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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode1~サマヨイアソビ~
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EP1-011:領域

可憐「…なんだろう、これ」


この階の地図を見ていた可憐が立ち止まり、首を傾げた。


建一「どこですか?」


可憐「ここ、この部分」


白鷺さんが指差した部分を見ると、その部分だけが点線で囲って書かれている。


建一「なんでしょうね…」


そんな建一と可憐の様子を見つめる2つの視線があった。


光弐「…あの2人には、恥じらいというものがないのか」


観崎「ムッ、ムムム…」


この時、携帯画面の小さな地図を見る為に建一と可憐の顔は必要以上に接近していた。


そして光弐は呆れ、観崎は嫉妬、それぞれの感情を隠す事なく表に出していた。


建一「あ、ここにもありますよ」


可憐「写真が小さくて見にくいけど、ここにもある」


建一と可憐は、2つの視線に気付かずにそのまま会話を続ける。


観崎「ムムムッ、ムムーッ!」


光弐「うわー……」


嫉妬と呆れの視線が強くなるが、二人はまるで気付かない。


建一「ここに行ってみましょう、1番近いですし」


可憐「うん…階段と同じ方向だし、いいと思う」


結局その雰囲気のまま、移動が再開されてしまうのだった。




◆◆◆◆◆◆◆◆




地図で点線に囲まれていだ場所は、通常の白い通路とは対象的な黒い通路となっていた。


その通路の入口にはプレートがあり、扉同様に文字が綴られている。




『領域:この"領域"に対してAdjusterは射撃を行わず、領域内では移動速度が半減する。また、この階層にAdjusterが存在する限りAdjusterは10分毎にこの領域を巡回する』





光弐「おぉ、調度いい。これが本当なら、可憐さんが言ってた戦力を確かめる云々に調度いいじゃん」


建一「………」


確かに調度いい。



……だが、"調度よすぎる"。


B8F通過条件のように「アジャスターの破壊を強制する」のは、俺達とアジャスターとを戦わせる上で必要な条件だ。


だが、この『領域』というものは明らかにそれとは違う。


まるで俺達がアジャスターを壊す手助けをしているような…



まさかとは思うが、俺達がアジャスターを破壊する行為は、犯人達からしてみれば都合の良い行為なのか?




可憐「…この領域、体制を立て直す用途の部屋ばかり」


建一「……え?」


確かに仮眠室、武器庫、浴場、またしても料理室…といった部屋のプレートが陳列している。


観崎「ム…ホントだ」


不機嫌そうに呟く観崎


建一「観崎……さっきから機嫌悪いな、どうかしたのか?」


観崎「つーん、別に機嫌悪くなんかないよ~」


―――嘘だ、絶対嘘だ。


観崎はただ、先刻の建一と可憐のやりとりを気にしているだけなのだが、睨まれていた事にすら気付けなかった建一には観崎の機嫌が悪い理由が分わからなかった。


建一「とにかく、10分に1回はアジャスターが来るんだから気をつけておいた方が……」


観崎に注意をしようとした瞬間、俺は言葉を失う。





観崎「わかってますよーだ、ぷんぷん」


不機嫌そうな観崎の後ろに、鋼色の機械が姿を現したからだ。


観崎はまだ、気付いていない。


アジャスターは領域の「射撃を行えない」という条件に従っているのか、ブレードを大きく振り上げる。


建一「言ってるそばからっ!」


建一は観崎の持っている初川包丁を強引に奪い取り、そのまま後ろのアジャスターに向かって振るう。





建一は「得意」と言える程にスポーツをしている訳でも、特別体力作りをしている訳でも無かった。


建一「…!?」



―――身体が…軽い!?



だから、自分の身体の変化に直ぐに気が付いた。


それでも動揺は無く、ブレードの刃は迷う事なくアジャスターへと向かう。




ガンッ!


刃が機体の首元に接触し、浮遊していた機体は壁に強く叩き付けられて鈍い音を立てる。


観崎「…きゃっ!?」







メリッ、メリメリッ…


次々と首の周囲にあるコードが切断されてゆき、最後にはその首を完全に切断してブレードが壁と接触した。



建一「ふう、危なかった…」


安心した、その直後―――











ザッ、ザザッ…




ノイズ音


建一「…ッ!?」





ザザッ、ザザザ…



響く、伝わる。



皮膚、血管、そして脳







ザザッ、ザーーーー……




最後には、まるで電波の届いていないアナログテレビのような永続したノイズとなった。




…意識が朦朧とする、視界にはノイズしか見えない、肌は何も感じない。




なんだこれ、気持ち悪い…




駄目だ……もう……




立って…いられ…な……い……





◆◆◆◆◆◆◆◆




建一の身体は、まるで操る糸を離した人形であるかのようにその場に崩れ落る。


光弐「建一? ……おいっ、どうしたんだ!?」


まず、最初に気が付いたのは建一の声に反応して直ぐに振り返っていた光弐だった。


可憐「……赤羽?」


次に気が付いたのは可憐、彼女は建一がアジャスターを破壊したのを確認して一度見るのを中断していたのだが、光弐の声に釣られてもう一度振り返る事で異変に気が付いた。


観崎「え……」


突然の事にパニックになっていた観崎は、光弐と可憐が建一に駆け寄るのを目で追っていてようやく気が付いた。




けん…い……ち?


あれっ、アジャスター……


まさか、撃たれてっ……!?



壊れたアジャスターを見た時に「撃たれたのかもしれない」と思ったが、よく考えてみれば領域内ではアジャスターは銃を使う事が出来なかったはず。



じゃあ、どうして……



観崎「け、建一っ!!」


慌てて確認するが、どこにも怪我はなく「寝ているだけ」と言われれば頷けるほど建一は無傷だった。


観崎「ふぅ…よ、良かった」


あぁ、建一に冷たくしすぎちゃったから……バチが当たったのかな。


苛々していて建一の忠告を無視してしまった事を後悔する。


でも、私……なんで苛々してたんだろ。


別に建一と可憐さんが仲良くしてたって、私には何の関係も無い筈なのに……


光弐「怪我もしてないし、ただの気絶か? ……ここで目覚めてから色々あったし疲れてたのかもな」


可憐「でも、だからっていきなり倒れたりは……」


光弐「とにかく、そこにある『仮眠室』まで運ぼうぜ」


可憐「……うん」


観崎「……」


私、なんか守って貰ってばっかりだ………


観崎はこれまで、いざという時は「自分が建一を守る」ものだと思っていた。


観崎「でも…守って貰うのって、案外悪くない…かも」


そんな観崎の中で、何かが変わり始めていた。



光弐「観崎ちゃん、悪いけど建一運ぶの手伝ってくれる?」


観崎「…あ、うん。いいよ」




◆◆◆◆◆◆◆◆




可憐さんの提案で2人1組で交代で仮眠を取る事になり、今は既に寝ている建一と私が休む番となっている。


仮眠室の開錠条件も馴染みのある『開錠:室内が無人である事、内側から出る際にはこれを適用しない』というものだったので、扉の隙間に光弐君の荷物を挟んで鍵がかからないように工夫している。


二人は気を使ってくれてるんだと…思う。


観崎「でも建一が寝てたんじゃ意味がないよ…はぁ」


隣のベットを見ながら呟く。





建一「…さ…ん」


観崎「……?」


寝言だろうか、建一が何かを呟いている。


建一「おとー…さん……おかー…さん……」


父親と母親を呼ぼうとする建一、昔の夢を見ているのだろうか。


私も知らないくらい、昔の話。


それは私がなるべく触れないようにしてきた話、亡くしてしまった建一の"大切なもの"の事。



建一「う…うぅ…っ」


両親を失った悲しみのせいなのか、眠っている建一の頬を涙がつたう。


観崎「建一……」


最近は少しづつ笑うようになってきていた。


けど、そんな気がしただけ。


やっぱり、心の底では寂しいんだよね……


こうして両親を呼びながら泣いている建一の姿を見てしまうと、彼を心の底から救えた訳じゃないという無力感が込み上げてくる。


建一「おかぁ…さん……」


建一は泣き続ける。


観崎「ごめんね、建一……」


約束しておきながら、10年経っても建一を心の底から救ってあげられない。


観崎には、謝る事しか出来なかった。


観崎「私、もっと……」











健一「死ンデ……シマ…エ」







観崎「え…?」



――私、もっと頑張るから。



観崎がそう口にする前に、建一の口から信じられない言葉が放たれた。


観崎「今、なんて……」


建一は答えない、ただ涙を流し続けるだけ。


彼は、なんの夢を見ているのだろう。


私には、ただ寄り添ってあげる事しか出来なかった。

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