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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode3~カゲフミアソビ~
109/150

EP3-032:Subsist greed



……


………




僕は決めたんだ。


守るだけじゃない、可憐と共に生きる選択肢を選ぶと。


それを今更になって『巻き込みたくない』なんて戯言だ。


僕は結局、可憐が大切で、傷付けたくなくて、独りで戦っていた。


だから僕は、もうどんな理由があろうとも、可憐を突き放してはいけない。




双夜「それで? お前にできるのかい。『元』無敗王様の厄病可憐さん」


にやりと挑発的な笑みを送ると、可憐は涙ぐんだ瞳を見開き……



可憐「やる、できなくてもやる! 今度こそ、そーやんの力になるから!!」


挑発的な笑みをそのまま返されて、双夜は諦めたように失笑する。





姜「ああぁぁぁぁっつ苦しいですわね双夜さん。貴方、本性はそんな性格でしたのね。せっかく、草食系僕っ子として重宝して……」


可憐「せやあぁぁああああああああああ!!」


余裕ぶって話す姜に、真っ正面から可憐が突っ込んでいく。


姜はくすりと笑みを溢しながら、銃口を可憐へと向け―――







―――バンッ! バンッ!



姜「くっ」


銃声と共に、薙刀の刀身を素早く左斜め前方へと払い、その『銃弾』を受け流した。


その刀身の先には、拳銃を構えた双夜の姿。


傍らには、可憐が姜を引き付けている間に移動した楓の姿があった。


銃は由乃が浸水した階層に落とされた際に残していったものを、楓が大事に持っていたのだ。


姜「(2丁の拳銃……対となる2つの武器、双夜さんが最も得意とするスタイル。なんてタイミングですの……!)」


双夜「(今、このタイミングだからこそだ。行け、可憐っ―――!)」


双夜が作った一瞬の隙に、可憐の拳が繰り出される。


しかし、姜にとっては『素人の域』を出ない一撃は、流れるように跳躍して簡単に避けられ、頬に擦るだけに留まった。


更に、回避後の姜の立ち位置は、可憐と双夜が直前上に並ぶ場所。


双夜の技量では、姜だけに銃弾を当てる事は不可能だった。



姜「(これでわたくしの―――)」







と、思案した姜の視界が、ぐるりと天を仰いだ。


それが、一撃目のフェイクに続いて、着地点目掛けて放たれた二撃目の足払いだと気付いた瞬間、姜の左手首をがしりと捻り上げる感触。


可憐「―――つかまえた」


背中から床に叩きつけられる前に、姜の手を掴んだ可憐は、ぽつりと呟く。


姜「なっ………汚らわしい地上の手で、勝手にわたくしに触れ―――」


可憐「せりゃああああああああああああああああ!!」


姜「―――はぐっ!?」


拳銃で可憐を撃つべくトリガーを引く前に、姜は可憐に背負い投げられて、倉庫の壁に背中から叩きつけられていた。


ようやく姜への攻撃が届いた瞬間、形成は逆転する。


姜「そ……れは、高坂家の…体術。なぜ、貴女が」


可憐「私は弱い、そんなの知ってる。でも、そーやんが大好きで、そーやんに憧れた弱さは、私に『努力する』ってチカラをくれる!!」


姜「そんな事で、わたくしに一矢報いる力を……。流石は、双夜さんを虜にした方……ですわね」


乱れた呼吸を整えながら銃を構えようとして、姜は自らが既に銃を手放している事に気付く。


何より、姜が侵食したまるの身体は、小柄で小回りの利く反面、ダメージへの耐性は皆無だったのだ。


小さく失笑しながら薙刀を杖換わりに立ち上がろうとして、姜の瞳が驚きに見開かれる。


可憐「……?」


何をそんなに驚いているのかと警戒しながら、様子を伺う可憐だったが、姜の瞳は別のものを見ていた。


それに気付いて、恐る恐る振り返った可憐の瞳に映ったのは―――







楓「え、何? 2人共、どうしたっていうの……?」


双夜「分からない……けど、警戒するべきだ」



―――何が起きているのか分からない様子で、相も変わらず倉庫の傍らに居る2人の姿だった。


可憐「(特に変わった様子は……。この子は一体、何を見て…………ッ!?)」


続いて可憐も『それ』を理解する。


双夜「可憐は、一体どうしたんだ。姜に何か吹き込まれたのか……?」



『1人だけ』異変に気付かぬまま、双夜は2丁の銃を握り締めて警戒する。







だらだら。



ぽたぽた。



双夜「(水音……? まだB5Fが浸水するには早い―――)」



音源を辿って、双夜はゆっくりと背後に視線を向け………。



◆◆◆◆◆◆◆◆



ばれてない、大丈夫。


ばれる筈がない。


これは自分の感情の問題なんだから、何もしなければ気付かれない。


だから、大丈夫だ。




―――…………イ



大丈夫、ちゃんと我慢してる。


大丈夫。


何の問題もない。


何もしない、しちゃいけない。





―――……イタイ



違う!


私は考えてない、考える筈がない!


私は『そんな事』したくなんか……!!







―――――・・ク



なんで。



・イ―――



くるな。



――――――――――タ・・・・



ワタシは









―――くいたい






ク イ タ イ








喰  イ  タ  イ !!









喰 イ タ ア ア ア゛ァ ァ あ あ ァ ァ あ ァ ァ ア ア ア あ あ゛ぁ ぁ ア ア ア ァ ァ゛あ ア ぁ ァ ア ア ぁ゛ァ ァ あ ァ ぁ ア゛ァ あ あ゛ぁ ぁ ぁ ア ア ア ァ ァ ア あ゛ぁ ぁ ア ア ア ァ ァ゛あ ア ぁ ァ ア ア ぁ゛ァ ァ あ ァ ぁ ア ア゛ァ ァ あ あ ァ ァ あ ァ ァ ア ァ ぁ ア゛ァ あ あ゛ぁ ぁ ぁ  イ゛!!









ぐブちゅっ



◆◆◆◆◆◆◆◆





楓「……っはぁっ! はぁ、はぁ…………っ」



―――いま、一瞬意識が飛んだ……っ!



何も起きていない事を祈りながら可憐さん達の様子を伺うが、意識が飛ぶ直前との変化は見受けられない。



楓「(良かっ……)」



いや。


可憐さんが、何か、言おうと…………。









可憐「そうやああぁぁぁあああああああああああああんっ!!」


声が渇れ果てそうな可憐の叫びに、楓はびくりと身体を震わせて、一歩後ずさる。


……と





びちゃっ。



楓「……へ?」



足元には、大きな『血溜まり』が広がっていた。


その血溜まりの中心には、首の右側面を押さえつけながら必死に床を這いずる双夜の姿。


楓「ひぃっ!? な、何が……!」


両手で口元を押さえようとして、楓はようやく気付く。


顔も、服も、手も、自分の身体中が血にまみれている事に。


そして、口の中、喉の奥にじんわりと広がる鉄のような味、歯に何かが挟まった感覚、胃袋に―――



可憐「そーやんっ、そーやん!!」


双夜「……ぁ……ぅく」


何かを喋ろうとした双夜の首から、血がどびゅっと吹き出した。


まだ意識を保っているのが、奇跡なのではないか……それが楓の純粋な感想だった。


楓「ちがっ……ちがう、の。こんな」


可憐「そーやん、私、どうすれば……! 分からないっ、分からないよぉぉ…………」


楓「白鷺……さん。あのね、ちがう、の……私じゃ、ない、の」


可憐「なんでっ、なんでぇぇええ!!?」


涙でぐしょぐしょになった顔で、可憐は楓を睨みつけた。


双夜が預かっていた由乃の銃を手に取って、可憐は銃口を楓に向けようと……。




双夜「だ………っめ、だ。か…れ……」


可憐「そ、そーやん喋らないでっ! 血が、血が吹き出て!!」


双夜の意思を汲んだのか、殺意以上の焦りがそうさせたのか、可憐は銃を手放して双夜に語り掛ける。



そんな光景を、姜は恍惚とした表情で見つめていた。


それは、悲劇に見舞われた双夜達への感情ではなく……







姜「ふ……ふふふふふ! 『そこ』に居ましたのね…………祭里ッ!」


楓「ひっ、だ、誰の事よ! 私は知らないっ、私じゃない! 私じゃないんだからあっ!!」


パニック状態に陥った楓は、ビーストが立ち塞がっているB4Fへの階段へと駆け出した。


「警告です、プレイヤー・志崎。ここを通ると言うのなら、息の根を止めさせて頂きますよ」


クローのツメがギラリと鈍く光り、楓の姿が写し出される。


楓が忠告を聞かずに突っ込んで来る事を確認すると、ビーストは床に指先が付く程度に屈んでから、大きく跳躍し、宙に舞い上がった。


パニックで判断力が鈍っている楓は、忠告も、図上から迫るクローの意味も理解していなかった。


姜「! やめ―――」


咄嗟に命令を中断させようとした姜だが、もはや言葉では間に合わない。


しかし……





「……っ!」


ビーストは空中で身体を無理矢理捻らせて、すんでの所で楓への攻撃を中断する。



―――ダダダダダダダダッ!!



次の瞬間、楓の図上を無数の銃弾が飛び交った。


ビーストは着地した床を起点にもう一度跳躍し、倉庫の上に姿を隠す。


その好機を知ってか知らずか、楓は階段を使ってB4Fへと駆け上がっていった。


「す、すみません姜様っ! 1人逃してしまいました!!」


姜「構いませんわ。結果的に、祭里ちゃんのシカバネに傷を付けずに済みましたし。けれど……」


ようやく立ち上がる事が出来た姜は、その視線を楓が去った階段とは逆方向に向ける。







飛鳥「まったく、すばしっこい金髪さんね。何処ぞの馬鹿なだけの金髪君とチェンジお願いして良いかしら」


そこには、ようやくイービルフロアに辿り着いた静山飛鳥が、ライフルを構えて立っていた。


「よくも、姜様の命令を妨害してくれましたね……っ」


飛鳥「その頭の機械は……人間のビーストかしら? 『イレギュラーか誘拐犯メンバーを殺せ』と言ったのは、そこの腹黒幼女さんよ。文句を言われる筋合いは無いわ」


ふふん、と不適に笑いながら、飛鳥は姜を睨みつけた。


姜「わたくしに御用があるようですけれど、生憎急ぎの用事が入りましたの」


飛鳥「待ちなさい! 貴女には聞きたい事が……!」


背を向けて階段へと走り出した姜に、飛鳥はライフルで威嚇射撃を試みる。


「0Fリクエスト。ギミック03のthis.エリア発動を要求します」



―――カシャッ



ところが、ビーストの割り込みで飛鳥のライフルはロックされてしまった。


小さく舌打ちしてライフルを放ると、飛鳥は邦和から取り上げた日本刀を引き抜いて、姜の背中へと駆け出す。


「させません!」


ビーストは倉庫の上から目にも止まらぬ早さでクローを振り下ろし、飛鳥は刀の刀身でそれを受け止める。


想像以上に重い一撃に、飛鳥は受け止める事を諦めて瞬時に後退の選択肢を取った。


肩に小さな爪形の切傷が刻まれ、飛鳥は冷や汗を滲ませた。


「良い判断です。その思考力と判断力は、素直に評価しましょう」


飛鳥「どうしても、そこを通す気はないの?」


「姜様には、貴女に構っている暇がありません。邪魔はさせませんよ」


飛鳥「じゃあ、貴女に聞くとするわ」


「……?」


刀の刃こぼれが無いかを確認すると、飛鳥は切っ先をビーストに向けて表情を引き締める。



飛鳥「この施設に、イレギュラー扱いとして『杉森華僑』という人が紛れている。これは本当の事なの?」


「何かと思えば……私達に勝つことを諦めて、対象をイレギュラーに変更したいと、そういう事ですか」


飛鳥「いいから答えなさい!!」


声を荒げる飛鳥を見て、ビーストは違和感を覚えた。


静山飛鳥のプロフィールデータには、冷静な判断力を持ったプレイヤーと記されていた。


本当に誘拐犯達に勝つことを諦めたのなら、ここでは自分の命を優先して交渉に移る筈。


わざわざ攻撃的な態度を取って、余計な敵を作る事に意味は無い。


つまり、プレイヤー・静山には、イレギュラーを気にする理由が他にあるのだ。


思わず声を荒げてしまう程の……。


「まさか、知人……」


ぽつりと呟いた直後、ビーストはハッと自らの口を押さえる。


飛鳥はさらりと肩にかかったツインテールを払いながら、小さく笑みを浮かべた。


飛鳥「そう、いるのね?」


「そんな事は断言していません。仮に居たとして、何だというんですか」


そんな事も知らないのかと鼻で笑うと、飛鳥は苦虫を噛み潰したような表情でビーストを睨みつけた。





飛鳥「彼女は……杉森華僑は、私の『もう一人の母親』よ!!」

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