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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode1~サマヨイアソビ~
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EP1-028:反発する意思

自分の手の中で息を引き取った楓の屍を抱きしめながら、観崎は涙を流し続けた。


『施設内に死体反応アリ。回収を行うので、死体から離れて下さい』


警報音が鳴り響いてもまだ、観崎は離れようとしない。


飛鳥「――どきなさい」


観崎「っ!?」


見かねた飛鳥が観崎を突飛ばす。


飛鳥は楓の携帯電話と、まるが持っていた邦和の所有物を回収し、まるの身体を楓の隣に置いた。


観崎「何…してるの?」


飛鳥「この子供の遺体もついでに回収して貰うだけよ。見ていて気分の良いものではないしね」


自分が殺した相手に対して、何も感じていないような素振りを見せる飛鳥。


次の瞬間、ガコンという音と共に2つの屍が床に開いた穴に吸い込まれていった。


観崎「楓ちゃん、まるちゃん……うっ、ぐすっ」


飛鳥「…まる? まさか、あの子供の名前…?」


観崎「……」


飛鳥「分からないわね、あの子供は貴女達を殺そうとした人物なのよ? あの楓って子だけならともかく、もう片方の死まで悲しむ必要なんて無いでしょう」


観崎「飛鳥ちゃん……それ、本気で言ってるの?」


涙を服の袖で拭き取りながら、飛鳥へと視線を移す観崎。


観崎「どんな事があっても、何をされても、それが人を殺しても良い理由にはならないんだよっ!」


飛鳥「…っ」


気圧されて数歩後退りする飛鳥、その瞳に動揺の色が浮かび上がる。


観崎「飛鳥ちゃん! なんで…なんでまるちゃんを殺しちゃったの? 他の選択肢も、あったんじゃないの…?」


その言葉に、目を伏せて黙り込む飛鳥。



飛鳥「…分かってるわよ」


観崎「え…?」


飛鳥「自分が正しくない事をしているだなんて、分かってるわよ!」


悲痛の叫びが通路に響き渡った。


飛鳥「でも、可能性が消しきれないっ。その油断が命取りになる可能性が!」


観崎「…っ」


その言葉は観崎の心を深くえぐった。


楓の死も、観崎がまるに情けをかけなければ違った結末になっていたのかもしれないから。


飛鳥「分かってるのよ…ずっと昔から、あの人を殺してしまった時から……」


観崎「飛鳥…ちゃん…?」


唇を噛み締めて握りこぶしを震わせるその様子に、観崎は飛鳥の様子がおかしい事に気付いた。


飛鳥「だから…次は貴女の番。証明してみせるわ、貴女の中途半端な決意は赤羽を悲しませる結果にしかならないって事をね!」


再び拳銃を取り出し、その銃口を観崎に向ける飛鳥。


観崎「う、嘘…!?」


自分に銃口が向けられるとは思っていなかったのか、観崎はパニックになってどうする事も出来ない。


飛鳥「…どうしたの? ほら、やってみなさいよ。殺さずに私を止めてみなさいっ!」


パンッ!


観崎の足元の床に弾痕が刻まれる。


それを見て観崎は慌てて立ち上がり、まだ使い慣れていない拳銃を構えた。


飛鳥「腰が引けてるわよ。さぁ、殺したく無いのならせいぜい手足を狙う事ね」


観崎「…っ!」


勿論観崎も拳銃を構えながら、それを考えていた。


けれど、観崎が飛鳥のか細い手足を狙うには経験が足りなさすぎた。


もし誤って飛鳥を殺してしまったらどうしよう、その気持ちが枷となって引き金を引く事を躊躇わせる。


観崎「(きっと由乃ちゃんなら、こんな難しい射撃だってこなせてた……飛鳥ちゃんを止められた)」


自分と同じように人を殺さないようにしていた由乃の存在に、観崎は安心してしまっていたのかもしれない。


良かった、自分も同じだ……そんな風に。


けれどその感情を捨てずに生きていられたのは、由乃に戦う力と決意があったからなのだと観崎は思い知らされていた。


私は…私には、何が出来るの?


観崎は考えた末、自分には誰かを守る為の力も無ければ、誰かを殺しても構わないという決意も無い事に気付く。


――中途半端


飛鳥ちゃんの言う通り、私は何をするにしても中途半端。


建一との約束さえ、彼の未来を背負う覚悟も無い癖に『なんとかしてあげたい』という衝動に流されるままに行動した結果、10年経った今でも約束を果たせないでいる。


このままじゃいけない。


だって私は、建一を…!









観崎「う……うああぁぁあああああっ!」


建一を守る為に、私はまだ死ねない。


生き残りたい。その衝動に身を任せて引き金に指をかけた、その時――


飛鳥ちゃんは、瞳を閉じて笑みを浮かべていた。


観崎「(……え?)」


本当に私を殺すつもりなのだとしたら、有り得ない行動だ。


まさか、飛鳥ちゃんは…






観崎「…駄目だよ、そんなの」


飛鳥「……っ!」


観崎が引き金を引いていなかった事に驚く飛鳥。


観崎「飛鳥ちゃん。今……私に殺される事を望んだよね?」


飛鳥「べ、別にそんな訳じゃ……」


観崎の質問に、飛鳥は反射的に目を反らして動揺を悟られないようにする。


その正面からぶつかって来ない飛鳥の態度に、観崎は苛立ちを感じた。



観崎「望んだよねッ!?」


飛鳥「…っ」


二度目の質問に、飛鳥は無言の肯定をせざるを得なかった。


観崎「飛鳥ちゃんは『あの人を殺してから…』って言った。罪悪感に耐えられなくなったんだね?」


その質問に飛鳥は暫く答えなかったが、観崎の真剣な眼差しを見て遂に折れた。


飛鳥「…そうよ。誰かの人生を奪った、その重圧、罪悪感、何より明るみに出て罰せられる事への恐怖。私は今までそれを背負って生きてきたの」


観崎「それって…」


つまり飛鳥は、この建物に来る前から人を殺した事があったのだ。


その事実に、観崎には常に距離を置いて冷たく接していた飛鳥の本心が見えて来た。


飛鳥「罰だと思ったわ。こんな所に連れ込まれて、もう1度人を殺せだなんて……もう無理、耐えられない。生きている限りこの呪縛から解き放たれないのなら、私は命なんていらない!!」


人を殺してしまった事を、表情には出さないものの飛鳥は重く受け止めていた。


思えばまるを殺した時に平気な顔をしていたのも、観崎に静山飛鳥という人物は非情だと思わせ、殺して貰う為だったのかもしれない。


……なんとかしてあげたい、飛鳥ちゃんの苦しみを和らげてあげたい。


私は飛鳥ちゃんに、なんて言葉を掛けてあげれば良い?




そんなの決まってる、建一の時もそうだったから。




観崎「大丈夫。私が、生きてる事がどんなに楽しいか教えてあげる。飛鳥ちゃんが抱えてる事、辛い事を聞いて……どうすればいいのか一緒に考えてあげる」


そこには、いつもの観崎の笑顔があった。


決して変わる事のない、建一を10年もの間支え続けた笑顔。


観崎「だから、まずはここから生きて一緒に帰ろう…?」


飛鳥「初川…」


そんな観崎の言葉は、飛鳥の心にも強く響いた。


飛鳥「無茶苦茶よ……私と初川は、まだ出会って間もない他人。なんでそんな事が言えるのよ…っ」


観崎「みぎゅ、私は……そういうのは関係ないと思うな。『なんとかしてあげたい』…そんな自分の気持ちに、嘘はつかないって決めたの」


飛鳥に手を差し伸べる観崎。


最初は戸惑っていた飛鳥も、目尻に浮かんだ涙を拭ってその手を取った。


飛鳥「……約束。破ったら承知しないわよ…?」


観崎「うんっ!」


手を取り合う二人に、先刻まで銃を向け合っていた面影はもう残っていなかった。


観崎「(これが、私に出来る事。辛い事、嫌な事を一緒に背負ってあげる事……そうなんだよね、由乃ちゃん…?)」


今亡き戦友の姿を思い浮かべながら、観崎は自分にも何かが成し遂げられる事に嬉しさを感じていた。


しかし……








ザザッ!


観崎「…っく!」


突然、観崎の頭をノイズ音のようなものが駆け抜ける。


飛鳥「初川…!?」


苦しそうに頭を抱える観崎に飛鳥は呼び掛けるが、その声は観崎に届かない。




『そー……やん』


聞き覚えのあるような声、優しい声。


けれど、あの人は本当にこんな誰かに甘えるような言葉を発するのだろうか。






ザザザザザ…!


観崎「あ……ぐッ!」


全身を痙攣させながら、ぺたんと足を折って座り込む観崎。


飛鳥「ねぇ、ちょっと……しっかりしなさい!」


肩を揺さぶって呼び掛ける飛鳥だが、やはりその声は観崎に届かない。



『…そーやんは、大丈夫だって信じてる……から』


純粋で、強く結ばれていた想いの言の葉。


それを理解するのと同時、頭がどうにかなりそうな速度で数えきれない声が通り抜けてゆく。



駄目、なんだか良く分からないけれど……これは絶対に駄目!



――けん…いちぃっ……!



沢山の『声』に飲み込まれそうになる中、私は無意識に建一の助けを求めていた。



『……き』



そんな中、沢山の声に紛れて私の望んだその声が聞こえた気がした。


観崎「……っ」


なんでなの、私……今までずっと建一の事を助ける立場だった筈なのに。



『……さ、き!』



気がついたら、建一に助けを求めてばかりだ…。










「―――観崎ッ!」





観崎「……!」


その力強い声に呼び戻されたかのように、観崎は言の葉の渦から解放された。


飛鳥「初川…! 良かった……私、貴女がこのまま死んじゃうんじゃないかって、思って…」


観崎「あれ……私、どうして」


まだ頭がクラクラとしていて、状況が良く分からない。


徐々に感覚が戻って来て、自分が誰かに抱きしめられている事を理解する。


観崎「みぎゅ……建一? 建一の匂いが…する……」


建一「あぁ、俺だよ…」


建一の身体は震えていて、私は安心させてあげようと背中に手を回す。


観崎「建一…泣いてるの?」


建一「…誰のせいだ、誰の……っ」


正直、驚いた。


この建物に来てからというものの、何人もの人が死んで、その度に建一の精神は不安定になっていたけれど……


両親の死の悲しみさえ吐き出した事の無い建一が、こんな風に泣き付いて来るなんて。


建一「一瞬、手遅れだったのかと思った…また、根こそぎ俺の一番近くにいる人達が居なくなるのかって……」


観崎「建一……でも、楓ちゃんは…」


建一「…分かってる。けど……今はお前だけでも生きていてくれた事を、嬉しく思う」


背中に回した手をほどき、少しだけ距離を取る。


建一は服の袖で涙を拭き取り、少し気まずそうな表情をしていた。


飛鳥「お楽しみの時間は、もう終わりで良いのかしら?」


ここぞとばかりに悪びれた表情でからかってくる飛鳥。


建一「お楽しみって、あのなぁ……」


飛鳥「…私は別にいいのよ? 貴方達二人がいちゃいちゃしているの見ているだけでも」


観崎「あ、あわ、あわわ……!」


急にさっきまでの行為が恥ずかしく思えて来たのか、観崎は「ぼふっ」と音が鳴りそうな勢いで赤面しながら慌てふためいていた。


建一「そんな事より、飛鳥も生き残れてたんだな。観崎を助けてくれたのか…?」


飛鳥「まぁ…そんな所、かしらね。 久しぶり…」


そこで沈黙が漂い始める。

飛鳥は1度、建一達と決別して別行動をしていた。その事実を無かった事には出来ない。


建一「そうだ。俺、次に飛鳥に出会ったら言おうと思ってた事があるんだ」


飛鳥「な、何…?」


真剣な表情で語る建一に、一体何を言われるのかと冷や汗を流しながら待つ飛鳥。


身勝手な事をしてしまったのだから、それ相応の事なのだろうと飛鳥は予想する。


建一「最初に会った時に、『俺が妄想してた』みたいな話があっただろ? あれは誤解なんだ。もしそれが少しでも決別した理由に含まれてるのなら謝る、すまんっ!」


建一の斜め45°のお辞儀に目を丸くする飛鳥。


そして…


飛鳥「ぷっ…く、ははっ、はははははっ!」


建一「わ、笑うなよ。ずっと俺のせいだったらどうしようって悩んでたのに」


飛鳥「だ、だって…そんなの分かってたし! 知ってたし! ぷははははっ!」


観崎「建一、冗談じゃなくて本気でそう思ってたんだね…」


建一と飛鳥の再開は、1つの勘違いから予想に反して明るいものとなった。

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