EP2-010:鉄壁装甲
珠田の話を聞いているうちに、コマンドマンが設置されていると予測した場所に辿り着く。
銀河「この周辺から調べて回るか」
まる「…? 地図だとなにもない部屋ばっかりですよ」
銀河「だからこそ、だ。地図を得た者なら、こんな周辺に何もない場所に来る事はないだろう」
まる「なるほど、隠してるわけですね!」
早速、周囲の部屋を片っ端から調べて回ろうとする。
まる「ぴろりろりーん! アジャスターのつるぎ を てにいれた!▽」
銀河「…なに?」
珠田はアジャスターの装備である筈のブレードを持っていた。
B8Fで俺が破壊したアジャスターの武器は、重くかさばるからと回収しなかった筈だが……。
まる「"らいふる"の方も落ちてますよ、ほら」
珠田が指差した場所には、確かにアジャスターの装備と同じ種類のライフルが転がっている。
銀河「(すると、本体だけがここで持ち去られた…?)」
そんな事をして何になる?
正常な判断力を持ち合わせている者なら、武器を回収していくだろう。
銀河「(単にこの周辺で荷物が増え、捨られたのかもしれないな…)」
ひとまず銀河は、コマンドマンを破壊する為の道具としてそれらを回収する事にした。
実際はつい先刻までこの場に居た龍哉が、アジャスターの本体を回収した際に捨てた武器である事を2人は知る由も無い。
まる「…あれっ、何か聞こえませんか?」
銀河「そうだな、先刻から僅かに音が聞こえる。何の音か分かるか?」
まる「たぶん、電気ですね。ぱちっ、ぱちって…………ああっ!?」
自分で言葉にして気がついたのか、まるは手を打つ。
銀河「……近くに居るな」
こんな予測で済むとは、確証はなかったが案外どうにかなるものだ。
まる「ど、どどどうしましょう。ひとつずつ開けていけばいいですか?」
銀河「いや…音が聞こえてくる方向からして、この扉で間違いないだろう」
ひとつの扉を指差し、銀河はゆっくりと近づいてゆく。
そして、ドアノブに手を伸ばし……
バチィッ!
静電気のそれと似通った音が鳴り、銀河は思わず手を引く。
銀河「……っく、反対側のドアノブとコマンドマンのコードが接触しているのか?」
まる「あわっ……流石にゴム手袋なんて持ってないですよ?」
確かにゴム手袋があれば理想的だが、必須という訳ではない。
もう一度に手を伸ばし、今度は感電しながらもドアノブを掴んで扉を勢い良く開け放った。
銀河「珠田、扉を支えておけ」
まる「ら、らじゃーです!」
珠田が両手で扉を押さえたのを確認して、室内へと視線を向ける。
そこには資料室のサンプルと瓜二つの鉄箱、コマンドマンが静かに佇んでいた。
ひとつだけ違ったのは、タコ足のような十数本のコードが生きているかのように蠢いている事。
コマンドマンの近くで電灯は機能しないのか、部屋の中は薄暗くなっていて、より不気味に見える。
銀河「(やはり近接武器のナイフでは不利か、しかし……)」
拾った時から既に予備動作を終えていたライフルを構え、トリガーを引いた。
連続した銃声と共に無数の銃弾がコマンドマン目掛けて発射されるが、銀河は途中で発砲を止めて扉の外に身を隠した。
銀河「(……予想以上に硬い、宙にぶら下がっているから衝撃が緩和されているのか)」
気が付けば、跳弾によって四方八方に弾痕が刻まれていた。
途中で気付けたから良かったものの、撃ち続けていればどうなっていたか分からない。
そして肝心のダメージはというと、どの弾痕も装甲が少し陥没しているだけで致命的な損傷は負わせられなかった。
銀河「……どうにかして本体を天井から切り離さないとな」
それさえ決まれば、時間をかけて壊す事も出来る。
まる「でも、コードがうねうねしてますから部屋には入れませんよ?」
銀河「それなんだが、珠田。もう一度コマンドマンの情報を見せてくれ」
まる「まるは扉を支えるのでけっこういっぱいいっぱいなんですけど……」
銀河「……勝手に見せて貰うぞ」
まる「割と遠慮なく漁りますね……まるも一応は女の子なんですけど」
銀河は情報を見るのに集中しているようで、まるもそれ以上は追求しなかった。
銀河「(やはり『赤外線』で対象を認識していると記述されている。……では、こうして奴の死角で待機していれば、どうなる?)」
珠田にもなるべくコマンドマンの視界から消えるようジェスチャーを送る。
まる「(……おまえ、が、たたかえ?)」
ぶるぶると必死に首を左右に振る珠田、どうやら全然通じていないらしい。
そんな事をしているうちに、心なしかバチバチとやかましかった放電音が小さくなっていた。
銀河「(俺達が認識されなければ必要に攻撃される事も無い訳だ、考えてみれば当たり前の事か)」
ならば、そのセンサーさえ破壊すれば奴に近付けるようになる。
今見えている部分にそういったものは見当たらないが、必ずセンサーは存在する筈だ。
まる「あわわ… 銀河さんっ、アジャスターが来ちゃいました!」
銀河「…そうか」
珠田に言われるまでもなく分かっていたが、相槌を打たないと後々不機嫌な顔をされるので返事だけはしておく。
コマンドマンには殺傷能力の高い攻撃手段は無いので地道な探りをしているが、アジャスターが相手なら話は別だ。
銀河「速攻で破壊させて貰う」
銀河はライフルを構え、アジャスターの頭部に狙いを定める。
目立つ場所にセンサーがあるアジャスターは破壊が容易、とはいっても先にライフルのトリガーを引かれてしまえば破壊どころではない。
アジャスターの方もライフルを構えようとするが、もう遅かった。
銀河のライフルから放たれた銃弾が真っ直ぐアジャスターの頭部へと軌道を描き、ガラス部分を突き抜けてセンサーを破壊していた。
まる「いえーい、じゃすてぃすっ!」
銀河「最初は悪者だと言われていた気がするんだが?」
まる「…実は『じゃすてぃす』の意味が分からなかったりします」
銀河「……」
だったら使うなという話だが、ひとまずはコマンドマンを破壊する事に思考を戻す。
まる「あっ」
銀河「なんだ?」
まる「アジャスターさんの御遺体をミガワリで放り込んだら隙が出来るかもですね」
Justiceはともかく、御遺体なんて言葉を何処で覚えたのか気になるところだ。
銀河「試してみるか?」
まる「はいっ」
アジャスターの両手に握られている武器は床に捨て置いてから、本体を部屋の中に放り込んだ。
するとどうだろう、コマンドマンのコードが数本ほどアジャスターの背中に接続され、耳につく機動音が再び……
銀河「なるほど、コマンドマンが壊れたアジャスターのセンサーを補っているのか。念の為に武器を取り上げておいて良かった」
殴り掛かってくるアジャスターの拳を掴み、室内に向けて機体を蹴り跳ばしながらため息をつく銀河。
まる「……ご、ごめんなさいっ!」
銀河「…ん?」
まる「その、余計な事しちゃいました……叱ってくれていいんですよ?」
まるは申し訳なさそうにもじもじと身体の半分を扉で隠しながら、次の銀河の言葉を待っている。
銀河「よく表情の変わる奴だ」
まる「それは銀河さんが変わらなさすぎるだけですよ! 何考えてるか分からないから怒らせたかもと思うと恐いんですよ~っ!」
銀河「怒りなどという感情は、俺には理解できないな。そんな事よりコマンドマンのセンサーを探す事の方が先決だ。武器の無いアジャスターなど、さほど驚異には感じないからな」
まる「(ううっ、本当に気にしてないみたいです。こうなったらセンサーとやらを見つけて"おめーへんじょー"するしか…)」
まるが唸りながら考えている間も、銀河は黙々とアジャスターの拳を受け止めては殴る蹴るで室内に押し返している。
まる「(そういえばまるがやってるゲームにも、弱点とかそういうのがあるモンスターさんが居たような……どんな感じだったかなぁ)」
友達の家でやり込んだ記憶を辿りながら、友達の父親から教わった事が脳裏に過る。
まる「(ちーとモンスターに見えて、意外と見のがしてる所に弱点があったりする。だったっけ……?)」
そっと室内を覗き込み、その全体図をよく観察する。
まる「う~、うねうねしてて見辛い…」
本当に生きてるみたいに忙しく動いているコード達、何本あるのかと目で追うのも嫌になってくる。
まる「(……あれ?)」
もしかしたら、もしかするかもしれない。
まるには無理だけど、銀河さんなら確認できるはず。
まる「銀河さんっ、コードの先っちょとかにあったりしませんか、センサー!」
銀河「…コードの先端?」
再び銀河がアジャスターを室内に押し返し、コマンドマンのコードを念入りに観察する。
銀河「どれも同じ形状をしているが…」
まる「じゃあ、ぜんぶかもしれないです」
タコだったかイカだったか、触手を全て破壊する事で倒せるモンスターが居た事を思い出してまるはそう口にしたが、勘に近いもので確証など無かった。
銀河「…ふむ、あの蠢くコードの先端を全て破壊するのか」
まる「あわっ……なんか命令っぽくてごめんなさいっ! 別に勘違いかもですしっ……」
自分は銀河に無茶な要求を強いているのではないかと思い、咄嗟に発言を撤回しようとする。
しかし、銀河は首を横に振る。
銀河「正直なところ、俺には策が無い。お前がそう感じたのなら、試せるだけの力は持っているつもりだ」
まる「その…えっと……」
銀河「"試してみるか?"」
さっき失敗してしまった時と同じ質問、銀河さんはずっとまるの話を嘘だと疑ったりしなかった、信じてくれていた。
何を考えてるか分からないなんて思ってたけど、やっぱりぜんぜんそんな事はない。
信頼、されてるんだ。
まる「…はいっ! 遠慮なくやっちゃって下さいっ」
銀河「もとより機械相手に遠慮するつもりは無い」
再び突進してくるアジャスターの拳を避け、右手で頭部を掴んで床に叩きつける。
そしてアジャスターの背中に繋がっている3本のコードの先端に、左手に持っていたナイフを順番に突き刺してゆく。
それはコードを切り裂いただけでなく何かを砕いたような感触があったが、既に俺は深く思案する事を止めていた。
銀河「(考えるのは、指示を成し遂げてからだ。それまでは、無心でいい)」
指示を受け、遂行する。
ただそれだけの事に、不思議と懐かしさを感じていた。
銀河「……」
銀河は自身に向かって四方八方から迫るコードのうちの1つを掴み、自分の目の前まで引き寄せる。
コードから電流が流され、身体が悲鳴を上げているのがろうが、その思考はコードの先端を裂く事にのみ向いている。
そのまま先刻と同じように、コードに向けてナイフを突き立ててゆく。
1つ、また1つと同様の動作でコードの先端を壊していく銀河。
まる「わぁ…」
流れるように戦う銀河の姿はまるで見世物であるかのようで、まるは素直に魅せられていた。
銀河「これでラストだ」
最後のコードの先端にナイフを突き刺した時、今まで蠢いていた全てのコードがピタリと動作を停止した。
それはまるの勘が正しかった事を意味し、事実上コマンドマンの無力化が確定したという事でもある。
銀河「お前の見立て通りだったな、珠田」
まる「―――」
銀河「珠田…?」
まるはぼーっと何も無い場所を見つめて上の空といった様子で、銀河の言葉も聞こえていないようだった。
どうやら銀河が戦っているのを見て、自分の世界にトリップしてしまったらしい。
銀河「(まぁいいか、どうせ今から時間を掛けてアレを叩き壊す作業だ。終わったら声を掛けよう)」
廊下に散らばった武器を広い上げ、銀河はコマンドマンの破壊作業に打ち込み始めた。




