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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode3~カゲフミアソビ~
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EP3-016:Very hunger

建一が目を覚ますまでの間、他の生存者達は1人の死者も出す事なくB7Fを突破していた。


裏側でモニタールームの少女が、浸水前になるべく上の階層に進ませる為に、アジャスターを好戦的な生存者(主に天真邦和)の元に特攻させた事が大きい。


また、同じ理由で龍哉によってコマンドマンが破壊されたため、結果的に死者が出なかったのだ。


それでも、ついに涼路晶人という最初の死者が出てしまう。


そんな事とは知らずに、生存者の1人――白鷺可憐は、カップ麺のコマーシャルのBGMを小さく口ずさみながら、散歩をするような足取りでB6Fを闊歩していた。


可憐「ふーふふ、ふっふふーん……にっふーんよんじゅびょーかためんふっふーん」


手ぶらでうろつく可憐を邦和のような者が見つけたら、なんと無防備な獲物なのだろうと目をつけられる事間違いなした。


しかし……


可憐「………」


彼女の視界にアジャスターが移った途端、顔色ひとつ変えずに一番近くにあった扉を開け、閉じる事なく裏側でアジャスターを待ち伏せる姿勢を取る。


白鷺可憐は無防備なのではなく、大抵の事はなんとかできる自信故に手ぶらなのだ。


可憐「あと3秒……」


そのカウントがゼロになるのと同時、可憐は扉の裏から飛び出す。


目前にアジャスターの機体がある事を確認すると、左手首と襟元(の代わりに首)を掴み、背負い投げの要領でがしゃーんとアジャスターを床に叩き付けた。


ピシリと頭部のガラスがひび割れるが、それでもライフルを握る手がピクリと動いたため、倒れた機体に覆い被さって固め技をかける。


普通の人間ならギブアップを余儀無くされる所だが、諦めという言葉を知らない殺人機械はぎぎぎぎと金属がこすれる音を立てながら尚も抵抗を試みる。


見かねた可憐は小さくため息をついて、両の腕に思いきり力を込めた。


可憐「しつこい」


みしっ!という音と共に、両腕を通っていたケーブルが千切れたらしく、今度こそアジャスターの武器を握る手が緩んだ。


それを確認して立ち上がると、アジャスターも立ち上がる……というより浮遊パーツを使って宙に浮く。


しかし、武器を握る為の両腕は使い物ならないため、こつんこつんと正面から可憐に体当たりをするだけになってしまった。


その様子は動物がじゃれついてくるようなイメージがぴったり当てはまり、可憐は心の中で「可愛いかも」と呟いた。


可憐「……よしよし」


挙句アジャスターの頭部を撫で始めた可憐に、モニタールームの少女が絶句したのは言うまでもない。


そうこうしているうちに、可憐の腹がぐぅと小さく音を立てた。


B7Fを探索していた時、可憐は一度だけ料理室に立ち寄る機会があったのだが、キャベツを一口だけかじって諦めた。


可憐「……料理できない、でもお腹減った……うう」


口の端をよだれが伝い、べとりとアジャスターの肩に零れた。


相変わらずこつんこつんと体当たりしてくるアジャスターに料理室の場所を知っているかと問いかけるが、当然答えは返ってこない。


可憐「うーん、お腹がすいて死んじゃうよ……」


今度は大きくぐぎゅるるると音を立てる胃袋に、可憐は深いため息をついた。


すると、今までこつこつ体当たりしていたアジャスターが背を向けて移動を始める。


可憐「……あっ、どこへ行く」


アジャスターが床に落としたブレードとライフルを拾い上げると、可憐はよろよろと後を追い始めた。



4、5分ほど経っただろうか、アジャスターの行く先に『料理室』のプレートがあった。


可憐「おおお、意志疎通。……って、私は料理できないんだってば」


しかし、アジャスターは残り少ないバッテリー残量の補充をする為に移動していただけなので、扉の前を素通りする。


可憐はアジャスターを追うかどうか迷ったが、空腹感が勝って料理室に入る事にした。


持ってきた武器も床に投げ捨てて、駆り立てられるようにドアノブを回す。


……が、扉は固く閉ざされていた。


可憐「開か、ない……」


圧倒的絶望に、がっくしと項垂れる。


可憐にとって、食事は最も大切なものであり、逆に空腹は最も苦手なものなのだ。


可憐「お腹すいたよ。そ……」



―――そーやん、ごはん。



無意識にそう口走ろうとしていた事に気付いたが、最後まで口に出す事はしなかった。


妙に気落ちしてしまったので、料理室は諦めてぶらつこうと思った時……。


「ちらっ」


可憐「お……?」


料理室の扉が内側から開き、数センチの隙間から警戒するような少女の瞳が覗き込んでいた。


その視線はまず床の武器に向けられ、次に背を向けながら振り返っているげんなりした可憐の表情を捉えた。


可憐「料理室……人…………店長?」


「て、てんちょー…?」


可憐「シェフ…? シェーイッフ?」


「……??」


とりあえず警戒する必要は無いと判断して扉を全開にした少女だったが、空腹のあまり主語のない名詞を連発する可憐の意思は伝わっていないようだ。


それを『日本語が通じていない』と曲解した可憐は、決死の異文化コミュニケーションを試みる。


可憐「あいあむはんぐりぃ……ぷりーず、らんち、MESIぃ………ぐぎゅるるるるる」


後半はただの効果音とジェスチャーでしか無かったが、少女―――初川観崎は、可憐が言いたい事をなんとか理解したのか、ぽんと手を打った。





観崎「みぎゅ、お腹がすいてるんだね」


可憐「Japanese!?」


観崎のナチュラルな日本語に驚く可憐だったが、自分が意味不明な事を口走っていた事を知るのは、20分ほど後の話である。



◆◆◆◆◆◆◆◆



空っぽになった皿の前に箸を置いて、可憐は手を合わせた。


可憐「ごちそうさまでした。この恩は死ぬまで忘れない、有り難う」


観崎「あはは……そこまで感謝しなくていいんだよ。普段は建一……あぁ、私の幼馴染なんだけど。その人に作って貰ってばっかりだから、そこまで上手じゃないんだよ」


可憐「そんな事ない。一生忘れられない味だった」


観崎「ほ、ホントに、すごくお腹が減ってたんだね……」


可憐は今にも泣き出しそうな顔で、こくこくと首を縦に振った。


観崎「みぎゅ、私は観崎。初川観崎っていうの。よろしくね!」


可憐「よろしく。私は白鷺可憐」


観崎「可憐……さん。はて、何処かで聞いたような?」


可憐「逆なんぱ?」


観崎「女の子同士だよ!?」


可憐「実は、私……」


観崎「男なの!?」


可憐「恋よりご飯なの」


観崎「あぁ、そういう……って、なんでこんな流れになってるの!」


可憐「私達、漫才コンビ組めそう」


観崎「か、からかわれてたんだよ……」


観崎はマイペースに分類される性格だが、それを圧倒的に上回る可憐のマイペースさに、ツッコミ役に徹してしまっていた。


可憐「ときに初川は、この階の地図は持っているのかな?」


観崎「うん、持ってるよー」


可憐「じゃあ、一緒に行こう。ひとりよりふたり」


観崎「みぎゅ、喜んで!」


可憐が差し出していた手を取って、観崎は満面の笑みを浮かべた。


可憐「ところで初川は、なんで最初、私の日本語分からなかったの?」


観崎「えっ?」


可憐「え……?」


それからしばらく、2人はポカンとした表情で首を傾げ合っていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆



時を同じくして建一と由乃は、可憐と同じように料理室を探してB6Fをさ迷っていた。


建一「とほほ……色々考えなきゃいけないのは山々だけど、もう限界だ。腹減って何も考えられない」


由乃「そうですね……。携帯の時計ですと、もうお昼の時間はとっくに過ぎていますし。朝食も取れていませんから」


目覚めたタイミングこそ違うものの、建一と由乃は昨日の晩御飯以降、半日近く食事を取っていなかった。


由乃がアジャスターから回収した武器をひとつずつ持ち歩いている事が、逆に疲れを増幅させる要因にもなっている。


建一「料理室かB6Fの地図を、あてもなく探さなきゃいけないのか……気が滅入るなぁ」


由乃「あまりもたもたしていると、浸水の危険性もありますね………」


顔を見合わせて、はぁ……と2人してため息をついてから、ほぼ同時に正面に視線を戻す。


すると、遠目にアジャスターが向かって来るのが見えた。


2人は邦和の操るアジャスターとしか遭遇した事が無かったため、反射的に武器を構えて警戒心を剥き出しにした。


が、直ぐに異変に気付く。


建一「あのアジャスター……武器を持っていないぞ」


由乃「そう……ですね。両肩がねじ曲がっていますし、私が壊したアジャスターとも違うと思います」


そのまま様子を伺っていたが、何をする訳でなく建一達の隣を通り過ぎようとしたので、肩を掴んで静止させる。


……と


建一「(うっ……なんだこれ)」


掌にねっとりとした液体の感触があり、建一は顔をしかめる。


由乃「赤羽君。少し調べますから、離さないで下さいね」


建一「………はい」


由乃はアジャスターの腕を動かそうとしたり、首を回してみたり色々と調べている。


その度、俺の手が触れている液体がねちょねちょと不快な音を立てる。


由乃「……なんの音ですか?」


建一「今、俺の掌の中には何故か誰かの唾液らしきものがあります」


由乃「え」


数歩後ずさってドン引きしている由乃の気持ちは痛いほど分かるが、俺も好きでこうしている訳ではないのだ。


建一「俺、そろそろ手を離してもいいですかね」


由乃「……そう、ですね。見たところ両肩が外れているので、襲って来る事はなさそうですし」


アジャスターの肩から手を離すと、ねっとりした液体が糸を引いて泣きたくなった。


離れていくアジャスターの背中を見送りながら、俺はもう何度目になるか分からないため息をついた。


建一「………くそう。なんであんなところに唾液がついてるんだよ」


由乃「さ、さぁ……」


振り返ると、由乃は俺の手に視線を送りながら更に数歩後ずさった。


理不尽すぎる。


建一「くっそう、俺も空腹で垂れそうなのを何度も飲み込んで我慢してるっていうのに」


由乃「……案外、それなんじゃないでしょうか」


由乃の言いたい事はつまり、お腹のすいていた誰かが、アジャスターを半壊させた状態で料理室見つけて、見逃されたアジャスターに俺達は遭遇したのではという事だろう。


建一「いやいやいや、いくらなんでもそれは楽観的すぎるだろ」


由乃「そうですね……。でも、あてもなく探すくらいなら、アジャスターが来た方向へ行ってみませんか」


確かに、他に索が無いのなら一見楽観的な考えにもすがるべきなのかもしれない。


俺はやむなく、首を縦に振った。



◆◆◆◆◆◆◆◆



それから20数分近く探索して、やはり気のせいだったのかと諦めかけた時、それは現れた。


『料理室』のプレートだ。


建一「んな馬鹿な」


由乃「な、なんでも試してみるものですね」


発案者の由乃でさえ、びっくりした表情を浮かべていた。


建一「じゃあ、開けるぞ」


由乃「待って下さい。私が開けます」


建一「もし中に誰かが居たら扉は開かないって書かれてるし、ドアノブの音で気付かれたら俺達が不利になる。あまり危険な役目は押し付けたくない」


由乃「いえ、そうではなく……その手は唾液の」


もう乾いたとはいえ、由乃の唾液を触った手への抵抗は強いらしかった。


反対の手はブレードを握っているし、素直に由乃に任せるしか無いだろう。


由乃「では、行きます」


由乃がドアノブを回すと、扉はキィと小さく音を立てて開いた。


どうやら中には誰も居ないらしい。


しかし料理室に入ってすぐ、つい先刻まで誰かがここに居た事を示す証拠を見つけた。



建一「……皿、洗えよ」



誘拐犯の用意した物をわざわざ洗うなんて……という気持ちは分からんでもないが、食事に使ったであろう食器が無造作にテーブルの上に放置されていた。


由乃「赤羽君はまず、お皿よりも手を洗って下さいね」


建一「……ハイ」


正論のはずの由乃の言葉に、俺は胸をえぐられるような虚しさを覚えるのだった。

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