EP1-001:赤羽建一
この小説には、
・鍵括弧(「」)の隣に判明している人物名が記載される。
・改行を乱用する。
・菱形(◆◆◆◆◆◆◆◆)で場転する。
などの、通常の小説とは異なる記述が多数あります。
また、自己満足から始まった作品なので完成度はお世辞にも高いとは言えません、ご了承下さい。
人が生まれて来る事に、果たして何の意味があるのだろうか
やがて朽ち果てる命に、本当に価値など存在するのだろうか
俺は一人になると、そんな事ばかり考えている。
「…無意味だよな、ほんと」
ため息混じりに夜の星空を見上げると、秋の終わりを告げる冷たい風が俺の頬を撫でる。
俺には何も無い
大切な者も、生きる意味も
今の俺を支えているものはただひとつ…
ちっぽけな、"約束"だけだ。
―Mrbanana presents―
―The DethGameStory―
背後から微かに物音が聞こえたような気がした。
ここは誰も通らないような一本道。
同じ方向に歩いている筈なのに、今まで気付かずに歩いていたなんて事が有り得るのだろうか。
俺は気になって振り返る。
―Plan
Shikabane Asobi―
そこには誰も居ない、ただ薄暗い夜道が続くだけ。
カチッ
「…!?」
突然、首筋に何か固いものが当てられた事に気付いたのと同時―
バチバチッ!
「ぐッ!?」
全身に強い衝撃が走り、俺の意識はそこで途切れた。
………
……
…
これは小さな物語。
小さくて何の意味も無い…
けれど、もしかしたら俺にとっては大きな意味があるのかもしれない…
………そんな、物語。
シカバネアソビEpisode1
~サマヨイアソビ~
◆EP1-001:赤羽建一
俺は今、夢を見ている。
懐かしい夢、戻れない過去。
…そうだ、ここからだ。
俺の日常が狂い始めたのは…
◆◆◆◆◆◆◆◆
茜色に染まる空。夕日に照らされて、土手に1人の少年の影が描かれる。
「…はぁ」
彼、赤羽建一は、小学校からの帰宅途中にため息を零した。
彼は落ち込んでいたのだ。
友達が少なく学校が面白くないという理由もあったが、それ以上に…
建一「おとーさん、誕生日は一緒にいられるって言ってたのに…」
今日は建一の誕生日なのだが、父親と一緒に居られない。
それが、彼が落ち込んでいる最大の原因だった。
彼の父、赤羽裕武は建一の誕生日は一緒に祝うと約束をしていのだが、誕生日の前日になって他の社員から「出張の予定が入りました」と電話があったのだ。
本人から電話が来ないあたり、相当忙しいのだろう。
建一「確か"しゅっちょー"っていうんだっけ、お父さんは頑張ってるんだから…怒っちゃ駄目だよね。それに、おかーさんはいてくれるんだし…」
彼の母、赤羽叶はある空港のお土産屋さんで働いているのだが、そちらは先月から建一の誕生日には休みを入れていたみたいだ。
気を取り直して家に帰ると、郵便受けにいつものチラシとは違う少し大きな封筒が入っていた。
封筒には何も書かれてなかったが、手触りや大きさからビデオテープである事を理解する。
建一「…? おかーさんが頼んだのかな………あっ、もしかしたら僕に内緒で頼んだ誕生日プレゼントかも!」
気付かないフリをしても良かったのだが、僕はどうしてもビデオテープの中身が気になってしまい、それを手に取る。
建一「おかーさんはまだ帰ってないみたいだし。ちょっとだけなら……いいよね?」
封筒を片手に、僕はテレビに向かって駆けていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
建一が好きなのはフルーツの乗っていないクリームの使われたケーキ、好きなものを食べている時の建一の笑顔が好き。
叶「裕武さんの分まで、私が建一を楽しませてあげないと…」
玄関の前に立ち、深呼吸をする。
明るく振る舞うのは苦手だけれど、今日だけは頑張ってみよう。
扉の鍵は…開いてる?
叶「はぁ、建一ね…あんなに扉の鍵は閉めておいてって言ってるのに」
まぁ、軽く注意するくらいで見逃してあげましょう。
今日は建一の誕生日なんだから…
叶「建一、ただい-」
何かを言いかけて言葉を失う。
建一「……おかぁ…さん」
建一が、泣いていたのだ。
この子は誰に似たのか自分が悲しかったり辛かったりしても決して他人には見せようとしない所がある。
その建一が、涙を隠す事も忘れて泣いていたのだ。
叶「…どうしたの建一っ、何処か怪我したの…!?」
建一「あれ…なにっ、なにぃ…っ?」
建一が居間の方向を指差すのを確認すると、私は慌てて居間に駆け込んでゆく。
居間には特に変わった所は無く、いつもと違うのは見慣れないビデオケースがテーブルの上に置いてあるだけ
私はそっと、テーブルからテレビへと視線を移した。
テレビにはコンクリート質の建物が映っていて、そこには腹部を押さえながら壁にもたれている一人の男性の姿があった。
男性は腹部を撃たれてしまったのか傷口を押さえている手は血にまみれ、口の端からも血が垂れてしまっている。
『……う………ぅ……』
叶「!?」
この男の人って…
建一「おとーさん…だよね、これ…おとーさんがくれた……の…かな」
叶「建一…」
確かに、そこに映っていたのは裕武さんだった。
建一「そうだよ、そうに決まってる。だって、今日は…僕の…誕生日…だもん」
叶「………そう…ね…」
何か冷たいものが頬をつたう、私も建一も…本当は違うんだと分かっている。
裕武さんは…赤羽裕武って人は誰かを悲しませるようなジョークを披露したりしない。
それでも空想を並べてしまうのは、現実があまりにも酷すぎて向き合のが恐いから。
でも…
裕武『…うあ…ぁ……あああ!』
叶「裕武さん!?」
建一「おとーさん…!!」
自らを映しているカメラに気付いたのか、虚ろな瞳でこちらを見る裕武さん。
裕武『―――』
彼の声はあまりに小さく弱々しくて聞き取る事は出来ない。
その代わりに唇の動きが遅く、何を言っているのかは子供の建一にも分かったと思う。
建一「おとー…さっ………うっ、うわぁぁ…」
叶「裕武、さん……」
―――建一、叶……俺、約束守れそうにないや…
それは、赤羽裕武最後の言葉だった。
叶「けん……いちっ?」
建一「なに、おかぁ…さん」
二人とも泣いているせいか、うまく言葉が出せない
叶「お母さん、頑張るから。建一が笑って……いられるように頑張るから…!」
建一「……っ」
叶「今だけは、泣いちゃうの許して……ね?」
建一「……うん」
叶「うっ…ううぅ…裕武さ…んっ……うあっ、あああぁぁぁ……!!」
叶にとって赤羽裕武という最愛の人が亡くなった悲しみは、息子の前だからといって抑えられる物ではなかったのだ。
楽しい記念日となるはずだった誕生日、そんな日に建一達に贈られたのは"父親の死"という残酷な誕生日プレゼントだった…
◆◆◆◆◆◆◆◆
あの悲劇から2日後、建一は部屋で叶の帰りを待っていた。
先日、叶は無理を言って二日目の休みを貰い、必死になって赤羽裕武について調べていた。
赤羽裕武本人と連絡が取れないのは勿論、彼の会社に電話しても「そんな人はいません」の一点張り。
裕武が死んだというのは紛れも無い真実だった。
建一「…はぁ、おかーさん遅いなぁ。遅くなる時は電話するって言ってたのに……」
トゥルルルルルルル…
トゥルルルルルルル…
建一がそう言った直後、わざとやってるのかと疑いたくなるようなタイミングで電話がかかってきた。
建一「あっ、噂をすれば……なんだっけ? 忘れちゃった」
そう言いながら建一は受話器を手にする。
建一「もしもし、赤羽ですけどー」
「私は警察の杉森といいます。君は…赤羽建一君ですか?」
…警察?
もしかして、おとーさんの事……かな。
でも…おかーさんは何故かあのビデオを警察には届けないって言ってたし、本当になんだろう。
建一「そう…ですけど」
「建一君、落ち着いて聞いてね。君のお母さんは――」
………
……
…
建一「そ……そんなっ!?」
警察の人が話した内容はこうだ。
―赤羽叶の死体が見つかった。
―調べてみないとわからないが、恐らくそれは毒物によるものらしい。
―彼女のポケットからも毒物らしきものが発見された。
―警察は自殺と推測している。
建一「うそ……だ…」
…嘘だ!
おかーさんは、自殺なんかしたりしない!
建一には、叶が自殺したとは思えなかった。
裕武が死んだショックで自殺してしまったのではないか?
…それは違うだろう。
叶は建一を残して死ぬような人ではない。
けれど真実がどうであれ叶が死んでしまった事、それは変わらない。
「君の事は、父親側のお婆さんが引き取って……」
その後も警察の人は話を続けるが、建一にとってそれはもうどうでもいい話だった。
建一「おとーさん…」
彼の大切だった人達は―
建一「おかーさん…」
彼の日常は―
建一「もう、訳がわからないよ」
彼の生きる意味は―
建一「もう…
…どうでもいい」
―――たったの3日で、跡形もなく崩壊してしまったのだ。
これは今から10年前の出来事。
赤羽建一は、幼くして残酷な現実に絶望したのだった…