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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode1~サマヨイアソビ~
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EP1-031:第一階層

飛鳥の遺体が回収された後、飛鳥を殺した事で得たステータスで再びB1Fへと戻り、俺と観崎は下り階段の丁度反対側に位置する扉を目指して2人でB1Fの大きなホールを歩いていた。


思い返せば色々な事があった。


いきなり観崎に誘拐犯と間違われる事から始まり、涼路さんの死を見届けた。


飛鳥や光弐、白鷺さんと出会い、そして離れ離れになった。


天真とまるの2人と敵対し、由乃に助けられた。


光弐と白鷺さんの死を観崎達に隠し、1人で仲間の死を嘆いた事もあった。


死に間際の楓を皆で救い、それから間もなく天真達によって由乃が殺されてしまった。


怒りに身を任せて天真を殺そうとした俺を、観崎と楓は受け入れてくれた。


しかしその楓はまるに殺され、再開を果たした飛鳥も先刻俺の目の前でいなくなってしまった。


沢山の人と出会い、沢山の人の死を見てきた。


全てを守るには、俺の力はあまりにも微々たるものだった。


建一「…観崎」


観崎「…なに?」


ずっと俺の隣でそれを見て来た観崎は、何を感じたのだろう。


何を思い、今ここで俺の隣を歩いているのだろう。


建一「俺を、咎めないのか? 形だけとはいえ、俺は飛鳥を殺したことになってるんだぞ」


観崎「でも、建一……泣いてたから。辛い役目を全部背負わせちゃった私は、文句なんか言えないよ…」


建一が飛鳥の要求を飲んだ罪悪感を感じているように、観崎もパニックになって黙って見ている事しか出来なかった自分を責めていた。


そうか…と建一は呟き、丁度その会話が終わる頃には最後の扉へとたどり着いていた。


建一「これで、終わりなんだよな……」


観崎「……」


建一「観崎…?」


観崎「あっ、ううん。なんでもないよ」


少し考え事をしていたようだが、建一は特に勘繰る事も無く扉のドアノブを捻る。


扉は音を立てて開き、上の階に続く階段からは少しだけひんやりとした空気が流れ込んできた。


建一「(そういえば、今は冬なんだったな…)」


今まで心に余裕が無かったせいか、忘れていた"季節"。


日常的なその単語に、もうすぐ元の生活に戻れるんだという嬉しさが湧き上がる。


…いや、ここで起きた事は一生忘れない記憶になるだろうし、今まで通りとはいかないか。


建一「行くぞ」


観崎「うんっ」


2人で最後の階段を上りながら、建一は今までずっと遠まわしにしてきた疑問……自分は観崎の事ををどう思っているのか、その結論にようやく辿り着こうとしていた。


両親を失ってからずっと、俺の事を気にかけてくれて、支えてくれて…


最初は観崎が約束を破棄するのを待っていた筈なのに、それはいつしか観崎が本当に約束を果たしてくれるんじゃないかという希望になっていた。


建一「(甘えてたんだろうな、俺。観崎がなんとかしてくれるって……)」


だから、俺は日常に帰らなければならない。


仮初めの日常ではなく、10年前と同じ本来の日常へ…。


約束という観崎との繋がりが絶たれてもまだ、俺が観崎を必要としていたなら……



―――つまり、それが答えなのだ。



建一達は階段を上りきり、第一階層の扉を開け放った。


そこは学校の教室一個分程度の広さの部屋で、出口であろうガラス製の扉からは久々に見る日の光が差し込んでくる。


出口とは別にもう1つ鉄製の扉があるが、そこは気にしなくて大丈夫だろう。


建一は早く外に出たい一心で出口に向かって走ろうとする。










観崎「建一、止まって」


しかし、聞いたことも無い観崎の感情を持たない声に、歩みを止めて振り返る。


観崎は、建一に向けて銃を構えていた。


建一「観崎……お前、何を」


観崎「ごめんね、建一」


その返答に、観崎が冗談ではなく本気で建一の命を狙っている事を確信させられる。


建一「…あ、謝るなよ! 一緒に帰るんじゃなかったのか…なぁ?」


観崎「出来ないよ。それじゃあ何の解決にもならないって、分かっちゃったから…」


建一「どうして……なんでなんだよ、観崎」


2人でここから逃げ出して、それで終わりの筈だろう?


先刻まで、それは観崎も同意見だった筈だ。


観崎「駄目だよ。建一がそれを知ったら、犯人達の思うつぼだから…」


建一「…っ」


観崎が俺の命を狙うのには、明確な理由があるらしい。


それ故に、その理由さえ分からない俺に説得は難しいだろう。


俺は今まで、観崎と元居た場所に帰る為に全力を尽くしてきた。


その他大勢の日常を守りたいという意思もあったが、結果的に誰一人救えなかった。


唯一生き残った観崎も、こうして俺の命を狙っている。


誰かを守りたいという意思がこんな結末で終わるのなら、俺が今までしてきた事は……何の意味も無い。


無駄。


建一「(いや、それは…少し違うか)」


俺の目の前で、こうして観崎は生きている。


それで充分じゃないか。


観崎が俺を殺せば全てが解決するのかは分からない。


けれど、どうせここで死んでしまうのなら…


建一「ちょっと早いけど、ずっと考えていた事への答えを出すよ…観崎」


観崎「答え……?」


建一は瞳を閉じて、過去へと思いを這わせる。


観崎がこうして俺の命を狙った以上、約束は破棄されたも同然。


だから決められる、観崎はもう俺の日常を取り戻す為の道具なんかじゃない。


大切で……守ってやりたい人。


それは、観崎に命を狙われているこの状況でも変わりはしない。


建一「覚えてるか、観崎。俺達が出会って間もない頃の事」


俺の呟きに観崎は答えないが、目に見えて表情に戸惑いが滲み出ている。


建一「最初は迷惑だったさ。景色がどうとか美味しい食べ物がどうとかで連れ回されたり、片っ端から女友達を紹介してきたり」


観崎「そんなの……知ってたよ。建一、全然笑ってくれなかったし」


建一「けど、お前は諦めなかった。俺も観崎が諦めるまでは待ってやろうって思うようになって……その関係が死人同然だった俺を生かし続けた、明日を貰った。だから俺は、今日まで生きて来れたんだ」


積もった感謝が言葉になって滝のように溢れ出る。


こうして言葉にする事で、俺の中にある想いの正体が明確になっていく。


そして建一は、今自分が感じている感情を包み隠さず言葉にした。





建一「――好きだったよ、観崎」


観崎「…!」


突然の告白に、観崎は動揺を隠せない。


目が泳ぎ、銃口に迷いが現れる。


観崎「そ、そんな…どうして、こんな時にっ。私は、建一の事を殺そうとして……」


建一「構わない」


観崎「…えっ」


建一「言ったろ、観崎が死人同然の俺を生かしてくれたって。だから、そのお前に殺されるのなら、それでも構わない」


大きく手を広げて、覚悟を決める。


確かに、俺の中にあった気持ちは観崎に伝わったはずだから。


建一「言いたかったのはこれだけなんだ。悪かったな、時間取らせて……一思いにやってくれ」


観崎「……っ」


何か言いたそうな表情をする観崎だが、その言葉を飲み込んで再び決意の篭った瞳で建一を狙う。


照準は建一の眉間に合わせられ、そこから少しだけ位置をずらす。









「まさか数少ない生き残りの中に紛れているとは、私達もつくづく運が無い」


死ぬ覚悟さえ決めて心を落ち着かせていた建一にとって、それはまさに予想外の出来事だった。


建一「誰だ…!?」


まさか、まだ生き残りが……そんな事を考えながら背後を振り返り、特に注意を払っていなかった鉄製の扉へと視線を向ける。


開きかけの扉の奥は薄暗く、姿はよく見えない。


けれど、この声……何処かで聞いたことがあるような…?


「久しぶり、はじめまして。どちらが適切な挨拶だろう…?」


建一「な……っ!?」


信じられないものを見るような目で、言葉を失う建一。


後方で銃を構えていた観崎も、建一ほどではないが目を丸くして驚いていた。


何故なら、そこに居た人物は―――



他でもない、死んだ筈の白鷺可憐その人だったからだ。


しかし、この口調と雰囲気……俺の知っている白鷺さんとはまるで違う。


豹変というか、全くの別人と表現しても納得出来てしまう位だ。


建一「白鷺……さん」


可憐「何を驚く必要がある、死体を確認した訳でもあるまい?」


確かに、イービルフロアで見たのは大量の血液が付着した光弐達2人の"衣服"のみ。


建一「まさか……光弐も生きてるのか!?」


可憐「いや――」


白鷺さんは一度息を飲み……







可憐「――彼は、ワタシが"あの機械"で殺したよ」


俺が抱いた僅かな希望を粉々に打ち砕いた。


建一「……冗談」


冗談の訳がない、むしろ納得出来る。


確かに、よく考えてみれば自動人体料理機の生贄になる人物は1人で充分なのだ。


わざわざ光弐と白鷺さんを両方あの機械で殺す必要は無い。


つまり、一度油断している光弐をナイフや銃で負傷させ、その身体を引っ張って白鷺さんが光弐をあの機械に投入した。


そういう事なのだろう。


可憐「死んでいると思わせた方が色々と動きやすくてな。返り血を浴びた服を脱ぎ捨てて見せびらかすように置いていたという訳だ」


建一「見せびらかすように……?」


機械の下に隠すように詰められていた衣服を思い出す。


あれを隠したのは白鷺さん本人じゃなかったのか。


建一は知らなかったが、それは余計な情報を与えないよう飛鳥が散らばった衣服を全て隠していた為だった。


観崎「建一……今の話、本当なの?」


建一「……っ!」


まともに観崎の目を見ようともしない建一の態度に、観崎はそれが無言の肯定なのだと結論付ける。


観崎「じゃあ、あの時…建一が私と由乃ちゃんに差し出したあれは――」


可憐「正真正銘、渡光弐の肉片だ」


白鷺さんの返答に観崎は片手で口を塞いで涙を滲ませる。


ずっと隠していた事が明るみに出て観崎への罪悪感を感じながら、俺は白鷺さんを睨み付けた。


建一「…なんで、なんでそんな事を何事も無かったような顔で言えるんだ……っ!」


可憐「"なんで"…だと? 君がここに来る為に静山飛鳥の命を奪ったのと何も変わらないだろう」


建一「…っ」


痛い所を突かれて黙り込む建一だが、何かに気付いたように冷や汗を流す。


何故、白鷺さんが『俺が飛鳥を殺した事』を知っている……?


建一「ま、まさか……あんたが、飛鳥を…?」


可憐「ご名答。正確にはそこの初川観崎という人物に致命傷を与え、脱出の為に殺害させるという目的だったのだが」


つまり、デスアジャスターのオプションは白鷺さんが遠隔操作していたという事か。


可憐「さて、お喋りはこのくらいにしておこう……下手に刺激し過ぎるとボロを出す可能性があるからな」


観崎「……っ!」


その言葉に、観崎は焦りの表情を浮かべて慌てて銃の引き金を引こうとする。


可憐「おっと、残念ながらギミック機能の射程範囲内だ。君の銃は先刻からずっとロックされているよ」


観崎「い、一体いつの間に…」


試しに引き金を引いてみる観崎だったが、白鷺さんの言う通り銃弾が放たれる事は無かった。


けれど、遅かれ早かれ白鷺さんのステータスも底尽きる筈……それなのに白鷺さんは全く武装しておらず、無防備な状態だった。


可憐「このまま時が過ぎるのを待てば勝機が見えてくる、そう思うかい?」


建一「……」


心を見透かされたような言葉に内心焦りながらも、建一はじっと可憐の出方を伺う。


白鷺さんが何かを仕掛けるとすれば、ポケットの中に右手を突っ込んでいるのが気になるくらいか。


建一「……へ?」


自分が同じようにポケットの中に手を入れてギミックを操作していたのを思い出す。


可憐「残念だけどもう終わりだよ。この建物に居る限り……君達に逃げ場なんてない」


ピピピ……ピッ!


白鷺さんのポケットから電子が聞こえた直後、俺達を囲うように4つの封鎖壁が轟音と共に落下する。


そして、頭上からスプリンクラーのような音と共に霧が吹き出して来る。


恐らく、毒霧のようなものだろうか……


建一「本当に、ここで終わりなのか…やっとの思いで出口まで這い上がって来たのに、終わりなのか…?」


せめて、観崎には無事にこを出て欲しかった。


観崎「…なんで、なの」


建一「観崎…?」


観崎「私、建一とお別れする覚悟までしてゲームを終わらせようとしたのに……結局何も出来なくて、ただ建一を傷つけただけで、馬鹿みたい…」


かくんと膝を折って座り込む観崎。


声を掛けてやりたくて観崎の方へ行こうとするが、目眩がしてその場で立っている事すら難しい。


駄目だ、観崎……


そんな顔を、しないでくれ……


建一「み、さ………き…………」


靄がかかって歪む視界の中、建一は観崎に手を伸ばそうとして――









――意識を失ったその瞬間、建一の手は何も掴んでいなかった。

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