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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode2~トリカゴアソビ~
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EP2-039:白紙の記憶

私が人殺しで、それも建一の父親を殺したという事を知られた上で、彼は私を殺さず、好きだと言ってくれた。


こんなに嬉しい事が、他にあるだろうか。


私は生き延びて、建一と未来を歩みたいと心底思う。


飛鳥「(なのにっ……!)」


目前には、私の命を奪おうとする黒獣の爪。


こんなの、もう、どうしようも……





「ギャォォオオオッ!?」


飛鳥「……!」


私に爪を振り翳していた筈の黒獣が、突然叫び声を上げて転倒した。


獣を挟んで反対側に、見覚えのある白髪の少年が立っている。


飛鳥「あ、貴方は……」


黒獣の右後ろの足首にはナイフが突き刺さっており、彼に筋を切断されたのだろうと理解する。


少年の傍らに居たピンク髪の少女が、黒獣の様子を恐る恐る確認しながら私の元に駆けて来る。


まる「また会いましたねー。だいじょぶですか?」


飛鳥「あ、貴方達こそ……無事だったのね」


渡を殺した翡翠髪の少女はどうしたのか尋ねたかったが、今は目の前の黒獣をなんとかするのが先だ。


まる「あれれ、一緒に居たおにーさんが見当たりませんけど……」


飛鳥「……そ、そうよ! 早く建一を追い掛けないと!」


こうしている間にも、建一は幾徒と戦っているはずだ。


私はまだまだ、建一に償いきれてない。


それ以上に、このまま放っておけば、建一が死ぬか、或いは建一が人殺しになってしまうか………いずれにせよ、良い方向には進まない。


まる「今のうちにです。早く行ったげてください」


この子はこんな事を言っているが、私は少年の異常にも気付いている。


攻撃こそ正確だったものの、彼は黒獣の姿を見ようともせず、よろよろと歩いている。


飛鳥「彼、どうしたの」


まる「あう、流石にばればれですよね……。銀河さん、まるが呼びかけても、ポカポカ叩いても、気付いてくれないんです」


飛鳥「……それって」


今の話と、彼の挙動不審な歩き方。


まさか、銀河と呼ばれた少年は、五感の機能が麻痺しているのでは……?


そんな状態で、あの俊敏な黒獣とやり合うなんて無茶にも程がある。


むしろ、足首にナイフを突き刺せた地点で既に神技といえるだろう。


まる「で、でもですねっ。銀河さんはきっと大丈夫ですから。おねーさんは、気にしないで先に―――」


飛鳥「そんなっ、貴女死ぬわよ!? 振り切って、一緒に………」


まる「気にしてちゃ駄目ですっ。銀河さんなら、銀河さんなら………きっと、大丈夫なんですからっ」


この子の瞳からは、幼いながらに強い信頼が伝わってきた。


何を言っても、この子は銀河という少年の事を信じて、見守るのだろう。





……私は見捨てるの?


それとも、助けるの?


建一を?


それとも、この子達を?


そもそも私に、それを選択できるだけの力はあるの?


何が最善?


何が出来る?


何も出来ないなんて有り得ない、何かが出来る筈だ。



飛鳥「(――考えなさい、静山飛鳥。貴女はもう、逃げ続けていただけの貴女じゃないはずよ)」


無理、不可能、そんな答えを脳裏から消し去り、考え続ける。


けれど、いくら考えても答えは浮かばない。


飛鳥「(まだよ。ここで私が折れて、この子達を見捨てるなんて有り得ない、したくない!)」


私は、今すぐに最善の答えが知りたい。


建一を、この子達を、誰かを守る力が、私なんかにあるのなら、可能性があるのなら、それを教えて欲しい……!






―――………。



ドクン、と鼓動が静まり、心が澄み渡る。


身体が沈んでいくような、地面に呑まれていくような恐い感じがする。


でも、その暗闇の中に答えがあるような気がして、それを拒む事をやめる。







―――辿り着いたな。



飛鳥「(………!)」



呑まれた暗闇の中で、微かに聞こえる声。



―――心に理想の未来、最善の結末、可能性を信じているのか。



飛鳥「(な、何これっ。なんなの……?)」



―――こうであって欲しい、こうなれば良いという最善、それは誰もが掴める未来ではない。



飛鳥「(よく分からないけれど、この声は、何かとても大切な事を言っている気がする)」



―――手段があると思うのなら、探す他ない。探す事は誰にでも出来て、尚且つ多くが途中で諦め、妥協する。



声に靄がかかって、それでいて段々近付いてくるような、不思議な感覚。



―――それを成し遂げ"ここ"まで辿り着いた君には、可能性を掴む権利があるだろう。



飛鳥「……っ!」





分かる。


私が知らない筈の知識が湯水のように流れ込んで来る。


私の前に立ちはだかる黒獣、こいつの名は『イオビースト』。


言わばビーストの上位個体で、イービルフロアより外に放たれると、施設内の兵器を周囲のものから順に片っ端から暴走させる。


強固な皮膚はライフルならばダメージを与えられるが、肝心の臓器や脳などの部位は、埋め込まれた金属装甲で補強されている。


それこそ、先刻の銀河のように、極端に収縮する柔らかい部位を狙う手段しかないように思える。


その場合、基礎体力の問題で圧倒的にイオビーストの方が優位。


けれど、だからって致命傷を与える術が無い訳じゃない―――





飛鳥「(はは………何よ、サービスしてくれちゃって。なんで私の脳裏に、こんな情報が浮かぶのよ)」


まる「お、おねーさん…?」


困惑する私の顔を、不安そうな少女の瞳が覗き込んできて、ハッと我に返る。


今は原因を追究している場合じゃない。


そう、"最善"は手段を考える事そのもので、私は存在しない筈の知識に到達した。


考えないって事は諦めと同義なんだから、他の選択肢なんて、元より無かったんだ。


飛鳥「(ごめん、建一。どうも貴方や渡の善人気質が、私にも伝染しちゃったみたい)」


自分の命の為ならなんだってする、かつての無情さは何処へ行ってしまったのか。


私は自分でも気付かぬ間に、見知らぬ他人にまで手を差し伸べる側になってしまったらしい。


まったく、どの面下げて善人気取ってるんでしょうね、私は。



飛鳥「……それじゃ。あのデカブツには、ご退場願おうかしら」



◆◆◆◆◆◆◆◆



幾徒の意表を突く事で、攻めの姿勢を貫いてきた建一だったが、とうとうそれに幾徒が対応し始め、迂闊には飛び出せなくなってきた。


建一「(結局、かすり傷を2ヶ所負わせただけか)」


弾切れを狙ってみるのも手だが、わざわざ幾徒が選んだ戦場なだけに、効果は薄い気がしてきた。


幾徒「冗談じゃない、認めるものか…!」


建一「……?」


今まで攻撃を当てる事に夢中で気が付かなかったが、幾徒は焦り始めているようだ。


どういった事情があるのかは知らないが、この隙を利用しない手はない。



―――バンッ、バンッ!



トリガーを三度引いた筈だったが、どうやら弾切れのようだ。


幾徒「……チッ!」


舌打ちをしながら、幾徒もこちらと同じように向かいの柱に身を隠す。


今までは、銃を盾にしたり避けたりと、有り得ない身のこなしをしていた癖に、急にどうしたのだろう。


建一「(けど、確かに柱に隠れられて、余計に手出しできなくなったか)」


弾切れを起こした銃を握りしめながら、建一は攻める手段を決め兼ねていた。


一方、幾徒も思うように戦う事が出来ずに困惑している。


幾徒「(赤羽息子が異常な成長をしている……そんな事は分かっている)」


私に向けて銃のトリガーを引く時の、冷たい瞳。


まるで、殺す事に慣れて情を失った者のような印象を受けた。


本人はその事に気付いていないだろう。


幾徒「(無理矢理"こうなった"のがマズかった。長期に渡って戦うと、身体にガタがくる)」


赤羽息子が今まで通りであったならば、私の圧勝に終わったのだろうが、そうはならなかった。


幾徒「("Cord-0F"を利用せざるを得ない、か)」


この施設の兵器には、それぞれアルファベットのコードが割り振られている。


Cord-0A:アジャスター


Cord-0B:ビースト


Cord-0C:コマンドマン


Cord-0D:デスアジャスター


Cord-0E:イオビースト


これら5つの兵器は、プレイヤーと戦わせる為に作られたゲームの要素だ。


しかし、彼等は様々なイレギュラーに備え6つ目の兵器『Cord-0F』を作った。


私が携帯電話ひとつで施設の設備に干渉できるのも、その兵器がある為だ。


だから、私の身体が長期戦に耐えられなくとも、施設を利用すれば、簡単に赤羽息子を葬れる。


幾徒「(早速だが、奈落の底に堕ちて貰おう)」


赤羽建一の生存判定を死亡判定に変更し、死体回収システムを起動させれば、それで私の勝ちだ。





『管理者権限エラー:0x00000005"uruuzaka"は、0x00000003"shizima"にblockされています』



幾徒「―――な」


携帯電話のディスプレイに表示されたメッセージに、一瞬、思考がフリーズする。


幾徒「(こ、これは………まさか)」


もたついているうちに気付かれて、危険は直ぐそこにまで迫っていたと、そういう事か。



―――ガチャリ



飛鳥「建一っ!」


下の階層でイオビーストと戦っていた筈の飛鳥が、扉を開け放って第一階層にやってくる。


建一「飛鳥!」


幾徒「……チ、こんな時に、次から次へと!」


しかし、静山飛鳥がここに現れたという事は………まさか。



◆◆◆◆◆◆◆◆



イオビーストは、銀河がつけた傷を除いて比較的綺麗な状態で倒れていた。


正気に戻った飛鳥は、まず、イオビーストが暴れた事によって鍵が壊されていた倉庫から、遠隔操作式の爆弾を見つけ出した。


といっても、外部からの攻撃に強く、俊敏なイオビーストに致命傷を与えるのはやはり困難。


そこで飛鳥は、爆弾を有効活用する手段を発案した。


まる「まさか、ママへのお土産が役に立つとは思わなかったです…」


貧乏なまるの家庭では、肉料理はご馳走だった。


だから、立ち寄った料理室で見つけた生肉を、包装して持ち帰ろうとしていたのだ。


イオビーストも、獣といえば獣、それも肉食獣。


生肉と一緒に置かれた爆弾を丸呑みにし、飛鳥はそこで内部から爆弾を起爆させた。


プスプスと音を立てて口から漏れる煙が、それを物語っている。


飛鳥がその策を実行出来たのは、準備中も常にイオビーストを引き付けていた銀河と、生肉を所持していたまるが居たからこそだった。


まる「銀河さん、終わりましたよ?」


銀河「………」


やっぱり銀河さんは、返事をしてくれない。


まる「ほら、こっちですよ」


手を軽く引いても、動いてくれない。


どうすれば銀河さんが動いてくれるのか考えていると、下の階から龍哉さんがまる達に追いつきました。



龍哉「お前達、無事だったか」


まる「はいっ。龍哉さんも、あの悪魔さんやっつけたですか?」


龍哉「あぁ、随分と時間がかかってしまったが。お前達は、イオビーストと対峙していたのか」


倒した獣さんの様子を見て、龍哉さんは関心しているみたいです。


まる「そんなことより。龍哉さんなら、銀河さんがなんでこんなになってるかわかりませんか?」


まるの言葉を聞いた龍哉さんが、険しい表情で銀河さんの正面に立ちます。


龍哉「間に合わなかった、か」


目をつむって首を横に振る龍哉さんを見て、まるの嫌な予感が膨れ上がります。


銀河「……俺は」


まる「!」


さっきまでの事が嘘のように、銀河さんの瞳がまる達をしっかり捕らえています。


銀河「俺は、何を……なんだ此処は」


まる「え、銀河……さん?」





銀河「お前達は、誰だ?」


まるは、直ぐにそれを理解する事は出来ませんでした。


ただ、頭の中がまっしろでした。


瞳が閉じ、グラリと銀河さんの身体が力無く倒れる。


まる「あ……っ、銀河さん! 龍哉さんっ、銀河さんが!」


龍哉「気を失ったようだな。命の心配はない」


確かに銀河さんは呼吸をしているし、肌もあったかい。


けれど、どうしてだろう。


銀河さんはここに居ない、そんな気がするのは。


まる「銀河さん、どうなっちゃったんですか」


恐る恐る尋ねる、答えがなんとなく分かっていたとしても、聞かずにはいられない。


龍哉「……銀河は、全ての記憶を失った」


まる「う………」


信じられない。


信じたくなかった。


まる「うそ………です」


確かにまるは、できれば銀河さんに記憶が戻らないで欲しいと思ってました。


そうすれば、銀河さんはまると一緒に居てくれるから。


まる「こんなの………なんか、おかしーです、よ」


銀河さんをお兄ちゃんにしたら、お金が少ないママに迷惑かけちゃうから。


そんなまるのワガママに、神様………怒っちゃったですか?


じゃあ、じゃあじゃあ、お兄ちゃんじゃなくてもいいですから。


お話して、一緒に遊んで、それだけでもいいですから。


だから………


まる「う……あぁ……」









まるの知ってる銀河さんを―――返して。



まる「うわぁぁぁぁあああああん!!」



銀河さんは今ここで生きているというのに。


まるの知っている銀河さんは、もう何処にも居ないのだ。

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