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シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode3~カゲフミアソビ~
106/150

EP3-029:Dual night knight

今後、更新頻度が不定期更新となります。


詳細は活動報告に記載しておきますので、ご一読ください。

扉が締まる音と共に、建一は小さな声で呟く。





建一「……それで、俺の言葉、信じて貰えました?」


建一の視線の先には、迷彩柄のコートに、フードを深々と被った男性が、ショットガンを構えて呆然と立っていた。





時は、由乃が気を失った直後にまで遡る。


露な姿を曝したままベットに倒れている由乃を見て、建一は気まずさを紛らわせる為に衣服を探しに行こうと考え、部屋を出ていた。


バスタオルよりはマシな大きめの毛布が幾つか見つかり、一度それを持ち帰ろうとした時、建一は背後からショットガンの銃口を突き付けられる。


問答無用で撃ち殺さんばかりの勢いだった男性を落ち着かせようと、建一はとにかく知っている情報を吐き続けた。


今ここで殺されてしまっては、由乃も立て続けに犠牲になる可能性があったからだ。


話が終わるまで待つ魂胆だったのかは分からないが、幸い男性は『由乃』という名に反応して、銃を下ろした。


『嘘だ』と言い張る男性に信じて貰うべく、建一は当初の予定通りに引き返して、男性に扉越しに由乃の声を聞かせる事に成功したのだ。



―――男性の名は魅鉤隆鉄(みかぎ りゅうてつ)


隆鉄は、ビーストが杉森華僑を招いた際に『運送役』として呼び掛けられた者だった。


もともと彼は神堂拓摩と共に地下都市から脱出したメンバーの1人で、地上で銃の違法取引を行う『資金調達役』として働いていた。


建一も名前こそ初耳だったが、拓摩の記憶では、確かに地下都市脱出メンバーに、名前の分からなかったガンナーがいた。


隆鉄は神堂拓摩の仲間であり、今や施設に潜入したイレギュラーの1人であり、そして……




峰沢由乃のエアーガンの『師匠』でもあった。



隆鉄「大方、シカバネアソビへの参入を断ったのを理由に、人質として私の愛弟子を確保し、裏切らないよう保険を掛けていたといった所か……」


建一「断ったのか……どうして?」


隆鉄「分からないか? シカバネアソビは成功すれば実質寿命を伸ばす事に等しく、宿主の記憶を行使して世間に溶け込む事もできる。逆を言えば……」


建一「そうか。記憶と自我を抜き取られた肉体は、死んだと言ったも同然……」


深いため息をつきながら、隆鉄はコートの内側を漁ろうとして「華僑め……」と呟いた。


恐らく、タバコか何かを盗まれていたのだろう。


建一「貴方は、ただの運送役だったんでしょう? なんでわざわざ管理塔に来たんです」


隆鉄「華僑に持たせていた通信器具から『テメェの知り合いを見た』との通信が入ってな。半信半疑で潜入してみれば……」


由乃が休んでいる部屋の扉を見て、隆鉄は口をつぐんだ。


彼の心境には親近感を感じる。


観崎がシカバネアソビのプレイヤーであると知った時、胸に混濁とした感情が渦巻いた。


この人もそれを感じていたならば、或いは……





建一「地下施設と通信をしていると言いましたね、一体どうやって……?」


隆鉄「質問の多い少年だな。私と華僑のように、双方の周波数をあらかじめ合わせる事さえできれば、元より施設内には兵器用の信号を送受信する環境が整っている。そんな事を聞いて、どうするつもりだ?」



由乃の師匠……隆鉄さんは、弟子と顔合わせする事は避けているように感じる。



もし説得して味方に引き入れられたとしても、協力は難しいかもしれない。


逆に、下手な真似をすれば、逆に双夜さんの足を引っ張ってしまう結果になりうるだろう。


建一「まぁ……けど、その前に服をなんとかしたいな」


隆鉄「……それもそうだな」


重要な話だからと我慢していたが、流石に毛布を適当に被った姿のまま話を続けるのには限度があった。



◆◆◆◆◆◆◆◆



双夜に迫る刃は、どれも幼稚園児の身体から放たれたものとは思えない俊敏さと正確さを持っていた。


身体に合わせた小さなサイズの薙刀を使用しているとはいえ、リーチの差では姜が上回っている。


となれば、双夜に残された選択肢は、隙を伺いながら避け続ける事だ。


姜「さぁ、かかってらっしゃい。貴方の力はこんなものではないでしょう……!」


双夜「相も変わらず見た目重視の戦い方だね、末癸さん。それに加えて強いだなんて、本当に妬ましいよ」


しかし、その分隙ができるのもまた必然。


素人なら迫る薙刀の対処に追われ、やがて串刺しにされる所だが、僕が秀岡雷智より教わった『対地下世界用・地下世界剣術』には、その対処も織り混ぜてある。


問題は、それが末癸姜というバケモノとの実戦でも扱えるかどうかだ。


双夜「せいっ!」


中腰に構えたアジャスターのブレードを横一線に凪ぎ払うと、姜は背後に飛び退いてブレードを回避する。


双夜「やっ!!」


姜が避ける動きを感知し、両足で床を蹴ってそのまま突きの動作に移った。


左斜め前方に放たれた突きは、姜の右脇腹に迫り、蛇のように変幻自在に軌道を変えながら迫るブレードに、姜の顔から笑みが消える。


力強く床を蹴った姜の身体は、刃から逃げるように右へと反れてゆく。


元々右から左に凪ぎ払った刃は、逆向きの姜の動きを追う事ができない。


姜の鋭い眼が、標的である双夜の心臓を捉え、薙刀を握る手に力が込められる。


が。


双夜「はああああぁぁッ!!!」


踵の骨が軋むほど強く床を踏みしめ、双夜はブレードを瞬時に一回転させた。


ブォン!と大きな風切り音を響かせながら放たれた、大胆な三撃目を想定していなかったのかたのか、姜の瞳が大きく見開かれ、双夜の刃は姜にまで届いたように思えた。


姜「――ッ甘いですわ!」


次の瞬間、姜は薙刀の柄を床に叩き付けながら、棒高跳びのようにブレードの刃を飛び越え、双夜の頭部に飛び膝蹴りを繰り出していた。


立っていられなくなるような衝撃に耐えながら、双夜は頭を押さえて数歩後退する。


すとん、と綺麗に床に着地した姜は、挑発的な笑みを浮かべて双夜を見上げていた。


姜「こういうの、久しぶりですわね………くすくす、あぁ楽しっ」


双夜「……僕はちっとも楽しくないよ」


双夜は最初、小柄な外見に惑わされる事さえ無ければ、体格差で優位に立てると思っていた。


そもそも『対地下世界用・地下世界剣術』とは、地下世界における天然物の奇抜な戦闘スタイルに合わせ、同等の力を持っている事を前提とした、ありとあらゆる対抗策の辞書のようなものだ。


しかし、実際に姜が取った戦法は、身軽な身体を生かした、地下世界における『幼少期』の戦い方。


双夜は姜の幼少時代を知らず、見慣れた戦い方を予想していた為に、不意を突かれてしまったのだ。


双夜「(『そっち』で来るのか。参ったな……ただでさえ末癸さんの戦い方は特殊なのに、その幼い頃の方なんて。当人もよく覚えていたもんだ)」


姜「(双夜さん、武器のハンデがありながら、更に手を抜いていますわね……。まぁ、手を抜いているのはお互い様ですけれど)」


互いの戦い方をよく知っている2人にとって、この勝負はただの読み合いでしか無かった。





楓「い、今の、何……? そりゃあ、銃弾を咄嗟に避けた時から、変だとは思ってたけど……」


2人の戦いを見ていた楓は、目の前の光景に理解が追いついていなかった。


可憐「うむ、そーやんは強いから仕方ない」


楓「いや、それにも人間として限度があるといいますか……。というか可憐さん! 女の子と婚約て何やってるんですか!キマシタワー鼻血出そ」


可憐「……よくわかんない。中身だけそーやん、なのかな?」


首を傾げながら唸る可憐に「なんじゃそりゃ」とツッコミを入れ、楓は2人の戦いに視線を戻した。



姜「双夜さん、わたくし前戯には飽き飽きですわ。そろそろ本気になって頂けません?」


双夜「……そうできれば良かったんだけどね」


姜の身体も、双夜の身体も、元々は他人のものだ。


命さえ奪わなければ『もしかしたら』という可能性も、万に一つ、あるかもしれない。


そうなると、命を奪ってしまうような戦い方はするべきではない。


姜「へ~え……、そういう事でしたの。拓摩さん程ではないですけれど、わたくしにも双夜さんの考えが読めて来ましたわ」


双夜「それは………是非お聞かせ願いたいね」


姜「わたくしてっきり、双夜さんは元婚約者の方を守るために戦っているものと思っていましたけれど、わたくしの……いえ、まるちゃんの命を奪う事にも躊躇していますわね?」


その質問が意味する事は、双夜にも理解できた。


双夜は可憐だけでなく、シカバネアソビのプレイヤー全員を守ろうとしている。


迅速な死体回収さえ行えれば、何度でもリトライする事のできるシカバネアソビにおいて、それは無意味な行為だった。


姜「……貴方、ですわね。わたくし達の動向を、地上に提供し続けていた『裏切り者』は!」


ぎりっ、と微かに歯ぎしりをする音が聞こえるが、姜の表情は変わらず笑顔だった。


姜「……裏切り者は」



双夜「『排除せよ。』でしょう? もう聞き飽きたよ」


姜「そう。分かっているのなら結構ですわ」


そう口にして、姜は傍らからハンドガンを取り出した。


体格に合わせているとはいえ、銃と薙刀を同時に扱って、まともな射撃が出来るとは思えない。


誘拐犯組織の人間にとっては、雫や隆鉄のようなスペシャリストが扱わない限り、ハンドガンの銃弾を避ける事は造作もない。


特に薙刀のような、拳銃を併用する必要がない姜のそれは、双夜にとって驚異になり得ないのだ。


姜「さぁ、美しく舞い踊って頂きますわよ……!」


双夜に照準が合わされたままトリガーが引かれようとした直前、銃口は別方向に動き出す。


姜の視線の先には、遠巻きに戦いを見ていた2人の姿があった。


双夜「しまっ―――」





銃声が鳴り響くのと同時、双夜のブレードが銃弾を弾く。


手首が痺れるような手応えに安堵する間もなく、2発目の銃弾が双夜の右肩を貫いた。



双夜「――く! 可憐、志崎さん! 上へ逃げるんだ!!」


こうなっては、僕の勝てる見込みは無いと言っていい。


幸い、イービルフロアには倉庫という障害物がある。


あと少しだけ銃弾を凌ぐ事ができれば、確実に2人を逃がせ……





姜「出番ですわよ」


「―――はい」



コンテナ型の倉庫の上に身を潜めていた何者かが、姜の合図と共に猫のように高く跳躍し、綺麗な弧を描いて音もなく階段前に着地した。



「こんな形で双夜様と再開する事になって、非常に残念です」


綺麗な金髪、頭にはゴーグル状の機械、右手にはクローを武装した人形のようにスレンダーな少女。





双夜「……ビースト」


「はい、ビーストです」


双夜「そこを、どいてくれないか……?」


「裏切り者である双夜様の命令権は、既に棄却されました。ここは通しません」


双夜「死体回収はどうする!? 地上への道を閉ざせば、シカバネアソビは終わりなんだぞ!」


双夜とビーストの間に姜が割って入り、ニヤニヤ笑いながら指を振った。


姜「双夜さんが大人しく死んでくれるまでの保険ですわ。言わば、あのビーストちゃんこそがイービルフロアの特殊通過条件………彼女達を一刻も早く救いたいのなら、裏切り者である己を恥じ、自害なさいな」


双夜「くっ……そ!」


力任せにブレードを床に放り、双夜は膝をついた。


彼に、借り物である初川観崎の身体を自分から傷付ける事など、出来る筈もなかった。


ただ、姜に討たれるのを待つのみ。


可憐「……そーやん」


双夜「(可憐。僕は、お前を助けたい一心で………初川さんと建一君にも、悪い事をしてしまった。結局、ただ1人も救えずに………)」


切なげな瞳で双夜を見つめている可憐に向けて、小さく笑みを浮かべる。


その意味を理解した可憐は、自分でも制御できない感情に突き動かされて、叫び声を上げた。



可憐「やだぁぁああッ! 死んでもそーやんとは離れない!!」


双夜「はぁ!? お前、こんな時に―――」


言葉の途中で姜から3度目の発砲が行われ、双夜は床を転がって可憐と対面側の倉庫の影に退避する。


被弾箇所だけでなく、全身に感じる痛みに、双夜は『観崎の身体』の限界を感じていた。


姜「あぁ……いい…いいですわ。愛する人への想いが2人を破滅させる。なんて美しい光景なのかしら!」


可憐「やだ……やだよぉ! やっと、やっと会えたのに……また、そーやんは居なくなるんだ!!」


ずきり、と双夜の胸が痛む。


神堂拓摩の目的と活動を把握をするべく、組織の一員として、双夜は頻繁に地下世界に赴き、可憐を心配させてきた。


その挙句、こうしてシカバネアソビに参加させられ、元の身体で会う事は2度と叶わなくなってしまった。




可憐「そーやんが居ないと、私は『本当の私』でいられないよ……」


姜が双夜の名前を告げた時の、並々ならぬ激怒した表情。


再び双夜と巡り逢えたと理解した時の、満面の笑みと子供のような愛情表現。


どれも今までの可憐とは違う、『双夜の元婚約者』としての白鷺可憐だ。


可憐「いつまでもそーやんの足枷は嫌だよ! 私も―――戦う!!」


両手の拳を強く握り、可憐はファイティングポーズを取る。



その姿を見た双夜の脳裏に、懐かしき日々が蘇る。



―――あぁ、こいつはいつでもそうだ。



ひっつき虫のように鬱陶しくて、こうだと決めると梃子でも動かず、いつだって僕の邪魔をする。



でも、



そんな彼女だからこそ、僕は―――



………


……


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