EP1-026:vsまる
建一達のB3Fでの活動は、想像以上にスムーズだった。
観崎と楓が見つけた地図を見て真っ先に向かった『武器管理室』で、ハンドガンやナイフ、スタンガンなどの装備を調達。
その武器を行使して迫り来るアジャスターから身を守り、同時にステータス値を稼ぐ。
料理室で食事を済ませ、次の階への扉へと向かう。
この間他の生存者による妨害は全く無かった。
恐らく、最初に比べて生存者の数が減少しているからなのだろう……
そんな事を考えながら、建一はB2Fへと続く扉の前で足を止めた。
『開錠:人の手で殺害された3人以上の死者と、2人以上の成功が確認されている事』
建一「また、"成功"か…」
何を指しているのか分からない単語だが、恐らくこのゲームの真相を知る為の"鍵"ともいえるキーワード。
天真はこれを『脱出とは別に俺達に成功させて欲しい"何か"で、それはこの建物内部で知る事が出来る』と予想していたようだが、確証が得られない以上は推測の域を出ない。
楓「とりあえず開けてみない? まるって子が"次の階で待ってる"なんて言うって事は、開いてるって確証があったからかもしれないし」
建一「そうだな…」
建一がドアノブを回すと、楓の予想通り扉は静かに音を立てて開いた。
成功というのが何を指すのかは分からないが、既に2人がそれを成し遂げている。
犯人の思惑通りに事が進んでいるという事実に悔しさを感じながら、建一達はB2Fに到達した。
建一「居るんだろ、出て来い!」
建一の声が廊下に響き、緊迫した雰囲気が漂う。
そして、建一達から20m程離れた扉からその人物は現れた。
まる「待ちくたびれちゃったわ、クスクス……」
楓「な、何…? あの子って、あんな不愉快な笑い方してたっけ……?」
まるから不穏な空気を感じ取ったのか、楓が数歩後退る。
建一「子供だなんて思わない方がいい、こいつは笑いながら天真を殺した奴だ」
まる「随分と酷い言い様ね。まぁ事実なのだけれど……クスッ」
観崎「まるちゃん…っ」
その豹変ぶりに、まると直接争った事のある観崎も表情を歪める。
観崎「本当に、まるちゃんが邦和さんを……?」
まる「……そうだけれど?」
だから何? と言わんばかりにまるはハンドガンを取り出す。
観崎「私、ほんのちょっとだけ感謝してるんだよ? ……まるちゃんのお陰で、建一が人を殺さずに済んで」
まる「あら、貴女達の仲間の仇を横取りしたのにお礼をするだなんて……憎いから殺そうとした彼は正常ではなくて?」
建一「……」
楓「あ、あんた……頭おかしいんじゃないの!?」
まる「これが"ワタシ"の正常、そして鈍い貴女達に言っておくわ。貴女達の知っている珠田まるは、もう何処にも居ない」
建一「……どういう意味だよ」
まる「それは貴方が考えなさいと言った筈よ……クスクス、そろそろ始めましょうか」
観崎と楓は武器管理室で調達したハンドガンを取り出し、戦闘体制に入る。
建一「……っ」
だが建一はというと、まだ踏ん切りがつけられないでいた。
建一「(使うのか? 俺が、これを……)」
銃を握る建一の手が震え出す。
建一は何も、まるを殺してしまうかもしれない事を恐れている訳ではない。
その手で"銃を扱う"という行為そのものに抵抗があったのだ。
まる「そのあからさまに辛そうな表情はなんなのかしら。やる気が無いのなら、貴方の大切な大切なお仲間さんが死ぬのをそこで眺めていると良いわ」
建一「ッ!」
まるの言葉に焦り、建一も形だけ銃を構えた。
まさに一触即発の状態になった、次の瞬間―――
「―――動くな」
突然、真後ろの階段から聞こえた声に、建一は反射的に振り返る。
そこには今まで出会った事の無い男の姿があった。
建一「だ、誰だ…?」
その男は邦和とまるの2人に接触した事があり。また、楓を拘束して死の寸前まで追い詰めた人物。
楓は青ざめた表情で言葉を失い、まるの余裕に満ちた表情にも僅かな動揺が伺える。
まる「…何の用かしら」
「お前が"探していた人物"でない事は既に確認済みだ。よってお前に用は無い、邪魔をしなければ争うつもりも無い」
まるはため息をつき、その言葉に無言の承諾をした。
男の視線が、建一達3人へと向く。
「"夢"は見たか」
建一「夢……?」
夢なんて、寝ていれば誰でも見るものだが……
「―――母を殺し、朝焼けの土手を歩く者」
建一「……!?」
それはまさしく、建一がこの建物に来てから見た記憶に新しい夢だった。
その夢を見た時はただの悪夢だと思っていたが、何故この男はそれを知っているのだろう。
「……ようやく、見つけたぞ」
建一「み、見つけたって何だよ……なんであんたが俺が見た夢の事を知ってるんだよ!?」
龍哉「…神堂龍哉、それが俺の名だ」
ザッ、ザザッ!
建一「が……ッ!?」
その名前を聞いた途端、頭の中をノイズが駆け抜けてゆく。
意識が朦朧として、全身から力が抜けてゆく。
そして建一は、その感覚に抗う事が出来ないまま意識を失って倒れた。
観崎「建一…! 建一に何をしたの!?」
その身体を抱き起こして、龍哉と名乗った男を問い詰める観崎。
龍哉「その男は建一というのか。こっちに渡せ、素直に従えば争うつもりはない」
観崎「嫌……! そんなの絶対に無理……」
観崎の頑なな態度を見て、男はその後方で退屈そうに様子を伺っていたまるに目をつけた。
龍哉「邪魔をしたな。相手が"2人"になってしまったが、好きに暴れるといい」
まる「クスッ、暴れるだなんてはしたないわ。"舞う"と表現して欲しいもの……ね!」
まるの銃口が楓へと向き、その引き金が引かれる。
楓「ちょっ…!?」
パンッ!
楓が通路の角に隠れた直後、その位置を銃弾が通過していった。
観崎「楓ちゃん…!」
その銃声に、観崎は楓の安否を心配して男から視線を外す。
そして、その一瞬が命取りとなった。
龍哉の両腕が観崎から建一を力ずくで引き剥がす。
観崎「あっ…!?」
龍哉「護りたいのなら揺るぎない意思で護れ、この程度の事で手放すなど論外」
そう言い残して龍哉は建一を抱えたまま、まるの立っている方向へと歩き出す。
観崎「ま、待っ……あぐっ!?」
決して逃がすまいと龍哉の背中を追おうとした観崎だったが、龍哉は振り返って右足を観崎の腹部にめり込ませた。
蹴られた場所を抱えてうずくまる観崎を尻目に、龍哉はまるとすれ違うように歩いて行った。
観崎「けん…い……ちぃ」
まる「これで貴女は終わりよ。こんなに呆気なく終わってしまうなんて、本当に残念……」
観崎へと銃口を向けて、笑みを浮かべるまる。
そして引き金に人差し指を這わせた、その刹那―――
楓「余裕ぶった事言うのは死亡フラグなのよっ、このクソガキーーーーッ!!」
まる「ッ!?」
背後から楓の突進を受けて、小さなまるの身体は思いきり吹き飛ぶ。
その際、銃はまるの手から離れて床を転がっていった。
楓「ふん、馬鹿みたいに長話して隙を作るのがいけないのよ!」
まる「けほっ! 貴女が……どうして背後に」
楓「おこちゃまは理解が遅くて大変でちゅね~。壁沿いに1週してきたに決まってるじゃないの、こう見えて毎朝欠かさずランニングしてんのよ!」
今までの仕返しをせんばかりに、胸を張って上から目線でまるを見下す楓。
まる「毎朝って……貴女、学生でしょう……」
楓「不 登 校 で す が 何 か」
まる「……とんだ駄目人間ね、呆れを通り越して関心するわ…」
楓「かっちーん、頭にきた。悪い子は調教しなきゃね……覚悟しなさいよ、このクソガキ!」
楓は腕捲りをして、倒れたまるの身体の上に乗っかり……
楓「鉄拳制裁ッ!」
まる「…っぐ!」
なんの躊躇もなくその顔面を殴り始めた。
その攻撃は止む事を知らず、何も知らない人が通りかかれば誰もが指差して「子供が苛められている」と口にする程一方的なものだった。
観崎「みぎゅ、楓ちゃん……その辺で……」
見ていられなくなった観崎が楓に声を掛ける。
楓「えぇ~、こいつこの程度じゃ絶対反省しないですよ~……」
楓が攻撃を中断して観崎の方へと顔を向ける。
ズブリ
楓「―――え?」
そして、その一瞬が楓の運命を大きく変えた。
まる「……」
楓の腹部からはまるの握ったナイフの柄が生えていて、そこから大量の血が流れ出ている。
楓「こ、こい……つ……!」
まるがナイフを引き抜くと、楓の身体が力なく崩れ落ちる。
観崎「楓ちゃん…!」
まる「……油断するなんて間抜けね、貴女も観崎さんもここで終わらせるわ」
まるは立ち上がりながら服のしわを伸ばし、落とした銃を拾おうと屈む。
「……いいえ、間抜けなのは貴女の方よ」
パンッ!
まる「――!?」
瞬間、まるの腹部に銃弾が撃ち込まれる。
まるは体勢を崩しそうになりながらも銃を拾って振り返り、被弾した場所を左手で押さえながら片手で銃を構えた。
まる「だ……誰、かしら?」
飛鳥「貴女は直ぐに死ぬのだから、わざわざ名乗る必要なんてないわ」
そこには、建一達と別れてから1度も人前に姿を表していなかった静山飛鳥が、ハンドガンを構えて立ち尽くしていた。
まる「フ……フ、それ…は、どうか…しら?」
負傷して立っているのも精一杯の筈のまるからは、まだ余裕が滲み出ている。
しかし飛鳥は、それを不思議に思うような素振りを見せず、照準をまるの眉間へとずらす。
飛鳥「――これなら、貴女もただでは済まないでしょう?」
不敵な笑みを浮かべる飛鳥に、まるの表情が凍りついた。
まる「さ、させるものですか……ッ!!」
焦りを露にして銃の引き金を引こうとするまるだが、その銃口からは何も吐き出されない。
飛鳥「残念だけど、私の見つけたギミックを使わせて貰ったわ」
それは飛鳥が1人行動をしている間に偶然見つけたギミック。
『射撃武器ロック』
その効果で、今現在この場では飛鳥の所持するハンドガン以外の武器にはロックが掛けられていた。
飛鳥「さようなら、貴女には再びこのギミックを使う為のステータスになって貰うわ」
まる「待っ――」
パンッ!
何の躊躇いもなく、飛鳥は珠田まるに引導を渡した。
頭部を撃たれたまるは、断絶魔を上げる事さえ許されずに床に倒れた。
飛鳥「やっぱり、こうすると死体回収システムは作動しないようね…」
いつまで経っても鳴らない警報音に何かを確信したような仕草を見せると、飛鳥は作動中のギミックを停止させて、銃を仕舞う。
観崎「……あ、飛鳥ちゃん…なんで」
目の前で起こった出来事に頭が追いついていないのか、観崎は口をパクパクさせて後退りする。
飛鳥「そんな事より。そこのオレンジ髪の子、貴女の仲間なんでしょう? お別れの言葉くらい言ってあげなさい」
観崎はハッっと我に帰り、まだ辛うじて息のある楓の元に駆け寄った。
観崎「楓ちゃんっ…!」
楓「観崎……さん?」
どうやら楓は既に目が良く見えていないらしく、観崎の方を見ようとはしない。
観崎「ごめん……ごめんねっ、私が……私が余計な事言って楓ちゃんの気を反らしちゃったから…っ」
楓「いいよ……私、もし観崎さん達に助けて貰わなかったら死んでたんだし」
観崎「でも……っ」
楓「でね、こんな時になんなんだけど……」
観崎の言葉を遮るように楓が口を開く。
もう自分に時間が残されていないことを感じているから、その貴重な時間を無駄にしたくないのだろう。
楓「―――私、建一のこと…好きだった…なぁ……」
観崎「え……!?」
その予想外の言葉に、観崎は目を見開いて驚く。
楓「観崎さんも多分、私と同じだと思うから……」
観崎「そんな、私は別に……」
楓の言葉を否定する要素がどこにも見つからなくて、途中で黙り込む観崎。
それは観崎自身も気づいていなかった、建一に対する感情の正体。
楓「勝負だよ。私、容赦しないから…」
本来なら観崎への宣戦布告となる筈だったその言葉。
楓「観崎さんも…」
けれど今では、建一が観崎と結ばれて幸せになって欲しいという、最後の願い―――
楓「遠慮なんかしたら、許さない…から……ね」
私、自分はずっと不幸なんだって思ってた。
誘拐されて、やっぱりそうなんだって諦めかけてた。
けれど最後は、皆に助けられて、好きな人も出来て……
だから私、笑って逝けるよ。
―――皆、ありがとね。
ゆっくりと瞼を閉じて、志崎楓は2度と目覚めることの無い深い眠りについた。




