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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode2~トリカゴアソビ~
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EP2-019:力は救いの為に

十数機のアジャスターが散らばる様子は無く、未だ扉の前で停滞を続けている。


銀河「(まずは、扉から最も離れているあのアジャスターからだな)」


銀河は残り数発のライフルの弾を撃ち切り、狙いを定めていた1機のアジャスターを沈黙させる。


瞬間、十数機のアジャスターが一斉に銀河を捕捉するが、既に銀河は破壊したアジャスターが落としたライフルに手を伸ばしていた。


銀河「鉄屑が集まったところで、所詮は鉄屑だ」



―――つまらないな



自然とそんな考えが脳裏を過るが、それは急いでいる俺にとって好都合である筈だ。


しかし物足りない、達成感がない。


力の限りを尽くし、その果てに待つ悪しき者の鮮血が飛び散る光景が見たい。


銀河「(…!)」


胸の奥底から沸き上がってくる欲求に、驚きを隠せない。


何故そんな雑念を抱くのか……まさか、記憶を失う前の生い立ちが関係しているのか。


…俺には。


俺には、理解できない。



◆◆◆◆◆◆◆◆



一体どれだけの時間、私はこうしていたのだろうか。


出力を上げてゆく電流に苦しみながら、それが自分が他人に与えた"死"というものなのだと考える。


飛鳥「う、あっ…ぁぅ…っぐ…ああ゛っ!」


最初は静電気が起きた時のような痛みを想像していたのだが、実際は身体が痙攣し、思考がまとまらずに何も考えられなくなるような感覚だった。


いっそ強い電圧で気を失ってしまった方が楽なのだろうが、徐々に電圧が上がってゆくこの機械ではそれすらも許されない。


飛鳥「…っ! ひゃあぁああッ!?」


また少し電圧が上がったようだ。


辛く苦しい、可能なら逃げ出したいという思考が芽生える。


けれど、苦しくなければ罰ではないのだから、これでいい。


これで"償い"が出来る。


これで……許される?


飛鳥「あぅ……ぁぁああ…!」


駄目だ、もう何かを思案する事さえままならない。


意識に靄がかかり、私は眠るように……





建一「……飛鳥!!」


意識を失いそうになった瞬間、聞き覚えのあるその声に私は目を見開いた。



◆◆◆◆◆◆◆◆



建一は最初、その光景を見た時に血の気が引くような感覚を覚えた。


あの僅かに聞こえていた呻くような声の主は、あろう事か飛鳥だったのだ。


飛鳥「うぁ…ああぁ…あか……ば…!?」


建一を見て、驚きのあまり目を見開いく飛鳥。


建一「ま、待ってろ…今解放してやる……ぐうっ!?」


拘束具に触れようとした建一は、流れる電流に感電し思わず手を引っ込める。


建一「(飛鳥はいつからこんな目に、このままじゃ長くは持たないぞ!?)」


痺れを我慢して拘束具を外そうとする建一だが、感電によって手先が痙攣してしまう上に、左手は未だ傷口が痛む為に上手く力が入らない。


光弐「建一、こんな所にいたのか! 扉の向こうから銃声が…って、うぇ!?」


階段に座り込んでいた光弐も、建一を追って倉庫までやって来る。


建一「光弐! これ、なんとかならかいか…!?」


光弐「よ、よくわかんねぇけど…多分、どっかに説明書きが…あ、あった!」


光弐が説明文を読んでいる間も、建一は飛鳥を解放しようと腕の痺れに耐えながら懸命に拘束具を掴み続けている。


建一「飛鳥、こんな所で死ぬんじゃないぞ! あんな理由で…勝手に逃げられて、納得なんかして……ないからっ……な!」


無理矢理笑みを浮かべる建一に対して、飛鳥は目尻に涙を溜めていた。


飛鳥「(違う、違うの。これは私が望んだ罰で、赤羽の助けなんて……いらないのよ!)」


声に出して伝えたくても、飛鳥の身体を走り抜ける電流がそれを許さない。


光弐「け、建一! ここに5分間誰かが侵入すると、リ☆ア☆充☆爆☆破オチだぞ!?」


建一「だから奇妙な言い回しないでね!?」


光弐の言葉に、椅子から手を離してツッコミを入れる。


飛鳥を救いたいが、残された時間は5分も無い。


飛鳥「わ、わた…私…は、いいから……い、行って……あ゛ぁっ…が!」


打開策を思案している建一に、飛鳥は必死に声を絞り出してそれを伝えた。


飛鳥「(赤羽、お願いだから早く行って頂戴…!)」


私みたいな奴の為に、赤羽やその仲間が身体を張るなんて間違ってる。


やっと、背負い続けていた重荷を降ろす事が出来るんだから、邪魔をしないでよ。


建一「馬鹿だな、飛鳥。俺達はもう他人じゃないんだぞ、簡単に見捨てられるかよ」


何を、言ってるの。


貴方が私を救えなかった後悔なんて、命には変えられないじゃない。


今まで辛い思いをしてきた癖に、私なんかの為に幸せな未来の可能性を潰さないでよ。


建一「もう、誰かが死んでいくのを見るのは嫌なんだ。短い付き合いかもしれないけれど、それでも俺は飛鳥が大切だ」


飛鳥「(そんな言葉を掛けられても、嬉しくなんてない…っ。貴方の意思で巻き込まれるかもしれない仲間の事も考えなさいよ……!)」


飛鳥は建一の背後に居る光弐に視線を送る。


建一「光弐か? アイツは俺よりも筋金入りだから心配するな」


光弐「女の子の為に命を危険に曝すこの俺、渡光弐。命は惜しいが、ここで引いたら男じゃないぜ!」


親指を突き立てて笑顔を浮かべる光弐に、建一も釣られて笑みを浮かべる。


建一「そういう訳だ。お前の"日常"、俺達に救わせてくれよ」


なによ。


なんなのよ、この人達。


死が迫ってるこの状況で、なんでそんなに笑顔でいられるのよ。



飛鳥「うっ…うう………うわぁぁぁぁあああああああああああああああん!!」


私は彼等の、その温かな心に触れて涙していた。


今まで人の本性は醜いものだと信じて疑わなかったのに、こんなっ……こんな人達もいたんだね。


身体は痺れて言葉を発するのは辛かったけれど、泣き叫ぶのは思いの外簡単だった。


建一「光弐。この拘束具、銃で壊せないか?」


光弐「難しいだろうな。でもなんでだろ、焦るべきなのに死ぬ気が全くしないや」


建一「それはアレだろ。俺達はここでくたばっても悔いの無い、正しい選択をしたからに決まってる」


光弐「ハハッ、違いねぇな」


俺は1人じゃない。


大切な仲間、救いたい者。


そして何より、"あいつ"が待ってくれている帰るべき居場所がある。





建一「(それが、今の俺を突き動かす原動力だ!!)」



――ドクンッ!




世界が止まり、俺の全神経が思考する事に回される。


手繰れ、手繰れ、手繰れ、手繰れ……飛鳥を救う手立てを!



……ザザッ!



頭痛と共に思考にノイズがかかるが、更にそのノイズを抉じ開けるように飛鳥を救うべく無我夢中で手繰り続ける。


やがてノイズは朧気なビジョンへと変化し、電気椅子背後から伸びたコードの山が映し出される。


床下を通っているコードを見下ろす2つの人影が、何かを話している。



『右から開錠判定、電圧制御、ダミートラップを2つ挟んで、爆破カウント、死亡判定です。…屍如きに5分の猶予が必要だとは思えませんが』


『いや、勝利の確定したアソビなど存在してはならない。これは可能性の5分間、言わば一筋の光明』



徐々にビジョンがノイズの向こう側に閉ざされてゆき、世界の時が再び歩みを取り戻してゆく。


これで十分、手段はもう手繰り寄せた。


建一「(なんだったんだ、今のは? …とにかく、椅子の背後の床下だ)」


その椅子の背後に隠れた床には、目を凝らして見ないと分からないような、1つだけ不自然にズレた正方形のパネル。


そのズレた隙間にブレードの刃先をねじ込み、無理矢理パネルを外した。


光弐「な、なんでそんなん知ってるのサ!?」


建一「こっちが聞きたいくらいだよ」


そこには先刻脳裏に浮かんだ通りのコードが通っているのだから驚きだ。


コードは頑丈そうな作りをしているが、ブレードを思いきり振り下ろしたら手元が狂ってダミートラップのコードまで傷付けてしまう可能性がある。


建一「光弐、多分紫が電流調整で黄土色が侵入カウントだ。ダミートラップも混ざってると思うけど、いけるか」


光弐「おうおう、名誉挽回のチャンスだな任しとけ! ダブル・ダイナミック光弐シュウウウゥゥゥト!!」


相変わらずの掛け声と共に、光弐は見事に目的のコードを撃ち抜いていた。


飛鳥を苦しめていた電流が徐々に弱くなっていき、完全に止まった。


建一「よし!」

光弐「うおっしゃ!」


建一と光弐は、成功した喜びにハイタッチを交わした。


飛鳥「うあ、あ…はあっ……! はぁっ…はぁ……はぁ」


建一「今外してやるからな、飛鳥」


光弐「俺も手伝うぞー!……げへへ←」


建一が拘束具を弄っていると、光弐が満面の笑みを浮かべて乱入してきた。


建一「ん~? まさか、こんな状況で飛鳥に悪戯するとか言わないよなぁ光弐」


光弐「Oh...鉄壁の建一ガード」


少なからず欲求はあったのか、光弐は申し訳なさそうな表情で苦笑していた。


全ての拘束具を外し終えても飛鳥は座席にくたっと力無くもたれたままで、相当疲労しているのが伺える。


建一「飛鳥、立てそうか?」


飛鳥「無理……言うんじゃ………ないわよ」


飛鳥の目は虚ろで、今すぐにでも倒れてしまいそうだった。


建一「光弐、肩貸すの手伝……あー、駄目か光弐だもんな怪しい事しそうだ」


光弐「命懸けた俺のご褒美が今、粉々に砕けてこの世からdespaia…」


悲しそうに先に退室する光弐、せめて飛鳥が回復するまでは自重して貰わないとね。


建一は飛鳥に肩を貸して立ち上がらせ、ゆっくりと倉庫の外へと歩き出す。


飛鳥「…ねぇ、赤羽」


建一「なんだ…?」


飛鳥「私は、貴方に助けて貰うような善人なんかじゃないわ……どちらかというと、悪人の類」


まだ飛鳥は、その"罪"の全てを建一に話す勇気が出せない。


けれど聞かずにはいられない。


先刻まで話せなかった分、疲れていても疑問が止まらない。


飛鳥「だから罰を受けて楽になりたかった。私は、助けて欲しくなんて…無かったのよ」


建一「そんな意見は却下だ却下。俺の知ってる飛鳥は悪人なんかじゃなく、大切だって思える人だ」



――トクン



飛鳥「(ただでさえこんなに顔が近いのに、面と向かって"大切だ"なんて…)」


誰かにそんな言葉を掛けられるのは、本当に久しい。


久しいからこそ心は揺れて、心臓の鼓動が早まる。


飛鳥「いい……迷惑よ」


建一「その割には随分と泣いてたような」


飛鳥「あ…あれは貴方達みたいな馬鹿がいるのが信じられなくて、理解できなくてっ……ええと」


建一「ははっ、違いない」


私が照れ隠しをしているのはバレバレなのか、赤羽は笑っていた。


もしあのまま死ぬような事があれば、私は"また"彼からこの笑顔を奪っていたのかもしれない。


飛鳥「……ほ」


建一「…ほ?」


飛鳥「ホントに嬉しくなんて、ないんだから……っ」


顔を真っ赤にして呟いた飛鳥の言葉は、今までで1番説得力が無かった。



◆◆◆◆◆◆◆◆



少し離れた所から、建一達がようやく倉庫から出てきたのを確認する。


積もる話もあっただろうし、2人きりにしたのは正解かな。


光弐「おーおー、なかなか微笑ましい雰囲気じゃんか。しかしあんな可愛い女の子相手に零距離で煩悩抱かない建一もどうかしてるな。…っと、ん?」


先に扉の前に行って待っていようと考え、歩き出そうとした時。


床に落ちている古びた紙と、そこに記載されている文章が視界に入る。



『以下に記された条件を満たせ。


赤羽裕武:規定時間内に殺害が条件に入った人物を殺害せよ。』



な、なんだ…?


これはどういう事だ?


光弐「(赤羽っていうと、建一の父親とか兄弟とかの名前か?)」


開錠とは別の類の条件だけど、この建物の何処かに建一の血縁がいるという事なのだろうか。


しかし用紙の昔さを見る限り、つい最近印刷されたものでは無いだろう。


誰かの私物、かもしれない。


あの飛鳥って子は確実に俺達より先にこの階にいたんだろうけど…


光弐「まさか、な」


ふいに脳裏を過った考えを振り払い、光弐は裕武の名前が綴られた用紙をポケットに仕舞うのだった。

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