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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode2~トリカゴアソビ~
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EP2-029:純化の兆し

心の底から沸き上がってくる感情の強さに、建一は驚いていた。


ただ、その憎しみは目の前の男に対してだけ抱いている感情ではない。


理不尽な現実と、それに抗いもせずに目を背け、逃げ出してしまった自分自身への憎しみでもある。


父親と母親と観崎……


今度はチャンスすら訪れなかった今までの3度とは訳が違う。


絶望している場合じゃない、今度こそ抗って守らなければ。


龍哉「(俺が扉を開け放った瞬間から、この少年の気配が異質なものと混ざった。考えられる理由は……)」


男は光弐を拘束したまま、探るような目付きで俺を睨み続けている。


建一「俺に用があるんだろう。回りくどい事してないで言ってみろよ」


龍哉「……"母親を殺す夢"、お前はそれを見た筈だ。違うか?」


夢の事は誰にも話していない筈なのに、男は確信を持った言動で尋ねてくる。


こいつは、何故それを知ってる……?


龍哉「……そうか」


建一「…?」


返事もしていないのに、男から相槌が返ってきた。


龍哉「神堂龍哉―――それが俺の名前だ。聞き覚えがある筈だろう」


建一「……は? 何を言ってるんだ。あるわけないだろ」


龍哉「……」


龍哉と名乗った男は、再び何かを探るような目付きで俺を睨む。


飛鳥「建一、気をつけて。そいつは相手の表情や目の動きから、思考を読む事に長けているわ!」


建一「(黙り込んで俺の顔を睨むのは、そのせいか……!)」


信じ難いが、飛鳥が嘘を言うとは思えない。


この男……龍哉は、厄介極まりない相手のようだ。


龍哉「まさか、失敗したと……?」


建一「何をぶつぶつ呟いてるんだよ。そんな質問をする為だけに、飛鳥達を殺そうとしたのか!?」


龍哉「(……確かめる必要がありそうだ)」


龍哉に拘束されていた光弐が開放され、部屋の隅へと蹴り飛ばされる。


光弐「がっ……!」


飛鳥「渡!」


蹴り飛ばされた渡に、飛鳥が駆け寄っていった。


建一「お前…!」


光弐から視線を戻すと、龍哉はナイフを構えて目前に迫っていた。


しかし、それと同時に全身が自分のものではないような錯覚を一瞬だけ感じる。


建一「っ!」


ただ避ける事だけを無我夢中で意識すると、身体が反射的に右に反れ、ナイフが少し遅れて空を切る。


その隙に足に銃弾を浴びせようとしたが、龍哉はナイフを振り終えて直ぐに後ろに飛び退いていた。


龍哉「避けたか。流石に少なからず影響はされているようだな」


建一「訳の分からない事を……!」


俺は再び龍哉の足を狙って、発砲した。






―――しかし、カランと音を立てて"2つ"の銃弾が床に散らばる。


建一「……!」


見えた、見えてしまった。


俺の放った弾丸は、正確に龍哉に撃ち落とされていた。


一般人の俺に弾道が見えた事にも驚かされたが、それ以上に龍哉という人間の底知れない戦力を垣間見たショックが大きかった。


駄目だ、敵う訳がない。


龍哉「その手癖。そうだ、もっとだ……」


銃を握っている俺の手元を見て、龍哉は再び何かを確認している。


建一「(どうすれば……どうすればこの状況を回避できる!?)」


常識を超越した強さを持つ龍哉を前に、建一には何も成す術が無かった。


飛鳥「なによ……。あんなの、人間が出来る芸当なの……?」


建一は、素人とは思えない程によくやってくれている。


けれど龍哉という男にはまだ余力があるようだし、状況はかなり悪いと言って良い。


私が加勢しても、状況はあまり変わらないだろう。


飛鳥「どうしよう。私達じゃ、彼に勝つ事は出来ない……」


光弐「…けほっ! か、勝つのは無理かもしれないけど、逃げる事なら出来るかもしれないぞ?」


飛鳥「ほ、本当…!?」


光弐「あぁ。読まれると厄介だから、龍哉に表情を見られないようにしろよ」


龍哉と建一の攻防が続く中、光弐は飛鳥に策の内容を伝え始めた。





建一「くそっ! 本当に人間かよこいつは!?」


龍哉「―――」


何度銃弾を放っても龍哉に相殺されてしまう。


偶然なんかじゃない、俺の銃弾は故意で撃ち落とされている。


龍哉「俺が鍵とならなかったのは想定外だったが、見込みが無い訳でもない……」


建一「(また考え事か、随分と余裕なのを見せつけてくれるじゃないか)」



……いや、待てよ?


銃弾を撃ち落とせる程の技術を持ち合わせている龍哉を相手に、俺はこうして無傷でいる。


悔しいが、龍哉がその気になれば俺の命など簡単に奪われてしまうだろう。


建一「(龍哉は俺を殺す事が目的じゃないって事だ。逆に俺が死ぬと不都合が起こる側だろう)」


龍哉「何か小細工でも仕掛けるつもりか?」


建一「……さぁね」


飛鳥の言う通り、龍哉には俺が考えている事が大雑把ではあるが読まれているらしい。


けれど、どんなに超人染みていても人間である以上は限度がある。


動揺させようと問いかけて来る辺り、ただ瞳を見るだけで全ての思考を読める訳では無いのだろう。


俺の考えは至ってシンプル。


建一「(殺されないと分かれば、身体を盾にするまでだ……!)」


銃だけは撃ち落とされないよう背中に隠し、龍哉目掛けて一直線に走り出す。


龍哉「ほう」


一見無謀にしか見えない突貫に龍哉は関心の声を上げるが、避ける素振りは見せなかった。


構わず龍哉の腹部に銃口を押し付ける。


建一「これなら防ぐ事は出来ない、観念しろ!」


龍哉「ふむ、それはそうだ。……が、それで脅しているつもりか?」


顔色ひとつ変えずに、龍哉がポケットから何かを取り出した。


それは基盤が剥き出しになって原型を留めていない、ギミックのように見えた。


『0、3、Enter』


そう理解した時には、既に龍哉がボタン操作を終えた後だった。


剥き出しの基盤に取り付けられたディスプレイに

『03:Gimmick-GunFreeze』

という文字が表示される。


その意味を考える間も無く、俺の銃からカシャッと妙な音が鳴った。


建一「…まさか!」


B7Fで飛鳥がアジャスターのライフルをロックした事があったのを思い出し、誰も居ない方向に銃口を向けてトリガーを引こうとする。


……が、予想通り俺の拳銃が銃弾を吐き出す事は無かった。


龍哉「何をしても無駄だ。奴が作り上げたモノを、お前がどうこうできる訳が無い」


"奴"と呼んだ人物に何か深い思い入れがあるのか、龍哉が表情を不愉快そうに歪ませる。





……って、なんだ?


"奴が作り上げた"って言ったのか?


何を?


まさか、ギミックを?



建一「お前っ、犯人の仲間か!?」


もしそうなら、龍哉が基盤が剥き出しのギミックを持っているのは、その構造を理解していて何か手を加えたとも考えられる。


龍哉「貴様―――」


建一「……!」


あまりの剣幕に後退る。


龍哉「よりによって仲間などと……笑えない冗談は己の身を滅ぼすぞ」


建一「けど、どちらにせよ犯人の素性は知ってるみたいだな。い、いったい何処のどいつなんだ!?」


龍哉「―――」


龍哉は、何も言わずに沈黙するだけだった。


隙の無い完璧で高圧的なイメージが、この瞬間だけは何処か悲しげに見えた。





光弐「建一、そいつから離れろ!」


建一「!?」


龍哉「……!」


光弐の掛け声に反応して、咄嗟に龍哉から距離を取る。


俺を逃がすまいと迫る龍哉の姿が、部屋の中央に落下した鉄製の厚い壁に閉ざされて見えなくなった。


これは恐らく、光弐がずっと持っていた"封鎖壁"のギミック。


戦闘で俺達が動き回り、調度後ろに出口の扉がやってくるタイミングを光弐は狙っていたのだろう。


確かステータスという発動条件が満たされず、今まで1度も発動できなかった筈なのに……どうして?


飛鳥「ボーッとしてないで早く行くわよ、ほら!」


俺が考え事をしているのを見兼ねた飛鳥が、口を尖らせて手を差し延べてくる。


その手を取れば、観崎と出会った時のように俺の見る景色はガラリとその姿を変えてゆくだろう。


人は脆くて壊れやすくて、とても失い易い。


失う事は恐い、けれど……



『建一は……もう、ひとりじゃ、ない。新しい、おともだちが…きっと、一緒に……そしたら、さみしく……ないから』


『だから…ね、笑ってね、建一。私はずっと……心……か、ら…笑った、建一の笑顔が……』



……人は他人との繋がり無しでは生きられないと、精一杯教えようとしてくれた奴がいたから。


建一「―――あぁ」


俺は、その手を取ってみようと思えた。


きっと俺は、あいつが好きだったから。


もう二度と言葉を交わす事の出来ない、初恋の相手に――


今、俺を必要としてくれている仲間達に――





―――ここから始まる新しい赤羽建一の人生を、捧げよう。



◆◆◆◆◆◆◆◆



音を立てて、鉄の封鎖壁が上がってゆく。


龍哉の視界に映るのは、誰も居なくなった部屋と開きっぱなしの扉だけだった。


部屋の中央で、龍哉は1人立ちすくむ。


『01:Gimmick-QuickBarricade』


彼の手に握られた基盤のディスプレイには、ギミックで同じ封鎖壁の効果を使った事が表されていた。


龍哉「……ここまで、か」


諦めたように、ため息をつく。


建一と呼ばれていた少年の戦力は人並以上、少なくとも呆気なく死ぬような事は無いだろう。


龍哉「(しかし、シカバネに還らぬのなら、俺の目的はもう……)」


ずっと、その目的の為だけに生きて来た。


その為だけに、手段を問わずに見えない尻尾を追い続け、ようやく辿り着いたというのに。


全て、無駄に終わったようだ。


龍哉「(俺に残された役割といえば……無記憶媒体の事くらいか)」


後回しにしていたが、危険因子が施設を徘徊していた事を思い出す。


龍哉「なんの利益も得られないが、仕方ない」


目的は果たせなくなったが、だからこそ残りの生は己の信じる正しさを全うする。


それが"神堂"の在り方なのだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆



施設内で龍哉と建一達の衝突が終えた頃、舞台の裏側でも1つの決着がつこうとしていた。


幾徒「ほう。ここで神堂の名が出るか……侵入者を招くとは、とんだ失態だな?」


「はぁっ、はぁ……これは、なんのつもりですか」


今まで監視役として事の行く末を見ていた少女が、幾徒を睨む。


右手にクローを武装して警戒する彼女の足首からは、幾徒の射撃によって負った傷口から血が流れ続けている。


幾徒「分からないか? 施設全体を管理するこの部屋を占拠すれば、全ては私のものだ」


「まさか、最初からそのつもりで……!」


幾徒「君の主も、欲しい物は力ずくで奪う我々のやり方に理解を示していた。そうだろう?」


「だからといってこんな裏切り……。彼は私達の希望、そうではなかったのですか!?」


幾徒「たかが失敗作の分際で私"達"などと、ひとくくりにしてくれるなよ」


「貴方という人は……。それなら私は、失敗作なりの底力を出すまでです!」


少女は傷を負っていない方の足で床を蹴り、幾徒に急接近してクローを振り翳す。


幾徒「…っと、流石に瞬発力は私をも凌ぐか」


完全には避けきれず、幾徒の頬に3つの軽い切傷が刻まれる。


少女は床に着地してから、足の痛みなど無かったかのように両足で立ち上がり、獣のような雄叫びを上げた。





「ハァ、ハァ……ッ、ウルウザカ、イクトォォオ゛オ゛ッ!!」


その姿に先刻までの少女の面影は無く、狼のような獰猛な肉食獣のように荒々しく牙を剥いていた。


幾徒「失敗作なりに"ビースト"を起動させたか。……面白い、獣ごときに敗れるようでは、全てを手に入れる権利など無いに等しいからな」


2つの影がモニタールームで交錯し、血潮が舞い上がる。


この瞬間、施設内で唯一守り続けられていた『ルール』という概念が崩壊し、それは同時に物語を混沌に導く前兆でもあった。

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