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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode2~トリカゴアソビ~
50/150

EP2-016:屍の悪魔

涼路晶人という想定外の介入者によって、邦和の優勢だった筈の戦況は激変していた。


邦和「(マズいな。銃はイカれて、2対1、オマケに乱入してきた若造はハンドガン持ちときた。…あまりに部が悪すぎる)」


弾切れ後の事を考えてナイフを所持してはいるものの、向こうが俺に拳銃を向けているこの状況をひっくり返す事は不可能。


邦和「命拾いしたな、初川。計画通りとはいかなかったが、中々に楽しかったぞ? …ククッ」


そう言い残し、邦和はあらかじめ用意しておいた逃げ道へと姿を消した。


晶人「…ふぅ、危ない橋だった」


それもその筈、とっくに4秒という時間は過ぎて邦和の銃のロックは解除されていたのだ。


もし本人にそれを気付かれていたら、今頃晶人達は亡き人となっていた事だろう。



観崎「みぎゅ、ほんとに助かったよ。お名前、聞いてもいいかな?」


晶人「涼路晶人だ、君は?」


観崎「晶人さんだね。私は、初川観崎っていうの!」


誘拐され、今まさに死の淵まで追い詰められていた少女とは思えない笑顔を見て、晶人は素直に"強い子だ"と感じていた。


観崎「あ、そうだ。…そこにね、次の階に行ける扉があるんだけど閉まってるみたいなの。あの赤髪の人が戻って来るかもしれないから、早く移動しないと」


晶人「そうだな。私が言うのもなんだが、命は大事にしないと」


あんな危険な男が徘徊しているだなんて、ますますこの地下施設に長居するのは危険だ。


晶人「(何事もなく脱出できるといいが…)」


とりあえず目前の危機からは逃れたが、私達はまだ危ない橋を渡っている真っ最中だという事を忘れてはいけない。



◆◆◆◆◆◆◆◆



背後を振り返りながら徐々に走る速度を緩めていき、俺は立ち止まった。


邦和「ここまで来れば問題ないな。…チッ、俺とした事がとんだ判断ミスだ」


恐らくあの若造はアジャスターの大群を追って来たのだろう、誤算としか言い様がない。


この『簡易ビースト』ギミックのデメリットとして、大量のアジャスターが異常なまでに目立つ点に気付けなかった。


邦和「(…まぁ、こうして生き延びたのだから良しとしよう。くたばっちゃ殺しもクソもない)」


俺が再び階段付近に戻って待ち伏せするかを考えていた、その時だ。



「階段、まだ?」


「あとちょっとですよ。あぁっ、そんな面倒臭そうな顔しないで!」


次なる"的"の登場に、俺は思わずほくそ笑んだ


1人殺せれば十分だが、さっきの乱入者のせいで不完全燃焼だ。


この際、2人共八つ裂きにしてやるのもいいかもしれない。


邦和「さて、どちらから殺してやるか…ククッ!」


つい先刻、観崎を殺そうとしていた邦和の狂気は、収まるどころか強まるばかりだった。



◆◆◆◆◆◆◆◆



飛鳥「(……まったく、人って分からない生き物ね)」


私は二人組の女性を尾行しながら、そんな事を考えていた。


二人の会話を盗み聞きして分かった事だが、最初の階で赤羽に襲い掛かろうとしたオレンジ髪の少女は「志崎」、その隣に居る青髪の女性は「可憐」と呼ばれている。


そのコミュニケーションを見ている限り、志崎と呼ばれた少女は疑心暗鬼に陥っていた時の面影を微塵も感じさせない。


あの可憐と呼ばれた女性が、何か志崎を信頼させるような事をしたのだろうか。


可憐「階段、まだ?」


楓「あとちょっとですよ。あぁっ、そんな面倒臭そうな顔しないで!」


飛鳥「(なによ、楽しそうな顔しちゃって…。赤の他人と群れるのがそんなに安心する訳?)」


彼女は私と同じ類いの人種だと思っていただけに、とても心を揺さぶられる。


私にも、あんな風に笑っていた頃があったっけ。


10年という歳月は、私に笑顔を忘れさせるには十分すぎた。


飛鳥「(私も誰かを信用すれば、またあんな風に…笑えるかしら)」







――バンッ!





楓「きゃああああああああああっ!?」


飛鳥「(悲鳴と、銃声…!?)」


少し考え事をしている間にいったい何が起きたのか、影から通路の様子を観察する。


邦和「クハハハハハハッ! なんだなんだ、とっくに治ってるんじゃないか!!」


そこには煙筒の上がる銃を握りながら笑う、赤髪の男の姿。


飛鳥「…あの男!」


見覚えがある、B7Fの階段前で一緒に行動していた少年を軽々しく裏切って殺そうとした奴だ。


可憐「志崎は、に…逃げて」


楓「あ…ああぁ…」


青髪の女の人は、右のふとももを手で押さえて表情を苦痛に歪めている。


撃たれた場所が場所だけに、逃亡は不可能だろう。


飛鳥「死ぬわね、あの女…」


間違いなく死ぬ、先制を取られた地点で勝ち目なんて無い。


これでは追跡は諦めるしかない。


階段付近までは来ているみたいだし、あとは自力で捜すしかなさそうだ。


赤羽を庇った時とは違って、彼女らを助ける気など起きなかった。


私が助けに行って、仮にそれが成功したとして。


それから、どうする?


私は結局、あの2人を信用する事ができずに裏切り見捨てる事になるだろう。


飛鳥「ごめんなさい」


誰にも聞き取れないような小さな声で呟き、飛鳥はその場から離れていった。



◆◆◆◆◆◆◆◆



痛い、それ以上に悲しい。


多分、私達がここに連れられた理由には"彼"が深く関わっている筈。


彼は成し遂げた筈だった、なのに結果はこれ。


可憐「(なんて、報われない…)」


邦和「お前もそうなのか。どうやらここにいる奴等は自分より他人を優先する傾向にあるらしい。甘ちゃんじゃねぇの…そういうのは自分の身を守る余裕がある奴のする事だ」


勝利を確信した余裕からか、私を撃った男の人は何かをブツブツ呟いている。


今のうちに志崎を逃がさなければ、"彼"の為にもより多くの命を救う…それが私の決断。


可憐「なにをしてるの、志崎。早くここから離れなさい…ッ」


楓「で…でも、でもぉっ…可憐さん……血が…」


可憐「いいから早く。貴方までここで死ぬような事があったら、それは足手まといになった私のせい。…私を困らせないで」


楓「可憐さん…っ」


説得を試みても、志崎はまだ私を見捨てる決断が出来ないでいるようだ。


邦和「ふん、逃がすとでも思ってるのか? 悪いが2人共死んで貰うぞ」


今度は志崎に銃口が向けられる。


駄目、彼女を殺させる訳にはいかない。


今だけでいい、ほんの少しの間だけでいいから動いて…私の身体。







――バンッ!






可憐「かは――ッ!」


楓「ひっ…!?」


痛みに悲鳴を上げる身体を無理矢理投げ出して、可憐は楓が被弾するはずだった銃弾を代わりに受けていた。


そのまま可憐の身体はぴしゃりと血飛沫を撒き散らして床に倒れ込み、虚ろな瞳で楓を見上げる。


可憐「早…く、逃げ…な……さ………」


もはや痛みを通り越して、意識が朦朧としてゆく。


心臓近くを撃たれてしまったらしい、私の周囲には大きな血溜まりが出来ている。


このまま私が事切れてしまっては、志崎が逃げる為の時間が稼げない…。


志崎「い…嫌ぁぁぁぁぁぁああああ!!」


ようやく死の恐怖が見捨てる抵抗を上回ったのか、志崎が悲鳴を上げて逃げ出す。


邦和「いたぶる楽しみの為にわざと足を狙ったというのに、馬鹿な奴め。2人共逃がさないと言っているだろう」


男の人は再び逃げる志崎の背中に銃を向けるが、私の身体はもう動きそうにない。


可憐「(たった1人の命も救えないまま……これじゃあ"彼"に顔向け出来ない)」





――オイ



…………?



――ソコノ女。私ハ退屈ダ、ソノ悔シサ……私ガ代ワリニ晴ラシテヤロウ。


なんなの、この声は。


けれど……私の代わりに志崎が逃げる時間を稼いでくれるというのなら。


それさえ出来れば、彼の支えになると誓った私の最後としては十分だ。



――ナラバ眠ルガイイ。ソウスレバ、後ハワタシノ時間ダ。



……あぁ、そうか。


"そういう事"だったんだ。


こんな馬鹿げた事ができる人達を相手に、勝てる訳……ないじゃない。


私も、彼も……ずっとあの人達の掌の上。


可憐「(…悔しいよ、"そーやん")」


今亡き彼の姿を脳裏に浮かべて、私の意識は闇に呑み込まれていった。



◆◆◆◆◆◆◆◆



可憐「――」


邦和「…あ?」


もう死んでいるだろうと思っていた女から……生まれて数度だけ味わった事のある背筋が凍り付くような殺気を感じる。


瞬間、女の身体がゆらりと起き上がった。


邦和「冗談だろ……」


腹部と口の端から血を流し続けながらも表情に苦痛の欠片も見当たらないその姿は、今まで殺して来たどんな手練れよりも不気味に感じる。


可憐「殺人フェチとは随分な病気だな。数刻だけその娯楽に私が付き合ってやろう」


邦和「…言ってくれるじゃねぇか、死に損ないが」


この女、腹に弾食らってるっていうのに…あの余裕はなんだ。


まぁいい、どちらにせよ流れはこっちにある。


直ぐに息の根を止めてやるとし…



可憐「何をボーっと突っ立っている」


邦和「!?」


なんだ!? あの女の身体が急に目前に…


邦和「ガハッ…!」


頭に強い衝撃を受け、邦和は床に倒れ込む。


突き出した腕をゆっくり下げながら、それを見下ろしている可憐。


ただ一度可憐が放った拳だけで、状況は逆転していた。


可憐「どうした、その手に握られている銃は飾りか?」


邦和「クソッ、舐めやがって…」


邦和は血と唾液が混ざり合った液体をペッ、と吐き出した。


何故だ?


何故動ける?


確かに足と心臓近くに銃弾を撃ち込んだ、そう簡単には立てない……むしろ死んでいてもおかしくない筈なんだ。


可憐「…足掻いてみせろ、この程度なのか」


邦和「が…っ!」


今度は脇腹に蹴りを入れられ、立ち上がろうとしていた邦和は再び地に伏せられる。


邦和「(何故だ、いつもならこんな蹴りくらい……見切れて当然の筈だ)」


それが恐怖から無意識に行動が制限されてしまっているのだと、邦和は気付かない。


邦和はなんとか握り続けていた銃を、可憐に向けて構えようとする。


可憐「…そろそろか」


そう呟くと、可憐は邦和の手に握らている銃を掴み、自らの喉元に突き付けた。


邦和「オイ、な……何するつもりだ!?」


可憐「意識が途切れて事切れるよりは、こちらの方が散り様として美しい」


そう口にして、可憐は銃のトリガーを自ら引いた。


銃声と共に可憐の首から血飛沫が吹き出しその身体が床に倒れ込む間も、邦和は返り血を浴びながらただ驚きに目を見開いていた。


邦和「はっ…ハハ…ハ」


今、自分の目の前で起きた事が理解できずに、邦和は渇いた笑い声をあげる事しか出来なかった。




『施設内に死体反応アリ。回収を行うので、死体から離れて下さい』


その機械音声と共に「ビーッ!ビーッ!」と通路に鳴り響く警報。


そこでようやく、邦和は目の前のバケモノは死んだのだと信じる事ができた。


邦和「なんだったんだ…こいつは」


1歩、また1歩と後退りをする邦和。


ガコン、という音と共に可憐の周囲の床が開き、下の階へと落下していく。


邦和がその床に出来た穴を覗くと、下の階も、さらにその下の階も同じ場所に穴が開いており、可憐の身体は遥か下方の奈落の底へと吸い込まれていった。


邦和「まぁいいさ…。これであの扉の真偽が確かめられる」


恐怖を振り切るように、今見た者を拒み忘れろうとしているかのように。


邦和は大量の血だけが残った通路から離れていった。

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