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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode3~カゲフミアソビ~
82/150

EP3-005:Plan corpse

由乃が自らの銃を撃ち落とした事に、特に驚く訳でも無く、関心したような表情を浮かべる華僑。


華僑「小娘……そいつを何処で教わった?」


由乃「貴方に教える必要はありません。降伏して頂ければ話は別ですが」


華僑「……生憎アタシは"敗北"の二文字が嫌いでね。お断り、だ!」


腰の鉄製の警棒を手に取り、由乃に向かって駆け出す華僑。


飛び道具に対して『接近戦を挑んで来る訳が無い』という思考が、一瞬だけ由乃の判断を鈍らせる。


それでもトリガーを引く余裕は充分にあり、由乃は華僑の右肩に照準を合わせて発砲した。


ところが華僑は、最初から由乃がどういった行動を取るか把握していたような読みで、直前に上半身を反らせて銃弾をかわす。


何が起きたのか分からず硬直する由乃に対し、華僑は瞬く間に距離を詰める。


華僑「……ッラァ!」


由乃「かはっ――!?」


その勢いが保たれたまま繰り出された突きを、もろに腹部で受け、うずくまる由乃。


華僑「オラオラ、もう形勢逆転しちまったよ。何処で教わったのか知らねぇが、隆鉄ならアンタのようなミスはしねぇ」


由乃「な………ん…で、師匠の………名前…っ」


華僑「チッ、ホントに隆鉄の野郎の教え子かよ。見様見真似のクズなら、二度とナメた真似できねぇよう両手を切り落としてやったものを………」


そう吐き捨て、馬に視線を送る華僑。


華僑「オイ獣、なんで隆鉄の教え子がここに居る。別にアイツは裏切っちゃいねぇだろう」


『………メンバーの選別に関しては、私は何も聞いていません』


華僑「そうかよ」


そして、何の迷いも無く馬の頭部にあるゴーグル状の機械を警棒で叩き壊した。


脳にまでダメージが届いたのか、あるいはゴーグル状の機械の仕様なのか、それだけで馬の身体は力無く横たわった。


由乃「そ……そんな………」


人間ではないけれど、この子もまた護ると決めた者だった。


私の力が、警官さんより劣っていたから、"また"護れなかったんだ。


由乃「なんで、こんなっ………こんな事が出来るんですか!? 生きていたんですよ、今の今まで!」


華僑「そりゃあ、アンタが心底護りたそうにしてたからさ」


警官さんの言葉の意味が、私には分からなかった。


私が護りたそうにしていたから、殺した?


それじゃあまるで、私が悪いみたいじゃないですか……!!


華僑「分からねぇか? 心配せずとも直ぐに分かるさ。アンタもいずれ、そこの小僧と同じように"シカバネ"になるんだからな」


由乃「え……?」


確か、スピーカーを通して『シカバネアソビ』というワードを少女は口にしていた。


この警官さんは、そこで気絶している少年が『シカバネ』だという。


脈も体温も異常は無かった、少年は死んでなんかいない筈だ。


分からない、知りたい。


この人が答えを知っているというのなら、今すぐ教えて欲しい。


由乃「なんなんですか。"シカバネアソビ"って………なんなんですか!?」


華僑「……ははん、名前くらいは知ってたか」


ニヤリと笑みを浮かべ、警官さんは警棒の先端で気絶した少年を指す。


華僑「アンタは隆鉄の弟子って事で、ひとつサービスしといてやる。夢を見るのは共鳴、ノイズや黒く染まるのは侵食の証だ。忘れんなよ、このゲームに負けたくねぇならな」


そう言い残すなり、警官さんは私に背を向けてB6Fに引き返していく。


由乃「ま、待って……」


華僑「獣がどう動いたのか確認できたし、ここに居座る理由はねぇ。せいぜい生き延びてもっかいケンカ吹っ掛けに来いや、いつでも相手してやるよ」


振り返った警官さんは挑発的な笑みを浮かべて、一瞬だけ気絶している少年を流し見ると、今度こそ私の前から姿を消した。


由乃「……っ!」


護ると決めた者の命を奪われ、アドバイスまでされてしまった。


悔しさに下唇を噛み、一度だけ聞いた警官さんの名前を思い出す。





―――杉森華僑。



そう、杉森華僑、私の"敵"。


彼女の口振りからして、スピーカーの向こう側の少女は、ちゃんと生きている。


杉森さんの目的は分からないが、ここから生きて帰る為には必ず戦う事になるだろう。


今度こそ………今度こそ絶対に負ける訳にはいかない。



◆◆◆◆◆◆◆◆



深いため息をついて、モニタールームの机に突っ伏す。


泣きたくなるような衝動を抑えて、少しでも冷静になろうと深呼吸を繰り返す。


「杉森華僑……もう、あそこまで降りていたなんて」


私の読みが甘かったばかりに、大切な仲間を、私が招いた外部者に殺されてしまった。


仲間、すなわちビースト。



この施設を徘徊する『黒犬タイプ』のビーストには自我が無く、システムの命令に忠実に動く生物兵器、いわゆるビーストシステムの完成形だ。


しかし、完成した黒犬タイプを除く全てのビーストには自我がある。


システムの命令通りに動かない、ビーストシステムの失敗作達……そのうちの1匹が私だ。


たった今殺されたホースビーストは、私と同じように自我を残した個体のビーストだった。


自我を残したビースト同士は、ビーストシステムを通じて意思を通わせる事ができる。


故に、あの子が杉森華僑に遭遇した時に、死を覚悟していた事も知っていた。


それと、もうひとつ……





「ホース……私に、主と貴方の意思とを選べというんですか………」





―――『峰沢由乃の力になりたい』



ホースはそう強く思いながら、この世を去った。


故に私は葛藤する。


『主の命令は絶対』―――それは私がビーストとして目覚めた時から、ただの一度も破った事の無い制約。


それはあの子も……ホースも同じ筈なのに、それでもあの子は『力になりたい』と望んだ。


最後の最後に、私には決して出来ないであろう選択をしたのだ。


「主………私は、どうしたら」


主がただ一言『気にするな』と言ってくれれば、それで諦めがつく………だって主の命令なのだから。


主に忠誠を誓って生きて来た私は、一人じゃ何も決められない。


「ホース……貴方には、どうしてそんな選択が出来たのですか……」


プレイヤーに加担するなんて、主を裏切るようなものだ。


主無しには生きられない貴方が、何故………。





「……どちらを選ぶにしても、問題は山積み。今は時間が惜しい」


こうやって私は、結局選択を保留にして逃げるのだ。


杉森華僑の排除、それが終わるまでに………





お願いですから、帰って来て、私はどうするべきなのか教えて下さい、主………。



◆◆◆◆◆◆◆◆



B8F~B7Fの正規の階段の中腹で、龍哉は立ち尽くしていた。


彼は気絶した建一を武器管理室で拘束する事で、他者が干渉する事の出来ない付け焼き刃の保護をしていた。


ほとぼりが冷めてから開放するつもりだったのだが、B7Fで行動していた時、廊下に濡れた足跡のようなものを見つける。


頭の回る龍哉が、その足跡から『下の階層が浸水し始めている』と理解するのに、時間はかからなかった。


龍哉「奴等は、もはや一時間以内の死体回収など出来はしない……あの少年が"そう"だとしたら、全てが終わりだ」


既に水位はB8Fの3分の1にまで達しており、今から武器管理室に向かっても間に合わないのは明らか。


監視役のビーストが、由乃を使って救出を行なった事を知らない龍哉は、未練がましくB8Fを見つめていたが、数刻も経たないうちに踵を返して歩き出す。


龍哉「(確率は10分の1だ。ここはハズレである事を願うしかない……)」


それに、確かめなければならない事も出てきた。


この施設には必ず監視役が一人は居る筈だが、施設そのものが浸水するという最悪の事態を自ら招いたとは考え難い。


つまりは、生存者でも奴等でもない、第三者が介入した可能性が濃厚だ。


龍哉「(そいつの正体を確かめるか……いや)」


このまま死人が出続ければ、死体回収システムでプレイヤーは全て水中に放り出される。


それでは駄目だ、俺の目的が達成される可能性が一気に下がる。


龍哉「くそ……っ、俺は、俺はただ………」


あまりにも事が思い通りに進まず、壁に拳を突き立てる。


このシカバネアソビの存在を知れたのも、こうしてプレイヤーとして潜り込む事が出来たのも、奇跡に等しい。


それほどに道は険しく、何度も嵐の中で綱渡りするような狭い道を渡ってきた。


あまりにもちっぽけな目的の為に、多くの時間を投げ捨てた。


龍哉「お前は……今、何処に居るんだ………」


再び会って、聞きたい事、確かめたい事があった。


ただひとつの質問を投げ掛けるのに、何故これ程までに険しい道を進まなければならないのだろう。





龍哉「…………理不尽さを嘆いている場合ではない、か」


なんとか落ち着きを取り戻し、ため息をつく。


まだ、嘆くには早い。


可能性がゼロになる瞬間まで、俺は機械のような無情さを貫き、目的の為の最善の手段を選ぶ必要がある。


だから、まだだ。





龍哉「―――待っていろ、拓摩(たくま)。俺は必ず、お前に辿り着く」


全ての事柄の中心にある者の名を呟くと、龍哉は何事も無かったような無表情の仮面を再び被り、B8Fに背を向けた。



………


……




――シカバネアソビ――


それは10と2つのシカバネと悪魔による、残酷な遊び。


シカバネとなった者が見る世界は、夢か、ノイズか、或いは漆黒か。


夢を見るのはは共鳴の証。


ノイズと漆黒は侵食の証。


B7Fに到達した現在、ただ一人だけシカバネと化した人物、赤羽建一。


彼以外の11人は、まだ始まってすらいない。


真にシカバネアソビの舞台へと、足を踏み入れてしまった彼が手にするのは……



………


……




視界は右と左の真っ二つに割れ、右目は絶望の黒、左目はノイズを視界いっぱいに映し出す。


それが本来"この場所で"起こるべき光景では無いことを、朧気な意識の中で理解していた。


建一「(……なんだ、ここは)」


辺りを見渡そうにも、実体が無いのか視線は固定されたまま動かない。


目の前に広がるのは頭がおかしくなりそうな景色なのに、何故か懐かしさを感じる。


建一「(初めて来た場所じゃ、ないのかもな……)」


なんとなく、自分が何故こんな状態にあるのかは分かっていた。


役割を失った事による、極度のショック。


常に生きる意味を探している俺にとって、折角見出だした役割そのものを他者に奪われたのは、俺の存在する意味は無いと証明されたようで精神的にこたえた。


我ながらなんという脆さだろう。


建一「(こっちの真っ黒に塗り潰されたような視界は、そのせいだな)」


だとして、ノイズのようなもう半分の視界は何を意味しているのだろう。


建一「(……なんだ? ノイズの向こうに、誰かがいるような)」


それを理解した途端、手の感触のようなものだけが蘇る。


俺とよく似たイメージを放つノイズの中に、手を伸ばすようなイメージをする。


建一「(……ッ!?)」


何かに触れたと思ったその瞬間、ノイズのようなものがもう半分の黒の視界を包み込み、そのまま混ざり会って消えてしまった。





………


……






夢、シカバネは夢を見る。


10と2つの夢、10と2つの物語。


彼等が見るのは真実の夢、赤羽建一はそのうちのひとつを見る事になる。









―――Start:Replay dark


これから始まるは、10と2つの全てが交差した物語の『起源』

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