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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode2~トリカゴアソビ~
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EP2-005:欠落感情

建一と飛鳥は、当初の目的通りにB8FからB7Fに移動する唯一のルート、階段前の扉に到着していた。


しかし、彼等はそこで立ち往生を強いられている。



『開錠:この階に1機だけ存在するAdjusterが破壊されている事』



扉に記された開錠条件の、アジャスターという名称が何を指すのかを建一達は知らない。


飛鳥「…先回りされないうちに、進めるだけ進もうとしたのが仇になったわね」


建一「そうは言っても、ここから俺達の行っていない資料室はだいぶ離れてる。開錠は別に他人任せでもいいんじゃないか?」


二人の見解では、アジャスターについての情報はB8Fに存在する他の資料室で得られるものと予想されていた。


こうして名称を提示する以上、それが何を指すのかを情報として与えなければ開錠条件は意味を成さない。


飛鳥「……ふむ」


顎に手を当てて考える仕草を見せる飛鳥。


建一「(けど…良く頭の回る人だ、飛鳥は。正直、自分が足を引っ張ってしまっているようで申し訳なくなってくる)」


俺は未だ信じられずにいるが、飛鳥の見立てではこの地下施設は俺達生存者の間で殺し合いが起こるように作られている可能性が高いそうだ。


確かに、そうでなければ俺が最初に遭遇したあの少女が銃を所持していたなどという状況は起こり得ないだろう。


飛鳥「赤羽……私の話を聞いてる?」


気が付くと少しむっとした表情で飛鳥に睨まれていた、どうやら考え込みすぎていたらしい。


建一「え? あ、あぁ……すまん、聞いてなかった」


飛鳥「はぁ…こんな状況で落ち着いていられないのは分かるけれど、少しは警戒心を持ちなさい」


建一「…そうだな」


考え事をしている間に奇襲され、一方的に殺されてしまう可能性もあるのだから。


飛鳥「それで、もう一度言うけれど……他人に開錠を任せたるにせよ、私達が行うにせよ、この扉の前で話し込んでいるのは危険ね。地図を持った誰もが、我先にと階段を目指している筈だから」


建一「そうか……友好的じゃない人と遭遇するかもしれないもんな」


しかし、俺達は同じ境遇なのだから、恐怖心を刺激しないように話せば殺し合いになど発展しないのではなかろうか。


飛鳥の言う"殺し合うように作られている"要素が疑心暗鬼だけなら、あまりに生易しい。


その辺り、飛鳥はどう考えているのだろう。


飛鳥「とにかく、まずはこから離れ…て……?」


言葉の途中から飛鳥の声が弱々しくなり、階段へと繋がる扉を振り返る。


建一「…どうした?」


俺の声が聞こえなかったのか、黙って扉に近付きドアノブを捻る飛鳥。


飛鳥「どうやら……今回は長話した甲斐があったようね」


建一「…!」


先刻までは施錠されていた扉。


飛鳥がドアノブを手前に引くと、扉はギィィと音を立てて開いた。



◆◆◆◆◆◆◆◆



目の前に横たわる鉄屑を見下し、戦いの勝者は静かにため息をついた。


彼の身体には傷ひとつ付いておらず、いかに一方的な戦いであったのかが良く分かる。


それに比べ、アジャスターは首のコードを切断され、両手も不自然な方向にねじ曲げられている。


機械故に痛みも恐怖も感じぬまま機能を停止したのだろうが、人のような生い立ちの機体は見るに耐えない痛々しい姿になっていた。


銀河「……手慣れているな、これは」


己の体と一丁のナイフのみでそれをやってのけた銀河は、記憶は取り戻せずとも、身体に刻まれた"戦いの記憶"を感じて、戦闘の余韻に浸る。


まる「び……びっくりです。まる、なんだか映画を見てるような気がしました!」


銀河「……」


そういえば、俺はあの子供を守ってしまった事になるのか。


過ぎた事を悩んでいても仕方がない、今は彼女をどうするかだ。


まる「あのっ、あのっ! さっきのってどうやったんですか!? こう……シュシュッびゅんびゅんドカッバキッずばって…!」


まるは身振り手振りで銀河の動きを再現しようとするが、上手くいかずに首を傾げている。


銀河「そんな事を尋ねられてもな。俺には記憶が無い……先程の戦いも、俺が戦ったと言うより、身体が勝手に戦っていた」


まる「はて……じゃあ、悪者さんで、きおくそーしつさんで、すっごく強いお兄さんなんですね!」


きらきらと好奇心と憧れに満ちた瞳で銀河を見上げるまる。


対して銀河は、まるの言葉を客観的な意見として受け取っていた。


銀河「俺は、強いのか?」


まる「えぇっ、自覚ないんですか!? あれで強くないんだったら、まるなんて雑魚敵さんの中の雑魚敵さんですよぅ……あ、でも弱すぎたら逆に勇者さんも経験値入らなすぎてスルーしてくれるかもですぶつぶつ……」


子供ながらに葛藤があるようで、一人で何かを呟き始める少女。



銀河「…まぁ、いい。俺の用は済んだ」


この子供がよそ見をしながら思案しているうちに、この場から立ち去ろう。


背を向けて静かに立ち去ろうとする銀河。


しかし――









ぐいっ


銀河「……」


服の裾を引っ張られる。


気にせず歩き出そうとするが、余計に力を込めて引っ張られる。


まだ何か用があるのかと振り返ると……


まる「お……おいでがないでぐだざい…っ」


子供は、今にも泣き出しそうな表情をしていた。


なぜ彼女がそれ程自身に執着するのか、俺には理解できない。


やはり、助けてしまった事が原因だろうか。


銀河「……だが、着いて来られてもな」


まる「じゃ、邪魔はしばぜんから……ぐすっ、お願いです」


どうも俺の邪魔はしないらしい。


確かにそれは最低条件で、守れないのなら同行など力ずくでもさせない。


しかし、食事や睡眠、特に戦闘において足を引っ張ってしまうのは子供なのだから不可抗力。


それを考えると、俺にもある程度のメリットが無ければ最低条件を守れても受け入れ難い。


銀河「お前は、俺の役に立つ自信はあるか?」


まる「役に立つ……ですか?」


銀河「役に立てないのなら同行させる理由が無いだろう。俺は"正義の勇者"では無いらしいからな」


俺の意図を理解したのか、困惑しているのが見て取れる。


何も思いつかないのなら切り捨てる、俺単独でも行える事を述べられた場合も同様だ。


まる「ママの手伝いしてるから料理とかキッチンに手が届けば。あと、走るのは得意かも…」


銀河「料理は、栄養が取れるのなら元の食材のままで構わない。走る速度も遅くはないが、俺が劣るとは感じなかった」


銀河が冷静に思考した内容をそのまま言葉にすると、まるはあわあわと再び泣き始めそうな表情になる。


まる「(どうしよう。このお兄さんは強いから、きっと無理矢理ついては行けない。でも、まるが役に立てる事なんて…)」


銀河「無いならそう言え」


まる「……ッ」


駄目、まるはこのお兄さんに着いて行きたい。


本当は心細い、ゲームみたいだと思えば気も紛れるけれど、"置いて行かれる"のは悲しすぎる。


どんな些細な事でもいい、まるにしか出来ない事。


なにか、無いのだろうか。


パパもママも細かい指摘はするけれど、いつもまるに言う事は誰にだって出来る事ばかり。


まる「…?」


銀河「どうした、あまり時間を取らせないでくれ。何時までも待っていられる程、暇ではない」


無い、このお兄さんには"それ"が無い。


些細な事、本当に些細な事だけど……もしまるに出来てこのお兄さんに出来ない事があるのなら。


それは――









まる「笑顔で、一緒にお喋りして、側に居てあげること……です」


そう、まるがいつもやっている事だけど、これしか無い。


銀河はまるの言葉にしばし黙り込むが、先刻のように半ば邪魔者のように見るのを止め口を開いた。


銀河「……確かに、お前はよく笑う」


俺には分からない、一体何が楽しいのか。


そもそも"楽しい"とは何なのか、笑顔で側に居るという事に意味があるのか。


そういえば、俺は最初この子供をそこの鉄屑のようにボロボロな姿にする筈だった。


何故、俺は決断を曲げた?


認め難いが、結論は出ている。


こいつの笑った表情が、俺の戦意を完膚なきまでに消失させていたから。


理解できない感情、俺には無くてこの子供にはそれがある。


必要なものかは分からないが、それは確実に俺の思考にも影響を及ぼした。


銀河「…いいだろう」


まる「あっ……はいっ!」


せめて、俺にもその感情が理解できるようになるまでは……こいつを側に置いてみよう。


俺に無いものが、得られるかもしれない。



◆◆◆◆◆◆◆◆



B7Fへの閉ざされた扉は開き、建一と飛鳥は一番乗りで探索を開始していた。


時間の経過に比例して、誰もがこの階層に進出してくる事だろう。


そうなる前に、可能な限り捜索しておく必要があった。



飛鳥からその話を聞いて、建一は顔をしかめる。


建一「それって、俺達以外の生存者はどうなるんだ……見殺しか?」


飛鳥「甘ったれないで、他者の身を案ずる余裕があると思ったら大間違い。誘拐されてしまった地点で私達は死んだも同然、それを生き延びるチャンスがあるだけ有り難く思うのね」


その返答に、俺と飛鳥は思考の根本から何かが違うのだと嫌でも理解した。


飛鳥の言葉からは強い生への執着が感じ取れる、自分が生き延びる為のベストな行動方針といったところだろう。


建一「分かったよ。ここで意見を違えて別行動なんで御免だ」


飛鳥「賢明な判断ね」


赤羽が諦めたようにため息をついたのを見て、まずは一安心。


死への恐怖が無い赤羽には、その思考が招くリスクなど見えていないのだろう。


彼の他者を案ずる思考は、聞こえは良いが生き延びる為には邪魔でしかない。


飛鳥「(ま、いざという時に無条件で私の盾になり得るという意味では有り難いのだけれど)」


そんな事を考える辺り、やはり私は思考の根本が腐っているのだろう。


後は、赤羽が信用に足る人物かどうか……まだ判断材料に欠ける。


なにか、なにかひとつでいい……彼が安全だという確証が欲しい。


飛鳥「(場合によっては、赤羽を始末する必要があるわ)」


生き延びる為に手段を選ぶつもりは無いが、好んで人殺しをする訳でもない。


今は、そうならない事を祈るばかりだ。


建一「ん…あれはなんだ?」


赤羽が指差した先に、人のようなシルエットが確認できる。


飛鳥「……待って、私達より先に生存者がこの階に到達するのは不可能の筈」


可能性としては、隠しルートが存在するか、単純にスタート地点が優遇されている生存者。


ここで最悪のパターンは、誘拐犯である可能性。


未だ武装できていない私達に、戦闘は不利。


飛鳥「いずれにせよリスクの大きい接触ね、ここは一度引いて……」


建一「ッ!? 飛鳥!」


赤羽に手首を掴まれ、シルエットとは反対方向に引っ張られる。


人に手を引かれるだなんて、いつ以来か。


突然の事に思考が上手く回らず、訳が分からないまま走り始めた。


飛鳥「ちょ、ちょっと待って、確かに私は接触はハイリスクだと言ったけれど…」


建一「いいから走れ、あれは人間なんかじゃない!」


建一の言葉を聞いて飛鳥は後方を再確認する。


その瞳に移ったのは、自分達を補足して追跡してくるアジャスターの姿だった。

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