EP1-021:Gimmick
心を落ち着かせて、少しでも動揺すれば照準がずれてしまう。
深呼吸をして、狙いを定めて。
―――撃つ!
パンッ!
私の持つハンドガンから耳につく破裂音が響くのと同時、私に向かって真っ直ぐに迫って来ていたアジャスターが力なく崩れ落ちる。
飛鳥「――ふぅ」
私は汗を拭い、持っていたハンドガンに安全装置をかける。
途中までは赤羽達と一緒に行動していた時から持っていたライフル銃を使用していたのだが、あんなものをずっと持ち歩くのは体力的に無理があったし、何より反動が大きくて私には向かない。
飛鳥「これでステータスは30、これを試すには調度良いわね」
鞄の中から黒い電卓のような形をした機械……"ギミック"を取り出す。
『射撃武器ロック:使用者から半径15m以内と、使用者の立つ通路の直線上全てにおける使用者の所持物を除いた射撃武器を使用不能にする。一度"ON"ボタンを押すと、"OFF"ボタンが押されるまで可能な限り効果が持続する。
ステータス消費:1秒あたり5』
このギミックはたまたま休憩の為に立ち寄った通常の部屋に配置されていたもので、それが本当に記された通りの効果を及ぼすのかはまだ分からない。
飛鳥「さて、これを試す前に……この階層の開錠条件を確認しに行こうかしら」
携帯の画面にB4Fの地図を表示させて現在位置と照らし合わせ、私は再び歩き出した。
そして何を考える訳でもなく歩き出すと、嫌でもB5Fの事を思い出してしまう。
人殺しとはまた別の、嫌がらせのような意図さえ感じる通過条件。
散乱した渡光弐と女性の2人分の衣服……
……それが意味する事はつまり、渡はもう生きてはいないという事。
ああいう誰かが死んだ直接的な情報は人を狂わせる。
「もし自分も同じ目に遭ったら…」などと考えてしまったが最後、冷静さを失って純粋な人間までもが危険人物になってしまうだろう。
……かつての私が、そうだったように。
だから私は、それを見つけて直ぐに機械の下にまとめて隠しておいた。
服を隠したのにはもうひとつ理由がある、渡が死んだ事を知っている人物は……私が衣服を隠す前にB5Fに居たという事になる。
だからもし人と接する機会があれば、それを尋ねる事で相手が犯人である可能性を除去できるのだ。
…それはあくまで「相手が本当の事を話してくれた場合」だけれど、ね。
飛鳥「…渡は、本当に敵なんかじゃ無かった……のよね」
こうして渡が死んだ事で、ようやく彼が悪人でなかった事を心の底から信じられる。
自覚してしまう程に、私の思考は汚れきっていた。
渡光弐、馬鹿で欝陶しい…ただそれだけの奴だった。
でも、そんな渡だったからこそ「この人は私を裏切らないかもしれない」と僅かにだが信じる事が出来た。
飛鳥「……渡、貴方を殺したのは誰なの…?」
…赤羽建一、初川観崎。
真っ先に彼等の名前が脳裏を過ぎる。
渡と別れてからの事は何も知らないけれど、雰囲気からして赤羽達と渡が別行動をする可能性は低い。
もうひとつの女性の衣服が気になったが、その持ち主に心当たりが無い以上考えるだけ無駄というものだ。
だから、渡殺害の犯人として赤羽と初川を疑わざるを得なかった。
飛鳥「…赤羽、建一」
そう声に出しただけで、軽く身震いしてしまう。
赤羽は私の事を知らないようだったけれど、もしそれが"嘘"だったとしたら?
赤羽が私の事を前々から"知って"いて、それが理由で私がこの建造物に幽閉されたのだとしたら…?
飛鳥「その時は……終わりよ、何もかも……」
手の奮えが止まらない。
それほど私が"赤羽建一"に恐怖する理由は大きなものだった。
彼の名前を聞いた時、動揺が相手に悟られないよう心を落ち着かせるのにどれだけ苦労したか。
赤羽建一。渡とはまた別の明るさを持ち、年齢の割に異常なこの状況下で冷静な判断力を持っていた気がする。
それも見た目から感じる事が出来るものだけで、彼が嘘をついていた場合にも通用できる情報ではない。
飛鳥「……でも、まさか、死んでなんか、ないわよね?」
確かに赤羽は恐怖の対象だけれど、彼が死ぬ事はつまりこの幽閉騒動の犯人ではなかった可能性を大きくする。
彼が私が見たままの純粋な人間だとしたら……
居なくなるのは悲しい…な。
飛鳥「ッ!? な……何を考えてるのよ私は…」
首を左右に振って赤羽の事を意識から外そうとするが、上手くいかない。
飛鳥「なんで……」
もしかして、私は…
赤羽を、信じたい……の?
◆◆◆◆◆◆◆◆
団体行動というのは嫌でも目立ってしまうものだ。
それに、いざという時に"逃げる"という簡単な行動でさえ合図なしで全員で実行する事は難しい。
ただ、団体だからこそ効率的に行える作業もあった。
観崎「みぎゅ、そっちはどう?」
由乃「…駄目ですね。 簡単には見つからないのかも……」
建一達は片っ端から通常の部屋を調べ回っている。
目的はコマンドマンの発見、再び死者を要求する開錠条件が来た時の為に、可能なら壊しておくべきだという全員一致の意見だった。
こんな時、人手は多いに越した事はない。
建一「……ん、コマンドマンじゃないけど何かあったぞ」
そんな中、建一が何かを発見して二人を手招きする。
そこには明らかに何者かが故意で配置したであろう黒い箱があった。
箱の大きさは調度俺の靴が両方収まりそうな程度で、その面には白字で何かが記されている。
由乃「これは……何でしょう? 箱に"Gimmick"って書いてありますけど」
―――ギミック
建一と観崎はその単語に聞き覚えがあった。
特に建一は、この"ギミック"とやらを使ったのではないかと思い込んだ邦和に散々な目に遭わされていたので、より強く印象に残っていた。
建一「ギミック……これが、そうなのか」
由乃「…? 赤羽君は知ってたんですか」
建一「まぁ、名前だけ…な」
罠である可能性は無いに等しいが、一応警戒しながらその箱を開ける。
そこに納められていたのは電卓のような黒い機械と、文字の印刷された葉書のような材質の紙だった。
建一「この機械がギミックで、こっちの紙は……説明か」
『不探知領域:使用者から半径10m以内に対する電子機器による干渉を無効化する。事前に秒数を指定する必要があり、指定しない場合は処理を受け付けない。
ステータス消費:1秒あたり3』
建一がそれを声に出して読み上げると、真っ先に由乃が反応した。
由乃「…電子機器って、もしかしてアジャスターの事……でしょうか」
観崎「みぎゅ、だとしたら便利なものを拾ったねっ!」
二人の意見は正しい、この建物で電子機器といったらアジャスターが真っ先に思い浮かぶだろう。
他には同じ電子機器であるギミックや、俺達の使用している携帯電話のカメラ、コマンドマンも該当するだろう。
しかし、この記述に嘘偽りが存在しないのなら……
――犯人達が使用しているであろう監視カメラからの干渉も、無力化されるという事……か?
建一「なんにせよ、このギミック……試しておくに越した事はないな」
観崎「みぎゅ……私達ってどれくらいのステータスが補充されてるのかな、それが分からないと試せないんだよ?」
ごもっともな指摘を受けて思案する。
最初にアジャスターを破壊したのはB8Fでの1機。
次にB7Fの領域で少なくとも3、4機は壊した。
B6F、B5Fでの破壊は無く、このB4Fでまた3、4機といった所だろうか。
少なく見積もって計算すると
"(1+3+3)*5=35"
となる。
建一「俺は、最低でも35はある筈だ」
由乃「…私は30ですね。コマンドマンを破壊して-10されてしまっているので……」
観崎「…あ、れ? なんで二人ともそんなの覚えてるの?」
自分だけ覚えていない事に慌てているのか、必死に笑顔を作っているのがバレバレだ。
由乃「私はステータスの情報を前から知っていたので…」
建一「扉の開錠に破壊したアジャスターの機数が記されてたから、自然にな」
観崎「………わ、私だけ駄目駄目なんだよ」
ショックなのか、観崎の作り笑顔が微妙に歪んでいる。
観崎がどこか抜けているのは今に始まった事ではないが、それを本人に言えば更に落ち込むだろう。
建一「兎に角、一度このギミックの効果を試して……」
俺が話題を切り替えようとしたその時……
「嫌ああああぁぁぁぁああああああああああっ!!」
突如通路に反響した悲鳴によって、俺達のつかの間の安息は断たれたのだった。




