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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode3~カゲフミアソビ~
86/150

EP3-009:根源



――Replay dark04――



姜達の拠点で仮眠を取った俺は、雷智に案内され、いよいよ下層に向かって移動を初めていた。


途中、何度か原始的欲求による殺し合いを目撃して、改めて地下世界の無法地帯ぶりを思い知らされる。


一度だけ俺達にも襲い掛かろうとした者が居たが、雷智が刀に手を添えたると、それだけで相手はあっさり立ち去って行った。


地下世界の子供だからといって、誰しも雷智達ほどの実力がある訳ではないのだろう。


それこそ、父さんが鍛え上げていたからなのかもしれないが、今は特に興味は無かった。


拓摩「そういえば、姜達は着いてこないのか」


雷智「彼女達にも、生きていく為の狩りのノルマがあるからね。食料を切らしたら一大事だ」


あの2人が狩りをしている光景を思い浮かべて、聞かなければ良かったと後悔した。


いったいどれ程のペースで人が死んで行っているのか検討もつかないが、逆にどうやって人口を増やしているのかも分からない。


拓摩「雷智は、随分暇そうだな」


雷智「酷い言い様だな。僕は情報屋紛いの事をしているから、こうして地下世界の色々な場所を歩き回るのがノルマみたいなものだ」


そういえば、雷智が住んでいる上層は食料を自給自足している人が多いと聞いた。


彼は日頃、目ぼしい情報と食料とを等価交換して貯蔵しているのだろう。


拓摩「俺をこうして連れ回しているのも、情報集めのうちか?」


雷智「最初はそのつもりだったさ。まぁ、今のところは魚一匹貰えるかも怪しい情報の質だけど」


最初からやけに親切な奴だと思っていたが、個人的な稼ぎも含めての事だとなると納得がいった。


やっぱり父さんの仲間とはいえ、無闇に信用していると痛い目を見そうだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆



上層から中層に移動した時と同じように、中層から下層に延びる長い螺旋階段を下りると、雷智はそれ以上先に進もうとはしなかった。


雷智「僕はここまでだ。拓摩や漣と違って、まだ命が惜しいからね」


拓摩「そうか、色々世話になった」


雷智「……拓摩、お前は必ず戻って来る。いつの日か、また会おう」


漣に会ったらよろしく言っておいてくれ、と言い残して雷智は螺旋階段を登って行った。


拓摩「さて……」


地下世界に訪れてから初めて1人になった訳だが、雷智ですら出入りを躊躇する場所だけに、気を抜いたら一瞬で御陀仏すると考えた方が良いだろう。


中層のようにグロテスクなものが散らばっている様子は無く、むしろ人が生活している痕跡が全く見当たらなかった。


食料を得られずに餓え死ぬ可能性はありそうだが、ここの一体なにが危険だというのだろう。


拓摩「(自分の目で確かめてみるしか無いな……)」



◆◆◆◆◆◆◆◆



あれから長時間下層を探索していたが、どの部屋にも人が生活しているような痕跡は見当たらなかった。


何も無さすぎて、それが逆に不気味でもある。


漣という少年は、本当にこんな場所に篭っているのだろうか。


拓摩「まさか雷智の奴、デマ吹き込みやがったんじゃ……」





―――ヴゥーン



耳の近くを通り過ぎた小さな羽音に、思考を中断して振り返ると、ハエのような小さな虫が飛んでいるのを見つけた。


拓摩「……こんな場所で、よく生きていられるもんだな」


中層の遺体をエサに繁殖したものが、下層に迷い込んだのだろうと気にも止めなかった。


しかし、あまりにもしつこく付きまとって来るので、潰してやろうかと虫を凝視したところで、間違いに気付いた。


拓摩「こいつは……」





―――ヴヴヴヴヴヴ!



それは虫なんかじゃなく、機械だった。


照明の光が反射して、キラリと輝いた小さなレンズに危機感を煽られる。


拓摩「(誰かに監視されている……!)」


一刻も早く潰さなければと焦るが、その機械は既に、手の届かない天井近くにまで飛翔していた。


しかも、虫のような機械は1機だけでなく、4、5機ほどが俺を囲うようにグルグルと飛び回っている。


拓摩「……くそ!」


元来た道を引き返そうと走り出すが、しかし―――







ガコン





俺の足元の床が、ぱっくりと口を開けた。


拓摩「な……!?」


咄嗟の事に思考がフリーズしそうになるが、反射的に穴の淵に手を引っ掛ける事で、最悪の事態を回避する。


……が、穴から這い上がろうとした時、眉間に冷たい鉄のようなものが押し付けられた。





拓摩「(……俺は、幻でも見てるのか?)」


俺の眉間に押し付けられたのは、浮遊する銃。


誰に握られている訳でもなく宙に浮くそれは、俺を文字通り見えない何かに襲われている気分にさせた。



『ケラケラケラ、オメデトウ! キミの勇敢な一歩が、ゲームクリアに繋がったよ。人生のゲームクリアにね』


何処からともなく聞こえてくる機械音声に、歯ぎしりをする。



―――認識が甘かった。



俺は中層の有り様から、『危険』という言葉の方向性を勘違いしていた。


考えてみれば、地下世界なんてものを築き上げた者達が居たとして、そいつらに高い建設スキルがある事は間違いない。


ならば、敵対している地上から攻め込まれた時に、迎え撃つ為のトラップを作る事なんて、造作もない。


恐らく『下層』とは、その為だけに作られた対人トラップや兵器の巣窟なのだろう。


雷智達の言うように、こんな場所に籠り続けていれば、否が応でも強くなる。


拓摩「俺のような餓鬼1人葬っても、ほんの少しの肉程度しか得にならないぞ」


苦し紛れに機械に向けて言葉を投げ掛けると、まるで嘲笑うかのように銃がくるくるとリズム良く回った。


『折角クリアさせてあげるのに、何が不服なんだろうね。寄り道しても楽しい事なんて何も無いよ』


返答が返ってきた事に少し驚くが、会話ができる相手ならチャンスはある。


拓摩「やり残した事が、まだ山ほどある。人生のクリアなんて御免だ」


『ヤレヤレ、キミは往生際が悪いね。そこまで言うなら、特別に寄り道用のゲームに混ぜてあげよう』


ガタンと真下から大きな音が響くと、底の見えなかったは穴は、更なる地下へと続く通路に変わっていた。


拓摩「(下層よりも、更に下があるって事なのか……)」


これより先は、雷智からの事前知識が全く無い領域だ。


あわよくば見逃して貰って、一度中層に戻って体制を立て直そうと思っていた為、言われるがまま降りる気になれない。


『オット、迷っているようなら君の要望は呑めないね。ケラケラケラ!』


カチャリと引金が揺れる音が聞こえて、慌てて淵から手を離した。


直後、真上から銃声が聞こえ、一歩間違えば本当に殺されていたのかと冷や汗をかく。


拓摩「……寄り道用のゲームがどうとか、言ってたな」


人生をゲーム呼ばわりする奴の言葉なだけに、どういう解釈をすれば良いのか分からない。


しかし、後戻りもまた許される事はないのだと、塞がってゆく頭上の穴を眺めながら確信した。


拓摩「行ってみれば嫌でも分かる、か……」


ため息をついて、何処に通じているかも分からない通路へと足を踏み出した。


今までもそうだったが、日の光の当たらない地下世界に居ると、時間の感覚が麻痺してくる。


その為、視界に飛び込んで来た『それ』は、明らかな異質さを持っていた。


拓摩「……窓?」


無機質な通路は相変わらずだが、この通路は『窓』が設置されている。


窓からはまるで太陽のような光が射し込んでおり、俺はその光に惹かれるように窓の外を覗いてみた。







拓摩「……は。冗談きついな、これは」


ひとことで言えば、それは街だった。


地中に街がある地点で驚きだが、どういう訳かその街並みは地上のそれと瓜二つなのだ。


窓から見えた太陽の光のようなものは当然紛い物で、巨大な空間の天井に太陽を模した巨大な照明があるだけだった。


ちらほらと人の姿も見え、中には争っている者も居るようだが、双方中層の人間のような荒々しさは感じられない。


無理矢理戦わされているような仕草は、まるで、地上の人間のような………。





拓摩「……成程、こいつが『ゲーム』って訳か」



―――死にたくないのなら、足掻く様を見せてみろ。



そんな意思が、ガラス越しにひしひしと伝わってくる。





拓摩「上等だ」


無法地帯の奥深く、流されるがまま沈むところまで沈んだ地獄で、俺は胸の高鳴りを感じていた。


俺はまだ、始まってすらいない。


この場所から再び地上に這い上がった時、俺はようやくスタート地点に立つ事が出来る。


父さんを消した者達への報復と、その意思を継ぐ事。


地上と地下世界と、双方の偏見を打ち消し、その邪魔をする者には、容赦なく牙を向こう。


この地下都市の管理者達も、改心の余地が無ければいずれ葬ってやる。


こんなものがあるから、いつまで経っても地下世界は理解されないのだ。


拓摩「龍哉。どうも俺は、悪者を演じきるのは難しい性分らしい」


不器用なやりとりを繰り返す、地上と地下世界の全てが気に入らない。



拓摩「……変えてやる」



その為のスタート地点に立つべく、俺は俺自身の人生全てを掛けて、戦おう。


目的を果たした暁には、人生のゲームクリアでも何でもしてやろう。


地上と地下世界の架け橋を作る事こそが、俺の存在価値なのだから。



―――この手を何度汚す事になろうとも、それだけは成し遂げてみせる。

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