表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シカバネアソビ  作者: Mr.バナナ
Episode3~カゲフミアソビ~
103/150

EP3-026:The cross dream

戸惑ったような仕草を見せる由乃に、それでも建一は告げた。


建一「10年前、俺は父さんを失った。スナッフビデオっていうのかな。父さんが死ぬ瞬間が録画されたものが、自宅に送られてきた。その2日後に、母さんも毒で自殺した……」


由乃「ご両親を……。苗字が変わっていたのも、そのせいですか?」


建一は唸りながら、苗字の事は後で話すと言い、そのまま話を続けた。



建一「それで、他に家族がいなくなった俺は……婆ちゃんに引き取られる事になったんだ。婆ちゃんって言っても、それまで1度も会った事なんて無かった他人同然の人なんだけど」


由乃「そうだったんですか。その方に引き取られて…………あれっ、『引き取られて』? それじゃあ……」


建一「……だから、勘違いなんだよ。全部」


建一に焦点を合わせたまま、由乃は文字通り固まっていた。


勘違い。


ずっと『建一を転校に追い込むきっかけを作ってしまった』と後悔していた由乃にとって、それはあまりにも遅すぎる朗報だった。


既に由乃は、その後悔を糧にして、強くなろうと努力を積み重ねてきた。


今頃になって建一の口から語られた真実は、由乃にとって『10年間の努力は無駄だった』と証明された事に他ならない。


建一「父さんを殺した武器は『銃』だった。だから、由乃から銃を勧められても、首を縦に振れなかった」


由乃「………あは、あははは、はは……。な、なぁんだ。そうだったなら、もっと早く言ってくれれば、良かったのに」


建一「ごめんな」


由乃「私が勝手に、勘違いしちゃっただけですから。謝るべきなのも、悪いのも、全部…………」


乾いたような声で笑う由乃を見て、建一は目を伏せる。





由乃「私ですから」


建一には、次の瞬間に由乃が倒れる事が分かっていた。


否、由乃が『シカバネ』になるという確信があった。



◆◆◆◆◆◆◆◆



何も見えない、墨をぶちまけたような一面真っ黒な世界。



唯一その世界で他の色を持っていたのは、私だけだった。


由乃「……ここは」


今の今まで、私は赤羽君と話をしていた筈だったのに、一体どうしてしまったんだろう。


これは、夢……?





『―――傷ついたお人形、見ーつけた』


由乃「……! だ、誰ですか!?」


辺りを見渡しても、声の主は見当たらない。


恐い、ただの夢の筈なのに。



『貴女は黒くなった。だから、ここに居る』


由乃「私が、黒くなった……?」



その言葉の意味を、直感的に私は理解した。


この真っ黒で何も見えない世界は、今の『私の心そのもの』を表した世界なのだと。


10年間の努力が全て無駄だったという虚無感が、見渡す限りの『黒』の正体。


それを理解すると同時に、私は『声の主』が恐ろしくなった。


私は自分の心の中に、ふたつもの自我を持っている訳じゃない。


では、今、私は誰と話をしているのだろう。



由乃「なんで、ここに私以外の誰かがいるんですか……!?」


『……貴方に教える意味はない。私は、貴女をイレイズする為に来たのだから』


黒一色の世界の中で、よりいっそう強く深い『黒』が光った。


由乃「ッ、かは――!?」


次の瞬間、真っ黒な軌道を描いた何かに、私の心臓は貫かれる。


痛みはほんの一瞬だけで、私の身体に傷ついた痕跡はない。


当然だ。


私は、私の『心の中』で攻撃されたに過ぎないのだから、現実の身体が傷つく事はあり得ない。


由乃「(心の中で………攻撃された?)」


そう頭の中でもう一度繰り返し、私は思わず息を飲んだ。


少しだけ目眩がして、何もしていないのに精神的な疲労が加わったのは、気のせいではないだろう。


このまま攻撃され続ければ、『私は私でなくなってしまう』ような気がした。


由乃「(……そういえば)」


この世界に投げ出される直前に、赤羽君がくれた忠告は、この事だったのかと理解する。


そう、私はあの時、『変わらず私のままでいる』と赤羽君と約束したんだ。


由乃「(この10年、私はありもしない罪を清算するために、ひたすら頑張っていた)」


全ては勘違いで、全ては無駄だったのかもしれない。


けれどその罪悪感は、例え勘違いだったとしても、私が『変わりたい』と強く願うきっかけをくれた。


罪の幻影が、私を前に進ませてくれたのだ。


だったら、私は―――







由乃「勘違いなんかじゃない、『建一君』と交わしたホントウの約束を………今度こそ!!」


私の虚無感が産み出した、黒一色の世界。


その世界に抗う力を強く望むと、見慣れた2丁のハンドガンが両手に握られていた。


ここは私の心の中、心の強さが現実のものとなる場所。


だったら、気持ちで負けない限り、どんな相手にだって負けはしない……!!



黒の世界に向けてトリガーを引くと、白い軌道を描いた銃弾が見渡す限りの『黒』に亀裂を作り、世界はガラスを砕いたように一瞬で崩れ落ちた。


黒のベールを剥がした向こう側に現れたのは、私の通っていた小学校の図書室。


色々な思い出が詰まっている、私にとっての全ての始まりの場所。


そんな私の心を象徴する場所に、私以外の誰かが入り込んでいるのが、今度ははっきりと目に映った。





読書用テーブルの上に腰かけているのは、真っ黒な髪をしたツインテールの女性。


ゴスロリ衣装に身を包んでいる姿は印象的だったが、それがあまりに様になりすぎていたため、由乃は女性に見とれていた。


故に、女性が『2射目』を放つ為の予備動作を行うまで、危機感が欠落してしまった。





由乃「……痛ッ!」


慌てて銃弾を避けようとしたが、左肩に一瞬だけ激痛が走り、避けられなかった事を理解させられる。


再び目眩に襲われて倒れそうになるが、負けじと右手に持った銃のトリガーを、女性に向けて引いた。



しかし、女性が放った3射目が由乃の銃弾と相殺し、女性が被弾する事はなかった。


由乃「な、なんですか、今のは……」


「………」


動揺する由乃をよそに、女性は更にトリガーを引く。


咄嗟に本棚の影に隠れた由乃は、呼吸を落ち着かせながら冷静に状況を分析する事にした。


由乃「(心の強さが現実のものとなるから、映画の主人公みたいな芸当もできるって事……?)」


試しに、女性の真上から爆弾が降り注ぐイメージを強く浮かべてみたが、それが現実になる様子は無かった。


由乃「……くっ!?」


その代わりに、再び由乃の身体を一瞬の痛みが貫く。


またしても、由乃は女性に撃たれたのだ。


由乃「(な……なんで!? どうして私だけ!?)」


既に3度も被弾していた由乃は、激しい目眩と朦朧とし始めた意識に、焦りを感じていた。


もはや被弾する覚悟で突っ込んで行くしか無いかと、決断を急ぎそうになった時………。




壁に、小さく抉れた痕跡を見つけた。


由乃がそれを凝視していた時、銃声と共に新たな弾痕が壁に刻まれる。



―――跳弾!



そう理解して床に伏せようとした途端、頬を抉られるような激痛が走った。


恐らく、この場所が『私の心』である事から、私にとっての『常識や価値観』の範囲でしか、ご都合的な事は起こらないのだろう。


由乃「それならっ……!」



本棚の裏から飛び出して、2丁の拳銃を女性に向ける。


反動の事を考慮して、本来ならできるだけ使いたくない手段ではある。


由乃「(けれど、それはあくまで『実銃』の話!)」


私が放つは、私が最も強い力だと信じているモノ。


それが『私の心』の中で、特別な意味を持たない訳がない!





由乃が放った2つの軌道を、女性は再び銃弾で相殺させようする。


しかし、女性が放った銃弾は、由乃の放った軌道に触れた途端に黒い霧となって消え去り、次の瞬間には女性の身体を白い軌道が貫いていた。


少しだけ驚いたような表情で、女性は被弾した場所に手を当てる。


「……へぇ、貴女、慣れるの早いんだ」


女性は、由乃が『心の中で戦う』事に慣れる早さにも関心していた。


だが、それ以上に女性が最も注目したのは、由乃が両手に握っていたもの。


銃の形こそしているが、白マジックで「由乃」と名前が書かれているそれは、世間一般に出回っているエアーガン―――玩具の類だった。



「それ………凄く『痛かった』」


由乃「当然です。私が10年もの間に、何度も味わってきた痛みですから」


そう、ここは由乃の心の中。


由乃にとって『心臓を撃ち抜かれた痛み』をイメージしろと言われても、それは実体験に基づくものではない。


心の中においては、由乃本人が体験した事の無いダメージは大幅に削減されてしまうのだ。


それに比べ、由乃にとって生々しく記憶に残っているエアーガンのダメージは『被弾した瞬間のルール的敗北』も相まって、女性の想像を遥かに超えるダメージを与えていた。


由乃「そろそろ教えてくれませんか。貴女が何者なのか」


ゴスロリ服の女性は、机に腰かけたまま足をぶらぶらと前後させて遊んでいたが、その足をぴたりと止めて口を開いた。


「私は……雫、士島雫。あの人の、拓摩のお人形」


由乃「た、拓摩……って、まさか、神堂拓摩さんの事ですか!?」


雫「そ、拓摩。私の持ち主」


由乃「で、でも、何故こんな所に、拓摩さんのお仲間が……」


混乱しそうになる頭を抱えてあたふたしている由乃を、雫はじっと見つめる。





雫「可愛いわ」


由乃「はい……?」


雫「貴女、可愛い。やっぱり、貴女は私の『お人形さん』にする」


雫の発言に、由乃はエアーガンを握る力を強めて警戒する。


しかし、雫の口からは意外な言葉が飛び出した。





雫「……私の力、半分貸したげる」


由乃「力を、貸す……?」


雫「銃の知識、反射神経、瞬間集中力……貴女にはすごく便利だと思う」


雫は天井に向けてトリガーを引くと、跳弾が由乃のエアーガンを撃ち落とし『ほらね』と呟いた。


それが意味するのは、雫が見せた離れ技を、現実で実際に使えるという事だろう。


由乃「……いいんですか?」


雫「いいよ。でも、本来は知らなかった筈の知識を駆使するって事は、私がここで『貴女の心』を攻撃するのと、ほぼ同じ意味を持つけれど」


由乃「!」


それを聞いた途端に由乃はぞっとした。


雫には、この場で由乃に力を使う『代償』を説明しない事も出来た筈なのだ。


そして、それを知らずに雫の力を使って戦い続けていれば、近いうちに由乃の心は壊れていただろう。


それ以前に、慣れない戦い方に身体がついて行けずに、色々な害が出るかもしれない。



由乃「……そんな事をして、なんの意味が。貴女達の目的は、なんなんですか」


雫「たる、眠い」


由乃「た、たる……っ!?」


面倒臭そうに椅子に腰かけて、眠ろうとする雫に、由乃は呆れていた。


雫「あの『建一』とかいう人に、聞けばいい。多分、全部知ってる……」


由乃「………」


確かに、由乃がここに来る直前に、建一は的確な忠告をしていた。


雫「彼、肝心の自分の事については、なんにも覚えていてないみたいだけど………むにゃ、くかー」


最後に意味深な発言を残して、雫は眠りについた。


由乃には、このままエアーガンで雫を攻撃し続けるという選択肢もあったが、無抵抗の相手と戦うのは躊躇われた。


なにより、雫は余力を残していたようだし、勝てる見込みが薄かった。


由乃「………」


こんな強敵を、私はいつの間に、どんな方法で招き入れてしまったのだろう。


もしくは、この現象こそが、今まで謎に包まれていたシカバネアソビの……?


由乃「……建一君」


一刻も早く尋ねたい。


しょうもない事で落ち込んで、心配をかけてしまった事を謝りたい。



様々な想いを脳裏に浮かべながら、由乃は不可解な『夢』から覚めようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ