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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode3~カゲフミアソビ~
84/150

EP3-007:地下世界



――Replay dark02――



行き場も無く疲れ果て、渇いた反り血を浴びたまま、いつしか俺は深い森の中に足を運んでいた。


木の表面に手をつくと、手の平に木の凹凸が食い込み、渇いた血の上に新たな血の跡を作る。


いったい何度、日が登って沈んでを繰り返したか、回数は覚えていない。


今まで感じた事の無いレベルの空腹と疲労で、もう考え事をしている余裕なんて無かったからだ。


拓摩「食い…物……」


適当にツヤのある雑草をむしり取り、口に運ぶ。


しかし、野菜のような新鮮な味がする訳でもなく、ただの土の味がするだけだった。


拓摩「うぷ……」


流石に不味い……が、我慢して飲み込むしかない。


なんでもいいから腹に入れておかないと、飢え死んでしまいそうだった。





「…………ぁ……」


拓摩「……?」


微かに、誰かの声が聞こえた気がする。


こんな森の中に何日もいたせいで、異様な音に敏感になってしまったのかもしれない。


普段なら危険かもしれないと立ち止まって悩むところだが、疲れが溜まっていた為か、フラフラと勝手に足が進んでいた。


声に向かって歩いているうち、変な匂いが漂ってくる事に気付く。


つい最近嗅いた事のある匂い、母さんを葬った時と同じ……血の匂い。



拓摩「……!」


そこに居たのは、全身傷だらけの大人の男性だった。


着ている服も土と血で汚れていて、今にも倒れてしまいそうな程に衰弱している。


「……ぁ……あぁ…?」


木の影から様子を伺っていると、その男性と目が合った。


俺に気付いた男性は、ニヤリと笑みを浮かべて何かを呟いた。


拓摩「今、なんて……」





「……だぁ……飯だぁ……久々の、新鮮な飯だ……!!」


ユラリと立ち上がった男性に気味悪さを感じ、直ぐに逃げ出そうとするが、信じられないスピードで追い付かれ、腕をがしりと掴まれる。


拓摩「この、離せ……!」


「飯だ……飯だ飯だ飯だ飯だァ!!」


男性のギラついた瞳に睨まれて、ようやく"飯だ"という言葉の意味を理解する。


こいつは、俺を喰らうつもりなのだ。





目の前で大きく口を開く男を、哀れむような瞳で見つめる。


こいつも"母さん同じ"なのか、と理解したとたん、頭の中で何かが切れた。


どいつもこいつも、間違ったまま育って、間違ったまま放置されている。


世の中は、やっぱりどうかしている。


拓摩「……あんたも、被害者か」


ボソッと小さな声で呟き、人差し指に力を込める。


結局父さんの仕事を継ぐことは出来なかったけど、鍛えて来た力は、こういう時の為にあるんだろう。


噛み付かれそうになった瞬間、人差し指を男性の右目に思いきり突き刺した。


「ッあぁああぁぁああアア!?」


顔を両手で押さえながら地面を転がる男を尻目に、俺は先端の尖った木の枝を拾う。


こんなものでも、腹部の柔らかい場所に無理矢理ねじ込めば、貫通させられるだろう。


拓摩「(親だってやれたんだ。見ず知らずの他人を殺す事くらい……なんでもない)」


転がり回る男性の腹を踏みつけて固定し、木の枝を振り下ろそうとした時。





―――音も無く枝が切断されて、真っ二つになった。





「こいつは僕が追っていた人でね。足止めには感謝するが、どうか殺さないで欲しい」


真後ろから聞こえてきた声に振り返ると、いつの間にか俺と同じような背丈の少年が、不釣合いな刀を構えて立っていた。


気配も無く背後に立たれた驚きもあったが、気付けなかったのは疲れていたせいだろうと割り切る事にする。


拓摩「こいつが傷だらけなのは、お前のせいか」


「いかにも。逃走者には容赦しないと、こいつも知っている筈なんだが……な」


会話をしている隙に逃げようとしていた男性の足に、少年は躊躇なく刀の先端を突き刺す。


「がぁあああ……! 嫌だ、嫌だ………戻りたくない! 頼むから見逃してくれ!」


涙を流して抗議する男性に、少年は刀を再度足に突き刺す事で答えた。


拓摩「…なんの目的で、こんな事をしてるんだ」


「聞かない方がいいと思うけど。元の生活に戻れなくなるから」


それが、俺が話を聞いた上で逃げたなら、この男性と同じ扱いを受ける意味だと理解するのに時間はかからなかった。


拓摩「戻るような場所があったら、こんな所になんて来てない」


「君の服に付着した血……あえて聞かないでいたけど、"そういう風"に解釈していいのかい?」


その言葉に頷くと、少年は深いため息をついた。


「僕の名前は雷智、秀岡雷智(ひでおか らいち)だ」


拓摩「俺は……拓摩だ」


家を捨ててきた事を思い出し、苗字を名乗るのは躊躇われた。


聞かれた時は名乗るつもりだったが、雷智は察したのか興味が無いのか、何も聞いて来なかった。


雷智「早速だけど、こいつの事もあるし場所を移そう。君が知りたい事も、説明がしやすくなるだろうし」


雷智は刀を鞘に収めると、倒れている男性の首根っこを掴んで歩き出した。


大人を一人引きずるくらいなら、俺にも出来そうではあるが、まるでローラー付きのトランクを引っ張るかのように男性を引きずる雷智を見ていると、力の差を感じた。



◆◆◆◆◆◆◆◆



雷智に案内されるがまま歩く事数時間、ようやく目的地に着いた。


既にかなりの疲労が溜まっていたが、好奇心の方が勝り表には出さないでおく。


そこは洞窟の入口のようになっていて、奥は暗く先が見えない。


雷智「連れてきたぞ、(れん)


入口近くで待機していた、またしても俺や雷智と大差ない年齢の少年が歩いて来る。


漣「ごくろーさん。長話する気はねーけど、その連れ、誰だ?」


雷智「オモテの人間、悪くないと思ってね。もしかしたら、もしかするかもしれないだろう」


漣「悪足掻きってーんだよそういうのは。じゃあな」


それだけ言葉を交わして、漣と呼ばれた少年は男性を引き取って洞窟の中に去って行く。


雰囲気から察するに、雷智は漣と仲が悪いように感じた。


雷智「……さて、これでようやく落ち着いて話が出来る」


拓摩「この先は、ホームレスの溜まり場か何かか……?」


雷智「そんなちんけな物なら、僕もこんなに苦労しなくて済むんだけど」


どうやら違うらしい。


確かに、ただの溜まり場なら、あんな風に人を武器でいたぶってまで連れ戻すのは異常だ。


なら、ここはいったい………?





雷智「"地下世界"さ」


拓摩「地下、世界……?」


聞き慣れない単語に眉をひそめる。


雷智「誰が決めたのかは知らないが、そう呼ばれているらしい。大規模な地下の巣窟に、僕達のような人が大勢生活している」


拓摩「そんなの聞いたことが無いぞ。そんな場所があったら、少しは有名になってても……」


雷智「地上のお偉いさんは、徹底的に情報を隠蔽しているようだからね。僕達もまたいざこざを起こしたくないから、さっきみたいな脱走者を出さないよう徹底している」


拓摩「……いつから?」


雷智「さぁね。僕はここで生まれて、ここで育ったから分からない」


拓摩「親なら、そういう事も知ってるんじゃないのか」


雷智「正直、僕は親の事はあまり覚えていないのさ。だいたい雷智という名前も、この刀の『雷鳴』という名前から取って周囲が勝手にそう呼び始めたから使っているものだ。それ以前に、僕達は基本的に他人を信用しない。例え親であってもね」


拓摩「…………」


雷智の話は、俺の知っている常識から逸脱しすぎていて、直ぐに信じる事は出来なかった。


しかし、そんな環境で生きているならば、幼いながらに躊躇なく人を刀で傷付けられるのも納得がいく。


本当なのだろうか?


本当に、この先に『地下世界』なんて呼べるような代物があるのか?



雷智「信じられないって顔してるね。確かめてみるかい?」


拓摩「……あぁ」


雷智「もう一度言うけど、二度と戻れないと思った方がいい」


拓摩「構わない」


ポケットから自宅の鍵を取り出して、投げ捨てる。


俺なりに今までの生活との決別を示したつもりだったのだが、雷智は首を傾げていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆



洞窟に足を踏み入れ、光の射し込まない真っ暗な砂利道の下り坂を30分程歩いた頃。


ようやく坂を下り終え、道の先に人工的な光が見えてくるのと同時、道がコンクリート質のものになる。


雷智「ここから先が"それ"だよ。上層の一端に過ぎないけど、その目で確かめるといい」


息を飲んで歩みを進めると、信じられない景色が視界に飛び込んで来た。





拓摩「……!」


それはまさに、地下に作られた巨大な廃墟と言うべきか。


大きなドーム状の空間からは、無数に通路やら扉やらが点在し、電灯も完備されている。


そしてなにより、フードを深く被った人が何人も出歩いているのを見せられては、もう疑う余地も無かった。


拓摩「……こんな場所で、人が生きていけるのか」


雷智「地中でも育てられる穀物に、動物や魚は養殖、水は地下水がある。まぁ、この『上層』に限った話だけど」


拓摩「人を食べたりはしないのか。最初に襲ってきた男は、本気で俺を喰らう気だったぞ」


雷智「彼はもともと『中層』から逃げ出した人だからね。あそこは自炊や取引が難しいから、そういうのは日常茶飯事だ」


拓摩「中層でそんな環境なら、それより下は……」


雷智「僕も良くは知らない。余程死なない自信がある奴か、死にたがりな奴じゃない限りは縁が無い場所だよ。漣は頻繁に出入りしてるらしいけど」


雷智は、それが当たり前だと言わんばかりの口調だった。


拓摩「はっ……こんなの、どうかしている」


雷智「僕達からしてみれば、君達こそ『自分以外の他人を信用できる』なんて、どうかしてるっていうのが常識なんだよ」


拓摩「そうか、ははっ……こりゃあ傑作だ、最高じゃないか。あははハハハハハ!!」


俺は声を大にして笑った。


あまりに衝撃的で、けれど俺の求めていたもの。


典型的な『間違った人間が育つ環境』が、まさに目前に広がっていた。


拓摩「雷智っつったか。いいよ、気に入ったよ! 俺はこういう場所を探してたのさ!!」


雷智「……こいつはたまげたな。怖じ気付いて引き返そうものなら、切り捨てるつもりだったが」


呆れ顔で見つめてくる雷智だったが、気にせずに笑い狂った。


拓摩「俺を喰らおうとしたアイツみたいなのが、この下にはわんさか居るんだろう! なら、俺はここに居なきゃならない。ここで、この地下世界という地獄で生きて行く!」


雷智「(まったく、とんでもないのを連れて来てしまったな。……じゃあ、ちょっとは期待させて貰うとするよ)」


微かに笑みを浮かべると、雷智は拓摩を更に奥へと案内し始める。





拓摩「ははは……はぁ……はぁ。今度は、何処に案内してくれるっていうんだ?」


雷智「君が行きたくて仕方なさそうにしている『中層』さ。そこに居る、ある人達を君に紹介してあげようと思ってね」



◆◆◆◆◆◆◆◆



―――地下世界、中層。


血生臭い争いの絶えない地獄の中、2人の少女が骨の散らばった道を歩いている。


そのうちの1人が立ち止まり、天井を見上げる。


「あら……どうかしたの?」







「ぎゃヒ……にオイ、オモテのニク。食いタいナァ……ジュル」


もう1人が問い掛けると、少女は涎を垂らしながらニヤリと口の端を釣り上げた。

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