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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode3~カゲフミアソビ~
81/150

EP3-004:Be flooded

アジャスターが破壊され、B7Fへの道が解放されてから早くも2時間半が経過していた。


全ての生存者は目を覚まし、その半数以上がB7Fの探索を開始している。


そんな中、由乃は地図を手に入れてたのは良いものの、階段とは別の部屋を目指すあまり遅れを取っていた。


由乃「……えっと、ここがこうなって」


由乃は地図を表示させた携帯を回しながら、自分の向かう方向と照らし合わせる。


由乃「武器管理室は……あっちですね」


そう、彼女が目指すは『武器管理室』。


この施設内で武装する手段といえば、


料理室のナイフ


アジャスターのブレード(レプリカも含む)とライフル


武器管理室


通常部屋に隠されたボーナスアイテム


の4つのみで、アジャスターが1機しか存在しないB8Fで銃器を得られれば、それだけで大きなアドバンテージとなる。


故にB8Fの武器管理室は階段から遠く、普通ならば偶然通り掛からない限り使用する者はいない。


しかし銃に固執する由乃は、敢えて武器管理室の場所が分かっているB8Fで銃を探す事にしたのだ。


由乃「……! あ、あれですね!」


ようやく目的の武器管理室のプレートを見つけた由乃の表情は、パアッと明るくなった。



◆◆◆◆◆◆◆◆



『待って下さい! そんな事をしては、死体回収システムが無意味なものになってしまいます!』


本来は死体回収のメッセージ音声を流すスピーカーから、モニタールームの少女の声が響く。


「るっせーなぁ。ビーストシステムの出来損ないがアタシに意見すんじゃねぇよ」


『もう一度言いますが、これは主の言葉を借りた警告です。計画の妨害をする"邪魔者"は、始末して構わないと指示されています』


「アタシが頼まれたのは『龍哉の始末』だけだよクソケモノが! アンタは方法に規制をかけなかった! アタシはそれを引き受けた! 誰にもアタシを止められねぇよ!!」


そう言い放つと、女性は目の前にある大型のレバーを片っ端から下ろし、あらかじめ用意していた鈍器で、元に戻せぬよう全てのレバーをへし折った。


『私はどうやら………事態を収拾どころか悪化させてしまう選択をしてしまったようですね』


スピーカー越しでも伝わる程に、少女は動揺していた。


「この程度で全滅しちまう奴等なら紛い物さ。まぁ、運悪く死んじまう奴もいるかもしれないが……お前が服従している"主"さんはどうかなァ?」


『…………これより私は、仮管理者権限を用いて貴女を……杉森華僑(すぎもり かきょう)を全力で排除する事を宣言します』


乾いた声で少女は呟き、それきりスピーカーから声は聞こえなくなった。


華僑「おー怖い怖い、こりゃアタシも無事に帰れるか分からんね。けど、チャンスは一度きりでないとチャンスって言わねぇよなァ?」


この計画の発案者の姿を思い浮かべて、華僑はほくそ笑む。





華僑「さぁ、アタシに奇跡を見せてくれ……! "お前"に不可能は無いって事を、証明してみせろ!!」


元より華僑は、龍哉を始末する気など欠片も持ち合わせていなかった。


ただ、生存者をより追い詰める機会を得て、"ある人物"が現れるのを心待ちにしていた。


龍哉も華僑も、モニタールームの少女もまた、その人物を待ち望んでいる。


そこに居て、そこに居ない筈の人物を探し求めている。



闇のベールに包まれたままの筈だった『シカバネアソビ』の正体が、明るみに出ようとしていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆



ドアノブを何度引っ張っても、待ち望んだ扉が開く事は無かった。


由乃「うう……開錠条件は『中に人が居ない事』だけの筈なのに、なんで開かないんでしょう」


呼び掛けても、耳を済ませても、中から人の気配はしない。


由乃「……仕方ありません、ね。素直に上の階を目指しましょう」


肩を落として立ち去ろうとする由乃だが、何かに気付いて立ち止まる。



音。


遠くて小さな音。


小さな、水の音。


由乃「……水? でも、今までこんな音は……」


そう考えた次の瞬間、通路の向こう側から勢い良く流れてきた水で足元が浸る。


不安になって階段に向かって急ごうとするが、目の前に一匹の馬が現れて、行く手を遮った。


由乃「なっ、う……馬!?」


『プレイヤー"峰沢由乃"、これより貴女には私の指示に従って頂きます。そこから階段を目指しても、バイクでも使わない限り間に合いません。選択肢は無いと思って下さい』


いきなり馬が喋ったのかと思って驚く由乃だったが、注意深く観察すると、馬の頭に取り付けられたゴーグル状の機械から少女の声が再生されていた。


"プレイヤー"と呼ばれた事で、スピーカーの向こう側にいるのは誘拐犯側の人間なのだと理解する。


由乃「わ……私を助けて、何をさせるつもりですか」


『時間がありません、黙って指示に従いなさい。直ぐそこの武器管理室で、B8Fに取り残されたもう1人が気絶しています』


由乃「……!」


武器管理室の扉は、その"取り残された人物"が居たから開かなかったのか、と納得する。


『その子に不探知領域ギミックを持たせました。使用する事で、周囲の人物反応を消し、一時的に開錠を可能とします』


馬の首からぶら下がっていたポーチから機械と説明文メモを取り出し、読み上げた。



『不探知領域:使用者から半径10m以内に対する電子機器による干渉を無効化する。事前に秒数を指定する必要があり、指定しない場合は処理を受け付けない。

ステータス消費:1秒あたり3』


由乃「……私、ステータスなんて心当たりがありませんよ」


『こちらがギミックを用意したからには、対策済みです。苦肉の策ですが、こちらで貴女のステータスを24に上書きしました』


由乃「確かに、8秒もあれば扉は開けられますけど………仕方ないですね。貴女の事はまだ信じられませんが、目の前に護れる命があると聞いては、躊躇していられません」


『……では、始めて下さい』


由乃が「8」の数値を入れてギミックを作動させると、ピピピピピという電子音と共に扉のロックが外れる音がした。


由乃「お、重……っ!」


外開きの扉は水圧で通常よりも重く、なんだかんだ時間内ぎりぎりで扉を開く事ができた。


武器管理室に入り、武器の陳列された棚に縄で結びつけられた少年を見つける。


年は私と同じ位で、どうやら気を失っているようだった。


何者かが彼を、外部からの救出が困難なこの部屋で拘束したのだろう。


由乃「だ、大丈夫ですか……!?」


呼び掛けても、少年が目を覚ます様子は無い。


まずは縄を切ろうと考え、陳列された武器の中から大柄のナイフを手に取り、切断を試みた。


しかし、映画や小説のように上手く切る事が出来ず、焦りが表情にも出てくる。


由乃「(これじゃあ時間がかかりすぎる。他に何か………)」


諦めてナイフを棚に戻し、別の武器を探し始めたところで、私の瞳がハンドガンを捉えた。


何の迷いも無くハンドガンを3,4丁と銃弾を確保し、そのうち1丁の安全装置を外す。


そして、先程棚に戻したナイフの柄を狙ってトリガーを引いた。


耳が痛くなるような破裂音と共に、ナイフが宙を舞って部屋の片隅に転がっていく。


由乃「(少し狙いがずれた……やっぱりホンモノは反動が違う)」


しかし、今はこれ以上練習している暇は無い。


両手でハンドガンを構え、先程ナイフで少しだけ傷付けた部分に照準を合わせる。


ミスをすれば最悪少年の命を奪ってしまうというプレッシャーに、少しだけ手汗が滲み出る。


―――この子は私の相棒、私が望んだ力。そうですよね、師匠?


深呼吸をして、人差し指の力を抜く。


由乃「……っ!」


そして私は、トリガーを引いた。



◆◆◆◆◆◆◆◆



縄を銃弾で傷つけてから、再びナイフを使って切断したのち、私はなんとか気を失った少年を馬の背中に乗せる事に成功する。


そのまま後をついてくるように指示されて、ちゃぷちゃぷと音を立てながら馬の隣を早足で歩いていた。


階段とは別方向に向かっているようだが、きっと何か考えがあるのだろう。


由乃「貴女は何者なんですか。なんで、私達をこんな所に……」


『―――』


由乃「誘拐されて五体満足なのもそうですけれど、こうやって助けてくれたという事は、私達の命を狙っている訳じゃ無いんですよね?」


『―――』


反応が無い、息遣いさえ聞こえてこないのは、会話時以外はスピーカーの電源をオフにしているからなのだろう。


正直、こうやって私達を助けてくれた人を信用したい。


彼女の声を聞くまで、私は得体の知れない誘拐犯の存在に恐怖していた。


けれど、今はもう知りたくて仕方がない。


彼女が何故こんな事をしているのか、私達をどうしたいのか。





『"シカバネアソビ"です』


由乃「え……?」


『―――』


だだ一言発したきり、彼女は再び口を閉ざした。


由乃「(どういう事なんでしょう。シカバネアソビって言葉……きっと重要な単語のはず)」


文字通りの意味なら、それこそ私達が死ぬ事に意味がある気がする。


それなら多分、この解釈は違う。


由乃「(なら、"シカバネ"というのはどういう状態の事を指しているのでしょう……?)」


その先に答えがありそうな気がするが、この単語だけでは結論に辿り着けそうに無かった。


私が考え事をしているうちに目的地に達したらしく、馬が立ち止まる。


しかし目の前にあるのは、ただの通路の壁だった。


由乃「行き止まり……?」


『私は、貴女が頭脳派だと認識していましたが?』


敢えて答えを言わない辺り、時間にはまだ余裕があるのだろう。


思考を巡らせ、この施設を知り尽くしている筈の彼女が、私を通路の行き止まりに連れてきた訳を考える。


由乃「まさか、ここは貴女達が使っている管理者専用の通路……」


『まぁ、当たらずしも遠からずです。壁の一部がスイッチになっています』


壁を見つめ直すと、確かにほんの少しだが不自然に凹んだ場所を見つける。


その部分を手で押し込むと、目の前の壁が音を立ててせり上がっていった。


その先を進んでいくと学校の教室程度の大きさの部屋に辿り着き、奥には階段が見えた。


『ここからはB7F及びB6Fに移動する事が可能です。自由に使って構いません』


由乃「ど、どうも有り難うございます」


そう口にしてから、わざわざ誘拐犯の人に感謝する必要は無いのではないかという事に気付く。


階段を上り、B7Fに辿り着いた所で馬が体制を低くしたので、それが合図だと解釈して少年を馬の背中から降ろし、壁によりかからせた。


『B6Fも含め、隠し部屋の出入口も同じくスイッチ式です。それと、私の存在は他言無用で……ッ!?』


スピーカー越しに伝わって来る大きな動揺、焦り。


その理由を尋ねる前に、B6Fへの階段から降りてくる何者かの存在に気付いた。





華僑「おーおーなんだ。ゲームへの干渉はしねぇんじゃなかったのか、獣の糞娘よォ!」


由乃「(け、警察の人……!?)」


目の前に現れたのは、警察官の服装をした30代後半くらいの女性だった。


『杉森華僑……っ』


警戒するような少女の声と共に、馬も警戒したように牙を剥く。


離れた場所に居る筈なのに、動物がスピーカー越しに彼女の気持ちを読み取ったように見えた。


確かに、彼女は拉致監禁に加担しているのだから、警察官を警戒するのは当然だろう。


私は警察が来てくれた事に喜ぶべきなのに、胸の奥底がざわめく。


それは単に荒っぽい言動だからでも、ゲームの事を知っていたからでもない。


華僑「嬢ちゃん、そこをどきな」


警察の人は、リボルバー式の拳銃を馬の頭部に向けて構える。


由乃「………」


華僑「おい、死にてぇのか」


私は振り返り、馬の背中を優しく撫でる。


由乃「よしよし」


『な……何を』


私の行動が予想外だったのか、彼女は困惑しているようだ。


由乃「ごめんなさい、警察のお姉さん。私はこの子と、この子を通じて話した彼女を信じたいんです」


華僑「……邪魔するってんなら容赦なく撃つぞ、それでもか?」


由乃「はい、それでもです」


自分の意思を決して曲げないという意味を込めて、警察の人に微笑みかける。


華僑「ハッ、どうやらアンタも少なからず狂ってるらしいね。そんじゃご要望通り、アンタから始末して……」





―――バンッ!



瞬間、華僑の手に握られたリボルバーが弾き飛ばされた。





由乃「そう簡単にはやらせませんよ。警官さん」


銃を手にした由乃の瞳は、別人のように鋭く華僑を睨み付けていた。

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