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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode2~トリカゴアソビ~
43/150

EP2-009:Commandman

計画の開始から6時間が経過。


現在の死亡者、無し。


参加者全員がB7Fに到達し、地図を得た者は4名、うち2名は近場の資料室に立ち寄った後ゲートに向かい、もう2名は全ての資料室を探索している模様。


機能停止したCode-0Aは2機、うち1機の残骸が回収できておらず、一部のCode-0A、Code-0Bが探索中。


尚、当初の参加予定者10名に加え2名の人物が確認されており、(マスター)不在につき故意の侵入者であるかどうかの確認が困難。

よって現状維持と共に、2名を"イレギュラー"扱いとして素性を捜索。



「……こんな遠方の施設にイレギュラーが紛れ込むなんて、主達が故意に行ったとしか思えませんが」


明かりの灯らない暗闇が広がる一室で、モニターの光を眺めていた少女が言葉を漏らす。


――本当に侵入者であるならば、この施設に侵入できる地点で一般人である訳がない。


そんな人物の素性を、主のようなコネクションを持たない私が簡単に探れるとは思わない。


「侵入したところで、蟻地獄に足を踏み入れたようなものです」


逃がしはしない、ここで主達の"目的"の礎になって貰おう。


主帰還の刻を待ち、今はただ彼等12名の監視を続けるのみ。



◆◆◆◆◆◆◆◆



B7Fの地図を入手し、階段へと向かった2名の参加者……銀河とまるはその扉に辿り着くも、まだ開錠には至っていなかった。


『開錠:1人以上の死者と、この階で5機以上のAdjusterの破壊が確認されている事』


銀河「1名以上の死者、これはフェイクだな」


まる「ふぇいく?」


銀河「俺達が回った資料室の文章を覚えているか?」


まる「えっと……まってくださいね」


まるはごそごそと荷物を漁り、シンプルなデザインのデジタルカメラを取り出す。


そして慣れない手つきでボタンを操作し、2人が回った資料室の写真を表示させた。


1つはアジャスターについての情報、ここで銀河が注目したのはもう1つの情報だった。


まる「…これですか?」


そこには天井から配線に繋がれてぶら下がっている直方体の鉄箱があり、更に箱の下からはタコ足のように四方八方にコードが飛び出ていた。


『Commandman:赤外線センサーを使ってターゲットを特定する。ターゲットを確認した場合、下部のコードに電流を流してターゲットに接触させる。Commandmanの破壊は1人分の死者として扱い、死体回収システムも作動する』


銀河「……あぁ、最初はこいつの存在意義が分からなかったが、死者をカウントする条件が儲けられているのなら、条件の抜け道で間違いないだろう」


同時に、コマンドマンについての知識が無い者がこの条件を鵜呑みにする事の危険性も理解する。


今ここで珠田を殺害するのが最も楽な手段ではあるが、それは何か違うと俺の本能が拒否している。


銀河「…コマンドマンの捜索をする」


まる「はい! …でも、どこに居るか分からないですよ?」


銀河「そうだな。だが、推測はできる」


これを考えた人物は、表向きは殺し合いの条件を提示しておきながら、その抜け道を用意しておくような奴だ。


見つけにくい位置に配置しているとは思えないが、だからといってコマンドマンの知識を持たない者には発見されたくはない筈。


銀河「この階の地図を出してくれ」


まる「はいはーい、これですね」


珠田のデジタルカメラを手に取り、地図を凝視する。


銀河「よし、移動するぞ」


まる「えっ、何処にですか、なんで分かるんですか、教えてくださいよ~!」


まるはひょこひょこ跳ね回りながら訪ねるが、銀河は問いには答えず黙々と歩いている。


銀河「(しかし、コマンドマンをナイフ一本で片付けられるとは思えないな。先に武装を強化すべきか……まずは向かって確かめてみるか、あまり急く必要もないだろう)」


まる「(む~、銀河さんは説明と質問以外だとぜんぜん喋ってくれません…)」


こういう時は、そうだ……テレビでやっていたあれを試してみよう。


まる「教えてくれないのなら……"たべてあげてもいいのよ?"」


スカートの両端を指でつまんで不適な笑みを浮かべるまる、母親が見ていた昼ドラの類の影響だった。


銀河「それはどういう意味だ、何故脅しになる?」


まる「……ぜんっぜん分からないです」


銀河「そうか、お前にも理解できないのか」


それだけ言うと再び歩き出す銀河だったが、心なしか残念そうな表情をしていたのをまるは見逃さなかった。


まる「やっぱり、知りたかったですか?」


まるの問いに銀河は素直に頷く。


銀河「記憶の無い俺にも直感的に思い出せる事はある……が、基本的には分からない事だらけだ。俺の知らない、理解できない事象があるなら……それを知りたい」


まる「っ! じゃあ、じゃあ……まるが知ってる事なら色々教えてあげますよ!」


それで銀河と会話をする事が出来るのならと、まるは瞳を輝かせてはりきっている。


銀河「俺に必要な情報をくれるのなら、代わりに俺も何かをするべきだ。何をすればいい?」


まる「えっ、ただお話するだけですよ。そんなたいした事じゃ…」


銀河「それはお前の価値観だ。俺にとって知識とは記憶が戻るきっかけなる重要なもの。一方的に俺が情報を得るだけでは不平等だ」


まるは珍しく食い付いてくる銀河を見て、とりあえず聞いておくという利口な選択肢を取ればいいのにと内心面倒臭さを感じていた。


まる「でも、不平等って言われても……どれくらいの事まで言っていいんですか?」


銀河「そうだな……指の1本や2本なら失っても構わん」


あろうことか銀河はナイフを取り出して右手の薬指に狙いを定める。


まる「あわわわわわわ! そんな事されてもちっとも嬉しくないですよ!」


銀河「…では、右手ごと切断する程度の覚悟は決めよう」


まる「きゃあああああ! とにかくナイフは仕舞ってください仕舞ってください~っ!!」


まるの必死の説得で、とりあえず銀河はナイフを仕舞った。


まる「だったらですね……その、えっと、笑わないでくださいね?」


銀河「俺が笑えないと最初に指摘したお前が何を言う」


それもそうですね、とまるは苦笑いを浮かべる。


まる「銀河さんの記憶が戻らなかったら、まるのお父さ……じゃなくて、お兄さんになってくれませんか」


そう尋ねた後に、まるは黙ったまま考え込んでいる銀河の顔色をちらちらと伺う。


銀河「…俺にとって"柳原"という姓は、唯一残された血縁を示す情報だ。それを捨てなくても良いというのなら……宿無しの俺に断る理由は無い」


まる「ほ、ほんとですか…? ほんとに……」


銀河「ここから脱出しても記憶が戻らなかった場合の話だろう? 構わないと言っている」


まる「……」


あまりにあっさり承諾されてしまって呆気に取られるまる。


銀河「どうした」


まる「えと、本当にオッケーくれるなんて思わなくて……だからって冗談で言ったんじゃないですけど」


銀河「確かに突拍子もない話だが、もし記憶が戻らないのなら……何も無い俺が他者との縁を築くのも悪くない、そう考えた」


意味を理解せずに安易な決断をした訳ではない事にまるは安心して、今度は銀河に微笑み返す。


まる「じゃあ、早速ですね。"くれーぷ"って食べ物を知ってますか? こんな感じの形をしててですね……」


身振り手振りで、自分が好きなもの・素晴らしいと感じた事を次々と伝えてゆくまる。


初めて聞く単語に銀河も真剣に耳を傾け、相槌を打っている。


まるの約束など無くとも、2人は既に兄妹のように言葉を交わしていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆



片手に大きなバッテリーを持って、ある一室から男が姿を現す。


龍哉「……燃料の確保、完了」


その男、龍哉が出てきた部屋にはコマンドマンが配置されていて、その放電の特性を利用してバッテリーの充電作業をしていた。


龍哉「あと1つで間接的に動く準備が整う……」


コマンドマンを破壊しようとする訳でもなく、龍哉は部屋の扉を閉めた。


彼の目的は脱出ではなく、そのためコマンドマンを破壊する必要も無い。


龍哉「…ここまで自由に動いて、なんの妨害も無しか」


乱入して好き放題行動しているというのに、この施設で脱出ゲームじみた事を行っているはずの主催者は全く動きを見せない。


龍哉「それとも…あえて見逃されているのか?」


何度も彼等の術中に嵌まってしまっているだけに、油断は出来ない。


だからこその間接的な行動、これは幾度とないチャンスなのだから、必ず目的を成し遂げてみせる。


この身体は、命は、その為だけに生き長らえている。


龍哉「……ようやく来たか、最後のひとつが」


徐々に近づいてくる機動音を聞いて、龍哉はそう呟いた。


アジャスターも電力で動いていて、消耗すれば当然「充電」が必要だ。


コマンドマンはその用途も兼ねて放電という地味な攻撃法を取っているのだろう。


視界にアジャスターの姿が現れ、こちらにライフルを向けて来る。


しかし、一向に撃ってくる気配を見せない。


龍哉「……無駄弾と踏んだか、そこまで思案できる辺り何者かが操作しているな?」


『……』


アジャスターにはスピーカー機能も積まれている筈だが、会話する気は無いらしい。


龍哉「どのちち充電切れが近い機体だろう、諦めて"譲れ"」


『……行方不明のアジャスターは、貴方の仕業でしたか』


あえてアジャスターを欲している言い回しをすると、予想通り食い付いて来た。


聞き覚えのある少女らしき声に、俺は今まで一切の邪魔をされなかった理由を理解する。


彼女には、施設に介入する権限など無いはずだからだ。


龍哉「俺はあくまで、そちらが用意したルールの範囲で動いている。文句は無いだろう、"獣"」


『…貴方の目的は分かっています。しかし、貴方に"主"が見つけられますか?』


龍哉「見つける、必ずな。その過程も含めて全て奴の計画通りなんだろうが、構わない」


『貴方が計画を潰すつもりでない事に感謝し、私もひとつだけ情報を提示しましょう。貴方を含めてイレギュラーは"2つ"存在します…それでは、ご武運を』


ジジッという僅かなノイズと共に通話は切れ、アジャスターは力なくその場に倒れる。


龍哉「イレギュラーは……"2つ"?」


思い当たる節が全く無い、情報からの行動予測をするならばイレギュラーの存在はその妨げになる。


龍哉「(獣め、俺がイレギュラーを探索すると踏んで、わざと情報を与えたな)」


主に似て姑息な奴だと思いながらも、ひとまずは予定通り慎重に動く事にしよう。


意外にも傷ひとつ無いアジャスターが簡単に手に入ってしまい、準備は整っている。


龍哉「もはや最初の階層で破壊されていたアジャスターは不要か……適当に捨て置けば回収されるだろう」


そういえば、あのアジャスターは随分とぞんざいな扱いを受けていたが……。


弾痕が確認されなかった事から、反撃する間もなく破壊されたのだろうが……果たして誰の仕業だ?


俺が予測した参加者の中では、天真家最後の生き残りである天真邦和辺りが最も実力も伴い気性が荒そうではある。


龍哉「……が、どうも引っかかるな」


あの手の人間が機械相手に荒ぶるような事もあるのだろうか、俺には到底理解できそうにない。


ともかく、これについては考えるだけ無駄な疑問、頭の片隅に止めておく程度にしよう。


龍哉「そろそろ、参加者の誰かがB7Fの扉に着く頃か」


するとコマンドマンがいるこの場所には、近いうちに誰かが現れるだろう。


早期の接触にあまり意味は無い、ここは速やかに撤退するのみだ。


龍哉「…もうすぐだ、もうすぐお前に辿り着く」


果たしてその言葉は、誰に向けたものだったのか……それは当人にしか分からない。


龍哉はアジャスターの首を掴み、引きずりながらその場を後にした。

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