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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode1~サマヨイアソビ~
31/150

EP1-030:起死回生

危機的状況に追い込まれながら、建一は焦りながらも何処か落ち着いているような矛盾した心境になっていた。


もし相手が人間だったのなら、どれだけ楽だっただろう……と、天真やまるの姿をデスアジャスターに重ね合わせて悔しさを感じる。


…待てよ?


こいつは人間じゃない、機械なんだ。


建一「それなら…!」


一か八か、試す価値は充分にある。


左上、真ん中の順にポケットの中に仕舞い込んだ"それ"を操作し、ギリギリまで引き付けて作動させた。


キィィ……キッ


デスアジャスターの機体が停止し、振り上げた刀を静かに下ろす。



建一「ここじゃあ的にされるだけだ、逃げるぞ!」


建一は咄嗟に『不探知領域』のギミックに15という数字を入力して作動させ、多少のステータスを残しつつ逃げる時間を稼ぐ選択をした。


観崎「えっ、あれ……どういう事?」


飛鳥「いいから行くわよ!」


飛鳥はもう1度だけショットガンの引き金を引いてデスアジャスターを後方に吹き飛ばしてから、状況を理解していない観崎の手を引いて建一の後に続いた。


来た道を戻り、B2Fへ下る階段を降りきった所で待機する。


観崎「あの黒いの、追って来ないのかな…っ!?」


建一「ギミックの効果は、もう切れてる頃だが…」




ゴゴッ…ゴゴゴ!


上から物音が聞こえ、そこを見上げると階段の中腹が死体回収時のように開き、そこから再びデスアジャスターが姿を表した。


飛鳥「くっ……外へ出るわよ!」


1度B2Fに戻ると、再び上の階層に行く場合に20ものステータスが必要になってしまうが、建一達に迷っている余裕は無かった。



建一「畜生、扉を挟んでも追って来れるって事かよ。……っ!?」


しかし扉を開け放った先には、オプションがこちらに狙いを定めて不気味に宙に漂っていた。


飛鳥「やむを得ないわ…!」


瞬間、飛鳥はステータスを温存する方針を切り捨てて『射撃武器ロック』のギミックを作動させる。


観崎「みぎゅ、今なら……!」


そして、突然射撃をキャンセルされたせいで処理が追い付かず無防備になったオプションを観崎が素手で掴み取った。


それを確認して飛鳥はギミックを止めようとしたが、ステータスが空になってしまったのか、飛鳥がOFFボタンを押さなくともギミックは作動停止していた。


飛鳥「それ、どうするの?」


飛鳥はデスアジャスターが何処から来るのかを警戒しながら、逃げようとするオプションを掴んであわあわしている観崎に尋ねる。


観崎「これ、ちゃんと普通の引き金もあるみたいだから皆の方には向かせないように使ってみる!」


観崎が押さえているうちに飛鳥のショットガンで壊す選択肢もあるのだが、危険すぎて誰も提案する気にはならなかった。


建一「それにしても、出て来ないな……」


周囲を見渡すがデスアジャスターが出てくる気配はなく、先刻階段で見たデスアジャスターは幻影だったのではないかと思えてくる。


そう考えを巡らせた、次の瞬間――




ガコンッ!


勢い良く開いた天井から現れたデスアジャスターが、真上から観崎に刃を振り翳す。


観崎「…えっ!?」


建一「観崎っ!」


建一は持っていた銃を投げ捨て、観崎の身体を抱えて床に押し倒す。


突然の事に観崎はオプションを手放しそうになるが、それに気付いた建一が咄嗟にオプションを掴んで手放さずに済んだ。


デスアジャスターの刃は空を切り裂き、その隙を狙って飛鳥がショットガンの銃口をデスアジャスターへと向ける。


飛鳥「これでもくらいなさ……ッ!?」


しかしデスアジャスターは開いたままの天井に再び姿を消し、穴が塞がる。


建一と観崎も急いで立ち上がり、周囲を見渡す。


建一「くそっ……ただでさえ堅い装甲なのに、こう姿を隠されると…!」


観崎「みぎゅ、こんなんじゃ武器があっても意味無いんだよ…」



ガコンッ!


今度は飛鳥の真後ろの床が開き、デスアジャスターの刃が襲いかかる。


飛鳥「……ぐッ!」


必死に回避行動を取る飛鳥だが、避けきれずに右のふとももを刃の先端が切り裂く。


そして再び、アジャスターの姿は床の中に消え、穴が塞がる。


観崎「飛鳥ちゃん…!」


飛鳥「――し、しくじったわ…ね」


飛鳥は散らばった自分の荷物の中からタオルを拾い、右足を縛って気休め程度の止血をする。


しかし、次に飛鳥が狙われるような事があれば回避は不可能だ。


負傷した飛鳥を守り抜く為には、可能な限り早目に奴を壊さなければならない。


建一「(まだ勝機すら見えていないこの状況で、どうすればそれを成し遂げられる…?)」


建一は思案する、道を切り開く術を。


分かっているのは、ギミックの効果が有効である事と、浮遊で衝撃を軽減されていてショットガンでさえ決定打にはならないという事。


理想としては、奴が壁なり床なりに引っ付いている状態で飛鳥のショットガンや観崎が確保しているオプションで攻撃をしたい。


それも人の手で押さえつけるのではオプションを破壊しなかったのと同じ理由でアウトだ。


俺のステータスでは『不探知領域』を5秒作動させるのがやっとだろうし、観崎のステータスを使って時間を長く確保しても意味は無い、それに観崎のステータスは既に手数に入っている。


何か、何かないのか…?


建一「…待てよ?」


建一は自分の荷物の中をまさぐり始め、使う機会など無いだろうと仕舞い込んでいた"それ"を取り出す。


観崎「建一、それは…」


建一「まるを無力化するのに使えるかもと武器管理室で調達したんだ……結局使えなかったけどな」


飛鳥「成程…けれど、そんなものが機械に通用するのかしら?」


飛鳥の言う事も最もだ、これは機械を相手に使うようなものじゃない。


ガコンッ!


建一の真上の天井が開き、観崎と飛鳥が目を見開く。


建一「でも――」


既に5という数値を入力してあったギミックを発動させ、対象を見失って静かに降下して来るデスアジャスターを睨む。



建一「――もう、これに託すしか無いんだよっ!」


そしてデスアジャスターの首元に、持っていた"それ"……スタンガンを放った。


バチバチッと音を立てて、デスアジャスターの首を電流が駆け抜ける。


首元を狙った理由は、アジャスターと同じ構造ならば、首の装甲の向こう側にあるのは剥き出しのコードの筈だからだ。



ギギッ!ガガガ……ギッ、ギギッ……!


デスアジャスターの動きが鈍くなったのを確認すると、建一はスタンガンを首から離す。


そして、デスアジャスターを"ある位置"にうつ伏せになるように叩きつける。


建一「観崎、ギミックだ!」


観崎「みぎゅ…!?」


もう自分しか20以上のステータスを持っていない事は理解しているのか、観崎は少しだけ迷いを見せるが、それでも建一の瞳を見てこくりと頷いた。


観崎の指がギミックのスイッチを押し込み、轟音と共に封鎖壁がデスアジャスターの身体に降り注ぐ。


完全に機体を潰す事は叶わなかったが、それでも動きを封じる事には成功した。


建一「よし……!」


危機的状況の中ようやく見出した勝機、これには全員喜びを隠せない。


飛鳥「脱出用の初川のステータスを使ってまでこいつの動きを止めるだなんて……あの一瞬でよく考え付いたものね、ふふっ」


観崎「建一、これで撃つから離れててね!」


ずっと天井に銃口を向けたままになっていたオプションを構える観崎。


建一「分かった。…飛鳥、このショットガンを使わせてもらうぞ?」


建一も床に転がっているショットガンを拾い上げる、まだ銃を使うことへの抵抗はあるが負傷した飛鳥に使わせるわけにもいかない。


飛鳥「反動に驚いて腰抜かすんじゃないわよ?」


建一「ああ」


その後、建一と観崎の総攻撃によって封鎖壁からはみ出したデスアジャスターの頭部は大きく変形する。


2人共銃弾を撃ち尽くしたが、それでもデスアジャスターはもがくように動いていた。


全員驚きに目を見開きながらも、建一の指示で頭部に僅かに開いた亀裂に観崎が初川包丁を突き刺し、『パリッ』というチップが砕ける音と共に完全にセンサーを破壊する事に成功した。



建一「やった…のか?」


目の前でピクリとも動かなくなった機体を見つめ、未だ実感の沸かない勝利を噛み締める。


飛鳥「終わるときはあっさりと終わるものよ、こういうのはね」


建一「…そうだな」


弾を撃ち尽くしたショットガンを床に置いて、服装を整える。


観崎「ふぅ、良かったぁ……でも、これで皆のステータスが殆ど無くなっちゃって、どうすれば良いのか分からないよ」


建一「そこは地道に集めるしかないさ、時間ならたっぷりあるんだからな」


ぽんぽんと観崎の頭を軽く叩く建一。


そこには、大切なものを見守るような暖かい眼差しがあった。


飛鳥「……」


この2人の幸せは、決して壊してはいけないもの。


こんな人殺しの私でも彼等の助けになれるのなら、この命を投げ出したって構わない。


素直にそう思えた。


飛鳥「ねぇ、赤羽」


建一「ん、どうした?」


だから全て正直に話そう、こんなに優しい人達に隠し事をするのは嫌だから。


飛鳥「私は、貴方達に言わなくちゃいけない事が―――」









私が声をかけようとしたその瞬間、弾を撃ち尽くして驚異でなくなった筈のオプションが赤羽達へと銃口を向けていた。


不安になる理由なんて何処にも無い筈なのに、何故か全身から血の気が引いてゆく。


飛鳥「……っ!」


今も血を流し続けている右足を奮い立たせ、最後の力を振り絞って走り出す。


―――もう"二度と"赤羽の笑顔は消させない…!


体重を乗せて赤羽と初川の身体を後方に突飛ばし、2人をオプションの射程範囲から逃がす。


仰向けに床に倒れて、ようやく浮遊し続けているオプションの存在にが視界に入ったのか建一は目を見開く。


建一「あす――」


立ち尽くす飛鳥の表情には笑みが浮かんでいた。


オプションから存在する筈の無い弾が吐き出されるが、飛鳥が避けようとする様子は無い。


その弾は真っ直ぐ飛鳥へと飛んでゆき―――爆発した。



突然の出来事に、建一も観崎も身体を起こして固まったまま動かない。


観崎「あ、飛鳥ちゃ……なんで……えっ、これ、どういう…」


飛鳥「けほ……っ」


焦点の定まらない瞳で辛うじて息をしている飛鳥に、建一は慌てて駆け寄った。


建一「あ、飛鳥っ……お前、どうして!?」


飛鳥「……心外、ね。私が貴方達を庇っちゃ…いけなかった、かしら…?」


建一には理解できなかった。


今まで自分の命を最優先に考え、その為なら何もかもを犠牲にする覚悟をしていた筈の飛鳥が、身の危険を省みず建一達を助けたのだから。


建一「けど、飛鳥は避けようともしなかった! 撃たれる事を望んでいるかのように…!」


飛鳥「そう、ね。否定しないわ……分かってしまったのよ。もう私達のうちの誰か1人が犠牲になる……しか、帰る方法が無い…ってね。オプションが私を即死させなかったのも、きっとそのせい……」


それは単なる飛鳥の勘に過ぎなかったが、事実ステータスを稼ぐ兵器は建一達がデスアジャスターを開放した地点で、この地価施設内から全て撤収させられていた。


飛鳥は散らばった荷物の中から手探りでナイフを拾い、建一に差し出す。


建一「なんだよ、これ…」


飛鳥「どのみち私はここでゲームオーバー。貴方が私を殺して20のステータスを得れば、晴れてゲームクリアーなのよ……赤羽」


建一「なっ―――」


頭の中が真っ白になる。


否定したい、そんな事は無いと言いきりたい。


けれど飛鳥は、素人の俺から見ても救う事が不可能な重症で、飛鳥は俺に殺して貰う事を望んでいて…。


飛鳥「貴方達に、生きていて欲しい……。だから、私の命を無駄死にで終わらせないで頂戴……」


建一「飛鳥……」


震える手で、ナイフを受け取る。


それは、建一が飛鳥の要求を飲んだ事を意味していた。


飛鳥「ふふ……こんな私の我儘を聞いてくれて、ありがと、ね…」


建一「…っ」


もう飛鳥の瞳からは、正気が殆ど感じられなかった。


生から死へと移り変わる予兆を感じ、建一は唇を噛みながらナイフを大きく振り上げる。








飛鳥「初川を……大切に………しなさい…」


眠るように瞳が閉じらるのと同時、建一の構えたナイフが流れる涙と共に飛鳥へと降り注いだ。

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