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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode3~カゲフミアソビ~
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EP3-018:Omen of change

B5F、予備イービルフロア制御室。


そこは以前に由乃が案内された隠し部屋と同じく、本来は地下施設関係者のみが知る場所だった。


姜は椅子に深々と腰掛けて、目の前のパネルに小さな指で通信用のアドレスを打ち込んでゆく。


姜「ビーストちゃん、聞こえます?」


『―――はい、お待ちしておりました。姜様』


通信に応じたのは、由乃達を救ったモニタールームの少女だった。


姜「現状を報告なさい」


『はい。現在、杉森華僑により起こされた浸水現象がB7Fの3割近くにまで及んでいます。既に亡くなられたプレイヤー、涼路晶人のシステムによる回収は不可能かと……』


姜「アレは構いませんわ。わたくし達の邪魔をするつもりのようでしたし」


『では、例の"裏切り者"は幾徒様という事に……?』


姜「違いますわ。彼が裏切る動機は見当がつきますけど、『あのような事』を起こす理由などありはしませんもの」


『そうですか、他にもまだ……。浸水は如何致しましょう?』


姜「死体回収システムを停止させられるかしら?」


『B10Fの制御端末が事実上死滅しているので、B8F~B6Fのシステムには干渉不能です』


姜「でしたら、まずはB5F以降全ての死体回収システムをストップなさい」


『――了解しました。杉森華僑と神堂龍哉は、如何致しましょう』


姜「そうねぇ、ビーストちゃんの好きになさい」


『はい……? あの、言葉の意図を計り兼ねます』


その反応が余程面白かったのか、姜はくすくす声を漏らして笑った。


姜「意図なんてありませんわ。これよりわたくしが監視役及び浸水対策に勤めますから、他のことはビーストちゃんの好きになさい」


『で、では、新たな命令が下るまで待機……で、よろしいのでしょうか』


姜「確認を取る必要は無いのではなくて? わたくしは"貴女の好きになさい"と命じましたのよ」


『そ、そんな……困ります』


震える声を耳にして姜は口の端を釣り上げ、追い討ちをかけるように告げた。


姜「あら、ビーストちゃんったら自発的にやりたい事のひとつもありませんの? そのようなつまらない失敗作は、売り飛ばしてしまいますわよ。くすくす……」


『……!』


はっきりと息を飲む音が伝わってきた事に、とうとう我慢できなくなったのか、姜は恍惚とした表情で吐息を漏らす。


姜「(あぁ、青ざめた表情で膝をがくがく痙攣させるビーストちゃんが目に見えて……ゾクゾクしますわぁ)」


要するに姜は、異常事態の最中にも関わらず、モニタールームの少女を虐めて加虐心を満たすような真性のサディストなのだった。



◆◆◆◆◆◆◆◆



時を同じくして、銀河達に次いでB5Fに近い2人、白鷺可憐と初川観崎は、マイペースに談笑していた。


可憐「にっふーんよんじゅびょーかためんふっふーん……ってね」


観崎「みぎゅ、知ってる知ってる! 確かテレビで流れてたのだよね」


可憐「およ? 私が子供の頃にやってたCMなんだけど、よく覚えてる」


観崎「う……うーん、なんでだろうね?」


長いポニーテールを揺らしながら、観崎は人差し指をおでこに当てて考え込む。


その仕草を見て、可憐は懐かしさを感じていた。


可憐「似てる」


観崎「みぎゅ、誰に?」


可憐「"そーやん"に、ちょっとだけ似てる」


観崎「そ、そーやん?」


こくこくと、可憐は首を縦に振った。


可憐「そーやんは、私の……」


と言い掛けたところで、可憐の瞳が細められ、前方の通路を睨み付ける。


そこには、腹部の傷を押さえながら歩く警官服の女性、杉森華僑の姿があった。


傷というよりも、現在進行形でナイフが刺さったままである。


観崎「警官さんが、け、怪我してるよっ!」


走り出そうとした観崎の手を、可憐が強く握って静止させた。


可憐「あの人に近寄っちゃ駄目」


観崎「ど、どうしてっ」


可憐は決して、杉森華僑という人間の危険性を知っていた訳ではない。


ただ、華僑の胸と帽子に描かれた奇妙なエンブレムが遠目にはっきりと見えたのだ。


可憐「彼女は、警官は警官でも『地下世界対策科』の人。警官だけど、警官じゃない。とても、とても恐い人」


とある理由から、可憐は何度か華僑の所属する『地下世界対策科』に連行され、質問という名の尋問をされた事があった。


そのため、華僑もまた危険な人間のうちの一人だと事前に見抜く事が出来たのである。


観崎「よ、よく分からないけど、怪我してる人を放っておくのは良くないよ」


可憐「む……」


確かにそうだ、としばし考えた可憐は、武器で威嚇をした状態でならと承諾した。


恐る恐る近付いていくと、華僑の視線が2人を睨む。


華僑「お前は、高坂の金魚のフンじゃねぇか。アタシに何の用だ」


可憐「私が誰で、貴女が誰かなんて関係ない。ここに居るのは、怪我人を見過ごせないお人好し2人だから」


観崎「そうだよ! は、早く止血しないと―――」


肩を貸そうと近付いた観崎を、あろう事か華僑は自らの腹部に刺さったままのナイフを抜いて威嚇した。


華僑「……アタシの正体を知った上での情けたぁ、喧嘩を売られていると取るしかねぇよな」


可憐「初川……!」


華僑「っと! 動くんじゃねぇぞ、高坂のオマケ女」


華僑は観崎の首を腕で絞めて、近くに引き寄せる。


これでは可憐のライフルなど、あって無いようなものだ。


観崎「ごめん可憐さん。私がっ……、私のせいだ」


可憐「馬鹿。謝るのは、この状況をなんとかしてから」


華僑「ほーう。手負いっつーハンデこそあれ、アンタがアタシに勝てるかよ」


未だ腹部から血が流れ続けているにも関わらず、華僑は顔色ひとつ変えずに可憐を挑発していた。


可憐「いつだって手段は争う事だけじゃない、私はそれをそーやんに教わった」


観崎「か、可憐さん……」


可憐「私は知ってる。地下世界対策科は手段を選ばない、確かに危険。けど、それだけじゃない。目的はいつだってまともだから……貴女の目的は何?」


ライフルの銃口を床に下ろす可憐を見て、華僑はつまらなさそうに鼻を鳴らした。


華僑「バレてるって面倒だよなぁホント。けど、アタシの目的を手伝おうってんならお門違いだ。それはアンタ達全員の『消滅』を意味するからな」


可憐「消滅……」


何故『死』ではなく『消滅』なのだろう、と可憐が思案する間もなく、華僑はナイフについた血を観崎に擦り付けながら笑みを浮かべた。


華僑「ま、"成功例"を1人見れた地点でアタシは満足してんだが。もっと沢山見たいって欲が止まらねぇからさ………この小娘を殺せば、オマケ女も成功させられるか? ハハハ!」


観崎「ひっ―――た、たす」


ぷちり、と可憐の中で何かが切れる音がした。


可憐「怒るよ。人質なんて捨ててかかってきたらどう?」


華僑「アンタこそ、銃なんて捨ててかかって来いよ」


その言葉の直後、可憐は実際に銃をがしゃりと投げ捨てて走り出していた。


華僑が関心の声を上げる間もなく、可憐は助走の勢いをつけたブローを放つ。


対応せざるを得なくなった華僑は、やむなく観崎を手放し、拳は空を切った。


ぺたんと床に座り込んだ観崎を庇うように、可憐が一歩前に出る。


華僑「……綺麗なフォームだった。素直に誉めてやるよ」


可憐「これでも、学生の時は大会助っ人引っ張りだこだった。舐めたら当たるよ」


華僑「ほほう………そりゃまぁ。アンタなら、アタシの同僚になる事も夢じゃねぇかもな。それが、なんで高坂なんぞについた」


ピクリと眉を動かして、可憐の表情がより一層険しくなる。


可憐「なんぞじゃない。私に初めて『負け』を教えてくれた、心に踏み込んで来たのが、そーやんだった。……それだけ」


華僑「全くおめでたい女だなぁ。そんじゃアタシもアンタに勝って、スカウトさせて貰うとするかァ!?」


お返しと言わんばかりに、華僑も拳を作って可憐の顔目掛けて放つ。



―――見え見えの軌道



可憐「(このまま腕を掴んで、背負い投げる)」


その動作の為に構えを変更するが、拳が通る筈の位置に望んだ感触はなく、強い衝撃が腹部を襲った。


華僑の拳はフェイントで、本命は右足による蹴り飛ばしだったのだ。


床を数度転がった可憐は、涙目になりながら駆け寄ってきた観崎に抱き起こされた。


華僑「……ッつつ、流石に動きすぎると傷がいてぇや。次で終いにしねーとな」


ボキボキと両手の骨を鳴らしながら、一歩ずつにじり寄ってくる華僑。


観崎「か、可憐さん………私の、私のせいで、こんな」


可憐「……けほ」


だから、違うって。


私もなんとかなると思って、自分の力に自惚れてたから。


初川は、何も悪くない。


可憐「そー……や」


私がミスをやらかした時は、いつも"そーやん"が尻拭いをしてくれたっけ。


本当はずっごく強いくせに、頭へこへこ下げて、なんて情けないんだろうと思った。


でも、争わずに解決しようとする姿勢も、彼の強さだって気付いたから。


可憐「(また、私やらかしちゃったみたい。そーやんは、そーやんだったら、別の選択肢を選んだのかな……)」


視界がぐらりと歪んで、意識が遠ざかりそうになった時。



―――よくやったね、可憐。


そんな優しい声が、何処からか聞こえた気がした。



◆◆◆◆◆◆◆◆



私のせいで私達は死ぬ。


僕が無力なばかりに彼女は死ぬ。



私には彼女を抱き寄せる事しか出来なくて。


僕には借り見る事しか出来なくて。



護りたい、護れない、建一と同じように。


救いたい、救えない、彼女の温もりを感じるのに。



私は、戻れなくても構わないから―――


僕は、何を対価にしても構わないから―――





―――無意味に消え去る命のために、(ボク)(アクマ)にだってなれる。









「よくやったね、可憐」


優しく頭を撫で、気を失った可憐の身体はゆっくり床に横たえられた。


華僑「なんだ。そそのかしたとはいえ、単純な手によくまぁ引っかかってくれるな」


観崎「引っかかるとか、なんの事だかさっぱりなんだよ」


少しばかり怒りを含んではいたが、今まで通りの少女の表情がそこにあり、華僑は眉をひそめた。


華僑「あっれー、アタシの気のせいだったか……?」


観崎「とにかく、可憐……さんに手を出したからには、ただじゃおかないよ」


華僑「出したのは手じゃなく、足だけどな……!」


そう口にするなり、華僑は一気に距離を詰め、警棒を観崎の脳天目掛けて振り下ろす。


観崎の瞳はその軌道をしっかり捕らえていたが、避けずに頭に直撃を受ける。


観崎「く……!」


華僑「なんだ。避ければぶっ倒れてる女に攻撃が行くとでも思ったか」


観崎「さ、さぁ、どうだろうね……」


額を血が伝い、ぐわんぐわんと頭が揺れるような感覚の中、観崎の瞳が床に転がった「初川」と落書きされたアジャスターのブレードを捕らえた。


華僑の攻撃をあの武器で受けていたなら……と渇望したが、それで目眩が収まる訳もない。


しかし、意外な事に打開策は相手によって作られた。


華僑「自称お人好しのアンタらにイラっときちまったのは確かだが、考えてみりゃあ殺す必要がある訳じゃあない。どうだ、お互い手負いって事で、ドローにしねぇか」


そうか、すっかり忘れていたが、この警官も常人なら絶対安静の傷を負っていたんだ……と、思考の回らない頭の中で納得した。


観崎「そんなっ、そんなの……!」


まだ彼女を許した訳じゃないし、ろくに報復できないまま終わるのは悔しい。


しかし、やっぱり一番大事なのは『生きる事』だから。


今はどれだけ悔しくても、感情に身を任せずに堪えるのが最善だと思えた。


観崎「……分かった。そうしよう」


華僑「利口で助かるね。このまま行けば確実に共倒れしてたさ。そっちも、せいぜい傷の手当に専念しとけよ」


おぼつかない足取りで立ち去っていく警官服の後姿に、このまま続けていたら本当に共倒れしていた事を悟り、観崎は頭の傷に手を当てながらぐたりと床に座り込んだ。

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