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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode3~カゲフミアソビ~
91/150

EP3-014:An gunner

涼路晶人と珠田まるが出会ったのは、B8Fでの事だった。


水圧で上の階への扉が開けられないと四苦八苦していたまるを、地図を頼りに通り掛かった晶人が助けたのだ。


その後もB6Fまで何事もなく辿り着いた2人だったが、『何事も無かった原因』が逆に思わぬ脅威を呼び寄せる事になるなど、誰にも予想できなかっただろう。


『ハハハッ、こりゃあいい!』


アジャスターのスピーカーを通じて、天真邦和の笑い声が発せられる。


晶人とまるを追っているアジャスターは現在、天真邦和の使用する最上位ギミック『兵器操作』によって操られているのだ。


兵器操作ギミックはその名の通り、使用者と同じ階層に存在する兵器を1機だけコントロール可能にする。


情報室に取り付けられた操作用の機材が必要になるが、明らかにゲームバランスを崩しかねないギミックだ。


そのため、『150』という割に合わない高いステータス消費が設定され、本来はプレイヤー同士を戦わせる為の『餌』のひとつでしか無い筈だった。


しかし、モニタールームの少女が浸水からプレイヤー達を逃がすべく、大量のアジャスターに『天真邦和に突貫せよ』と命令を送り、邦和にアジャスターを破壊させた。


結果、B7FおよびB6Fのアジャスター破壊ノルマは順調に進んでいる訳だが、邦和は1人で30機以上のアジャスターを破壊する事になり、兵器操作ギミックを発動するに至ってしまったのだ。


晶人「君は誘拐犯ではないんだろう!? こんな無意味な争いは止めるんだ!」


邦和『真面目ぶった全うな意見だなぁ、胸糞悪ぃ。俺は好きでやってんだよ』


晶人「くそ、聞く耳持たないか……」


まる「はぁ、はぁ……もう、走れな……い、です」


邦和の操作するアジャスターがライフルを構えるのを見て、晶人は息を飲んだ。


アジャスターの標準装備であるライフルだが、行動に制限が掛けられているAIと、邦和の操作とでは天と地ほどの差がある。


その銃口は真っ直ぐ心臓に向けられ、邦和はスピーカー越しにくぐもった笑みを漏らした。


邦和『クク……死にな。偽善者が』


耳を裂くような連続した銃声が鳴り響く直前、晶人はまるを抱え込んだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆



建一と由乃がアジャスターに追い付いた時、既に勝負は決まっていた。


身体を張ってまるを護った晶人は既に虫の息で、アジャスターを操作する邦和は、無情にも傍らで泣き叫んでいるまるに銃口を向けている。


建一「……なんてこった」


由乃「こ、こんな、こんなの……あんまりです。酷すぎます……」


邦和『……あぁ? なんだ新手か、いいとこなのに邪魔が入ったな』


不機嫌そうにブレードの先端をがつがつと床に叩きつけながら、アジャスターの機体が振り返る。


由乃「赤羽君、"この人"は違います……」


建一「だろうな」


建一達を助けた誘拐犯の"彼女"は、どういう訳か死者が出る事を恐れている。


そのため、今現在アジャスターを操作して人を殺そうとした何者かは、建一達が探している誘拐犯側の少女とは無関係と思われた。


冷や汗を流しながら考える仕草を見せていた由乃が、はっと顔を上げる。


B8Fの資料室で、アジャスターという機械のレプリカを見た事を思い出したからだ。


同時に、由乃の強ばった表情が引き締まる。


由乃「……赤羽君、あれは私に任せてくれませんか?」


建一「き、危険だぞ」


由乃「その言葉は、銃を扱えない赤羽君の方が当てはまります。赤羽君には、襲われた2人の事を頼みたいんです」


内気なイメージと打って変わって強い意思を持った眼光に、建一は頷くしかなかった。


どのみち素手での突貫は自殺行為に等しいため、今は由乃の腕を信じるしか無い。


由乃から銃の扱いを教わっていれば、危ない役目を押し付けずに済んだのだろうか……と、建一は少しばかり後悔した。


小声で話をしていた建一達に、アジャスター越しに男はフンと鼻を鳴らす。


邦和『ま、あのガキをいたぶるよりは、お前等の方が楽しませてくれそうだな』


由乃「残念ですが、貴方と戦うのは私1人です」


邦和『あぁ? おいおい舐めて貰っちゃ……』


何か感じるものがあったのか、数秒ほどの沈黙が続き……。


邦和『……分かった、望み通りタイマン張ってやらぁ』


いったいどういう風の吹き回しなのか、邦和は由乃の要請を飲んだ。


由乃「有り難うございます。第三者を巻き込みたくありませんので、場所は変えさせて貰いますよ」


邦和『ククク……いいぜ、好きにしな』


互いに銃口を天井に向けながら、1人と1機が建一の隣を通り過ぎて行った。


由乃達が戻って来る気配が無い事を確認し、建一は倒れている男性の元へと駆け寄る。


建一「大丈夫……なわけないよな。意識はありますか!?」


晶人「……ぁ……あ」


絞り出したような声を上げたと思った直後、男性はげほっと大量の血を吐き出した。


傍らで泣きじゃくっていた子供が、ひっ、と息を飲む。


建一「む、無理に喋ろうとしなくていいです! くそ、いったい何発受けたんだ……」


晶人「……ぁ……ガ!」


男性がびくりと強く身体を震わせ、動かなくなる。


建一「おい、しっかりし―――」


その身体を抱き起こそうと建一が近付いた、次の瞬間―――







男性の右手が、建一の首を掴んでいた。



◆◆◆◆◆◆◆◆



移動を始めて4、5分の場所で、由乃は足を止める。


由乃「ここまで来れば大丈夫でしょう」


邦和『ただの時間稼ぎの線も疑っていたが、真剣に相手してくれるようでなによりだ』


鋼のボディを輝かせているアジャスターからは、感情ひとつ読み取れない。


それでも由乃は、それを操作する相手は笑っているのだろうと確信していた。


由乃「あまり離れると、帰り道が分からなくなってしまいますから」


邦和『帰り道の心配はいらねぇぜ。お前はここで俺に殺されるんだからよ』


由乃「いいえ、帰ります。私にはまだ、やらなければならない事がありますから」


嵐の前の静けさに2人は身を投じる。


そして……






ビーッ! ビーッ!


微かに聞こえた死体回収アラート音が合図となり、決戦の火蓋が切って落とされた。


最初に仕掛けたのは、邦和の操るアジャスターだった。


ライフルのトリガーが引かれ、激しい銃声と共に、無数の殺意の塊が由乃目掛けて吐き出される。


直前にT路地の横道に身体を隠していた由乃は、即座に床や壁に刻まれた弾痕を確認した。


由乃「(狙いがあまり正確じゃない。素人………の線は薄いから、恐らくアジャスターの操作に慣れていない)」


そう分析すると、由乃はT路地から身体を半分だけ出して、アジャスター目掛けて1発だけ発砲した。


ボディ目掛けて真っ直ぐな軌道を描いた銃弾は、ガキンという音と共にアーマーに弾かれた。


それを確認すると、由乃は再びT路地に身体を引っ込める。


由乃「(やっぱり狙うなら頭部。資料室の説明文通りなら、そこにカメラが存在するはず……っ!?)」


しばらく2発目を放つタイミングを伺っていた由乃だったが、銃撃戦を続けるだろうと踏んでいたアジャスターの機動音が急接近してきた。



◆◆◆◆◆◆◆◆



B6F、情報室。


現状、邦和により占拠されている一室では、アジャスター操作用端末にギミックが差し込まれ、傍らでは座席に腰掛けた邦和がアジャスターを操っていた。


邦和「思った通り……ただの小娘じゃねえな」


マイクの出力をオフにしながら呟き、心底楽しそうに口の端を吊り上げる邦和。


しかし、その瞳は決して笑っていなかった。


邦和「俺が『間接的』に戦っている事を、忘れて貰っちゃ困るな」


T路地の曲がり角に隠れた少女に向かって、最高速度で特攻する。


邦和がアジャスターを通して戦っているからこそできる、身の危険を顧みない選択。


路地を曲がったたその先が、モニターに移し出された。





しかし、そこに邦和の求めた少女の背中は無かった。


邦和「……いねぇな」


1発目の銃弾から邦和の特攻まで、8秒ほどの間があった。


その間に足音を立てぬよう走り去ったか、あるいは―――


邦和はマイクのスイッチをオンにした。


邦和「隠れたって無駄だ。しらみ潰しに探させて貰うからな」


しらみ潰しと聞けば、近くの扉から順番に確かめてゆくと普通は思うだろう。


あの小娘なら、俺が手前から扉を調べて背後がガラ空きになった隙に、奇襲をかける事など造作もないだろう。


邦和「(だから、こうする訳さ……!)」


忘れがちだが、アジャスターのカメラ補足はあくまで補助的なもので、メインの索敵方法は別にある。


……そう、『温度センサー』だ。


邦和「(クク……これで終わりだ)」


手前から順に3つ目、左側に位置するドアノブに、手で触れた事を示す黄色と赤のグラデーションがくっきりと映し出されていた。


ドアノブを回すには、両手に握っているブレードとライフルのどちからを仕舞わなければならないため、邦和はライフルを背中に仕舞う。


狭い室内では近距離武器と遠距離武器の差は殆ど無くなる。


そしてなにより、邦和は一瞬で致命傷を与える銃よりも、じわじわと死を味わわせる刃物を好んで使う傾向が強かった。



―――あの気丈な戦意に満ちた小娘の表情を、死の恐怖で彩るのが楽しみで仕方ない。




……だからだろうか。






由乃「これでチェックメイトです」


何の躊躇いもなくアジャスターにドアノブを握らせた邦和は、自らの判断ミスに気付かないまま、敗北を知る事になった。


機体は背中からドアに押し付けられており、続けて首にハンドガンの銃口が当てられる。


邦和『……こいつは参ったな。俺の言葉から、敵は温度センサーの事を知らない、と考えなかったのか』


由乃「貴方ほどの人が、その機能を見逃すとは思いませんでした。素人の私ですら、ドアノブのひんやりした感触を味わった時に、思い出せたくらいですしね」


ギギギと音を立てて頭部を90度曲げると、邦和は成程なと声を漏らした。


邦和『……上着がねぇな。それで熱を残さぬよう別のドアノブを捻って、隠れていた訳か。よくもまぁ、あの短期間で』


由乃「ええ、貴方の敗因は最後の読み違いだけです。―――有り難うございました」


礼を言われる覚えが無かったため、邦和は頭上にクエスチョンマークを浮かべる。


由乃「とても参考になる"試合"でしたよ。人を殺めた事は許せませんが、私……峰沢由乃は貴方の実力を認め、敬意を評します」


邦和『峰沢、か……どこが"素人の私"なんだか。俺は天真邦和だ。また会おうぜ、クク……』





由乃のハンドガンから2発度目の銃声が発せられ、アジャスターはぐたりと力なく横たわった。


背中のライフルと右手に持ったブレードを取り上げてから、ようやく由乃は力を抜いて床に座り込んだ。


由乃「か、勝った……。私……勝った………生きてる…………私生きてる……」


もし、アジャスター越しでなく生身の天真邦和が相手だったなら………私は間違いなく死んでいただろう。


操作に不馴れな上、機械越しであるが故に危機感が欠落し、それらを補う為に使った機能を逆手に取れた。


様々な要素が重なり合ったからこそ、私は勝利する事ができたのだ。


杉森華僑ともいずれ戦わなければならないのに、まだあんな猛者がいるという事実に、涙が出そうだった。


最悪、私の身を挺して他の生存者を護る事になるだろう。


由乃「……そうだ、赤羽君っ!」


こんな事をしている場合ではないと、重たいアジャスターの武器を両手で持ったまま立ち上がる。


先程勝負が始まると同時に聞こえてきた死体回収アラートは、いったい誰のものだったのか。


普通に考えれば襲われた男性のものなのだが、なんだか嫌な予感がする。


由乃「(赤羽君、どうか無事でいて下さい………!)」


私はそう祈りながら、元来た道を辿るように走り出した。

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