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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode1~サマヨイアソビ~
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EP1-023:救出劇の先に

目の前で鎖に繋がれていた少女は、何が起きたのか分からないような表情で俺が差し延べた掌を見つめていた。


脅えてはいないようだったが、それでも俺の手を取る事には抵抗があるようで少女は俺の顔と掌とを交互に見ている。


建一「ま、仕方ない…か」


楓「……っ!」


俺が引っ込めようとした手を少女が慌てて掴む、その瞳は"置いていかないで"と訴えているようだった。


建一「心配するな、お前が拒否しても俺達が勝手に助ける」


楓「俺……"達"?」


涙ぐんだ表情で聞き返して来る少女。


そういえば悲鳴が聞こえて来た時に観崎達を置いて来てしまったのだが、果たしてどう説明したものか……


楓「…っ! う、後ろ!」


楓の瞳が建一の後方で銃を構えていたアジャスターを捕らえるが、建一の立ち位置からでは反撃できない。


建一「――大丈夫だよ」


しかし建一は余裕の表情で楓に笑いかける。


何故なら――







パンッ!






……ガシャンッ!



由乃「危ないですよ赤羽君、一人で勝手に行くなんて……」


観崎「そうだよっ、はぐれちゃったら大変なんだよ?」



――楓の瞳がアジャスターの姿を捉えていたのと同じように、建一の瞳は遅れて駆け付けてきた仲間達を捉えていたからだ。


由乃が放った銃弾は見事アジャスターの頭部に命中し、その機能を停止させていた。


建一「文句言うなよな、意外と間一髪だったんだぞ」


観崎「そ、そうだけど……むむぅ、なんか納得いかない」


観崎が不服そうに眉をひそめているのを、華麗にスルーする。


由乃「……あのっ、次のアジャスターが来ます…!」


由乃が指差した先からはアジャスターの大群がこちらに迫っていた。


確か、ビーストは俺達を認識するとその階層の全てのアジャスターを召集するんだったな。


この娘がやったのかは分からないが、ここにビーストの死体がある以上、アジャスター召集は確定だろう。


建一「どうにかしないとな、でも流石にあの数は…」


由乃「……その、扉を沢山開いてバリケードにするのはどうでしょう」


観崎「それだ! 由乃ちゃんあったま良い~!」


周囲の扉を開けて前後に壁を作る建一達。


向かい合わせになった扉を開く事で、それぞれ2つの扉で作られた壁は銃弾やアジャスターの進行を防ぐバリケードとなる。


それを見つめていた楓は、溢れ続ける涙を拭う事もせず口を開いた。


楓「なっ…なんでアンタ達、逃げないのよっ。私は見ず知らずの他人なのに…」


建一達を見る楓の瞳は、この人達を本当に信じて良いのか迷っているようだった。


通路の前後の扉を建一と由乃が押さえる事で手ぶらになった観崎が、膝をついている楓の前でしゃがみ込む。


観崎「私は初川観崎っ、あの子は峰沢由乃ちゃん、建一は赤羽建一っていうんだよ。君は?」


楓「えっ……わ、私は志崎楓……」


その返事を聞いた観崎は満足そうな明るい笑顔で楓に笑いかけた。


観崎「みぎゅ、これで私達と楓ちゃんは他人なんかじゃないんだよっ」


楓「……訳、分かんないよ」


片手で涙を隠しながら観崎に返事をする楓からは、もう先刻のように建一達を信じて良いのか迷う仕種は見られなかった。



建一「……で、その鎖、切れそうか?」


観崎「みぎゅ、分かんないけど頑張ってみるよっ」


初川とマジックで落書きされたブレードを構えて鎖を叩き始める観崎。


それを見守っていた建一だったが、2つの扉の隙間から伸びて来たアジャスタスターの腕を見て我に帰る。


建一「こいつ……ふざけんなっ!」


所持していたブレードで何度も叩き付け、無理矢理バリケードの向こう側へと押し込む。


アジャスターは浮遊しているせいか、力ずくで扉のバリケードを突破できないでいるようだ。


一方由乃の方は、流石というべきかバリケードの隙間から1機1機的確にアジャスターのセンサーを撃ち抜いて無力化させていた。


楓「アンタ達……ホント、何やってんのよぉ……っ。私なんか助けなければ、こんな事にはならなかったのに……」


観崎「このっ、このっ!」


楓「ちょっと聞いてるの!?」


観崎「みぎゅ、後ちょっとなんだから……じっとしてて、よっ!!」


ジャラッ、と音を立てて観崎の初川包丁によって鎖は断ち切られる。


拘束具は相変わらず足首に着いたままだが、これで楓は自由の身となった。


楓「あ……」


建一「よしっ、逃げるぞ!」


建一の掛け声に観崎と由乃が頷く。


楓「逃げるって……どうやって?」


建一「まぁ黙って見てろよな。由乃っ!」


ポケットから先刻手に入れた『不探知領域』のギミックを取り出して、由乃に投げ渡す。


由乃「今のでステータスは65になりました。最大で21秒までやれますよ…!」


建一「充分! 勿体ないから15秒に抑えても良い位だ」


観崎「やっちゃえ由乃ちゃん!!」



ピッピッピッ…ピピピピ!


由乃によってギミックに『15』という数字が打ち込まれ、その効果が発動する。


不探知領域の効果は、電子機器による干渉の無効化。つまり機械であるアジャスターのセンサーは今この瞬間から俺達を認識する事が出来なくなる。


観崎「行こっ、楓ちゃん!」


楓「あ…う、うんっ」


何が起きているのか分からない表情で慌てている楓の手を、観崎が引っ張った。


殆どのアジャスターが破壊された由乃の側のバリケードを押し開けて俺達は飛び出す。


残った数体のアジャスターがバリケードを目指して移動しているが、俺達はその横を素通りして駆け抜けてゆく。


楓「えっ、ど……どういう事!?」


建一「説明は後だ、急げっ!」


由乃「あ、あと7秒です…!」


その言葉を聞いて走るペースを早める。


アジャスターの追跡から逃れる為には、ギミックの効果が切れる前に全てのアジャスターのセンサーに探知されない場所まで逃げなければならない。


正面はT路地の分岐点。どちらに進んでも結果は変わらないのだろうが…どうしたものか。






楓「右っ!」


突然の楓の掛け声に導かれ、迷っていた俺達はT路地を右折する。


建一「……げっ!」


右折して直ぐに、正面を向いているアジャスターが視界に入る。


もし左折しようものなら、ギミックの時間が切れてこのアジャスターに探知されていただろう。


全員で最後のアジャスターを追い抜いた数秒後、ギミックの効果が切れる。


観崎「これでひとまず安心、だね。楓ちゃんはあそこにアジャスターが居るって分かってたの?」


楓「いえ、ただの勘……だったり」


建一「なんにせよ助かったよ。この先の移動も楓の勘に任せてみるか、まだ地図も手に入って無いからな…」


危機を乗り越えた事で、場に明るい雰囲気が漂い始める。


だがアジャスターの群が近くに居る事に変わりは無く、建一達は出来るだけ早くこの場を離れる事にした。



◆◆◆◆◆◆◆◆



楓「こっち……かな?」


自信無さそうに楓が指差した通路を見て、建一はため息を零した。


建一「逃走時の勘は、まぐれだったのか……」


楓「う、うるさいっ! 私だって、その……あの時は必死だったから」


両手の人差し指をくっつけて下を向く楓。


観崎「あーっ、建一が楓ちゃんを虐めた!」


建一「ええっ!?」


由乃「…その、まだ志崎さんの勘が外れたって決まった訳じゃないですし、あの、えと」


落ち込む楓、口論する建一と観崎、慌てて場を収めようとする由乃。


それはまるで、友達同士のような日常的なワンシーン。


建一もまた、やっと誰かの日常を救う事が出来たのだと達成感の余韻に浸っていた。











「ククッ…! その勘、割と優秀だな」


「きっと能力値を全部"運"に振ったんですねぇ!」


だからだろうか、その人物達が近くに居る事に建一達は気付かなかった。


建一「お、お前達は…!」






邦和「また会ったな……赤羽、初川、それと凄腕のガンナーさんよォ!!」


まる「なんか1人増えてますけど、今度こそメッタメタのギャフンギャフンにしてやるのですー!」


天真邦和、珠田まる。


俺達が知る限りで最悪の2人組に出くわしてしまった。


邦和「厄介なのはさっさと殺すに限るが、お前達にひとつだけ聞いておく事がある」


建一「また、痛めつけて無理矢理吐かせるつもりか…?」


以前邦和に刺された傷痕が、その痛みを恐怖に変えて俺の心にのしかかって来る。


邦和「あんな面倒なのはもう御免だよ。んで、それな」


丁度建一達と邦和達の中間に位置する、その扉を指差す邦和。


観崎「みぎゅ、ただのドアじゃ………あっ!?」






『開錠:Adjuster15機以上の破壊と1人以上の成功が確認されている事』


それは紛れも無く、B3Fへと続く扉だった。


楓の勘は正しかったのだ。


ただ、そこに待ち伏せしている邦和達が居なかったら……の話だが。


楓「そ、そんな……私…っ」



邦和「で、どうなんだ赤羽。この成功って項目、心当たりがあるんじゃないのかぁ?」


建一「知るかよ……この建物内で成功って言ったら、俺達のうちの誰かが脱出に成功したって事なんじゃないのか?」


俺の返答を聞いた邦和は、呆れ顔でため息をついた。


邦和「あのなぁ、この成功ってのを満たさないと脱出なんて出来ないんだよ。頭使え」


建一「…余計なお世話だ」


危険人物とはいえ、天真の言っている事は正論だった。


しかし『成功=脱出』でないとすると、このゲームは……


建一「まさか…」


邦和「その"まさか"なのさ。あるんだよ……脱出とは別に、俺達に成功させて欲しい"何か"が。そしてそれは、この建物内部で知る事が出来る。でなれりゃ、扉に堂々と"成功"なんて記したりしねぇ」


つまり、このゲームは俺達が脱出すれば良いだけの単純なものではない。


建一「なんなんだよ、その"何か"って……」


邦和「赤羽よぉ、それを質問してんのは……









こっちなんだがなぁ…っ!」


邦和がずっとポケットに突っ込んでいた手を引き抜き、腰に突っ込んでいたハンドガンを取り出す。


直ぐに回避行動を取らなければ殺される、けれど……



俺の背後には、観崎達が…!



誰かを傷つけてしまう事が恐かった。


善人にしろ悪人にしろ、彼等は同じ人間なのだから。


しかし、抵抗しなければ守れないものがあるなら……


建一「やむを得ねぇッ!!」


間に合わないと心の何処かで分かっていながらも、天真に向けてブレードを振り翳す。


邦和「遅いぞ赤羽アッ!」


赤羽「っ!?」


天真は引き金を引く事はせず、俺の腹部に回し蹴りを叩き込んだ。


観崎「け、建一っ!」


蹴り飛ばされた俺の元へと観崎が駆け寄って来る。


天真は銃口は俺に向けたまま、獲物が罠にかかるのを待つかのように観崎が射程範囲内に入るのを待つ。


来てはいけない……と警告しようとするも、先刻蹴られた場所が痛んでうまく声が出ない。


邦和「まずは2人……と」


勝利を確信した天真が、口の端を吊り上げる。






由乃「…銃を、捨てて下さい」


邦和「……あぁ?」


その声に天真が視線を反らすと、由乃が銃を構えて天真に狙いを定めていた。

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