EP1-010:Mistake Select
唐突に銃を向けられて「料理をしてくれ」と頼まれるのは普通なのか、普通ではないか。
明らかに前者であろうその行為を現在進行系で続けている深青色の髪の女性は、無表情で何を考えているのか全く分からない。
「……入らないの?」
女性は建一達に向けた銃はそのまま、そんな疑問を投げ掛ける。
………天然、なのか?
光弐「あー、え~っと…」
観崎「あ、あはは…」
光弐と観崎が、こちらにチラチラと目配せする。
お前が言え、そう伝えたいのだろう。
建一「あの、その銃……できれば降ろしてくれませんか。あまり近付きたくないんですけど…」
「あぁ……これ、さっき一悶着あったばかりだから…無意識に警戒してた、ごめん」
そう言うと女性は思ったよりあっさりと銃を降ろす。
光弐「一悶着って……」
光弐が女性に質問しようとするが……
ぐぅぅぅうう…
観崎「おなか…すいたぁ」
観崎のエネルギー切れが間近に迫っている合図が鳴った。
「先に食事…ね」
建一「そうですね……」
◆◆◆◆◆◆◆◆
料理室には何故か"食材"ばかりが揃っており、単体で食べるような物は何もなかった。
とりあえず、炒飯&玉子焼きセットをささっと仕上げる。
建一「なぁ、玉子焼きくらいは作れるもんじゃないのかよ…?」
ここにいる全員は、玉子焼きすら作れないらしい。
観崎「もぐもぐみぎゅ、おなかがすいて力が出なかったの……ごめんねもぐもぐ」
光弐「料理とか弟が朝飯作ってくれる位で、後は仕事場近くのコンビニ弁当だからな」
「インスタントの方が早い」
修正、観崎は仕方がない。
「そうだ、自己紹介…まだだった」
食事を始めるまでは話し辛い空気だったので、まだ建一達はお互いに自己紹介もしていない状態だった。
観崎「みぎゅ、私は初川観崎だよっ」
建一「赤羽建一です」
光弐「俺は渡光弐な、なんかここで目覚めてからは自己紹介してばっかだなぁ」
どう見ても年上なのにタメで話す光弐。彼らしいといえば彼らしいのだが、誰彼構わずそういった対応をするのはどうなんだろう。
可憐「私は白鷺可憐、よろしく」
建一「白鷺さん、ですね。一応聞いておきたいんですけど、誘拐されて来たんですよね?」
可憐「多分……誘拐された記憶がないから、実際はよくわからない」
やはり白鷺さんも、俺達と同じ境遇なのか。
建一「それで……あの、その拳銃は何処で?」
白鷺さんの腰に納められているハンドガンを指差す。
可憐「あぁ……これは、最初の階の『武器庫』って場所で見つけたもの。思えばあの時の一悶着もこれを使えばなんとかなったのかも………」
光弐「んで、さっきからずっと気になってたんだけど『一悶着』って…なんかあったのか?」
遠い目をしている可憐に、先刻から疑問に思っていた事を質問する光弐。
可憐「あった、ここの部屋に来る……少し前に」
………
……
…
それは可憐が7階で地図を入手し、まずは食事を優先しようと料理室を目指してした時の出来事。
可憐「…あれは」
視線の先、頭に鉄の装飾品を嵌めた真っ黒な犬。
その獣は可憐の方を睨みながら警戒心を剥き出しにしている。
可憐「こんな所に、どうして犬が…」
誰に問い掛ける訳でもなく、独り言のように呟く。
「…あれは周囲の兵器を呼び寄せる」
可憐の疑問に答えた声の主は、反対方向から獣に歩み寄っていた。
白い髪と白い服、年齢は高校生かそれより少し上。
可憐「貴方は、誰?」
「知る必要などない、俺は直ぐに死ぬのだから」
その少年の瞳は、既に死んでいた。
元からそうだったのか、この建物で起きた何らかの出来事が彼の瞳をそうさせたのかは分からないけれど…
可憐「どういう事…?」
獣「…ガウッ!」
獣が少年に襲い掛かる。
しかし少年は飛び掛かってきた獣の猛攻を必要最低限の移動で回避、頭の装飾品を掴み取り、それを無理矢理取り外した。
ブチッ……ブチブチッ!
獣「―――」
その装飾品は脳にまで食い込んでいたらしく、獣はそのまま動かなくなる。
「逃げた方がいい、この獣が呼び寄せた殺人兵器がここに集結する」
噂をすれば影、少年のいる通路の奥から3機のアジャスターが姿を表した。
可憐「貴方は……どうするつもりなの?」
「言っただろう、"俺"は直ぐに死ぬ事になると。 どうせ死ぬのなら自らの意思で死ぬ方が良い」
会話をしている間にもアジャスターは増え続けている。
可憐がアジャスターを見るのは初めてだったが、その武装からここに長居してはならないと判断した。
可憐「見捨てたくはなかったけれど…」
見ず知らずの少年でも、この場にいれば死んでしまうというなら助けたかった。
だが、彼を無理矢理にでも連れていこうとすれば可憐自身も無駄死にするのは確実。
可憐「……ごめん」
考え抜いた末、可憐は逃げる事を選択した。
キィィィィィィン…!
10機に増えたアジャスター達によって奏でられる機械音が通路に反響する。
その銃口はどれも少年の"腹部"へと向けられていた。
「やはり…俺の推測は間違っていなかったらしい」
―――戦わなければ殺されてしまう。
―――戦えば死んでしまう。
この時、少年はこの幽閉騒動の"真実"に辿り着いていた。
「生憎、生きたシカバネになる趣味はない。 俺は早々に退場させて貰う」
真実に辿り着いた彼が選択したのは「戦わない事による死」だった。
「…"真実"はいつも残酷、だ」
それが、彼の発した最後の言葉となった。
………
……
…
可憐「彼は、もう死んでいると思う。 本当についさっきの出来事…」
なんて事だ、この建物ですでに2人も死人が出ているだなんて…
建一「また、1人…」
悲しげに呟いだ建一の一言に、可憐が疑問を抱く。
可憐「『また』…って、どういう事?」
建一「俺と観崎も、その…見ているんです、この建物で死んでしまった人の事を」
光弐「はぁ!? なんだよそれ、俺そんなん聞いてねーぞ!?」
この事実を知らなかった光弐が声を上げて抗議する。
観崎「みぎゅ……私と建一は光弐君達がショックを受けないように隠してたんだよっ」
光弐「…だ、だけどっ」
可憐「光弐君"達"…? ここに来る前には他にも誰かが居たの?」
場の雰囲気が荒れ始める。
光弐と可憐は建一達が何を知っているのか、本当に信用して良いのか、様々な事を考えて困惑しているようだ。
建一「こりゃあ……知ってる事を洗いざらい吐くしかなさそうだな」
観崎「う…うんっ」
建一達は語り出す。
――アジャスターの事
――涼路晶人の事
――静山飛鳥の事
――大人と子供の2人組の危険人物の事
光弐「成る程な、あの時のとんでもない量の血は建一のじゃなくて、その晶人ってオッサンのだったのか…」
光弐は事実と証言を照らし合わせて納得すると、そう呟いた。
可憐「……それで、アジャスターを貴方が壊したというのは本当なの?」
可憐が最も気にしたのはその話だった。
装備の違いからして、建一がアジャスターを破壊できたのは奇跡としか思えないような事だったからだ。
建一「ただの偶然ですよ。あの時は必死だったんで……火事場の馬鹿力って奴ですかね?」
実際、建一自身にも何故あの場でアジャスターを破壊する策が思い付いたのかは分からないままだった。
可憐「…偶然かどうかは、確かめてみればいい。それに私達の戦力も把握するべき……一石二鳥」
可憐は偶然という概念をあまり信じない人間で、どうしても建一の実力を計りたいと考えていた。
光弐「"私達"って…いつの間に協力関係になってたんだ?」
光弐は料理室前の出来事から、可憐に警戒されてるのではないかと思っていた。
それは建一達も同じで、驚いたような表情で可憐を見る。
可憐「私は最初から協力するつもりだったけれど、何か問題でも…?」
可憐のその言葉に、観崎の顔が普段以上に明るくなる。
観崎「むしろ感激だよっ! なんか頭よさそうだし、強そうだしっ!」
可憐「そ、そう…ありがとう」
今までずっと無表情だった可憐だが、観崎のダイレクトな歓迎には少しだけ照れているようだ。
建一「でも、戦力を確かめる…って、どうやって?」
竹刀みたいな練習用の道具がある訳でもないし、模擬戦じみた事は難しいと思う。
それに銃器は弾に限りがあるし、例の2人組のような危険人物を呼び寄せない為にもあまり大きな音を発する行為は避けたい。
可憐「単体のアジャスターなら躊躇なく戦えるし山ほどいる、いい的。戦う前にどう立ち回るかを考えておけば何も心配ない。……どう?」
建一「成る程…」
この時、可憐の提案を拒む物がいれば建一達は誰一人欠ける事なく"日常"を取り戻せたのかもしれない。
僅かな可能性は、確かに存在していた。
建一「…分かりました」
だが、建一は拒まなかった。
それが、僅かな可能性を潰してしまう選択ミスだと知らずに
戦ワナケレバ殺サレテシマウ
"戦エバ"死ンデシマウ
"真実"はいつも残酷だ。




