表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode2~トリカゴアソビ~
64/150

EP2-030:隔離空間

より遠くに逃げる為に、地図を持つ光弐を先頭に廻廊を走り続けていた建一達。


最初は飛鳥に引っ張られていた建一だったが、途中からは飛鳥が減速し立場が逆転してしまっていたのはここだけの話。


飛鳥「こ、ここまで来れば……充分……でしょう」


ぜぇぜぇと呼吸を乱して、立ち止まる飛鳥。


一度立ち止まった事で緊張が解けたのか、飛鳥は座り込んでしまう。


光弐「全く最近の若いのは……」


飛鳥「はぁ、はぁ……」


光弐「……けしからんッ! 呼吸を乱したその姿…………プライスレス」


建一「あれだけ走ったのに元気有り余ってるのな……」


俺も壁に寄り掛かって休憩しないと、立っていられそうにない程疲れていた。


一度呼吸を整えてから、疑問に思っていた事を光弐に問いかける。


建一「そういや、なんで封鎖壁のギミックが使えたんだ? 今までずっと使えなかったのに」


光弐「ん? あー、別に難しい事じゃねぇよ。飛鳥に使って貰った」


確かに、しばらく別行動をしていた飛鳥が貯め込んでいたステータスを俺達は把握していなかった。


飛鳥「一応『ステータス』についての資料室には行っていたから、ギミックを使用出来る事は直ぐに分かったわ」


ようやく呼吸が整ってきたらしく、飛鳥が立ち上がる。


建一「そうだったのか……」


もし飛鳥と光弐が逃げる手立てを用意してくれなかったら、龍哉は俺をどうするつもりだったのだろう。


威圧的印象が強かったが犯人では無いらしく、俺に刃は向けたものの、殺す気も無いようだった。


あくまで憶測だが、彼とは和解する事ができたのかもしれない。


光弐「ふむふむ。……よし、いつもの建一だな」


建一「ん?」


光弐「『ん?』……じゃねぇよ。死人みたいな顔して俺達を心配させてたのは、何処のどいつだ?」


建一「あぁ……それは本当に、迷惑かけてすまん」


謝らせる意図はなかったのか、光弐は「よしてくれ」と慌てて俺に頭を上げさせる。


光弐「それよか、飛鳥ならもしかして……とは思ってたけど、いったい建一に何て言ったんだ?」


飛鳥「~~……!」


ぼふっ、と効果音が聞こえて来そうな勢いで飛鳥が顔を紅潮させる。


そういえば、俺は飛鳥にとんでもない事をされてしまっていたんだ。


建一「(どうしようか。やっぱり返事をした方がいい……よな?)」


そう考え話し掛けようとしたところで、それに気付いた飛鳥が光弐の首根っこを掴む。


飛鳥「―――もうひとっ走りしましょうか」


光弐「……アレ? もしかして俺今すっごく地雷踏み踏みしっちゃった系男子?」


飛鳥「あはっ」


満面の作り笑顔を浮かべながら、飛鳥は光弐を引っ張って走り出した。


光弐「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああッ!」


建一「ちょっ……俺、地図持ってねぇんだぞ!?」


必死になって飛鳥の背中を追いながら、俺の脳裏にはここに来てからの出来事が鮮明に蘇っていた。


飛鳥との出会いは、死を受け入れていた俺の命を救われた、あの瞬間から。


生きる意味も無く、流されるままに行動する俺とは違い、飛鳥には「死にたくない」と願う強い意思があった。


だから光弐と共に飛鳥を助け、誰かの力になる事で生きている事への希望というものが見え始めていたんだ。


観崎を亡くしてしまって途方に暮れる俺に、飛鳥は俺が好きだと告白した。


けれど俺は、きっと観崎が好きだった。


自分が飛鳥をどう思っているかなんて、直ぐには分かりそうに無い。


気持ちの整理は、まだついていないけれど――





建一「待てよ、飛鳥ーっ!」


――自分なりの答えをじっくり導き出して、ありのままの気持ちを彼女にぶつければいい。


観崎なら、そう言ってくれるような……そんな気がした。



◆◆◆◆◆◆◆◆



アジャスター15機以上の破壊というのは、想像以上に面倒な作業だった。


こちらから探している時に限って、なかなか見つける事ができない。


まる「銀河さーん、そろそろ他の誰かが扉開けちゃったかもですよ。戻ってみませんか~?」


銀河「……そうだな」


そうすれば、俺が追っていた少年と遭遇する事もあるかもしれない。


直感に過ぎないが、あの少年と話が出来れば俺の記憶に少なからず変化が起こる……そんな気がする。


銀河「珠田、急―――」






龍哉「そうはさせないぞ、無記憶媒体」


まる「ひゃわっ!?」

銀河「…!」


突如気配もなく俺達の前に現れた、背の高い鋭い目付きの男。


それに『無記憶媒体』というのは、まさか俺に向けた言葉なのか?


龍哉「何故"お前"がここに居る。まだ奴等に動きは無いようだが……漣についても答えて貰うぞ」


男は独り言なのか俺への質問なのか、意味の分からない言葉を呟いている。


銀河「邪魔だ、退け」


龍哉「残念だが、最もこの状況に詳しい無記憶媒体を見逃す理由は無い。最後に施設に搬送されてきたお前なら、漣についても知っている筈だ」


やはり無記憶媒体というのは、俺の事を指しているらしい。


銀河「漣なんて奴は知らない。……お前は俺の事を、何か知っているのか?」


龍哉「成程、『周期』が近いようだな。忘れているのなら教えてやる……無記憶媒体は、ここに居てはならない」


その言動から、この男は俺の記憶について何か知っていると確信させられる。


銀河「知っているのなら、もっと詳しく聞かせて貰う」


龍哉「……それは無理な相談だ。無闇に情報を与えて精神を刺激すれば、無記憶媒体故の"綻び"が生じる」


精神を刺激? 綻び?


この男の発言には、理解できない事が多すぎる。


そして繰り返し俺の事を無記憶媒体、無記憶媒体と……


銀河「俺には柳原銀河という名がある。無記憶媒体と呼ぶのは止めろ、不愉快だ」





龍哉「……なんだと?」


銀河「?」


龍哉「柳原……柳原だと? 確か、いや……彼女にそんな傾向は」


男の様子がおかしい。


柳原銀河、確かにそれが俺の名前だ……それだけは絶対に間違っていない。


龍哉「柳原! そうか、あの女、あの2人が……そういう事か!?」


先刻までの余裕は何処に消えたのか、男はその場で歯ぎしりをしている。





くいっくいっ


服の裾が引っ張られる。


振り返ると珠田が俺の背中に隠れるように男を見つめていた。


まる「ぎ、銀河さん……この人恐いですよ」


銀河「そうだな……俺が言えた立場でもないが、常人ではない」


しかし、これは俺の記憶について聞き出すチャンス……どう対応したものか。


龍哉「(つまり、あの2人は禁忌を犯して……いや、考え方を変えれば、この実例は多くの者の偏見を打ち砕く)」


男は何かを考え込んでいるようだ。


銀河「話すつもりが無いと言うのなら……」


悪質な拷問、最悪男の命を脅かす事になってでも聞き出す。


それが珠田の目にどう写ろうが、この男に半端な覚悟で挑む訳にはいかないと俺の直感が警告している。


龍哉「……待て、その殺意は必要ない。記憶についてはさておき、お前達に同行する」


まる「…はぇ?」


銀河「同行……?」


あれだけ威圧的な態度を取っておいて、この男は俺達と行動を共にするというのか。


何か裏があるのか、それとも……。


龍哉「そうだ。無記憶……いや、銀河といったか。君は通常の人間とは別の―――」





――ガコンッ!



龍哉「――!」


銀河「…!?」


突然、龍哉の頭上の天井が開き、そこから漆黒のボディを輝かせて、アジャスターより一回り大きな機械が二本の刀を振り翳しながら現れる。


龍哉はナイフとハンドガンでそれぞれの刀を受け、後方に受け流しながら回避行動をとった。


まる「あ、悪魔さんロボットですー!」


珠田は目を丸くして機械を見つめている。


確かに、漆黒のボディと背中から生えた吸血鬼のような鉄の羽のオプションは悪魔を連想させるものがあった。


このタイミングで調度俺達の真上から現れたのは、単なる偶然では無いだろう。


龍哉「『Cord-0D:DeathAjaster』だと? 獣の奴がこんな介入をする筈がない……奴等のうちの1人か」


『ご名答だよ、神堂龍哉君』


男がデスアジャスターと呼んだソレから、若い男の声が再生される。


神堂龍哉、言い返さない所を見るとそれが男の名前なのだろう。


『君達イレギュラー2人の共闘関係は、我々……いや、私にとって厄介だ。赤羽建一に下手に手出しされては困る』


銀河「(…赤羽建一?)」


知らない名前だ。


ただ、それが俺と何か関係しているかもしれないと考えると、懐かしい響きのような気もする。


龍哉「この施設の監視役は、獣の少女の役割だった筈だ。お前、さては……」


『我々の作った失敗作だ。私が"処分"する事に何か問題でも?』


龍哉は眉をひそめて、デスアジャスターを通じて会話している相手に嫌悪を示す。


龍哉「その性根の腐れ様……閏坂幾徒だな」


幾徒『おや、随分と簡単に見抜いてくれるじゃないか龍哉君。無記憶媒体と神堂龍哉、私の目的の妨げになる要素は排除させて貰うよ』


漆黒の機体が動き始める。


無駄話はここで終わりだという事なのだろう。


幾徒『これよりB4Fの封鎖壁を利用し、イレギュラーを除くて全ての者をB3Fに誘導する。貴様等は袋の鼠だよ、不運にも子供を1人巻き込む事になるがね』


まる「ふ、ふくろのねずみ……って、帰れなくなっちゃうって事ですか!?」


まるはあわあわと慌てて、銀河の周りをぐるぐる走り出す。


銀河「通路を封鎖するとは……相手は誘拐犯の1人いう認識で間違いないか?」


龍哉「その通り。幾徒は犯人側の中でも1、2を争う外道……しかし、こんな掟破りを他の奴等が許す筈がない」


幾徒『そんな事は関係ないさ。元より私は、最初からこうするつもりで彼等と協力関係になったのだからね』


封鎖の話をわざわざ持ち出すという事は、今から階段に向かっても手遅れになる程状況が悪いという事なのだろう。


B4Fからの脱出、デスアジャスターの対処……困難である事は目に見えていた。


幾徒『私には別の用があるので観戦はできないが、死に物狂いで足掻きたまえ』


プツン、と通信が切れた音がした。


不気味に佇むデスアジャスターと呼ばれた機体は、まだ静かに機械音を奏でるばかり。


逃げる猶予くらいは与えてやるという事なのだろう。


龍哉「銀河といったか。1つ忠告しておく、よく聞け」


銀河「…なんだ?」


龍哉「『壊す、殺す』といった衝動は極力抑えて戦え。それが唯一の"対処法"だ」


龍哉は、それがなんの対処法なのかまでは言わなかった。


どうせ尋ねても答えてはくれないのだろう。


しかし、共闘しなければならないこの状況において、恐らく大きな意味のある事なのだろう。


銀河「理解できないな。これを終わらせたら、その真意を含めてお前の知っている事全てを俺に教えろ」


龍哉「互いに施設から無事脱出できたのなら、その時は考えてやろう。準備は良いか、コイツの無力化には一手間がかかるぞ」


次から次へと面倒事に巻き込まれるが、せめて記憶が残っていれば理不尽だと思う事も無いのだろうか。


その答えを、この龍哉という男は知っている。


だから俺は戦おう、何ひとつ分からないまま終わる事だけはあってはならない。


銀河「準備はいいか、珠田」


まる「はいっ、悪魔さんをめっためたにするんですね!」



銀河達がデスアジャスターと相対しこの瞬間から、地下施設は幾徒の手によって戦場に変わろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ