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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode2~トリカゴアソビ~
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EP2-020:素直な心で

イービルフロアにある階段を抜けてB4Fに到達した建一達は、休憩する為に階段から少し距離を置いた空室へと入った。


建一「流石に疲れたな」


光弐「アジャスター群から逃げ切れたと思ったら、命懸けの救出劇だもんなぁ」


飛鳥「ごめんなさい…」


責任を感じているのか暗い表情で俯く飛鳥、彼女は先刻からずっとこんな調子だった。


光弐「あーいや、俺達が疲れてる原因は全力疾走したからだし気にないでくれよ。飛鳥ちゃん、だっけ? 俺は渡光弐、よろしくな」


飛鳥「…ええ。その、よろしく」


飛鳥には、こんな沈んだ表情でいて欲しくない。


俺がそう思っていると、同じ事を感じたのか光弐が話を切り出した。


光弐「俺達に必要なのは互いを信用する為の相互の理解。ザッツコミュニケィションだ、自分の思い出話とかどうよ」


建一「……」


飛鳥「っ」


ピクリと、建一と飛鳥がほぼ同時に反応する。


光弐「んげ、2人とも地雷か? すると、俺が自分について勝手に話すとするかな」


建一「悪いな」


俺は、素直に光弐に感謝した。


いつも馬鹿やってる割に察しが良いのは、何故なのだろうか。


光弐「俺もこう見えて色々あってな。おふくろが居なくて、親父と弟との3人暮らしな訳よ」


建一「弟か、光弐と似たような人なのか?」


光弐「いやいや、むしろ真逆で大人しいんだ。こんな兄貴だから、あいつには迷惑ばっかかけちまって…」


飛鳥「迷惑って…?」


先刻まで口数が少なかった飛鳥も、光弐が放つ気楽な雰囲気の影響を受けてか会話に参加してきた。


周囲の空気を穏やかにする、それは光弐の持つ人としての特性なのかもしれない。


光弐「昔、俺は欲のセーブを知らないクソガキで、ゲーム買って欲しいだの遊びに連れてって欲しいだの両親に無理言いまくってたんだよ」


建一「…まぁ、子供だし仕方の無い事ないんじゃないか?」


建一の言葉に、光弐は「それは違う」と言いたげに首を横に振った。


光弐「問題はそこじゃない、俺が無理言って欲を出しすぎた…その結果だ。影斗は幼いながらに貧乏な家庭を気遣って、自己主張をしなくなった」


飛鳥「それは、確かに辛いわね…」


その「辛い」という言葉に当てはまるのは光弐の事なのか、それとも弟の影斗君の事なのか。


恐らく、両方なのだろう。


光弐「んで、俺は反省して中卒で力仕事始めたんだわ。影斗に少しでも贅沢させてやる為にな」


飛鳥「でも、それを知った影斗君は…」


光弐「ははっ、お察しの通りだ。『僕の為にごめんなさい』って泣かれちまったよ。今思えば、影斗が泣いたのを見たのはあれが最後だったか…」


懐かしそうに遠い目をしている光弐を見ていると、どれだけ弟の事を大切に思っているのかがひしひしと伝わって来た。


建一「光弐、お前いい奴だったのな」


光弐「むしろ今までなんだと思ってたの!?」


気が付くと、皆の表情にうっすらと笑みが浮かんでいた。


飛鳥「でも、渡が家庭を作れば状況も変わって来るんじゃない?」


光弐「か、家庭…って。あのなぁ、仕事仕事の毎日に出会いなんか…」


そこで固まる光弐、その視線はまっすぐ飛鳥に向いている。


光弐「付き合ってください」


飛鳥「嫌」



――渡光弐、撃沈。



建一「ぶっ、いくらなんでも急すぎるだろう」


光弐「るせぇ俺は今だと感じたんだ! そういうお前はどうなんだよ建一、出会いとか無いのか?」


しまった、流れで矛先が俺に向いてしまったか。


飛鳥「……」


なんか飛鳥もチラチラ俺の表情を伺ってくるし、2人共興味津々じゃないか……参ったな。


建一「幼馴染が1人」


光弐「…お、幼馴染だとぅ!? そんなありきたりのようで実は珍しい属性の子が居るなんて羨ましいッ。それはまた、どういう出会いだったんだ?」


その話をすると、必然的に両親の話をしなければならなくなるんだが……。


飛鳥には半分ほど話してあるし、光弐も複雑な家庭事情を暴露していた。


何も言わずに場を沈めさせる訳にはいかない……か、せっかく飛鳥も話に乗っかってるんだから。


建一「俺が小2で…丁度10年前かな。両親が立て続けに居なくなって、一人息子だったから引越しを余儀なくされたんだ」


その時、飛鳥達2人は表情には出さずとも動揺していた。


光弐「(一人息子で、10年前に両親が亡くなった……? じゃあまさか、俺がB5Fで拾ったあの紙は……)」


飛鳥「(亡くなったとは聞いていたけれど、10年前っていうのは……。これで全ての辻褄が合ってしまったわね)」


場の空気が少しだけ緊迫したものになるが、建一も今更話を中断する訳にはいかない。


建一「それで赤羽家側の婆ちゃんに引き取られたんだけど、その幼馴染は婆ちゃんが経営してる駄菓子屋の常連客だったんだ」


飛鳥「それって、まさか…前に言っていた?」


建一「あぁ。俺がこうして立ち直れるよう協力してくれた人……観崎、初川観崎」


正確には建一も未だに不安定な部分があり、その協力関係は続いているのだが、不幸自慢をしたい訳ではないので伏せる事にした。


光弐「んで、あれか。そのまま付き合っちまった感じか」


建一「…ん? いや、付き合ってる訳じゃないぞ」


何を言っているんだとばかりに「恋人ではない」と主張する建一を見て、飛鳥は無意識に安堵していた。


飛鳥「(なっ、何を喜んでいるのよ私は…!?)」


雑念を振り払うように軽く首を左右に振ってから、話の続きに耳を傾ける。


建一「恋人とか、そういう風に考えた事はなかったな。言い表すなら、あいつは恩人で、今の家族以上に家族らしい存在だ」


飛鳥「……」


だったら私と、その初川という子は赤羽にとって全く正反対の事をしていたのね。


ここまで赤羽を元気付けてくれた事に、私も感しないと。


光弐「でもさ、建一がそう思ってるだけって事は無いのか?」


建一「それって、観崎が俺に恋愛感情を抱いてるって言いたいのか……? それは無いと思うけど」


飛鳥「どうして? 想い人だから支えてあげたいって動機なら、一番しっくりくるわよ」


建一は唸りながら考え込むが、やはり首を縦には振らない。


建一「観崎のやつ、気に入った女の子を無理矢理連れて来ては『この娘はどう!?』って俺の彼女に仕立て上げようとするんだよ」


飛鳥「それは……こ、個性的な子なのね」


光弐「割と納得せざるを得なかった」


建一の言葉に、2人は苦笑しながら頷くしかなかった。


飛鳥「でも、尚更なんで赤羽の為にそこまでしてくれるのか分からないわね」


建一「まぁ、確かにな。変わった奴だから、そこまで深く考えずにやってるのかもしれないけど」


総じて建一と観崎の関係は、「友達以上恋人未満」で落ち着いていると結論付けられた。


飛鳥「(叶わないな、初川観崎という人には。人伝に聞いただけでもそれが良く分かった)」


私がどんなに努力しても、彼女のように他人の支えになる事は難しいだろう。


その行いに比べれば、償いさえまともに出来ない私など足元にも及ばない。


赤羽は恋愛感情は無いと言っているけれど、お似合いの2人のような気がした。


光弐「うへへへ…。それじゃあ最後は、飛鳥ちゃんの恋バナを聞こうじゃまいか」


飛鳥「なっ!? …わ、私はいいわよ!」


飛鳥は助けを求めるように建一に目配せするが……


建一「自分だけ何も話さないのは、少しズルくないか?」


飛鳥「うっ」


まさか、巡り巡って自分にまで回って来るとは思っていなかった。


先刻の赤羽もこんな心情だったのだろうか。


飛鳥「出会いなんて無いわよ。信用に値しない他人となんて不用意に会話しないし、関わり合わないようにしていたわ。…これでいい?」


光弐「そこまで人間不信だと、流石に親から心配されないか?」


飛鳥「親とはもう縁が切れているようなものだし、私は1人暮らしよ」


建一「学生で1暮らしって。結構ハードだろう、それ」


光弐「だよなぁ、縁が切れてるって事は仕送りも無しだろ」


飛鳥「色々あって住まいには不自由していないわ。貯金の方がもうギリギリだけれど、卒業までは持ちそうだし」


人間不信な上に、家族とも離れて暮らしているという飛鳥の生活に、建一と光弐は聞いているだけで寂しさを感じていた。


光弐「ふむ……飛鳥ちゃん、ちょっと」


ため息をついた光弐が飛鳥に近付き、建一から離れた位置に誘導する。


建一「…?」


首を傾げて見守る建一は、何か意図があるのかと予想して深くは追求しない。


それを確認すると、光弐は小声で話し始める。


光弐「俺には飛鳥ちゃんは建一に気があるとばかり思ってたんだけど、どうなんだよ」


飛鳥「だ、誰が…っ」


言い淀む飛鳥を見て、光弐は更に話を続ける。


光弐「建一は悪くない面してるし、飛鳥ちゃんを助けようとしてる時なんか男の俺でも素直に恰好良いと思えたぞ?」


飛鳥「それは…」


それ以上、飛鳥は光弐の言葉に反論する事ができなかった。


飛鳥「(渡の言う通りなのかもしれない……けれど)」


少なからず、私は赤羽を意識しているんだと思う。


しかし、自分が彼にしてしまった事の重さが、私を躊躇させている。


光弐「よく分からないなら、俺が確かめさせてやろっか?」


飛鳥「えっ、それってどういう…?」


その意図がわからずに困惑していると、渡は私の肩を持って赤羽の方向に回転させる。


光弐「そら、行って来~い!」


そして、そのまま文字通りに渡に背中を押される。


飛鳥「きゃっ…!?」


建一「…!」


私の身体は赤羽に向かって倒れてゆき、そのまま抱きとめられていた。


建一「…だ、大丈夫か?」


赤羽の顔が、近い。


少し顔を突き出せばキスしてしまいそうな、そんな距離。


飛鳥「…あ、ぁ。あわ」


心臓の鼓動が激しくなり、自分でも顔が紅潮していくのがわかる。


赤羽の体温が、直に伝わって来る。


ふと、ずっとこのままで居たいなどという事を考えてしまう。


建一「あっ、悪い…!」


飛鳥「……っ」


私を抱きしめ続けていた事に気付き、赤羽は慌てて手を離す。


赤羽の温もりが離れてゆき、少しだけ寂しさを感じた。


建一「テメェ光弐なにやってんだぁぁぁああああああ!!」


光弐「いや待て俺はお前達の事を考えてだな! えっ、なにブレード拾ってんの洒落にならないよそれいやマヂで死んじゃうからお願いだからそんな恐い顔しないで…ぎゃぁぁぁああああああああああああああ!!」


悪戯をした渡を、赤羽が追い回している。


心臓が激しく脈を打ち、自分ではどうしようも無いくらいに顔を紅潮させている私の姿に、2人は気付いていないのだろう。


思考で拒否しようとも、身体は正直だった。


これではもう、否定のしようがない。


飛鳥「(私は、赤羽の事が…)」


…この赤羽建一という人の事が、好きなんだ。

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