EP1-014:B6F
B6Fに通じている扉に綴られていた文章、それを見た俺達は息を飲んだ。
『開錠:1人以上の死者と、この階で5機以上のAdjusterの破壊が確認されている事』
建一「こういう事だったのか…」
飛鳥の言っていた殺人が要求されるかもしれないという推測は、どうやら当たっていたようだ。
あの大人と子供の2人組が人を殺そうとしていたのも、恐らくはこれが原因だ。
B7Fへの扉が開錠した直後に涼路さんが亡くなっていたのだから、2人組が最初にこの扉に到達した時は単にアジャスターの破壊ノルマを達成していなかった……そういう事だろうか。
建一「嘘であって欲しいけど、やっぱり本当なんだろうな……ここに書かれてる事」
光弐「疑う余地もな……っと、危ねぇ!!」
光弐を殴って気分を晴らそうと思ったのだが、ギリギリの所で避けられてしまう。
建一「チ、ブレードで斬っとけば良かったか」
壊したアジャスターの残骸から拾い上げたものだが、観崎の言う通り見た目よりずっと軽く扱いやすいものだった。
光弐「ちょっ……なんか前回から俺の扱い酷くね!?」
建一「前回とか言うな」
観崎「えっ、光弐君っててっきり"そういうの"が趣味なのかと……」
光弐「いや、どう考えても違うに決まってるだろ!?」
可憐「渡なんかに構ってないで、扉が空いてるか確認」
試しに白鷺さんが扉を引くと、それは静かに音を立てて開いた。
つまりそれは、ここに書いてある条件が満たされている事を意味する。
この階での5機以上のアジャスターの破壊は、俺達が壊したものだけでも余裕で足りるだろう。
死者は涼路さんと可憐さんが見たという少年の2人、こちらも足りている。
こんな条件を用意するなんて……最初から全員を生きて帰らせるつもりなんか無かったって事かよ。
光弐「とにかく登ろうぜ」
建一「そうだな…」
この階で人と争わずに済んだのは、幸か不幸か……
誘拐犯は、わざわざ兵器を使って俺達を殺そうとする回りくどい奴だと思っていた。
だが、それだけなのだろうか?
2つ目の階段を登りながら建一は考える。
観崎「建一、考え事?」
建一「あぁ、たいした事じゃないから大丈夫だよ」
まだ確信するに至る材料が足りない、今の段階で観崎達に話しても不安がらせてしまうだけだろう。
階段を登り終わり、B6Fへ通じる扉を開ける。
建一「よし、これでまた1つ…」
………進展した。
その言葉は、目の前の光景に遮られた。
まる「こ~んにっちはっ!」
元気で明るい、聞き覚えのある声。
建一「ッ!?」
光弐「な…」
観崎「みぎゅ!」
ピンク髪の子供、建一達はその人物に見覚えがあった。
あの、不釣り合いな大人と子供の2人組のうちの1人だ…
まる「えっと……そんなに、ビックリしちゃいましたか?」
俺達が驚いているのを心配そうに眺めてくる少女。
心配そうな顔は、とても人を殺そうとしているとは思えない。
建一「あ、あぁ…ちょっとだけな」
もう下の扉の開錠は済んだのだし、俺達を殺すつもりじゃないのかもしれない。
でも、それなら何故この少女は俺達を待ち伏せていた?
それに、一緒にいた赤い髪の男が見当たらない……
まる「私、珠田まるっていいます!」
光弐「ぶふぅぅっ!?」
光弐が予想外の精神的不意打ちを喰らって思いっきり吹いた。
まる「むっ、失礼ですね…」
観崎「み、みぎゅ…光弐君、謝った方がいいよ?」
光弐「さっ…サーセン!」
光弐と観崎は、まるの意図が掴めずに表面だけ明るく振る舞っている。
…光弐のは素なんだろうが
可憐「ねぇ、赤羽。 もしかしてこの子が…?」
白鷺さんが小声で話し掛けてくる、情報交換の際に特徴だけ伝えていたから言わずとも既に警戒してくれているようだ。
建一「えぇ、例の2人組のうちの1人です」
可憐「そう…」
小さく相槌を打った白鷺さんは、再びまると名乗った少女に視線を戻した。
光弐「俺は光弐、渡光弐な」
観崎「私は初川観崎だよ。よろしくね、まるちゃん?」
光弐と観崎も、まるに自己紹介をする。
まる「むー、ちび●る子ちゃんみたいで嫌です…」
なんというか、彼女の名前は色々と可哀相だった。
まる「あっ、そっちのお兄さん達の名前も教えて欲しいですっ」
さっきまでむくれていたが、建一達を見て再び笑顔で問い掛けて来る。
年相応の表情の変化を見ていると、この少女は俺達が見た人物とは別人のような気さえする。
建一「俺は赤羽建一」
可憐「白鷺可憐、よろしく」
建一達も自己紹介を済ませると、まるは黙り込む。
数秒、建一達を眺めて…
まる「ふぅ、冷たい人達です」
やれやれとため息をつかれてしまった、警戒しているのを上手く隠せていなかったのだろうか。
観崎「まるちゃんは、ここで誰かを待ってたのかな?」
何気なく観崎が問い掛けたが、それは建一達が1番知りたかった事だ。
まる「えっと、まるはですねぇ…」
バンッ!
可憐「…!?」
カキンッ!
突然の銃声と、それが何か硬い金属に当たった音。
だが、それを気にしている余裕は無かった。
まる「……悪い悪魔さん達を、待ってたんだよっ!」
まるが銃声に気を取られていて隙だらけの建一に飛び掛かる、その手にはナイフが握られている。
建一「…っ!」
気付いた時には、ナイフは既に目前にまで迫っていた。
…ドクンッ!
時間が止まったような感覚が脳を支配する。
建一はこの感覚をアジャスターの電波によるものではないかと予想していただけに、人を相手にこの感覚に捕われてしまった事に驚いていた。
建一「くっ、そぉぉッ!!」
右足で地面を強く蹴り、まるの猛攻を避ける。
まる「えっ…?」
建一の体はそのまま左に横転、先刻まで建一の居た場所には何の躊躇いもなく突き出されたナイフがあった。
……やっぱり、俺達を殺すつもりだったのか!?
俺達は、この子の本性を知っていた筈なのに……もしかしたら警戒心を抱かせにくいまるを使った交渉なのかもしれないと思い始めていた。
こうして行動に移されるまで、信じられなかった。
「チェックメイト……だ」
……だから、まるが囮だという事にも気付けなかった。
建一「なっ」
声のした方向へと視線を運ぶ
観崎「なに…が……」
そこには、あの赤い髪の男に銃を突き付けられた観崎の姿があった。
光弐「観崎ちゃん!!」
可憐「……油断、した」
あまりに一瞬で圧倒的に不利な状況になってしまった事を理解すると、光弐と可憐もその場を動く事が出来ずに立ちすくむ。
邦和「俺は天真邦和」
邦和と名乗った男の声は低く、それでいて確かな迫力を持っていた。
俺達を睨みつける眼は鋭利な刃物のような眼光を放ち、見えない枷で縛られているような錯覚さえ覚える。
邦和「これからお前等の人生を終わらせる者の名前だ、雑魚はせいぜいあの世で恨みな」
分かっていた、まると共に行動していたこの男が周囲に潜んでいるであろう事。
知っていた、この人達が平気で人を殺せるような危険人物であるという事。
それなのに
結局、俺は―――
建一「…み、観崎ィィィィイイイイイイイイッ!!」
―――ただ、その名前を呼んでやる事しか出来なかった。




