だけは見ていない。そして今まさに白夜は自分の器の魅力を全開に解放している。

 竜魅が翻弄されているのは何も白夜の戦法だけではないと言う事だ。白夜が戦闘の合間に見せる魅力、カリスマ性は頭の堅い竜魅ですら油断したら屈してしまいそうになる程だ。

 成る程姫様がお認めになるはずだ、としみじみ思いながら竜魅は雑念を払うように頭を振る。しかし、どこかいつもとは違い自分への愉悦の感情だけではなく、相手への柔らかな慈愛の心も含まれているような微笑みを浮かべる白夜から視線を外す事が出来ない。

 ある種の恐怖すら覚える竜魅だったが、それでもここで負けるわけにはいかないと歯を食いしばりながら大太刀を構える。

(そう、ここで負けるわけにはいかない。某は、絶対に!)

 白夜は竜魅の雰囲気が変わった事に気が付いたのか、笑みを浮かべそして内心で呟く。

(やっと覚醒したか。その自分の道を貫こうとする表情。俺すらも踏み台ににして夢を実現しようとする野心が燃える眼。良いねぇ。やっぱそうじゃねぇと俺の下僕に相応しくねぇもんなぁ)

 白夜はニンマリと笑みを深くする。その笑みには先程まであえて・・・含んでいた柔らかな慈愛は含まれていない。今の笑みに含まれているのは愉悦への渇望。そして目の前の獲物を絶対我が物にすると言う強欲さ。白夜は竜魅を試すのは止めにしたのだ。ここからは何が何でも竜魅を我が物にする気だ。

 もう狂気染みているとしか言えない白夜の表情だが、先程よりも一層強い器の魅力を竜魅は垣間見る。

 自分の欲求を満たそうとしているだけの白夜。しかし、そんなありのままの、自らの本能に従う姿。ただそこに自分自身として存在する事こそが最大級の魅力だったのだ。

 白夜はただありのまま、自分の思った通り、欲望のまま、竜魅を我が物とするために口を開く。

「……なぁ、竜魅」

「……何でござるか?」

「お前は、どんな世界を見てみたい?」

「……それはどういう」

「俺は人間が、魔族が、獣族が、亜人族が全ての種族が俺の下に集い、この『月詠』を盛り上げて行く世界が見たい。俺はいずれこの世の全て者の頂点に立つ。史上最強の魔王としてこの世界を支配する。俺の思い通りの世界を創り上げるぜ」

 その瞬間、竜魅の脳裏に電撃が走る。

 白夜は自分の欲を満たすため、全ての種族を支配しようとしている。しかし、それは結果として全ての種族の共生を実現している事になるのではないだろうか? 白夜は既に人間と魔族が協力して生きて行ける事を自らの魔王軍で証明している。そしていずれは全ての種族の頂点に立ち、もっと多くの種族が魔王軍に入り、『月詠』には魔族以外の種族も溢れる事になる。つまりそれは……

(魔王様が目指した、全ての種族が共生している世界……)

 竜魅は、相も変わらずニヤニヤとした笑みを浮かべ何を考えているのか分からない白夜をじっと見詰める。

「そんな世界を創るために俺と一緒に来いよ、竜魅。そして――」


「――俺の『  』になれ!」 


「――っ!!」

 その言葉を聞いた瞬間、竜魅の脳裏にかつての光景が蘇る。それは魔王が乱心する数年前。まだ月夜姫が3歳になったばかりの頃、竜魅が魔王と交わした何気無い会話の記憶。


    ◇◆◇◆◇


 〜数年前〜

 先代の魔王が『月詠』を治めていた時代。当時竜魅は魔王軍の中でも屈指の実力と才能をを誇っている事で有名だった。しかしその反面頭が堅い事でも有名であり、現在と同じでどうにも融通が利かない性格をしていた。

 魔王に出会う前の竜魅は荒くれ者として有名だった。他者を決して寄せ付けず、実力の無い者を嫌う実力主義者。自分より弱い者は絶対に認めなかった。

 しかし、先代魔王に出会った事で改心し、魔王軍に入り更に精進を積み魔王の右腕と呼ばれるまでに至ったのである。

 魔王城の中庭にて竜魅は、幼い月夜姫を膝に載せ、床几台に腰掛けながらのんびりとした様子で中庭を眺める魔王のすぐ傍にて黙って佇んでいた。

 そしてふと、魔王は膝の上の月夜姫を撫でながら竜魅に言った。

「なあ、竜魅。君にはこの『月詠』はどんな風に映っている?」

「魔王様が治めているだけあって、平和で、とても美しい国でござるな」

「そうだね。僕もそう思う。流石は僕だ」

 魔王はクスクスと自分の冗談に微笑んだ。竜魅も思わず薄っすらと口元を緩める。

「確かに『月詠』は美しい。でもね、そこには僕達魔族しか存在していないんだ」

「魔王が治める魔国ですからな、当然でござる」

「本当にそうかな? 僕はこの『月詠』に魔族以外の種族が存在しても良いと思っているよ」

「何故でござる?」

「だって、その方が楽しいじゃないか? 色んな種族がこの『月詠』で暮らし、そしてこれからの時代を盛り上げて行くんだ。いずれ『月京』にも魔族以外の種族が溢れ、より大きな都として栄えて行く。僕はそんな国の王になってみたいな」

「それは……茨の道でござるな。我ら魔族は他種族からは恐れられているでござる」

「うん。でもね、それが僕の夢なんだよ。夢だから諦められない。だから進む。全ての種族から偏見を取り除き、全種族の共生を実現してみせる」

 魔王はどこか遠くを見詰めながら儚げに微笑んだ。

「だけど、僕じゃその夢は実現出来ないかもしれないね。魔族である、この僕には」

「そんな事は……」

「いや、駄目なんだよ。魔王が魔族であると言う偏見すらも取り除かなきゃ、共生なんて出来ない。僕の夢は、魔族の僕には実現出来ない。『月詠』の王は誰よりも自由で、自然と他人が付いて来るような者じゃなきゃ。そして魔族以外の種族。そうだな……『人間』辺りが良いんじゃないかな?」

 人間。正式には『人間族』と呼ばれる世界最弱の種族。身体能力、戦闘能力共に他種族に劣り、内包する魔力は魔族と比較するのも馬鹿馬鹿しいくらいに僅かしかない。

 竜魅は魔王が冗談でも言っているのかと思ったが、魔王の表情は真剣そのものだった。

「竜魅。人間は確かに弱いよ。でもね、弱い故に強くあろうとする事が出来るんだ。どんな種族よりも知識を身に付け、誰よりも努力する事でどんな種族よりも強くなれる。それが人間だ」

「ですが、どれだけ人間が努力しようと、魔王様を超える事など出来ぬでござる」

「本当にそうかな? 人間にだって魔族よりも強い者はゴロゴロ存在してると思うよ? いずれ僕を超える人間が現れたって可笑しくないと思うんだけど?」

「そうだと良いでござるな」

「もし本当にそんな人間が現れたらさ、竜魅。きっと僕はもうこの世にいないと思うんだ。もしかしたらその人間に殺されているかもしれないからね」

「……」

「でもね、僕が先に逝っても僕に囚われないで欲しい。君に僕の責任を押し付けたくないんだ。だからさ、その時は僕の事は忘れてくれ。君は君らしく、君自身のために自由に生きるんだ。これは命令だよ?」

「魔王様……」

「きっと近い未来僕を越える人間は現れる。どんな人間かは分からないけど、心の優しい人間なら良いなぁ。でも、欲を言うならこの子に幸せにしてくれて、世界を任せられる人間が良い。もしそんな人間だったら、竜魅。君はその人間と共に世界を変えてくれ。未来は君達が築くんだ。良いね?」

 魔王はそう言って月夜姫の頭を撫でながらニッコリと微笑んだ。竜魅はただじっと魔王の顔を見て、何故そんな事をいきなり言うのだろうと考えたが、結局答えは出なかった。

「そんな不安そうな顔をしないでくれ。大丈夫さ。僕は絶対に悪い人間には負けないからね。僕を倒せるのは全ての種族を導く事が出来る、魔王たる器を持つ者だけだ。次代の魔王はきっと悪い人ではないよ。それに君なら大丈夫さ。何たって君は僕の大切な――」


「――『家族かぞく』なのだから」



    ◇◆◇◆◇


「俺の『家族』になれ! 竜魅ィ!!」

 白夜はそう言い放つと、ニカッと歯を見せながら笑った。

 竜魅は小刻みに手を震わせ、カチャカチャと大太刀を鳴らし、信じられないと言いたげに目を見開きながら白夜から視線を外せないでいた。

 ――『家族』。先代魔王が信じた者達をそう呼んでいた。そして竜魅もその『家族』の一員だった。魔王を父親のように慕い、ただひたすらに夢を実現させようとする魔王の力になりたいと思った。

 先代魔王の言う『家族』と白夜の言う『家族』は意味が似ているようで少し違う。

 先代魔王の言う『家族』は先代魔王自身が認め信じた、心の許せる友人のような者達の事。そして白夜の言う『家族』は白夜が自分の仲間に相応しいと感じ、自分の下に就く事を認めた者の事。

 しかし、2人のこの言葉には「コレコレこういう種族が家族である」と言う意味は全く込められていない。全ての種族が友人であり手下であり仲間である。

 似ても似つかない2人の魔王は、『家族』と言うたった一言で種族の壁さえ取り除く事が出来る器の持ち主なのだ。

 そしてそれ故か、竜魅には白夜と先代魔王の姿が重なって見えた。まるで似ていないはずなのに、思想も理想も目標さえも違うはずなのに、2人の魔王は重なって見えるのだ。

(これが、魔王……か)

ちょっと話が無理矢理過ぎたかな? まあ、これ一応序盤なんで後々話が矛盾しないよう気をつけていこうと思います。

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