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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode3~カゲフミアソビ~
88/150

EP3-011:強者進撃



――Replay dark06――



立ち塞がる者を一人残らず、時には切り伏せ、時には撃ち殺し、血飛沫を舞い上がらせながら次々と倒れゆく亡骸達。


恐怖に脅えて命乞いをする敵も、榊が狂ったような笑みを浮かべながら両肩を切り落としていた。


鮮血と銃声と断絶魔がひたすら通路に反響する。


それはもはや、争いを通り越した一方的な殺戮だった。


かつて拓摩を地下都市に追いやった浮遊する銃器達も、今は彼等の猛攻を止めるどころか、銃弾を放つ間も事なく雫と伸によって的確に浮遊パーツを撃ち抜かれる始末だ。


既に『ゲームクリア』の旨を伝えるアナウンスがリピート再生され続けていたが、その指示さえ無視して通路を突き進んでゆく。


クリアと言えば聞こえはいいが、その実態は優秀な人体実験の素材を見つけて、管理者達が舌なめずりをしているようなものなのだ。


一「どいつもこいつも手応え無ぇなぁ! お頭みたく俺を戦慄させてくれる相手はいねェのかよ、あァ!?」


スイッチが入ってしまった榊は、相手が刃物や銃を持っていようが問答無用で突っ込み、切り伏せる。


それに続き、一歩手前から浮遊銃器の類いを始末する伸と雫。


中央の拓摩を挟んで、背後にはライフルを持った男性と、左手にナイフを持った白髪の少女の姿。


いつしか拓摩達の通り道は、血と弾痕と亡骸にまみれた地獄絵図と化していた。



拓摩「―――止まれ」


唐突に、拓摩が全員に静止を呼び掛ける。


一「ンだよ! 今は前がガランガランだぜ、この間にとっとと進めばいいじゃねぇか!」


拓摩「止まれ」


一「……ッチ」


今にも心臓をえぐらんばかりの拓摩の眼光を見て、榊は冷や汗を流しながら踏み出していた足を戻した。


これ以上逆らえば、次の瞬間に自分の命は絶たれてしまうと本能が告げたのだろう。


『邪魔者には一切容赦しない』、それが唯一絶対の拓摩のルールだからだ。


伸「確かに変だね。リーダーが動かなくても良いレベルの戦力なんて、ナメられてるとしか思えない。そして、このタイミングで、目の前の通路がガラ空きになる、と」


雫「人員不足、な訳ない。……誘導された?」


榊の後ろから、伸と雫が前方の通路を睨む。


拓摩「俺が行こう」


一「真っ向から罠に突っ込むたァ、相変わらず無茶苦茶だな」


榊が呆れたように愚痴を溢す中、伸達は心の中で「頭の中が一番無茶苦茶なお前が言うな」と呟いた。


拓摩が十数歩ほど歩みを進めた地点で、丁度榊の立っている場所より先の、全ての通路の床が開いた。


14年前に拓摩を陥れた、落とし穴トラップの強化版。


以前とは違い飛び移る事さえ許さない距離を持つそれは、確実に拓摩を捕獲し、人体実験の素材にする筈だった。


拓摩「くどいな。これはもう見た」


しかし、拓摩は床が開ききる直前に床を蹴り、斜めに跳びながら、側面の壁にぶつかる寸前に、その壁を蹴って落とし穴の外にまで到達した。


伸「アクション映画の主人公並の芸当を、よくもまぁ軽々とこなせるものだね。リーダーって本当に地上の人間なのかい」


雫「地下の人間も、あそこまでのは中々いない」


伸達は驚きながらも、逆に拓摩が榊を従えていた事に納得がいったようだ。


拓摩が落とし穴の向こうで振り返った時、今までアナウンスが流れ続けていたスピーカーがプツッと音を立てて止まる。



『チョット、そういうの困るなぁタクマク~ン』


人間味を帯びた機械音声は、変声器を扱っている運営者のものだろうと、拓摩達は確信した。


『キミがシカバネアソビのコトまで調べちゃってなければ、仕方ないなぁって見逃しちゃうトコなのにさぁ。イヤー参ったね、捕獲できれば一石二鳥だったのに』


そのシカバネアソビという単語に、拓摩を除いた全員の表情が強張る。


それまで、拓摩が述べた人体実験『シカバネアソビ』の話に、誰もが内心半信半疑だった。


しかし、その単語を運営者直々に口走ってくれるのだから、もはや疑う余地は無い。


同時に、それを知ってしまった拓摩達を、管理者達は絶対に生かして返さないだろう。


拓摩「実質クリア不可のゲームを運営する者の言葉など、聞く耳持たん」


『ケラケラケラ! 確かにあれは滑稽だったネぇ。今まで散々人を騙して、殺してきた人達がだよ? ただの"ゲームクリア"の一言で、馬鹿みたいに油断して、ホイホイ罠にかかっちゃうんだから』


この『クリアブラフ手法』に騙され、脱出一歩手前まで登り詰めた全ての者達が、哀れな実験台になってきた……とアナウンスは楽しそうに語った。


今まで散々人の命を奪ってきた6人も、表情に明らかな嫌悪感が滲み出る。


血塗られた『脱出不可』という歴史を塗り替えなければならないと、彼等はそう強く思った。



『パーッと毒ガス舞いちゃえば、終わらせられるんだけどさ。キミタチは、殺すにはす~~っごく惜しい人材なんだ。だから大人しく―――』


拓摩「断る」


言葉を遮った拓摩に、アナウンスはため息をついた。


『……あのさぁタクマク~ン。どうせ死ぬんだから、その身体、有意義に使わせてくれたっていいんじゃない?』


拓摩「ここで死ぬようなら、俺達はその程度の人間だったという事だ。俺達の敗北、それで終わりだ。それこそお前達の言う『人生というゲーム』の無意味な寄り道だ」


榊達の表情に激しい動揺が浮かぶ。


あの神堂拓摩が、そんなに簡単に諦める筈がないと心の底では信じているが、このまま全員殺されてしまうのではないかという不安が拭えない。


『アッソ、キミはもっと物分かりの良い人材だと思ってたんだけど、残念だよ。お仲間と共に散りなよ、タクマク~ン!!』


アナウンス越しに、キーボードを操作する音が聞こえた。


恐らく、毒ガスをぶちまける装置を起動させる命令文を打ち込んでいるのだろう。


5人の仲間達は死を覚悟したのか、それぞれ複雑そうな表情を浮かべている。


彼は今、スピーカー越しに聞こえてくるキーボード音が、死神がピアノを弾いているようなイメージで脳裏に流れ込んでいる事だろう。








拓摩「―――この程度の事で諦めるのか。とんだ見込み違いだな」


返ってきた拓摩からの罵声に、最初は何を言っているのかと首を傾げていた榊達だったが……





『……タクマク~ン。キミ、やってくれたねぇ』


苛立ちを顕にしたアナウンスの声に、何かが起きている事を理解した。


伸「毒ガスが、来ない……? いったい、リーダーは何をしたんだ」


雫「何もしてなかった。でも、たぶんこれは……」








『はじめましてやな、後輩諸君。 鳳秋悟(おおとり しゅうご)様がトリを飾らせて貰うでぇ、オオ"トリ"だけにな、ハハ!』


今までの機械音声とは違うノイズ混じりの肉声が、スピーカーから鳴り響いた。


場違いなハイテンポのBGMまで流れて来るのだから、一気に緊迫した雰囲気も吹っ飛んでしまう。


『ハッキング要員……まだバックに戦力が居たのか』


秋悟『その通りや。地上の輩の見様見真似やけど、地下世界のヌルいセキュリティにゃ、それで充分や』


『その口ぶりだと、キミは地下世界の住人……下層から直接干渉しているようだね。何故地上の技術を知っているのかもそうだけど、実に奇妙だね。連絡でも取ってなければ、このタイミングでなんて……』


拓摩「何か勘違いしているようだが、秋悟はとっくの昔にハッキング自体は成功させていた。連絡を取る機会など星の数ほどあったさ。ただ、今日という日に備えて、細心の注意を払って潜り続けていただけの事」


秋悟『せやせや。タイミング云々は、カメラの映像も横流しにさせてもろたっちゅう訳や。拓摩がシカバネアソビについて知っとったんも、端末の研究データを拝見させてもろたからや』


ペラペラとハッキング内容について自慢げに語る秋悟に、運営者はしばらく絶句していた。


『地上とのネットワークは遮断されているからと、たかをくくったのが甘かったのかな。……本当に惜しいよ、キミタチという人材を逃すのは。だからこっちも、"未来の驚異"を全力で潰させて貰うとするよ』


背後の通路――拓摩達が今まで通って来た道から、これまでの比ではない数の運営者達が現れる。


その一人一人が、榊と互角に渡り合えそうな異質で禍々しい殺気を放っていた。


一「オイオイ、洒落になんねーぞ……」


伸「鳳さん……でしたっけ。ひとまず、退路をなんとかして頂けませんかね」


秋悟『そこは拓摩みたく壁蹴れゆートコやけど、有望な後輩君の頼みならしゃあないなぁ。サービスしといたる』


数秒も経たないうちに落とし穴トラップの穴は全て元に戻り、退路が開かれる。


一「脱出は目と鼻の先だ。さっさと行くぞ!」


銃器を持った4人は背後に可能な限りの銃弾をバラ蒔きながら後退してゆくが、いかんせん相手の数が多すぎる。


伸「残弾数でどうにかなるとは思えませんね、これは」


「ふ……神堂がどう出るのか、見物だな」


伸の意見に、序盤から後衛を任され続けていた男が吹っ切れたような笑みを浮かべる。



拓摩「……全員定位置まで移動したな。秋悟、後は任せたぞ」


秋悟『おう。10分と持たんやろうけど、外部支援担当の役目は全うしたる』


瞬間、敵陣がざわつき始める。


何事かと注意深く観察すると、今まで拓摩達を妨害していた浮遊銃器が、反旗を翻して敵陣を襲っていたのだ。


更に、今まで多くの猛者を地獄に誘い続けた落とし穴トラップが再び起動し、敵陣は拓摩達を追う事が出来なくなる。


よく考えてみれば、当然の事だった。


この地下都市運営塔がハッキングされているという事は、現在、この地下都市全域を支配しているのは他の誰でもない鳳秋悟なのだ。


運営者がアナウンスで暴言すら吐けずにいるのは、秋悟が地下都市全域がパニック状態になるようシステムを弄くり回し、その対応に追われているのだろう。


一「こんな事も出来るのか、ハッキングってのは」


伸「自分達が用意したシステムに苦しめられるなんて、連中は思いもしなかったでしょうね……」


つい先刻まで自分達が同じ立場だっただけに、榊達は少しばかり運営者達に同情した。


雫「置いてきぼりは嫌。早く行く」


雫の声に榊達が振り返ると、拓摩は1人でどんどん先に進んで行っていた。


一「――ホント、俺達のお頭はとことん底が知れねぇな」


伸「全くです」


榊と伸はその背中を見つめながら苦笑し、後を追って走り出した。

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