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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode2~トリカゴアソビ~
40/150

EP2-006:真紅のハンカチ

一瞬、赤羽は何を惚けた事を言っているのかと思ったが、それでも走りながら後方を確認する。


そのシルエットも私達を追って来ているようで、先刻よりも姿形がはっきり確認できた。


飛鳥「…!」


下半身が、無い。


いや、そもそも全身が鉄で作られている。


どういう原理で浮遊しているのか分からないが、人の上半身を模した機械のようだ。


両手にはブレードとライフル、私達を襲わせる用途で間違いないだろう。


建一「…くそっ、振り切れないな。飛鳥、あいつは俺が引き寄せるから先に逃げてくれ」


飛鳥「はぁ!? 何言ってるの、他人を庇って貴方になんの利益があるのよ!?」


ただでさえ焦っているのに、理解不能な提案をされて思わず声を荒らげてしまう。


飛鳥「赤羽の帰りを待つ人がいるんでしょう、失意の貴方を支えてくれた人が!」


建一「…っ。けど、このままだと2人共死ぬぞ」


その通り、あの機械が狙撃して来ないのが唯一の救いか。


どうすればいい、本当に赤羽の好意に甘えてしまうのが最善なのか。


手段は選ばないつもりだったが、赤羽を犠牲にする事に罪悪感を感じている。


思えば、味方と呼べる存在を得たのは初めてだ。


利害の一致、赤羽の行動はそれを通り越している。


飛鳥「(それでも決断しないと。迷っていては10年前と何も変わらない)」


決意を固め、赤羽に話し掛けようとしたところで……



建一「…行き止まり!?」



……タイムリミットが訪れた。


目の前に進むべき道はなく、引き返すにはもう遅い。


飛鳥「そんな…」


また、迷っているうちに取り返しのつかない状況になってしまった。


成長したつもりでいたが、本質は10年前と何も変わっていないのだと思い知らされる。


建一「(繋いだ手が震えてる。やっぱり、死ぬのは恐いよな…)」


飛鳥を救いたい。


彼女は他人を庇う事で利益は得られないと言う、実際その通りなのだろう。


けれど、"あいつ"ならきっと同じ選択をする筈だ。


利益など求めず、ただ純粋に俺を救おうとしてくれたあいつなら。


だから、俺は躊躇わない。



建一「すまん飛鳥っ!」


真横の扉を開けて、その中に飛鳥を突き飛ばす。


飛鳥「痛ッ…な、何!?」


戸惑っている飛鳥に言葉をかける事なく、扉を閉める。


背後に機械が迫っているのを確認してほくそ笑んだ。


恐怖心はなく、あるのは刺し違えてでも飛鳥を救うという決断のみ。


建一「さて、無様に散りに行くとするか」



◆◆◆◆◆◆◆◆



混乱しながらも、赤羽に庇って貰った事だけは理解する。


飛鳥「あいつ…ッ!」


今更赤羽に異論を唱えても意味が無い、彼は私が反対した上で自己犠牲を選んだ。


それを理解しているだけに、もう自分には選ぶべき選択肢さえ無い事が腹立たしい。


飛鳥「私より赤羽の方がよっぽど迷いなく行動しているなんて…情けない話ね」


これでは報われない、赤羽も、赤羽を支えてくれた人も。


他人の未来など知った事ではないが、"赤羽建一"なら話は別。


私のような罪人がそれ相応の不幸に苛まれるのは因果応報。


だが、理不尽な不運に絶望した彼は幸福を得なければならない。


けれど、もう私に出来る事なんて……


飛鳥「…?」


ふと視線を上げると、部屋の中央に黒い箱が置いてあるのを発見する。


側面にはGimmickという文字、それを見てピンときた。


飛鳥「ギミック(小道具)……いったいどんな?」


武器と同じように犯人達が用意したアイテムならば、利用しない手はない。


私はすぐさま箱を開き、中に携帯端末サイズの機械と説明文らしきものが綴られた紙が入っているのを確認する。


『RandomGimmick:1度限り使用できる。ギミックの効力をランダムで1つ発動させる、時間性のものは10秒間持続する。

ステータス消費:無し』


飛鳥「チッ――ここに来て運任せの道具って何なのよ……っ!!」


しかし、説明文の『ステータス消費』という単語を見るに、他のギミックは発動条件を伴うものなのだろう。


ここは使用できるだけマシと思うしかない、思案するだけ時間の無駄だ。


私は迷わずギミックのスイッチらしきものを押した。


飛鳥「あいつが、こんな所で死ぬ定めなんて認めないわ!」


生か死か、それさえ選ぼうとしない赤羽は他者の願いにのみに依存している。


赤羽を支えようとした人の「赤羽建一を救いたい」という願いを理解して生き続け、今は私の「死にたくない」という願いの為に犠牲になろうとしている。


これでは私の意志とは無関係に、私が赤羽建一を盾にしたようなものだ。


させない、絶対に。



◆◆◆◆◆◆◆◆



飛鳥がギミックを発見する十数秒前、建一は目の前のアジャスターをどう対処するか考えていた。


無闇に突っ込むにせよ思案するにせよ、狙撃されてしまえば終りだ。


時間は無いに等しい、そんな中で建一は駄目元でも策を考える。


建一「(頭部の前面がガラス張りだけど、あの中にうっすら見えるのはカメラか? …それなら!)」


意外と気に入っていた鞄を、躊躇いなく機械の頭部に投げつける。


それと同時に機械に体当たりするべく走り出すが……



機械は俺の鞄をひょいと器用に避け、ブレードを脳天目掛けて振り翳そうとする。


建一「やば……っがァ!」


反射的に両手を重ねて前に突き出して刃を受け止めていたが、左手の掌にかつてない激痛が走る。


建一「(た、耐えろっ。このまま武器を奪ってしまえば……)」


そのままブレードを奪おうとするが、腹部に何かが押し当てられる感触がした。






――ライフルの銃口



トリガーに合わせられた機械の人差し指がピクリと動くのが、やけにスローに見える。


死ぬ前に時間が遅く感じるというのは、こういう事を言うのだろうか。


もし本当に時間の流れが遅くなっているのだとしても、俺に成す術など無いのだが。






……終わったよ。父さん、母さん。


結局俺には何も出来なかったけど、がむしゃらにもがいて、朽ち果てて、二人の居る場所へ……


帰るんだ、昔のように『ただいま』って。


父さんは「仕方のない駄目息子だ」と失笑しながら俺を迎えてくれるだろう。


母さんは学校をサボったりする事に厳しかったから、こんなに早く"帰る"と怒られるかもしれないけど。


そうやって甘やかされるのも、叱られるのも、俺の大切だった日常だから…別にいいかな……











カシュン





最後に聞こえてきたのは、ライフルのトリガーを引く音にしては異質だった。


建一「(……なんだ、何が起きた? 何故撃たれていない?)」


まさか本当に時間が止まったのではと一瞬思ったが、ブレードが掌にめり込む力が強まり悲鳴を上げる左手によって、直ぐに考えは打ち砕かれていた。


直後、後方の扉から飛鳥が飛び出てくる。


飛鳥「赤羽っ、10秒間だけライフルがロックされているわ!」


建一は直接飛鳥の姿を確認する余裕が無いため分からなかったが、飛鳥の持つギミックの電子画面には文字が浮かんでいた。



『03:Gimmick-GunFreeze』



それは"射撃武器ロック"のギミック効果が発動している証。


運とはいえ、飛鳥はこの危機を回避するに相応しい効果を引き当てた。


飛鳥「貴方は生きるのよ、赤羽!」


建一「…っ!」


死を受け入れていた建一とはいえ、訪れたチャンスは逃さない。


ブレードを力強く握ったまま本体を蹴飛ばして、武器を奪い取る。


建一「(見た目ほど重くはないな、いける…!)」


ライフルの驚異があるならともかく、丸腰同然の機械相手なら片手持ちでも充分だった。


建一「くらえッ……この屑鉄野郎が!」


渾身の力で振り翳したブレードがアジャスターの首周囲を通っているコードを引き裂いていた。


元々、建一達生存者が壊しやすい設計になっていたのか、コードを切断されたアジャスターはその場にガシャンと大きく音を立てて倒れ込む。


その数秒後、2度目の「カシュン」という音と共にライフルのロックが解除された。


建一「やった、のか。サポート有難うな飛鳥……うぐっ!」


持続する左手の痛みに耐え兼ねて、建一は唸りながらその場に座り込む。


飛鳥「助けた側の貴方が礼を言うんじゃないわよ、まったく……セロハンテープはあるかしら?」


建一「それなら、筆箱に……」


飛鳥は建一の前でしゃがみ込み、ポケットをまさぐる。


そこから淡い水色のハンカチを取り出すと、建一の左手の掌に押し当て、その上からセロハンテープを数周巻き付けた。


不器用ながらも応急処置としては充分だった。


建一「…飛鳥」


飛鳥「何よ」


建一「お前のハンカチ、汚れちまうじゃないか…」


飛鳥「私は命を救われたのよ? このくらいのお礼はさせなさいよね」


申し訳なさそうに建一は視線を"下に"反らす。


建一「…飛鳥」


飛鳥「しつこいわねっ、お礼だって言ってるでしょう?」






建一「ん……そ、そうか。なら遠慮なく」


飛鳥「……」


建一「……」


飛鳥「……!!」


建一「……」


飛鳥「~ッ!!」


建一「……」


飛鳥「あ、赤羽……何を、まじまじ見てるのかしら?」


建一「飛鳥の下着」


飛鳥「な、ななな何で見てるのかしら……!?」


建一「いや、お礼なら可能な限り見ておかないと失礼かなって」


大して悪びれた様子もなく建一はそう言い放つ、言い放ちながらも凝視し続ける。


飛鳥は羞恥で顔を真っ赤に紅潮させ、その身体をプルプルと震わせている。


飛鳥「そんな訳……ないでしょうがあぁァッ!!」


建一「ぐうッ!? 左手を握るのはやめ……っ、し、死ぬ、死ぬぅっッ!!」


飛鳥「貴方が、死ぬまで、握るのを、やめないッ!!」


建一の悲鳴が他人を誘き寄せてしまう可能性すら考えつかない程に飛鳥は取り乱し、全力で建一の左手に羞恥心と怒りをぶつけていく。


その後、いかにもデスゲームらしい断絶魔のような悲鳴がしばらく通路に反響し続ける事になる。


これが祟って他人を誘き寄せる事はなかったが、建一はむしろ危険人物でもいいから駆け付けて飛鳥の注意を削がせて欲しいと心底願っていた。

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