EP3-012:君臨
――Replay dark Final――
地下世界、下層。
管理塔がハッキングされている間になんとか下層まで到達できたものの、そこで「これ以上は無理そうや」という言葉と共に、周囲の照明もろとも電子機器が全て停止した。
恐らく、現状秋悟に対抗する術を持たない管理者達が、被害を食い止める為に物理的に電力供給を遮断したのだろう。
伸「地下世界下層。話には聞いていたけど……確か、その殆どがトラップ地帯だとか」
一「真っ暗な上にトラップ三昧たぁ。いよいよお頭くらいしか突破できねぇんじゃねぇか?」
拓摩「状況が変わった。電力供給がされていないのなら、殆どのトラップは機能しない」
もしトラップ地獄が健在の場合も全員で突破する案があったのかと榊は苦笑いするが、無駄話をしている余裕は無いため口にはしない。
拓摩「……む」
まだ目が慣れていない榊達は、拓摩がそう声を漏らしたのを聞き逃さなかった。
「……いやはや、本当に脱出してしまうなんて、たまげたね」
伸「誰ですか……?」
「ははは、そんなに警戒しないでくれよ。旅人兼、お使いみたいなもんさ」
一「嘘つけ。こんなクソみてぇな場所で、旅もお使いもあるかよ」
「よく言われるよ。それで、君達が神堂拓摩御一行……で、いいのかな?」
いきなり拓摩の名前を出した自称旅人に、全員が警戒心を剥き出しにする。
拓摩「……お使いと言ったな。何のお使いだ」
「ちょっとした現地調査をね。彼、君の事を血眼になって探していたよ」
拓摩は最初、雷智達の事だろうと考えたが、彼等なら自力で調査に来る筈だと思考を白紙に戻す。
「分からないかい、可哀想にね。……君の、数少ない"肉親"じゃないか」
拓摩「―――」
その時、拓摩がどんな表情を浮かべていたのか、暗闇の中では誰も知る事ができなかった。
7年間に渡って血の滲むような努力を積み重ねて来たのは、拓摩だけではなかったのだ。
拓摩「そうか。あいつは、まだ生きていたか」
「似た者同士、冷たい人だね。それじゃ、『尋ね人はピンピンしてた』と伝えておくよ」
そそくさと声の主は立ち去り、同時に別の足音が近付いて来る。
伸「リーダー、あいつ仲間を呼んだんじゃ……?」
拓摩「……違うな。榊、手を出すなよ」
近付いて来る足音に突っ込もうとしていた榊を静止させると、拓摩は一歩前に出て闇の中に言葉を投げ掛ける。
拓摩「迎えに来るほど、俺が信じられなかったか。……漣」
そう呼ばれた十代後半の年齢である筈の男は、同じく暗闇の中からひゅうと口を鳴らした。
漣「7年前に十数秒顔合わせした程度の僕の気配を、覚えてるもんかな普通」
拓摩「それはお互い様だろう。話を反らすな」
ぷくくと密かに笑う漣の声がした後、ガツンと壁を鈍器で殴ったような音がした。
同時に、拓摩達も身構える。
漣「君はこのまま下層を抜けられるよ、絶対に。この場所で浮遊武器狩りに勤しんでる僕が保証するよ」
拓摩「なら、お前は何をしに来たんだ」
漣「僕は知りたいだけさ。神堂拓摩、君が雷智の見立て通りの奴なのか」
暗闇の向こうから滲み出る威圧感は、拓摩達が地下都市で出会った誰より強かった。
漣「僕は信用されてないから、雷智の目があると邪魔されそうで我慢ならない。だから今! ここで! 殺し合おうよ神堂拓摩ッ!」
一「ここでって……真っ暗じゃねーか! 無茶苦茶言ってんじゃねーよ!」
漣「分かってないな。姿の見えない闇の中の、殺意だけがぶつかり合う純粋な戦い! 次の瞬間には予期せぬ死が訪れるかもしれないスリル! 最ッ高じゃないか!」
まぁ、そりゃあ……と完全に否定できていない榊に、他の仲間達はやれやれと首を横に振った。
拓摩「時間が惜しい。最初の一撃だけにしろ」
漣「それが地上での決闘のルールなのかい、ヌルいなぁ。まぁいいよ、一撃縛りも中々楽しそうだ」
殺戮そのものを楽しむ榊に対して、漣は殺意を交える事を求める殺人鬼のようだ。
一度は拓摩と殺意を交えた事のある仲間達は、この決闘に何処か懐かしいものを感じていた。
闇の中で耳を澄ませていると、ほぼ同時に床を蹴る音が反響した後、空を切る音と打撃音が連続して響く。
伸「ど、どうなった……?」
一「殺意が引いたな。少なくとも、決着はついたらしいぞ」
5人の仲間達が息を飲んで闇の向こう側を見つめる中、言葉を発したのは漣だった。
漣「うげ、効くなぁ。武器は使わずにストレートだなんて、手加減のつもりかい……」
拓摩「当たり前だと言いたい所だが、俺は素手の方が得意だ。加えて、負傷されて足手まといになられては困るからな」
漣「それで自分が骨を折られてちゃ、世話ないでしょう」
うめき声ひとつ漏らさず平然と会話をしていたため、その言葉でようやく拓摩の負傷を知る榊達。
拓摩「俺達をあまり舐めるなよ。ただの一般人である俺達が、地下都市でどれ程の傷を負って来たと思っている」
地下世界で育った者達には生まれ持った強さがあり、先代『神堂』の指導を受けた漣達は、その中でも異質なまでの強さを誇り、故に怪我など1年に1度負うか負わないかだ。
それに比べ、数え切れない傷を負いながら『シカバネアソビ』を生き抜いた拓摩達は、打たれ強さの面では地下世界の住民を凌駕していると言える。
漣「(成程なー、地下世界での"当たり前"の認識が、逆に敗因になったか……)」
それを悟った漣は、やはり楽しげに笑うのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
漣が最初に述べた通り、拓摩達は無事に地下世界中層にまで辿り着く事となった。
無事とは言っても、勿論追い付いて来た地下都市管理者の戦闘員と暗闇のなかで戦う事にはなったのだが、彼等も舞台が中層に移る事で地下世界の環境バランスが崩れる事を恐れたのか、中層まで追っては来なかった。
地上の出身でありながら、並の地下世界民を超える力を得た拓摩達。
秋悟を介して事前に伝えられていた約束の場所へと、7年の時を経て歩みを進める。
拓摩の帰還を信じて疑わなかった"ある人物"が7年の時をかけて作り上げた、完全に独立した新たな地下施設へと。
道中、初めて日の光を見たであろう雫は、放心したように空を見上げていた。
雫程ではないが、もう二度とこの光を浴びる事は無いかもしれないと一度は諦めた仲間達も、無言で空に手を伸ばしたりしていた。
辿り着いた施設の入口で秋悟と合流し、奥に進むと、中で拓摩を待っていた3人は、何処か昔の面影を残して成長していた。
姜「お待ちしておりましたわ。期待以上の器になられたようですわね―――拓摩様」
祭里「ぎゃヒ、ニク、イきてタ。もっト、おいシくなったカ? ……じゅる」
この2人はどれだけ時が過ぎても相変わらずのようで、中身はそのまま身体だけ成長したような印象を受けた。
そして……
雷智「この時をを待ちわびていたぞ、拓摩」
拓摩「7年、随分と待たせてしまったな」
以前は見かけによらず実力があるという印象を受けた雷智も、雷鳴刀の名に恥じない帯刀のよく似合う青年になっていた。
漣「……で、僕達は地上と地下の和解を求める第三勢力として復活する訳だけど。どうやって成し遂げるつもりだい、2代目神堂君」
再開の余韻に浸る4人を無視して、使用武器の鈍器よろしく空気をぶち壊した漣に、その場に居た半数近くがげんなりとするが、間髪入れずに拓摩は答えた。
拓摩「地上側の対応は派閥抑制、具体的には蔵篠、天真、高坂のような家系だ。特に好戦的な天真に至っては、根こそぎ刈り取る事も辞さない。そして地下側、恐らく最大の障害である最下層『地下都市』を葬るべく―――」
―――シカバネアソビに、シカバネアソビをもって対抗する。
◆◆◆◆◆◆◆◆
これが後に、地上と地下の争いに関わる全ての者達を震撼させる事になる、第三勢力『2代目神堂』の発足である。
ここから現在のシカバネアソビに至るまで、あと21年。
長きに渡る闘争の中でも、多くの思惑が交差し、命の灯火が消えてゆく事になる。
その空白の期間を埋めるピースは、また別の機会で語る事になるだろう。
――End:Replay dark




