EP2-007:一時的相方
建一と飛鳥がアジャスターを撃退したのと同時刻、既に彼等とは別に数組の人物がB7Fに到達していた。
そのうちの1組が彼等、渡光弐と天真邦和だった。
光弐「あ~あ、こりゃ勤務時間完璧に遅刻だわ。帰ったら先輩に絞られそうだ…」
邦和「ふん、絞られる以前に帰れず朽ち果てる可能性のが大きいだろ」
物事を楽観的に捉える光弐に、邦和は呆れた様子でそっぽを向いていた。
光弐「なんだって……嫌だ俺まだ彼女居ない歴イコール年齢なのにぃッ!!」
邦和「(渡に声掛けたのは失敗だったか、鬱陶しくて仕方ねぇ)」
見た目のイメージ通りに無害そうな性格で裏切る事はしない奴だろうが、楽観的すぎるのも考え物だな。
光弐「そーいや天真のオッサンは、これ何の目的で誘拐されたんだと思う?」
邦和「そういうのは自分の考えを先に述べてから聞くもんだ」
光弐は「ふむ」と少し考える仕草をして、口を開いた。
光弐「ドッキリ企画」
邦和「かなりイラッときたが殴らないでおいてやる、感謝しろ」
こめかみに指を当ててため息をついた。
光弐「それ以外に思いつかねーんだから仕方ないじゃん、そういう天真のオッサンはどうなのよ」
邦和「俺自身に恨みを持つ奴の仕業だと思っていたが、お前みたいなお気楽野郎が居るのを考えると、俺達がどう行動するかを楽しんでる節がある」
それを聞くと渡は不満そうな顔をして唇を尖らせた、見ていて殴りたくなる顔してやがる。
邦和「ったく、なんだよその反応は。お前が聞いてきたんだろうが」
光弐「だってよー、俺の意見批判しておいてそれはどうなのよ。天真のオッサンの意見もドッキリ企画と大して変わらねーじゃん」
邦和「んな訳…」
そんな訳ないだろうと否定しようとしたが、よく考えてみれば似たようなものだ。
俺の意見も渡の意見も、誘拐した野郎が俺達の行動を監視して楽しむという意味では同じ。
渡の意見は、その動機が楽観的なものに置き換えられているだけ。
邦和「…っク。ははっ……あはははハハハハッ!!」
光弐「うおっ、なんだなんだ? 何か変な事言ったか俺」
人を見てくれで判断してはいないつもりだったが、まさかドッキリ企画などという一見楽観的にしか取れない考え方が俺の考えと一致しているとは。
それにドッキリ企画というのは、何処まで度が過ぎたものまでドッキリと呼べるのかという定義が曖昧だ。
驚くほど的を射た表現といえよう。
これは己の立場が上だという慢心が過ぎたな、まさかこんな奴に考えを改めさせられるとは。
邦和「ククッ……いやぁ、なんだ。済まなかったなぁ、確かにその通りだ。しょうがねぇから俺の意見も"ドッキリ企画"って事にしといてやるよ、ククク…!」
光弐「お、おう。分かってくれたならそれでいい」
渡は偉そうにしつつも面食らった様子で、声に覇気がなく動揺しているのが伺える。
我ながら不気味な笑い方だったからな、仕方ないだろう。
邦和「今度は俺から聞こう。お前はここに来てから何か疑問に思った事はあるか」
光弐「人に聞く時は自分の意見からじゃなかったのかよまったく。そうだなぁ…」
ぶつぶつ口答えしながらも考え始める渡。
なんだかんだ、こいつは俺とは違った物の見方ができる奴だ。
案外俺が見落としている事に気付いているかもしれない。
光弐「なんか、こういう場所を用意するのって料金が弾みそうだよな。ブルジョワというか無駄使いというか、そこまでする意味が分からん」
邦和「…確かにこの地下施設を作るのには、多少の投資が必要かもな」
あくまで、誘拐犯が地下施設の建設に投資したのなら…の話だが、無駄遣いにも程がある。
可能性として、別用途で作られたものを借りている場合が上げられるが……
邦和「(…"牢獄"としては上出来だな、この地下施設は)」
光弐「…おい」
そんな事を考えていると、渡の奴が真剣な眼差しで俺を睨んでいた。
邦和「なんだ」
光弐「"多少の投資"って言ったのか、多少って」
邦和「そうだが?」
光弐「どういう金銭感覚してるんだよ、案外どこぞのお坊ちゃんだったりするのか? それにしては品の無い口調だけど」
やけに食い付いてきやがるな、さては渡の家庭が貧しいとかそういう事か。
邦和「余計な詮索だな。知ってどうする気だ」
光弐「きーっ! さぞ裕福な生活を送ってるんだろうなぁ。羨ましいぞっ」
渡はもはや俺の話など聞いていなかった。
邦和「(…俺にはお前の方がよっぽど幸福に見えるがな)」
確かに常人より金を持て余しているが、だからこそそれが直接幸福に繋がらない事を痛い程思い知らされている。
今の俺の根本を築き上げた、あの狂気さえ感じさせる家系など今更何の有難みも感じない。
その昔、かつては俺にも心の拠り所というものがあった。
知らぬ間に、俺は自分からそれを壊していた。
失ったものは糞野郎共が残した資産を使っても、二度と戻る事はない唯一無二のもの。
金が有り余っても所詮は娯楽の糧にしかならない、特異な娯楽を持つ俺には余計に不必要なものといえよう。
その娯楽さえ家系から叩き込まれたのだから、余計に救いが無い。
今はもう、俺は俺で、他の誰かの掌で生きている訳では断じて無いと割り切っているが、当事は荒れ狂ったものだ。
邦和「(…俺とした事が、少し感傷に浸りすぎたかもな)」
こうも長話をするのは久しいから、色々と思い出させられる。
光弐「おっ、資料室めーっけ!! 天真のオッサンより先に見つけられたぜ、ざまーみろ!」
邦和「そもそも競ってないだろうが」
光弐「うるさいやい! なんか知らないけど先に見つけられたら悔しかったんだよ悪いか!」
というか、餓鬼かこいつは…小学生並の精神年齢だ。
光弐「そういう事で、写真は俺が撮ってくるぜ」
邦和「どうせ赤外線受信するんだ、どっちでもいいだろ…」
光弐「ここで盗撮スキルを磨いていざという時の為に…げふんげふん!」
そう言うと、渡は資料室に走っていった。
いちいち渡の言動に反応していてはキリがない、時には無視する事も必要だろう。
邦和「…俺は情報の整理でもするか」
携帯を取り出し、今までに回った資料室の写真を再確認する。
回った資料室は2つ。
そのうちの1つはB8Fの地図、この地図がもたらす情報は最も大きい。
ここは地下8階層の巨大施設、殆どの部屋が空き部屋で、稀にプレートのついた特別な部屋がある。
資料室、武器管理室、料理室、仮眠室…B8Fだけで結構な種類の部屋がある。
邦和「(これだけの情報を1度に与えられると、何かを見落としていそうなものだが……特に違和感はないな)」
B8Fの資料室は2つで、地図を頼りに2つ目の資料室にも赴いた。
「もう片方の資料室も地図なのでは」と考えた奴も多いのだろうが、そういう思考の裏をつくやり方を誘拐犯が好むのかを知りたかった。
結果、誘拐犯はどうも俺と話が合いそうな奴だという事が分かった。
2つ目の資料室には、アジャスターと呼ばれる機械の説明書きと、その等身大レプリカがあった。
説明書きは、
『Adjuster:頭部のカメラと温度センサーを使ってターゲットを特定する。ターゲットを確認した場合、一定の間隔で銃弾を発砲しながら接近し、ブレードで切り裂く。また、移動手段は磁気を利用した浮遊で、行動可能なのは施設内のみ』
という内容のもので、浮遊などという眉唾物の単語があったが、土台で固定されているとはいえレプリカを見せられてしまっては信じるしかない。
そういえば、あのレプリカはブレードなど所持していなかったが、誰かが持ち去ったのだろうか。
邦和「(…関係ねぇか。素人の扱うブレード程度、何の脅威もない)」
ここで重要なのは、B8Fの通過条件が『この階に1機だけ存在するAdjusterが破壊されている事』という点である。
まだ状況に戸惑っている人物が多いであろう中で、アジャスターを破壊した者がいる。
アジャスターそのものの戦力は未知数だが、先を越されているのは好ましくない。
……が、だからといって情報収集を欠かす訳にはいかない。
邦和「(楽しんでる余裕なんて無いってか? けれども誘拐犯の奴は俺に暴れて欲しくて仕方ないと見たぜ、ならば機会はある……ククッ)」
光弐「お~い!」
撮影が終わったのか、渡が資料室の前で大きく手を振っている。
光弐「くらえ、インビジブル光弐ビィィィィイイイムッ!!」
邦和「普通に赤外線と言え、馬鹿馬鹿しい」
理解できてしまったのが悲しい気もするが、とりあえず送られてきた画像を確認する。
邦和「B7Fの地図か、幸先が良いな。こいつを頼りに他の資料室を回るぞ」
光弐「この階の開錠はどうするんだ? そっちに行った方が他の生存者とも会えそうな気がするけど」
邦和「誰もが我先にと向かっているだろうさ、わざわざ俺達が行う必要もなければ、無闇に同行者を増やす事もない」
光弐「やだ……天真のオッサン、俺と二人きりがイイだなんてっ。ほっ、掘られ(ry」
調子に乗ってエスカレートしていく渡に、流石にそろそろ我慢の限界だった。
邦和「ざけた事言ってると死なすぞ糞が、分かったか!?」
光弐「海よりも深く謝罪致します、僕は女の子が大好きな正常な思春期の少年ですハイ……」
深々と土下座された、プライドの欠片も無い奴だ…。
頭に血が昇って殺気の加減が出来てなかったからだろうか、あまり警戒されても面倒だな。
邦和「ほら、さっさて立て、置いてくぞ」
光弐「これだから"邦和たん"が大好きなんだッ!」
邦和「―――貴様、いい度胸してるじゃねぇか」
光弐「ギャァァァァアアアアアア!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
予想に反して、渡にはまったく警戒されていないようだった。




