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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode1~サマヨイアソビ~
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EP1-003:初川包丁

赤羽建一は焦っていた。


この部屋に誰かがいる事は、すでに扉の外の人物にバレてしまっているだろう。


扉を開けて対応するべきか、それとも安全な状態を維持して話し掛けてみるか…2つに1つ。



前者の場合、不意打ちを仕掛けられれば事を有利に進められるかもしれないが、交戦というリスクは避けられない。


後者の場合は、相手が犯人かどうかを安全に確認する事が出来るが、もし犯人がこの扉のマスターキーのような物を持っていたり、扉を破壊できる武器を持っていた場合に不利だ。



というか、これが犯人なら俺を拘束しないで逃げ出されて、また捕まえようとする意味不明な人物像が出来上がってしまうが…


ガチャガチャッ!


「この部屋には鍵がかかってるのか…」


扉の外の人物は、そう言い捨てると扉から離れて行く足音がした。


建一「こいつ…」


……馬鹿だ!


文章を読むという事を知らんのか!?


危機一髪、これはむしろチャンスだ。


もし犯人なら、うまく尾行してここから簡単に脱出できるかもしれない。


違ったら危険かどうか様子見して話し掛けてみればいいしな。


建一「すぅ、はぁ…すぅ、はぁ…」


深呼吸をして心を落ち着けると、俺はドアノブに手を伸ばした。


ガチャリ…




「消えろッ! この社会のゴミ虫野郎ーーーーーッ!!」



―――騙し討ち!?



建一「しまっ…」


時既に遅し、気付いた時には強烈な拳が首の後ろに投下されていた。


建一「かはっ…!」



頭がクラクラして思考が安定しないが、どうやら相手は武器は所持していなかったらしい。


だが、結局これはあまり好ましくない状況…



―――交戦しろ、交戦するんだ…!



本能が訴えるままに相手の方を睨み付ける。


「…えっ?」


建一「ゲホッ! …ん?」


茶色の髪のポニーテールと、頭に揺れる少し大きめのリボン。


…そして、この声。



こいつ、何処かで見た事があるような…


それも「何処か」なんてもんじゃない、月火水木金…俺の家の前で毎日のように会っている。


建一「み、観崎(みさき)!?」


観崎「みぎゅぅぅううう!! け、建一ぃっ!?」


間違い無い、こいつの名前は初川観崎(ういがわみさき)


俺の幼馴染だ。


婆ちゃんの家に引っ越してから、いつもいつもなにかと突っ掛かってくる奴だ。


悪い奴ではない。


悪い奴では無いのだが、昔からこいつの起こす騒動によく巻き込まれて痛い目を見る。


それだけ…


建一「…」


『先生!私のお肉を建一に盗られ取られました!』と、奪われて行く俺の給食。


建一「……」


『あ、あの人に言われて仕方なくやりました!』と、押し付けられる支払いの済んでいないコンビニの品物。


建一「………」


『みぎゅ、預かっててくれって頼まれたんです…建一に!』と渡される人様の畑から引っこ抜かれた新鮮な野菜。


建一「…………」


『みぎゅ、拒否したら痴漢だって叫んじゃうんだよ?』と脅されて持って行かれる俺のお小遣。




本当にそれだけ


それだけ


建一「……………」






今回モ観崎(コイツ)ノ仕業ナノデハナイダロウカ……?


観崎「建一、よくない事考えてる! 絶対考えてるっ!」


俺は今、どんな表情をしているのだろうか?


建一「仕方ないだろう。どうやら俺は『社会のゴミ虫野郎』らしいし、よくない事を考えてしまうのも当然だよね…ハハッ、ハハハハハハ…!!」



…それはきっと、悪魔のような表情なんだと思う。


観崎「うっ! ちゃっかり聞かれてた!?」


建一「あんだけ大声で叫んどいて聞いてない訳が無いだろ!!」


とにかく俺は観崎を殴る。

世界中の紳士共を敵に回す事になるとしても、俺は殴る。


紳士じゃなくたっていいじゃない…






…だって、観崎だもの。




建一「今日という今日は許さん……とっとと白状しろッ!」


観崎「み、みぎゅううううううう!!」




◆◆◆◆◆◆◆◆



あれから観崎に色々吐かせたが、分かった事は観崎も俺と同じで「誘拐されたかもしれない」という事実だけ。


建一「なんだ、観崎も何も知らないのか…」


観崎「みぎゅ、いくら私でも流石に誘拐はしないよぅ……しくしく」


痛そうに頭をさする観崎、ストレスは飛ぶし冷静になれるし一石二鳥で便利な幼馴染だ。


建一「もし『赤羽建一を誘拐したら、1万くれてやろう!』…って誰かに言われたら?」


観崎「それならもちろ……ハッ!! や、やらないよ!?」


チッ、誘導尋問失敗か…つまらない。



建一「それで…これ、観崎的にはどう思う?」


俺は例の機械、アジャスターのサンプルとやらを観崎にも見せていた。


一人で悩んでいても結論が出そうに無いので、違う視点での意見を聞いてみたかったのだ。


扉に綴られた『開錠』という項目は『中に人が入ってる状態』場合に鍵が閉まるだけ。


なので『2人同時に入る』、『中から開ける』などの方法を使えば2人以上で入る事も可能だった。


観崎「うーん、オト●ケさん?」


建一「伏せ字を使うような発言はNGだと思ってる。というかオト●ケさんは両手に武器持ってるんだ…」


観崎「武器は、持ってないかも…?」


…聞く相手を間違えたか。


今の所、観崎と俺以外に人なんていないけどな。



観崎「あ、この包丁いいなぁ。も~らった!」


観崎はあろうことか、アジャスターの右手に握られていたブレードを勝手に取り外した。


建一「なっ…!?」


観崎が勝手に人(?)の物を自覚無しで拾ってしまうのはいつもの事だが、それ以上にブレードが取り外し可能である事に驚いた。


観崎「うーん、包丁にしてはちょっと重いなぁ…」


よりによって包丁と勘違いして武器を…


…って、武器?


建一「ナイスだ観崎! たまにはやるじゃないか!」


観崎「…みぎゅ?」


武器を使う機会など来ないと信じたいが、いざという時の為に武装はしておいた方がいい。


これで少なくとも犯人から一方的に追い回される心配はなくなった訳だ。


観崎「包丁がナイスって、建一おなか空いてるの?」


建一「……」


まぁ、分かってたよ…


観崎が本当に武器にするつもりで取った訳じゃない事くらい…


もしかして、左手に握られているライフルも外せるのだろうか?


そう考えてアジャスターの持つライフルを四方八方に引っ張ってみると「カチャッ」と音を立てて外れ、ずっしりとした重みが…






…来ると思っていた。


建一「軽っ……」


よく見てみると、『サンプルの為モデルガンです』と小さな文字で注意書き。


観崎「建一!銃なんか持ってちゃ危ないよ!」


建一「いや、モデルガンだし。…というか実状お前のブレードの方が危ないし!」


しかし、女の子ってのは誰もが剣とか銃とか目の当たりにして好奇心旺盛になるものなのか?


……いや、そんな訳が無い。


観崎はやっぱり普通の女の子ではない、もしくは未確認新生物「Migyuu」と呼ぶべきか


観崎「なぁんだ、モデルガンかぁ…」


観崎が安心のため息を漏らした、その時――





タタタンッ


タタタタタタタンッ



建一「…なんだ?」


観崎「建一、モデルガン使った?」


建一「いや使ってない。というか普通はモデルガンから弾なんて出なかった気がするんだが? 仮にこれが本物だったとしても至近距離ならもっと大きな音がするだろ」


観崎「みぎゅ……そ、そこまで言わなくても良いんじゃ…」



タタタンッ


タタタタタタタンッ


…また、この音。


実際に聞くのは初めてだが、これは恐らく銃声だ。


腕の中にあるモデルガンを見て、嫌な予感が膨れ上がる。


建一「観崎、ちょっとそのブレード貸してくれないか」


観崎「な、なんで?」


建一「誰かが誘拐犯と交戦してるかもしれない。だったら加勢した方が俺達の為だろ」


観崎「だ、駄目だよ! …包丁は武器じゃないんだよ?」


あぁ、理由はそこなのね。


勘違いもここまで来ると面倒臭いが、観崎らしいというか……気が抜けるな。



実際は気が抜けているのではなく、異常な状況下で"日常"の会話をする観崎を見て安心していたのだが、建一自身はそれに気付いていないようだ。


建一「じゃあ、こうしよう。これは『包丁』って名前のブレードで、武器だ」


観崎「それなら、まぁ…」


…あ、これで納得しちゃいます?


さすが観崎サン、お前の思考回路は一生かけても理解できそうにないよ。


建一「じゃあ、行くぞ」


観崎「ちょ、ちょっと待って!」


部屋を出ようとする俺を観崎が呼び止める。


建一「何だ?」



観崎「これは私が手に入れた『包丁』なんだから、名前は『初川包丁』だよっ!」


建一「クスッ……分かった」


あまりにも観崎らしい要求に笑みを零す。



そして俺達は、銃声のした方へ向かって走り出した。



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