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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode1~サマヨイアソビ~
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EP1-013:放たれた影

天真邦和と珠田まるは、上の階へと進む為の階段を目指していた。


彼等は既に一度扉に到達していたのだが、その時はまだ開錠条件が満たされていなかったのでこれで二度目となる。


邦和はまると出会ってから、他の人物とは全く遭遇していない。


1度だけ建一達の気配を感じて目をつけそうになったのだが、その時同行していた飛鳥の働きによってそれは阻止されていた。


邦和「それにしても、妙だ」


まる「何がですか~?」


この建物には似つかわしくない間の抜けた声を出す珠田、どうせ暇なので相手をしてやる事にしよう。


邦和「確かに俺はそれなりに銃を扱った経験がある。しかし、ここで目覚めてからは一段と腕が上がっている気がする……最初は気のせいだと思っていたが、やはりおかしい」


アジャスターを撃ち抜く時の、あの時間が止まったような謎の感覚。


俺が照準を合わせる事に意識を集中させると、必要としていなくても神経が研ぎ澄まされて時間が止まったように錯覚する。


だが、俺が理解出来るのはこの感覚が"錯覚"だという事だけで、何故ここに来てから集中力が飛躍的に上昇したのかは分からないままだ。


まる「良かったじゃないですか、まるは下手っぴなので羨ましい限りですよ~!」


邦和「まぁ、確かにマイナスでは無いな」


俺は、誘拐されてからここに運び込まれるまでの間に"何か"があったのではないかと考えていた。


邦和「考え過ぎ、か…」


不確かな仮説を並べた所で何にもならないと判断して、それ以上は考えない事にした。


まる「邦和さん邦和さん」


珠田が小声で呼び掛けて来る。


邦和「どうした」


まる「あれ、人じゃないですか?」


珠田が指差した先には、確かに1人の男が歩いていた。


背は高く髪の色は黒、ロゴの入っていない白い制服のようなものを身に纏ってはいるが年齢は学生というよりは20代後半から30代といった所だろう。


俺は常に周囲を警戒していた筈だが、あの男の存在には何故か気付けなかった。


邦和「…珠田、よく気が付いたな」


珠田「うーん、まるにも何で気付けたのかよくわからないです」


なんとなく、人がいるような気がした。


ただそれだけの事だったのだが、振り返って本当にそこに人がいた事にまる自身も驚いていた。


邦和「向こうはまだこちらには気付いていない……これはチャンスだな」


珠田に後ろに下がっているように手で指示して、ライフル銃を構える。





…ドクンッ!


また、時間の止まったような錯覚。


もう疑問に思うような事はせずに、その感覚の中で邦和は銃の引き金を引いた。




ダンッ!





邦和「…あぁ?」


俺は確かに男の身体に向けて銃弾を放った筈だった。


「…2人か」


だが、男に命中した様子はない。


それどころか今の銃声でこちらの存在に気付かれてしまった。


邦和「チッ……手元が狂ったか?」


男は特に何をする訳でもなく、黙って邦和達に向かって歩いて来る。


あいつは馬鹿か?

とっとと逃げれば良いものを…


邦和「こっちにとっては好都合だけどなぁっ!!」


ダンッ、ダダンッ!


今度は、軽く2度引き金を引いた。


先刻よりも狙いやすいこの距離だ、流石に今度は外す事もあるまい。



「…おい、お前」


邦和「なっ!?」



男は生きていた、それどころか無傷だった。


だが、邦和が驚いたのはそこではない。


「―――」


まる「あれは…えっと、"はんどがん"ですか?」


そう、男の手にはハンドガンが握られていた。


だが、邦和やまるにその銃弾が当たった訳ではない。


まさか、アレで弾いて銃弾の軌道を反らしたのか?


いや、人間の動体視力程度でそんな事が出来る訳が…!




「聞きたい事がある」


邦和「…なんだ?」


男に対して冷静に振る舞う邦和だが、内心では焦りの感情を抱いていた。


自分が殺そうとした相手が、感情の揺らぎひとつ見せずに平然と話し掛けて来たからだ。


まるで邦和に命を狙われる事など、大した問題ではないとでも言うかのように。


「お前達は"夢"を見たか…?」


まる「え、えとっ……夢って、どういうの、ですかね?」


先刻の銃撃戦で怯えてしまったのか、珠田は緊張を隠せない様子で冷や汗をかいているのが見て分かった。


「……母親を殺す夢だ、見た事はないか?」



何かと思えば、母親を殺す夢?


この男の目的がさっぱり分からない、そんな事を聞いてどうするのだろう。


邦和「…ない、これで満足か?」


まる「まるもないです…」


2人にはそんな夢を見た記憶はなかった。


「そうか、ならいい」


男はそれだけ確認すると、踵を返して去っていく。




……俺に背を向けて




まるで相手にされていない、その事実に苛立ちの感情が込み上げて来る。


邦和「この野郎、俺に殺されるのが恐くないのかよッ!?」



これを逃したらこの男を始末できないと考えた邦和は、迷わず追撃を入れようとした。


弾切れなど考慮せずにありったけの銃弾を男の背中に向けて打ち込む"はずたった"。


「恐れる以前に……」








バンッ!


男は振り返り様にただ一度、そのハンドガンの引き金を引いた。


邦和「っ!?」


それは邦和のライフル銃に命中し、その衝撃で邦和は銃を落としてしまう。




「お前に俺は殺せない」


そう言い残して男は去っていった。











まる「ふぇぇぇん邦和さぁ~ん!」


まるは恐怖に耐え切れず泣き出してしまった。


邦和「ふぅ…泣くな面倒臭い。俺達は無事なんだ、何の問題もないだろうが」


…しかし、アイツは何故俺達を殺さなかった?


―――あの男が誘拐犯だから


それも考えたが、それなら彼の管轄であるはずのこの建物内で「誰かを捜す」という行為は不自然すぎる。


恐らくだが、彼は真の犯人ではないのだろう。


邦和「そういや……あの野郎は結局、誰を捜しているんだ?」


母親を殺す夢を見た人物、とは一体誰の事だ?


邦和「チッ、情報不足だな…」


あの男の目的を把握するには、他の人間とも"友好的"に接触しなければならない。


…そんなの御免だがな。


邦和「珠田」


まる「グスン…は、はいっ」


邦和「あの野郎とは可能な限り関わらない事にする。 今の所、向こうから殺される心配はないしな」


あいつが俺達を殺すつもりだったのなら、殺すチャンスはいくらでもあった。


いや、違うな…チャンスなどという表現は間違っている。


あいつの視界に俺達が居る、俺達の視界にあいつが居る。


それだけで俺達はいつ殺されてもおかしくない立場となる、それだけは確かだ。


まる「はい…まるも、あの人とはもう会いたくないです」


この建物からの脱出をゲーム感覚で楽しんでいた珠田も、流石に恐怖まで楽しむ事はできなかったようだ。


邦和「とにかく、俺達は上の階を目指す事だけ考える。いいな?」


まる「はいっ」


それにしても、とんでもねぇ化け物が現れたもんだ。


誰だか知らねぇが、あんな奴に狙われている不幸者が居るだなんて……


邦和「同情するぜ、ククッ」


そう小さく呟くと、邦和達は階段に向けて移動を再開した。



◆◆◆◆◆◆◆◆



観崎「とりゃっ!」



ガンッ!



観崎が振るった初川包丁でアジャスターの頭が切り飛ばされる。


建一「おぉ、思ったより観崎も上手く使えてるじゃんか」


観崎「みぎゅ、まあね~。だってこの包丁、見た目よりずっと軽いし!」


俺達は今、光弐と白鷺さんに代わって仮眠室の外で見張りを兼ねた戦闘訓練をしていた。


建一「なぁ、アジャスターを壊す時、変な感じがしなかったか?」


観崎「あれっ、もしかして建一もなの?」


建一「まぁな」


アジャスターと戦う時の、時間が止まるような感覚。


まさかと思って聞いてみたが、やはり観崎もその感覚を味わっているらしい。


見張りの交代をする時に聞いてみたのだが、光弐と白鷺さんも個人差はあるもののアジャスターと戦う際には同じ感覚を味わっているようだ。


すると、これはアジャスターが発する特殊な電波か何かのせいか?


観崎「なんか不思議だよね。 喧嘩なんて全然した事ないのに、いつの間にか戦い方を知ってたみたい。 どうしよっか?」


建一「う~ん、原因は分かんないけど邪魔な感覚って訳でもないから深く考えないでおくか」


ガチャ



光弐「ふぁ~あ。建一ごくろーさん………へぶっ!?」


可憐「そろそろ、上の階へ向かうべきね……って、渡はどうしてうずくまってるの?」


休憩していた2人が仮眠室から出てきた。


ついでに光弐の顔を殴ったら、さっきまで悩んでいた事が綺麗さっぱり吹っ飛んだ。


観崎「みぎゅ!それじゃあ出発だね!」


建一「あぁ」


光弐「ナンデ俺バッカリ…」



俺達が誘拐された理由。


飛鳥との再開。


2人組の殺人鬼。


時間が止まるような感覚。


そして、まだ見ぬ誘拐犯。


目的、驚異、謎


不安な事、分からない事だらけの道ではあるが…


『皆で、ここから脱出してみせる』


その思いを胸に、建一達は上の階に向かって再び歩き出した。

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