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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode3~カゲフミアソビ~
90/150

EP3-013:Fear strangers

海の底で水の流れに揺られているような、ゆったりとした心地よいまどろみから、ふわりと浮上していくように夢から現実へと意識が戻ってゆく。


目覚めるか目覚めないかの瀬戸際、無意識に『あと5分』と呟きたくなる意識の中、赤羽建一の頭は混乱状態にあった。


長らく『神堂拓摩』としての夢を見ていた彼は、一瞬だけ自分が誰なのか分からなくなっていたのだ。


この際、誰でもいいや……と思考を破棄しようとした時。


「……あ」


目と鼻の先から聞こえてきた小さく呟くような声に、2度寝しようとしていた意識が呼び戻された。


重い瞼を開けると、電灯の光が眩しくて右手で視界を覆う。








目が慣れてくると、すぐ隣から澄んだ紫の瞳が俺を覗き込んでいた。


建一「……ふぁあ……う」


大きく欠伸してから、俺は身体を起こす。


異様なまでに真っ白な部屋を見て、ようやく自分が『赤羽建一』で、誘拐されている真っ最中だという事を思い出した。


「あの……」


俺が寝ぼけた頭できょろきょろ周囲を見渡していると、少女の方から謙虚に声を掛けてくる。


目覚めていたのに無視していたような形になってしまい、急に申し訳なくなってきた。


建一「あ、あぁ……すまん。君は?」


由乃「えと、み、峰沢由乃といいます……」


翡翠色の髪をした少女は、ぺこりと頭を下げてくる。


変な緊張感が漂い、釣られて俺まで頭を下げてしまった。


建一「ど、どうも。俺は赤羽建一だ」


由乃「けんっ……あ、い、いえ……その、赤羽君に色々と、お伺いしたいことが」


建一が名乗った時に、一瞬ビクリと身体を震わせた由乃だったが、些細な変化だったため建一は気付かなかった。


建一「あぁ、俺もどういう状況なのかさっぱりだし。色々と教えて貰いたいな」


そうして由乃と情報交換を始めて分かった事だが、ここはB8F~B6Fまで移動する為の管理者用の隠し部屋らしい。


由乃曰く、誘拐犯に言われるがまま俺を助けたのは良かったものの、杉森華僑という警察官が表れて、俺を運んでいた馬が殺されてしまったのだという。


今いる場所は丁度B6Fにあたり、ひとつ下の階層にまで降りれば馬の遺体を見れると言われたが、流石に気が引けた。


杉森という何処かで聞いたような苗字に数刻頭を捻ったが、恐らくクラスメートとの苗字かぶりだろうと自己解決する。


由乃「……それで、赤羽君はいったい、B8Fで誰に拘束されたのでしょう?」


建一「あぁ。それは多分、気を失う直前に会った、あの背の高い男が……」





……ドクン、と心臓が強く脈を打った。


俺は今、"あの男"の顔を脳裏に浮かべ、別の人物と重ね合わせていた。



そう、似ているのだ―――あの神堂拓摩という男に。


しかし、あくまで似ている程度で、同一人物ではないだろう。


そういえば神堂拓摩には、弟がいた筈だが……


建一「……」


俺が急に目眩に襲われて気絶した事。


その後、神堂拓摩という人物の、あまりにも鮮明な夢を見た事……。


これらがただの偶然とは思えなかった。


『神堂拓摩』、彼は実在する人物なのだろうか。


もし存在したとして、何故『俺』がその夢を見た?


訳が分からない、頭の中がごちゃごちゃになりそうだ。


由乃「あ、あの……大丈夫、ですか?」


建一「すまん。ちょっと混乱してて……さっきまで見てた夢のせいかな」


建一の口から出た『夢』というワードに、由乃は即座に反応した。


それは華僑の言っていた『シカバネ』が見るという3つのもの、『漆黒、ノイズ、夢』という単語に該当していたからだった。


由乃「赤羽君は、シカバネアソビという名前に聞き覚えはありますか?」


建一「ん……。確かあいつもそんな事を口にしてたな。この誘拐騒動の計画名みたいだけど、そう言えば夢の中でも……」


いよいよもって建一が見た『夢』が、ただの夢ではない事が明確化されてきた。


その後、建一と由乃は互いの持つシカバネアソビについての情報を交換するが、結局分かった事はあまり無かった。


建一「夢の話が実際にあった事なら、俺達は人体実験の素材で、変な夢を見たのも、急に気を失ったのもそのせいって事になるけど………どうも現実味がないなぁ」


由乃「その『神堂拓摩』という方は実在するのか、確かめられればいいんですけど」


しばらく考えたが、これ以上は憶測が飛び交って変な方向に進んでしまいそうだったため、ここで話を切り替える事にした。


建一「これからどうしようか。これが本当に人体実験なら、正規の方法で脱出しようとするのは賢くないかもしれないぞ」


由乃「これからですか? ……あ」


建一「ん? どうした?」


由乃「あ、わ、わたっ、お、男の人と………ふ、二人きりで、でででで………!」


いきなり顔を真っ赤に紅潮させて口をぱくぱくさせる由乃に、今更何を言っているんだと思ったが、会話中に引き締まっていた気が緩んでしまったのだろう。


観崎には常日頃から女の子には気を使えと言われているし、特に由乃のような大人しそうな子にはそうするべきなのだろう。


建一「抵抗があるなら別行動にしてもいいよ。1人は危ないから、まずは他の同行者を探しに行こうか」


由乃「いや、あの、そういうつもりじゃ………。ただ私、話すの苦手で、しかも異性の方とだなんて、もうずっと緊張しぱなっしで………ごめんなさい」


むしろ今の今まで会話が上手く続いていたのが、普通ではなかったらしい。


建一「いやいや。俺もあんまし人と話したりする方じゃないし、なんとなく分かるよ」


由乃「そ、そうなんですか……。難しいですよね、人と上手く付き合っていくのって」


俺はコミュニケーションを取りたくても取れないのではなく、自ら距離を置いている部類なのだが、それは言わないでおく。


建一「そんな訳だから、無理して話そうとしなくてもいいよ。勿論、なるべく脱出についての意見交換はして欲しいけど」


由乃「はい。お気遣い有り難うございます」


どうやら、俺が気を遣っていたのはバレバレだったようだ。


建一「(さて……これからどうしたもんかな)」


他の生存者とも接触してみたいが、気絶する直前の俺自身がそうであったように『シカバネアソビ』の名前を知っている俺達が、逆に犯人だと疑われてしまったら目も当てられない。


最悪、遭遇してしまったらシカバネアソビについては隠すしか無いだろう。


できれば俺を殺さずに拘束した男か、由乃と俺を助けてくれたという誘拐犯の1人とコンタクトを取り、再度シカバネアソビについて問いたい。


建一「由乃……って、いきなり呼び捨てはまずいか」


由乃「いえ、構いませんよ。なんでしょう?」


建一「とりあえず食料なんとかしないと、空腹でやばい」


腹をさすりながら気だるそうに口にすると、由乃は一瞬きょとんとしてから、くすくすと笑みを溢した。



◆◆◆◆◆◆◆◆



やむなくB6Fで食料を探し始めた建一達は、自身が不利な立場である事を激しく自覚していた。


通常、B7Fを探索して得られるはずの情報が、他の生存者達より明らかに劣っているのだ。


由乃「あの、赤羽君は銃の扱い方は分かりますか? よければ1丁お渡ししますよ」


建一「有り難う。でも俺、そこまで詳しくないんだ」


由乃「えと、ええとですね……! 私、よければ教えますよ!」


ずいっと迫ってくる由乃の気迫に、建一は思わず頷いてしまいそうになるが、あははと笑ってごまかす。


はっと我に返り、今更ながら少し強引だったかもしれないと由乃は反省した。


建一「銃、好きなんだ?」


由乃「は、はいっ! 本物に触れたのは今日が初めてですが、玩具のものでなら昔からずっと練習していて……。銃と聞くだけで悪いイメージを浮かべる方も多いと思いますが、私はこの子達……あ、この子達じゃ分かりにくいですよね。つまり……」


内気だと思っていた由乃が瞳を輝かせてはきはきと話すさまは、ギャップも相まって圧倒されるものがあった。


建一「(そうか、こういう子だっているんだな。分かってはいたけど)」


はっきり言って、俺は銃が好きではない。


だから銃を使う事は極力避けようとするし、銃の話をされると良い気分ではない。


その事を知っているのは幼馴染である観崎くらいだが、彼女も口を滑らせて銃の話をしてしまった時は、気まずそうに話を反らそうとするものだ。


それでも、自分の趣味について楽しそうに話す由乃を見ていて、悪い気はしない。


内気な性格が霞んでしまうほど熱弁できるような趣味、言わば生きる楽しみ。


俺の中にぽっかり抜けたものを、この少女からは強く感じる。


建一「……羨ましいな」


由乃「えっ、何か言いました?」


建一「あぁいや、1つの事にそこまで熱中できるのは凄いなって」


またしてもはははと苦笑する建一に、由乃は首を傾げた。


由乃「ええと……赤羽君には、趣味とか無いんですか? 暇な時にする事とか」


建一「暇な時か、雲とか見てるかな」


天井を見上げて、ここからじゃ見えないかと建一は苦笑する。


由乃「えっ。ほ、他には何も……?」


建一「無いけど……ええと、俺、そこまで変な事言ったかな?」


由乃「い、いえ……」


この時、由乃は自分の隣を歩く赤羽建一という人が、とても危うい存在に思えてならなかった。


趣味が無く、何かをする必要が無ければ、何もせずに空を見上げている。


由乃「(じゃあ、赤羽君はいったい……何を楽しみにして、日常を送っているのだろう?)」


それを直接聞く事が、なぜかとても恐ろしく感じて、由乃は黙り込んでいた。


建一「ご、ごめんな。明るい話のひとつでも出来ればいいんだけど」


由乃「いえ、そんな。無理に話さなくてもいいって、赤羽君が言ってくれたんですよ。私だけ一方的に気を遣って頂いても、なんだか申し訳ないです」


建一「そういうものか」


日頃、気遣い無用の幼馴染としか話していないのを建一は少しばかり後悔した。


それでも、会話が続かないと気まずい雰囲気が漂っている気がして、何か話題は無いかと考えてしまう。


建一「(そういえば、由乃は前髪で右目を隠してるみたいだけど……なんでだろう)」


些細な疑問だったため保留にしていたが、一度気になりはじめてしまうと、止まらなかった。


しかし、好んで前髪を伸ばしているのではなく、片目を隠さなければならない理由があるのだとしたら、気軽に尋ねると余計に気まずくなってしまうだろう。


そういえば……以前も似たような事があった気がするが、このデジャヴはなんだろう?


由乃「赤羽君」


過去の事を思い出そうと頭を捻っていた俺は、由乃の呼び掛けで思考を中断した。


建一「どうした?」


由乃「今、あそこに……」


由乃が指差した先を、一瞬だけ人影が横切った。


それに続いて、機械のようなものが人影を追うように同じ場所を横切る。


それを見て由乃はピンと来たのか、あぁ、と手を打った。


由乃「あれは恐らく、私達と戦わせる為に作られた……シカバネアソビの為の機械です。つまり……」


建一「シカバネアソビの手掛かりが得られる上に、例の俺達を助けてくれたっていう誘拐犯と、連絡が取れるかもしれないって事か!」


2人は顔を見合わせて頷くと、その機械を追うように走り出し―――





―――ダンッ!



続いて聞こえて来た銃声に、期待は焦りに変わった。

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