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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode1~サマヨイアソビ~
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EP1-019:B5F

コマンドマンが由乃によって破壊されている事を知った俺達は、まずは次の階に進む為の扉へと足を運んでいた。


建一「…にしても、コマンドマンをどうやって破壊したんだよ。見た目からしてハンドガンだけじゃ無理があるんじゃないか?」


由乃「はい……その時はショットガンを持っていたので……。コマンドマンに殆どの弾を使ってしまって置いてきてしまいましたけど…」


ショットガンとは、また凄い代物が用意されていたもんだ。


ショットガンが存在する事、由乃がそれを扱える事、そのショットガンの弾を何発も受けてようやく壊れたコマンドマンの事


異常だと感じる感覚が麻痺して来たのか、それらにも大して驚く事なくすんなりと情報として記憶する事ができた。



観崎「みぎゅ、次の階への扉……あれだねっ」


観崎が指差した扉には、例によって特別な部屋だと示すプレートが無いのに「開錠」という項目が記されていた。


『開錠:人の手で殺害された1人以上の死者と、この階でAdjuster10機以上の破壊が確認されている事』


とりあえず「人の手で殺害された1人以上の死者」というのは由乃が破壊したコマンドマンによって成り立っている筈。


建一「……俺達、この階に来てからアジャスターなんて壊してたっけ?」


観崎「みぎゅ、まるちゃん達に襲われてそれどころじゃなかったんだよ……」


二人して落胆する俺達。


由乃「……その、私も2機くらいなら壊しましたけど……足りませんよね」


建一「それでも足しにはなってるだろうし、他の誰かが壊している事を願うしかないな…」


俺は扉に近付き、諦め半分でそのドアノブを引いた。






すると意外にもその扉は小さな音を立てて開く。


観崎「……あ、開いちゃったね!」


由乃「…は、はい」


二人は安心したような表情で階段を上り始めるが、俺は何かが引っ掛かっているような気がして思考を巡らせていた。


建一「いったい誰が残り8機のアジャスターを…?」


それはビーストによって集合したアジャスターと正面衝突した男女によるものだったのだが、建一にそれを知る術は無かった。



◆◆◆◆◆◆◆◆



B5Fに到着した俺達は、まずその広さに驚いた。


分かりやすく表現するなら体育館2、3個分の広さ、そして一定間隔に設置された倉庫のようなもの。


遥か向こう側の、つまり反対側の壁にはこちらと同じように扉が設置されている。


まさか、B5Fにはこの大きな部屋がひとつ存在するだけなのだろうか。


観崎「ひっろいねぇ~、それでどうしよっか?」


由乃「……えと、手分けして倉庫のようなものを調べて行くのはどうでしょう」


おずおずと手を挙げながらも自主的に意見を述べる由乃。


俺達と話す事に、少しづつ慣れて来ているようだ。


建一「とりあえずはそれで行こう、何か見つけたら報告な」


由乃「はいっ」


観崎「みぎゅ、了解だよ」


それぞれが散らばって自由気ままに行動を始めるが、観崎がいきなり倉庫にノックをして話しかけているのを見てため息が出る。


建一「あれは期待値ゼロだな……ん?」


俺も観崎達とは別の倉庫を調べようと歩き出した所で、何かを踏み付けたような感触があった。


疑問に思って足元に視線を向けると―――










―――血



足元には大きな血溜まりがあり、そこから途切れる事なく一直線に血痕は続いている。


血を流した主が足を引きずって歩いたのか、誰かが引っ張ったのかは分からないが―――


建一「観崎達は……?」


辺りを見渡すが、観崎と由乃の姿は伺えない。



―――大丈夫だ、まだ気付いていないらしい。



それを確認すると、俺は早足でその血の跡を辿って行った。


これは嫌な"予感"なんてレベルのものではなく、確実に何かが起きている。


焦る気持ちを抑えながら血痕を辿ってゆくと、ひとつの倉庫の前でそれは途切れていた。


いや、倉庫の扉に遮られているだけで実際は中へと続いているのだろう。


建一「ここ、か……」


扉のドアノブを掴もうと伸ばした手は震えていて、自分が事実を知る事を恐れている事を理解する。


―――それでも、確認しなければならないのだ。


そう割り切ると、俺はドアノブを掴んで一気に扉を開けた。











建一「うっ…!?」


鼻につく強烈な臭いに思わず後退る。


手で鼻を覆いながら再び倉庫の中に進むと、真っ先に目に飛び込んで来るものがあった。





建一「…なんだ、あれは」


俺の身の丈の3倍ほどはありそうな巨大な機械。


水槽のような形状をした部分にはどす黒い液体が溜まっており、そこに何かを運ぶ為のベルトコンベアーの前で血痕は今度こそ途切れている。


また、下部には何故か皿、フォーク、グラスといった食器が収納されており、いよいよこの倉庫が何の為にあるのか理解できなくなっていた。


この機械について何処かに説明があるのではないかと思い機械の周囲を調べ始めると、それらしき文章が綴られたものを見つけた。






『自動人体調理機械:ベルトコンベアー上の拘束具で人体を固定後、"始"と書かれたスイッチを操作すれば自動で人体調理が始まる。頭部回収の為、頭を下にして拘束するのが望ましい』



人体、調理。


その単語の羅列を見た途端、この倉庫に充満している強烈な臭いの正体に気付く。


血の臭いだ、あまりに強烈な臭いだったせいか気が付かなかった。


再び上部のどす黒い液体を凝視する。


建一「……っ」


それが大量の血液だと理解すると同時、吐き気に襲われて咄嗟に口を押さえて堪える。





建一「……ふぅ、ふぅ」


ようやく落ち着きを取り戻した俺は、ひとまず新鮮な空気を吸う為に倉庫から出ようと出口へ…



コツンッ



…歩き出そうとした時、何かを蹴飛ばした。


建一「なんだ…?」



そして何を蹴飛ばしたのか確認するべく足元に視線を向けた俺は言葉を失う。









―――白鷺さんが履いていた、靴……?


それは機械の下の僅かな隙間からはみ出ており、そこを覗き込むと靴以外にも何かが詰め込まれているのが分かった。


建一は慌てて、その"何か"を引っ張り出してゆく。



建一「こ、これって……どういう…」



そこから出て来たのは、光弐と可憐が身に着けていた衣服、装飾品と思われるものの全てだった。


ぐちゃぐちゃに混ぜられた二人の衣服は血まみれになっていて、この倉庫で「犠牲」になった人物が誰だったのかを建一は理解する。


建一「う―――」


そして機械の中の液体を見た時、三度目にして建一はついに堪えられなくなり、喉から込み上げて来た汚物を床に撒き散らした。



建一「はぁっ、はぁっ………えっ、なんだ、つまり、これが全部…二人の身体だったって、いうのか……よ」



信じられない、現実味が無さすぎて信じる事が出来ない。


まだ身体が残っていたのなら彼等が死んだ事を理解できたのかもしれないが、こんな原型を留めていないものを見せられても頭がついて行かない。


建一「何かの冗談だろ、なぁ…」


あまり血の付着していなかった衣服……光弐が腰に巻いていた上着を手に取り、返事が無い事を理解していながら話し掛ける。



建一「……?」


上着を強く握りしめた時、ポケット何かが入っているような手触りがあった。


そっと取り出して確認すると、それはチープな型紙で作られたカードのようなものだった。



『兄さんへ』



真っ先に目についたのは、整った綺麗な文字で綴られたその単語。


そして、その後に続くのは光弐の弟と思われる人物から光弐に向けてのメッセージ。


とても兄思いな弟なのだろう、カードは文字でびっしりと埋め尽くされていた。



『今日は兄さんの誕生日なのに遅くまで仕事なんですね、直接祝う事が出来なくて残念です』


建一「……」


それは、ブラコンだとからかわれても仕方ない位の愛情の篭った文章で――


『兄さんは自分の為にあまりお金を使おうとしないので、こういう時くらいは誕生日プレゼントを贈ってみようと思ったのですが、気に入って貰えましたか?』


建一「…っ」


それは、今なお光弐の帰りを待ち続けているであろう弟の純粋な気持ちで――


『僕にはこんな物しか用意できなかったけれど、着てくれると嬉しいな。……なんて、思っていたりします』


建一「光………弐!」


――この人から光弐を奪ってはならない、そう確信した。



けれど、もう手遅れで…



光弐の命は戻らなくて…



ただ失われゆく日常を見守る事しか出来ない……俺はそんな無力な存在だった。









『最後に……いつも有り難う、兄さん。



        影斗より』





建一「光弐、お前……こんな所で、弟を残して……なにやってんだ…よ」


どうしようもなく馬鹿で、うざったくなる程明るい奴だった。


そんな光弐を、彼を必要としてくれている家族がいる。


大切な、弟がいる。


それなのに………






建一「なんでだよ……なぁおい、光弐ィィィイイイイイッ!!」



ただ、理不尽だった。


だってそうだろう?


光弐が、光弐の弟が…一体なにをしたっていうんだ?


彼等はなにもしていない、ただそこには仲の良い兄弟の日常があっただけ。


そんな些細な日常さえ、俺は守る事が出来なかった。



光弐、光弐の弟、白鷺さん…



彼等の日常もまた、俺の行動次第では救えていたかもしれないものだった。




建一「……ごめん、な…」



今更俺に出来る事は何もなく、静かに呟いた謝罪の言葉がただ空気に溶けていった。


建一の握るカードの隅には、涙が乾いた跡がある。


それは建一の涙ではなく、弟の手紙に涙した光弐のものだった。


このカードを肌身離さず持っていたのも、光弐が弟思いな兄"だった"事の証明。


ただ、その思いを踏みにじるかのように……






……残酷な現実はいとも簡単にその幸せを奪っていった。

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