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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode2~トリカゴアソビ~
42/150

EP2-008:戦地の蕾達

建一達をはじめ、生存者の半数近くはB7Fに移動していた。


彼等より一足遅れて、二人組の少女がB7Fに到達する。


観崎「と~うちゃーく、ここから先の地図は無いんだっけ?」


由乃「そうですね、この階層でもやっぱり地図探しが目的になりそうです」


二人が他の生存者に比べ遅れていたのには理由がある。


1つは、遠回りになるのを承知で由乃が武器管理室に立ち寄って来た事。


もう1つは……


観崎「みぎゅ、由乃ちゃんのご飯美味しかったなぁ。私も出来ない事はないけど、最近サボりがちだからあんなに美味しくはできないかも」


由乃「え、えと……ありがとうございます」


…運悪く地図を見つけられずに空腹でうずくまっていた観崎を、通り掛かった由乃が介抱したからである。


観崎「むむっ、由乃ちゃんならもしかして…」


由乃「…?」


由乃をじろじろと凝視しながら唸る観崎。


観崎「尽くしてくれる系の彼女さん募集中な幼馴染がいるんだけど、由乃ちゃんはどう!?」


由乃「ええっ!?」


普段の観崎を知っている者にとってはいつも通りの勧誘であるが、初見の由乃は突然の提案におろおろと焦りを見せる。


由乃「い、いきなりすぎますよ…。それに、会ってもいないのに決められませんし」


観崎「みぎゅ…確かに本人が居ないとなんともね。あ~あ、建一も誘拐されて来ないかなぁ」


その不謹慎な発言は既に現実のものとなっているのだが、観崎にそれを知る術は無い。


観崎がぼそっと漏らした小言を聞いて、由乃の表情が強ばる。


由乃「…けん、いち?」


観崎「そ、建一、赤羽建一。その反応は、もしかして知り合いだったりする?」


由乃「あ、いえ……赤羽、ですか。人違いだったみたいです」


首を横に振って失笑している由乃に、観崎は首を傾げながらも深くは追求しない事にした。


由乃「どうして…その、赤羽君の彼女を探そうと?」


観崎「えっ? ええと…そういう約束なの、大切な物を一緒に探してあげるって」


まだまだ全然役に立ててないんだけどね、と観崎は笑う。


由乃「でも、その約束はきっと赤羽君の支えになっていると思いますよ」


観崎「由乃ちゃん…」


少し恥ずかしそうに頬を掻く観崎、由乃はその姿を見て決意を固めていた。


由乃「(私は、この人を護りたい。1つの約束をここまで大切にできる、そんな初川さんを…)」


一度約束したくせに恐くて逃げ出してしまった私だから、初川さんには成し遂げられなかった後悔をして欲しくない。


そして、私は今度こそ恐くても逃げ出さないという意味での決意でもある。


由乃「あの、それで……初川さんが持っているその刃物は何なんですか?」


観崎が持っている「初川」とマジックで落書きされたブレードを指差す由乃。


観崎「これはね、初川包丁! アジャスターの説明があった資料室で拾ってきたんだよ」


由乃「見るからに武装してるって感じで、最初はびっくりしましたよ」


空腹でひきつった表情でブレードを引きずっている人と鉢合わせ、驚かない方が無理な話である。


観崎「みぎゅ、でも由乃ちゃんだって『動かないで下さい』って銃で脅したじゃない、おあいこだよ?」


由乃「うっ、それは……びっくりした条件反射というか、癖で……つい」


観崎「癖?」


由乃「あ、近所のお店が主催しているイベントでですね。よく背後から無力化したりするので…」


観崎「???」


言葉の意味が分からずに図上にクエスチョンマークを浮かべている観崎。


由乃「えっと、つまり……」


ごそごそと鞄の中を漁り、由乃が銃を取り出す。


由乃「こういう事です」


ただし出会い頭に観崎に向けた実銃とは違う、玩具のエアーガン。


白マジックで「由乃」と名前が落書きされている辺り、観崎の初川包丁と似たようなものを感じる。


総じて、由乃は普段からエアーガンでサバイバルゲームをしていたという事を観崎はようやく理解する。


観崎「みぎゅ、なるほどなるほど……。どうして興味を持ったのかな、やっぱり格好いいから?」


由乃「それもありますけど、やっぱり決め手になったのは…………」



………


……




幼い頃の私は今よりも更に内気で、相槌以外の言葉を発すれば「峰沢が喋った!」と皆から驚かれる程に無口だった。


そんな性格が祟って、初めて出来た友達と呼べる存在を失ってしまった。


別にその友達が死んでしまったという訳ではないが、二度と会う事は叶わないだろう。


こんな自分を変えたい、心底そう思った。


自分に自信がない、なにかひとつ……可能なら目に見えた力が欲しい。


柔道や剣道は無理だ、自分は運動神経が卓越している訳ではない。


そんな時、テレビでたまたま親がつけていた外国のガンアクション映画を見た。


これだ、そう思った。






由乃「お、おねがいします」


店長「そう何度も来られても、無理なものは無理だ。怪我とかさせたら大変だろう……購入してくれるのは願ったり叶ったりなんだが」


由乃は、その店長が度々開いているエアーガンを用いたサバイバルゲームに参加したいと頼んでいた。


しかしそれは子供のお遊びレベルではなく、明らかに年齢層が由乃とは離れていたため、店長も簡単には首を縦に振れない。


駄目だとあしらわれても、柄になく何度も訪れた。


すると、最初は邪見していた店長の態度が少しずつ変わり始める。


店長「お客さん、由乃っていったか。俺が言うのもなんだが、何故そこまでこだわる?」


由乃「え…」


いつもとは違う返答に、どう答えていいのか戸惑う。


会話が苦手な由乃は、あらかじめ用意した台詞でお願いしていたため、こういった想定外の言葉に慣れていない。


店長「まさか、理由なんて無いとか言わないよな」


由乃「わ、わたし、は……」


店長「…変な事を聞いて悪かったな。また来てくれ、お客さん」


由乃「あ…」


手をひらひらと振って店の奥に去ってゆく店長を見て、チャンスを逃してしまったと少し後悔した。


何故こだわるのか、当然の疑問だ。


自分に自信を持ちたいから、それは少し違う。


何故、自信を持ちたいのか。


由乃「……」


……次にお願いする時の言葉を、考え始めた。



………


……




後日、由乃は再び店長に頭を下げていた。


由乃「……まもりたかったひとが、いるんです」


店長「過去形…って事は、護れなかったと」


こくこくと由乃は頷く。


店長「だからって、こんな玩具で護るってのは違うんじゃないのか?」


由乃「ち、ちがいます。そうじゃなくて……」


由乃はおどおどしつつも、はっきりとした意思を眼光に宿し、不器用ながらも伝えようとする。


由乃「こわくても、逃げないようになりたくて……わたし」


店長「(…成程。欲するのは内面的な強さ、という訳だ)」


由乃「…あの、その。だから……ううっ」


店長「(逃げないように、か。俺が地の底から逃げてきた罰かなにかなのかね、これは)」


ため息をついて、すっと手を差し伸べる店長。


由乃「…え?」


店長「悪いがいきなり参加は承諾できん、だから教えよう。俺はスパルタだ、子供だからって優しく教えてはやらんぞ」


由乃「…! は、はい」


店長「まずはその覇気の無さからだ。戦う者の眼光はもっと鋭いぞ、返事は大きな声でだ!」


由乃「は…はいっ!!」


それが、私が銃を扱い始めた原点だった。



………


……




由乃「……や、やっぱり内緒です。恥ずかしいので」


観崎「むぅ……なら仕方ないか、別に無理に言う必要もないしね。それより、由乃ちゃんがどれくらい上手なのか気になるかも!」


申し訳なさそうにしている由乃を見て、咄嗟に話題を変える観崎。


由乃「どれぐらいと言われましても、私の師に比べたらまだまだ…」


観崎「師?」


由乃「店長さんです、こういった玩具を扱っている店の。実銃を使ってた事もあるみたいで、凄く詳しいんですよ」


観崎「実銃って……その人、店長になる前は何をしてたのか気になって仕方ないよ」


由乃もその事は知らないらしく、首を横に振る。


観崎「(でも、そんな人に教わってるって事は、やっぱり由乃ちゃんも上手いのかな…?)」


などと考えていると


由乃「…! 誰ですか?」


突然、由乃が後方に銃を向ける。


「っ!?」


それと同時、誰かが慌てて走り去る足音だけが通路に反響した。


観崎「な、何…?」


由乃「尾行されていたみたいですね。今の今まで全然気が付きませんでした……いけませんね、向こうがその気ならやられていたかもしれません」


観崎「みぎゅ、そういうのって、徹底されると普通気付けないと思うんだよ…」


隣で悔しそうにしている由乃を見て、観崎は苦笑いを浮かべていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆



ある程度逃げた所で、彼女らが追ってきていない事を確認して胸を撫で下ろす。


楓「はぁ、はぁっ…!」


こういうこそこそしたのは得意なつもりだったのに、ちょっと呼吸を落ち着かせようと気を抜いただけで気付かれてしまうなんて。


あの由乃と呼ばれていた人は、危険かもしれない。


楓「今は上の階まで着いて来れただけ一歩前進したと考えるしかないか…」


こうやってずっと背後を尾行していれば楽して進めると思ったのだが、常に気付かれないよう注意するのは疲れる。


楓「上手くいかないなぁ、流石にこれを使うのは気が引けるし…」


探索開始早々に武器管理室で見つけてしまった実銃、そのせいで誰もが銃を持っている可能性を考え、脅えてしまっている。


現に由乃と呼ばれていた彼女は銃を持っていたし、恐くてとても他人と行動しようとは思えない。


楓「…いっそ、全員殺してしまえれば」


そう考える度、あの銀髪の女の言葉が脳裏に過る。



『勢いに任せて人を殺したところで、貴女には罪悪感とトラウマしか残らないわ。…彼が誘拐犯である根拠も無いのに、貴女は殺人犯になってまで不安要素を取り除きたい訳?』



この銃で誰かを傷付けてしまえば、そこから私も犯罪者。


そんな事は分かっている。


けれど、こんなに大それた犯罪に巻き込まれているんだから、正当防衛とは考えられないのだろうか。


何もしないで終わる訳にはいかない。


事が済んだら、もう手遅れ……そんな経験は2度と御免だ。


楓「…そう、御免なのよ」


痛々しい記憶が蘇り、私は唇を噛み締める。


誰の目にもつかぬよう密かに行われる犯罪、そんな危険からいったい誰が助けてくれるというのか。


そもそも、この世に救いなんてものがあるのか。


楓「誰も私を助けてなんてくれない。私を守れるのは……私だけ」


なら、誰にも頼らず、希望も持たず…私は私だけを信じる。


そうすればきっと、帰る事ができる。


楓「…なんて、考えるだけなら楽なんだけどね」


何も考えずに、この銃のトリガーを引けたらどんなに良いだろう。


誰かを殺してまで生き延びる覚悟を決めるのには、まだ心の準備が足りないようだ。


楓「とにかく、今は出来る限りの探索をしよう…」


迷いはそのまま、今はまだ放っておく事にした。

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