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000 終わりは始まりの1ページ

初投稿です。これからよろしくお願いします。

 ここは地球とは別の次元を超えた先に存在している異世界。世界には魔力と呼ばれる力の源が充満し、そのため科学ではなくありとあらゆる現象を発生させる力『魔術』が発達していた。そう、俗にファンタジーとも呼ばれるようなこの世界で今日、記念すべき大事件が巻き起こった。それはもう異世界中があらゆる意味で震撼するような、とんでもない出来事だ。


 ――魔王が死んだ。


 魔族と呼ばれる人とは異なる種族である魔族を統治する王、その魔王が今日命を落とした。否、正確には殺されたと言う方が正しいのだろうか。

 魔王。魔王領『月詠』の『月京』を首都として数多く存在する魔族の都を統治する魔族の王。その力は絶大であり他の者の追随を許さないほどであった。しかし、魔王は非常に優しい心を持っていた。争いを率先して行おうとはせず、いずれ魔族と他種族が手を取り合って生きて行く事の出来る、そんな未来を望んでいた。

 それが……3年前の魔王の姿である。

 世界の平和を願っていた魔王は、何かに憑り付かれたかのようにある日突然乱心したのである。

 魔王は魔族の国全ての力を集結し、いつかは手を取り合って行けるのだと願っていた人間の国への侵略を開始したのである。

 圧倒的な力を持つ魔王の軍勢の前に人間達は成す術はなかった。たった1年の間に国々は蹂躙され、遂には最後の手段に頼らざるを得ない状況にまで追い込まれたのである。


 ――『勇者召喚』。


『勇者召喚』とは異世界より魔王を倒しえる強力な力を持った人間を召喚する人間の生き残るための最終手段であった。

 召喚された勇者は魔王の軍勢を退け、たった1人で戦況を変えてしまうほどの強大な力を持っていた。人間達は遂に魔王の脅威から解放されると思い誰もが歓喜した。

 しかし、人間達が勝利を確信したその時、勇者は人々の前から姿を消した。

 誰もが嘆き、悲しみ、怒り、絶望した。

 そしていつしか人々は姿を消した勇者を『反逆勇者』と呼ぶようになった。

 しかし、そんな蔑みの言葉にも耳を傾ける事はなく、勇者が人間達の前に姿を現す事は無かった。

 それから2年の月日が流れた。人間達は尚も魔王を倒す事は出来ず、未だ勢力は拮抗していた。いや、魔王の軍勢の方が遥かに有利な状況である事は変わらなかったが、人間達は何とか持ち堪えていたのである。

 そしてそんな人間達の最後の足掻きが功を奏したのか、遂に魔王は討伐され、長きに渡る戦いに終止符が打たれたのである。

 そう……皮肉にも、自分達の前から姿を消した、あの『反逆勇者』の手によって。


    ◇◆◇◆◇


 魔王領『月詠』の首都『月京』。どこか地球の江戸時代辺りを連想させるその町並みの中央にそびえ立つのは木造の巨大な城。そう、世界最強と謳われたかの魔王が住まう、全魔族の総本山である。

 人々からは魔王城と呼ばれるその城のある一室。城の中で最も広大であるにも関わらず一切の汚れは無く、飾り気は最低限でありながらもその荘厳さは失われておらず、最奥に置かれている玉座は選ばれし者しか座る事は許されないと物語っているかのような存在感があった。そう、ここは魔王城の玉座の間。

 そんな玉座の間には2人の男が存在していた。

 片やこの城の主であり魔族の長である、突如乱心し世界へと牙を剥いた魔王。

 片や全ての人間を裏切ったとされ反逆者と人々から非難される、一切の混じり気の無い白を連想させるアルビノの肌を持つ蒼瞳の勇者。

 人間と魔族、その2つの頂点とも言える2人はこの玉座の間で激突し、戦った。……いや、具体的には戦っていたと言うのが正しいのだろう。

 玉座の間には先ほどの激しい戦いを物語る痕跡が至る所に……存在せず、あるのは両者の最大の一撃をぶつけ合った結果、圧倒的な破壊力を持って破壊された壁の大穴が1つあるだけである。

 戦いの後、敗者を見下ろしていたのは白いアルビノの髪を背に払いながら、ニヤァと口元を歪め勝利に愉悦の笑みを浮かべる勝者、勇者だった。

 地に倒れ伏す魔王の背後の大穴。それは白い勇者が魔王の全身全霊の一撃を、さらに圧倒的な力で跳ね返した事により出来たものであった。

 魔王は自らが放った一撃と勇者の一撃によりその身を貫かれ、頭の先を大穴へと向ける形で絶命していた。

 人間の象徴とも言える勇者はかつて人間と魔族の共生を望んでいた魔王を、まるでこちらが魔王なのではないかと思えるような寒気さえ覚える不気味な笑みで見下ろしている。そして不気味な冷笑を浮かべたまま、何言か魔王に向けて心底楽しそうに呟くと、勇者は魔王の横を通り過ぎそのまま玉座に向けてゆっくりと歩み寄って行った。

 魔族の長である者のみに座る事が許される魔王の玉座。しかし勇者は一切の躊躇いも無くその玉座に腰掛けると、足を組み肘を置きながらニタァと魔物を連想させるかのような凶悪な笑みを浮かべ、そして言った。


「魔王は死んだッ!! これよりこの俺、勇者三日月白夜は先代魔王に代わって魔王となり、全てを支配する! 人間も魔族もこの俺の下に平伏す事になる! 覚悟しておくんだな! ギャハハハハハハハハハハハハハハッ!!」


 人間の身でありながら、魔王となる事を宣言し、あまつさえ異世界全体へと向けられた人間達の裏切り者『反逆勇者』の、魔王顔負けの圧倒的なまでの宣戦布告であった。

 新たなる魔王三日月白夜は、新たなる時代の幕開けを先代魔王の遺体と共に、1人高らかに笑いながら迎えるのだった。

 これが『反逆勇者』白夜の1つの戦いの終わりと、新たなる時代の始まりの1ページであった。

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