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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode2~トリカゴアソビ~
76/150

EP2-042:永久の償い

私と"彼女"との関係について語るには、9年と数ヶ月ほど時を遡る必要がある。


10年前、私が小学校低学年の頃に巻き込まれた、誘拐事件の直後。


あまりの出来事に、両親さえも疑心暗鬼の対象となった私が、家を飛び出したその後の出来事。



誘拐騒動の賞金と思われる大金を使って、食べて、寝て、食べて、寝て、食べて、寝て………。


私と似たような宿無しの立場の人達について、公共のパソコンで調べ、基本はその生活方法を真似た。


交番や隠しカメラがある場所では、帽子を深くかぶって顔が分からないようにした。



―――恐かった。



捕まるのも、襲われるのも、全部いやだった。


こうしている間にも、私の罪が明るみに出ていて、誰かが私を捕まえようとしているのではないか。


雅と名乗った人のように、私をいたぶろうとしているのではないか。


視界に映る『他人』は、全て『敵』に見えた。



情報が必要だ。


世の中について知っておく事もまた、危険を事前に回避する事に繋がる。


公共のPCをずっと使っていたら、施設の人に目をつけられたので、新聞の資源ごみも平気で漁った。


とにかく、見えない何かから逃げ続けるように生きていた。


そこまでして生き永らえる必要があるのかと考えた事もあったが、その度『私は一人を殺して生き永らえたのだから』と言い聞かせていた。


正直、この時にはもう『人を殺すくらいなら、自分が死ねば良かったのかもしれない』と思っていた。


そんな私に訪れた、人生を変える出会い―――





飛鳥「(おかね。おろしにいかなきゃ)」


手持ちのお金が尽きたので、賞金を下ろしに向かう。


お金を引き出す時は、いつもの数倍神経が過敏になる。


もし、運悪くスリに合ってしまったら、そこで私は生活できなくなってしまうのだから。


お金を引き出し、変な事件に巻き込まれないうちに退散。


しようとした時だった。



飛鳥「……っ!」


出入口で人とぶつかってしまい、鞄に仕舞おうとしていた札が辺りに散らばる。


「クソガキが、何処見て歩いてやがる」


ぶつかった相手は、柄の悪い大人の女性だった。


私は慌てて札を拾い集めながら、ごめんなさいと謝罪をする。


飛鳥「(からまれないうちに、早く………早くひろって、逃げないと)」


しかし、枚数を確認すると、1枚足りなかった。


1枚で1週間以上は生活できるのだから、無くして帰る訳にはいかない。


「おい、クソガキ。探してんのはコレか?」


目の前にヒラヒラと、最後の1枚を見せつけられる。


手を伸ばすと、女性は私の手の届かない位置にまで札を上げて笑みを浮かべる。


「これは、ガキが持つには些か多ずぎる額だな。親に頼まれたにしろ、子供に任せられる額でもねぇ」


飛鳥「…か、かえして、ください」


私の両足は、ガタガタと震えていた。


「一見普通の小学生のようで、よく見ると不衛生が目立つ。アンタ、虐待でもされてんのか」


飛鳥「親は、かんけいない………」


「ま、原因がテメェ自身なのは一目瞭然か」


女性は私の耳元に顔を近付けて、小さく呟いた。





―――テメェ、人殺しの目付きをしてるぜ。



瞬間、私は逃げ出していた。


飛鳥「(ばれてる、捕まるっ。嫌だ、嫌だ、嫌だ………!)」


逃げて、逃げて、逃げて………つけられていない事を確認すると、その時居座っていたテナントの入ってないビルの三階に帰ってきた。


飛鳥「はぁっ、はぁっ………」





「ははーん。ガキの一人暮らしにしちゃ、良い物件に住んでんじゃねーか」


飛鳥「ひぃっ!?」


振り切ったと思っていた女性の声が真横から聞こえて、思わず腰を抜かす。


「アタシを振り切ろうなんざ、20年はええよ。そこまでして家出するくらいなら、さっさと家に帰りな」


飛鳥「い、嫌だっ」


「………あ?」


飛鳥「私は、誰も信じない。貴女も、お父さんも、お母さんも―――!」


鞄の中から、護身用のナイフとスタンガンを取り出して、両手にそれぞれ構える。


「いっちょまえに武器なんか持ちやがって。そんなに他人が信じられないなら、アタシと取引しようじゃないか」


飛鳥「と……取引?」


「そ、宿がねぇならウチを使いな……どうせ殆ど帰らねぇし。見たところ学校にも行ってねぇらしいが、戸籍諸々、誤魔化すのが面倒な作業はアタシがやっといてやる」


飛鳥「なっ……そ、そんなの私の得でしかない、罠に決まってる!」


「最後まで聞けよ。見返りといっちゃなんだが、一ヶ月ほど、アタシの『娘』になってみねぇか」


飛鳥「は、はァ!?」


「実を言うとアタシにもガキはいたんだが、母親に似たのかグレて家出しちまってな。テメェみたいな家出娘に面影を重ねるなってのが無理な話だろ?」


飛鳥「ひぃっ、嫌よ! 通報するわよ!」


「へェ? だったらアタシも殺されかけたって通報しちまおっかなーハイパシャッと証拠写真ゲッツ」


飛鳥「ぐすっ………もう嫌ぁ…」





そんなこんなで、彼女は一ヶ月ほど私の母親になって………


といっても、家事や料理の仕方を教わったりと、今思い返してみると、やっぱり全てが私の都合のいい事ばかりだった。


その彼女は、きっちり一ヶ月で私の前から姿を消し、私は家を預かったまま二度と会う事はなかった。



………


……





その彼女の胸の中で、私は今、涙を流している。


「ったく、すっかり素直になっちまったな」


飛鳥「うるさいわよ。貴女こそ、今まで何処で何してたのよっ」


「んまぁ、女のヒミツってやつ? ……って、似合わねぇか。ハハハ!」


飛鳥「……そうね、似合わないわ」


人目も気にせず、私達は校門前で大きな笑い声を上げていた。


飛鳥「それで、貴女の事だから、ただ祝いに来ただけって訳じゃないんでしょう?」


「ん……まーな」


女性はごそごそとポケットから紙切れを取り出し、飛鳥に差し出した。


飛鳥「……何これ、住所? ……北壱ヶ里(きたかずがさと)って、貴女の新居か何かかしら」


「いんや。私の家は前にも後にも、テメェにくれてやったあそこだけだよ」


飛鳥「じゃあ、これ……」





「まぁ、アタシにも色々あるからよ。ババアの落書きって事で、卒業祝いに紙切れ一枚、貰っとけ」


そう言い残し、女性は飛鳥に背を向けて歩き出す。


「悔いなく生きろよ。このクソガキ共!!」


女性の言葉に、周囲の学生やその保護者がざわつき始める。


私にも『あの柄の悪そうな人の知り合いか』と変な視線が向けられるが、特に気にはならない。


話したい事は沢山あったが、私は不思議と満たされた気分だった。


飛鳥「………最高の卒業祝いだわ、まったく」


そう呟き、飛鳥は女性とは反対の方向に向かって歩き出した。



◆◆◆◆◆◆◆◆



それから1週間ほど時が過ぎた頃、荷物を積めたトランクと共に、私は『壱ヶ里』の駅に降り立った。


電車の中から見ていた景色は田舎っぽく感じたが、駅の近くはそれなりにビルも並んで都会と大差ない印象を受けた。


飛鳥「住所には北って書いてあるのに、駅の出口は東口と西口なのね………どちらに行けばいいのかしら」


駅員に聞こうとして、窓口で何やらもめている女子学生を見付けた。


「ですから線路に落としてしまったんです。入れては貰えませんか?」


「君の言うことは信用ならないよ。帰った帰った」


「ま、待ってください! 今回は本当なんです!」



飛鳥「……どうかしたんですか?」


「あっ、聞いて下さいよ。この頭の固い駅員さんが、私が線路に1 0 0 円 と い う 大 金を落としてしまったというのに、信じてくれないんですよ!」


飛鳥「(……安!)」


思わず吹き出してしまいそうになるが、なんとか堪える。


「そうは言っても君、いつも似たような事言って電車代ケチって行くでしょう。100程度、電車料金の立て替えとでも思っておきなさい」


「そんなぁ………今回は本当なのに」


普段嘘をつきすぎた人の末路といった所だろうか。


私も人の事は言えないなと、心の中で呟く。


飛鳥「あの、時間がかかりそうなら、先に道を尋ねても構わないかしら」


駅員さんに、住所のメモ書きを見せようとする。


「んっ、んんん……?」


すると、その学生が私の手元のメモ用紙を覗き込んで来た。


「へぇ………こんなマイナーな場所を知っているなんて、お姉さんも中々ですね」


飛鳥「な、なにが…?」


「ここ、その手の人には有名な駄菓子屋のある住所なんですよ。何気に格安のカップ麺とかも置いてあるんで、節約生活をするなら馬鹿に出来ないんです」


飛鳥「(だ………駄菓子屋って、何かの間違いじゃ?)」


この学生の話が本当だとして、あの人はなんで、そんな場所の住所を私に手渡したのだろう。


飛鳥「確か、無くしたのは100円だったわね。その店まで案内をしてくれるのなら、500円まで奢ってもいいわよ」


「ほ、本当ですか!」


500円で瞳を輝かせている辺り、この学生はひもじい節約生活を送っているのだろう。


その学生に案内され駅から離れるにつれて、段々と田舎らしい木造住宅の街並みが姿を表してきた。


「ほら、見えました。あそこですよ」


学生が指差した場所、目的地の駄菓子屋の看板を見て、私は『成程ね』と納得した。


「おばさん、こんにちわ」


「いらっしゃい。お友達と一緒なんて、珍しいね」


「地上に舞い降りた500円の天使です! 明日は雨が降りそうですね」


「ほっほっほ、どうぞゆっくりして行きんさい」


飛鳥「は……はじめまして」


気さくな雰囲気のお婆さんが、カウンターで小型のテレビを見ていた。


「500円……素直に量で行くなら、カップ麺をセット買いで値段を交渉するか。……いや、高値の買い物が出来る時こそ、別のものも…………ぶつぶつ」


学生がぶつぶつと呟きながら品物を選んでいるのを、お婆さんは楽しそうに眺めている。


いつかこの人にも全てを話す時が来るのだろうと考え、複雑な心境になる。


「お友達さんは、何も買っていかないのかい?」


飛鳥「そうですね、じゃあ………」


しかし、最初に言う言葉は決まっていた。


深呼吸をして、お婆さんの瞳をしっかりと見据える。









飛鳥「――お孫さんと、結婚を前提としたお付き合いをさせて頂きたいのですが」


春の暖かい日差しの中、私は満面の笑みを浮かべて、そう口にするのだった。




シカバネアソビEpisode2

~トリカゴアソビ~


FIN

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