15 再利用
「....ここか。」
神代はただ言われた道を歩き、目的の施設へと到達した。
最初はただ芳泉から行ったほうがいいと諭されて義務的に行っていただけだが、途中からは行かなくてはいけないという意思に変わっていたような気がする。
神代が施設内に入っていくと、中には多くの人達が行き来していた。神代はそれを無視して空間の中央にあるカウンターのような場所へと向かう。
「...すいません。」
「はい、なんでしょうか?」
「先ほど連絡させていただいた神代と言う者なんですけど....」
「...はい、存じております。....507番の部屋と伺っていますので、どうぞ。」
カウンターからの許しをもらい、さらに奥へと進んでいく神代。その先にあるのはエレベーター。高さがある建物なので当然のようにあり、神代がボタンを押すとともに扉が開かれた。神代はその中に滑り込むように入ると5階のボタンを押す。
(さて....大丈夫か...?一応手加減はしたんだけど...)
エレベーターの扉が開かれても、迷うことなく動き続けるその足からは音が鳴って廊下に響きわたる。だが、その足にも止まる瞬間がやってくる。
「あっ、あったあった.....。」
神代はある部屋の前で足を止める。
『高嶺 麗華 様』
部屋の前にあるネームプレートにはそう書かれていた。
神代は数回ノックをすると、躊躇なくその部屋へ続く扉を開く。ガタンッとした音が鳴ったのち、神代は室内へ一歩踏み込む。部屋の奥にある窓から朝日がチラついて神代は薄目になるが、しっかりと目的に人物がいることを確認できた。その人物もこちらの気配に気づいたのか、ベットに横になりながらもこちらへ顔を向けてきた。
「う.......噓...。」
「.....元気そうだな。」
神代は反射的に気まずくなって高嶺から目をそらすも、しっかりと挨拶だけはした。その姿......人物に驚いたのか、高嶺は唖然として口を開くばかり。
「.......えっとー.....失礼するわ。」
「.......。」
神代は高嶺が寝ているベットの横にある椅子に腰を掛けると、じっと高嶺を見つめる。だが、それに反して高嶺は神代と目を合わせないように下を向いてうつむいてしまう。部屋に流れる沈黙.....それを破ったのは神代の声だった。
「.....大丈夫なのか?」
「........。」
「丹波先輩の処置もあったが一応入院したって.......全治は――。」
「うっさい。........あんたがしたくせに。」
「.......。」
「もう体は痛くないわよ、先生もあとちょっとで退院できるって言ってた。でも――。」
そこまで言うと、高嶺は自分の服の胸元を握りしめて涙をこぼす。
「なんで........なんで.....?」
神代の視線が彼女の頬を流れる涙の軌跡を追う。
ただそれだけ。
それだけをすることしかできない。
ひとしきり泣いた高嶺は、学校で神代によくする睨むような眼を向ける。だが、その眼つきもうるんだ瞳では効果はなく、すぐに目をそらしてしまう。
「ねぇ.......いつからなの?」
「.....?」
「いつから能力が出せるようになったの?」
「.........。」
能力。
それについて聞かれることは覚悟していた。
だが、神代自身は錠剤のことをできるだけ外部に漏らしたくはない。
だが、それを言わないと高嶺は納得しないだろう。
なら――。
「........それについてはちょっと待ってほしい。」
「えっ....?」
「いつかお前には話をする、その時まで待ってくれ。」
「......。」
高嶺にはそう言うが、神代自身もほぼあきらめていた。なぜなら、彼女は神代をいつも見下して周りを煽ったあげく、学校に来るなとまで言う人間だったからだ。どうせ詰められる......神代はそう考えていた。
「...........そう、分かったわ。」
「!?」
突如、高嶺の言葉に神代の体が電流を流されたぐらいに体を震わせ、その勢いで椅子から立ち上がる。どう考えても意味不明な行動に、高嶺が不思議そうな顔をする。
「お、おま.......おまえ、どういう風の吹き回しだ?」
「.......何よ?」
「だ、だって.....お前いつも――。」
「いつも....?」
「........いや、なんでもない。」
急に冷静さを取り戻した神代がゆっくりとまた椅子に座る。そして、なぜかスルーしてくれた高嶺に向けて今度は神代が不思議そうな顔をする。
(......てっきり詰めてくるかと思ったが.....考えすぎたか?....まぁ、いい。このまま話を変えてこの話題から遠ざけよう....。)
「....なぁ、一応リンゴ持ってきたんだが.....食うか?」
「......食べるわ。」
高嶺からの返事をもらうと、神代は紙袋からリンゴを取り出し果物ナイフで皮を剥いていく。普段料理をしないで冷凍食品を食べている神代は、ナイフの扱いに慣れておらずリンゴの実まで切ってしまう。その様子を高嶺はじっと見つめていると、いきなりリンゴとナイフを神代から奪い取る。
「ちょ....おまえ――。」
「見てなさい。」
高嶺はそう言うと、即座に皮を剥いていく。高嶺の細い指が操るナイフの流れるような手つきに神代は見入ってしまう。
「....器用だな...。」
「でしょ?....よく自炊してるのよ。」
「そうなんだ....意外だな。」
「ふふっ、そうかしら?」
口元を緩ませてニマニマと笑いだす高嶺。それを神代は黙って見つめる。数十秒経って高嶺が皮を剥き終わると、うさぎ型にカットしたリンゴを一つ神城へと渡す。
「はい、あんたの分。」
「お、おう.....ありがと。」
先ほどからの高嶺の態度に動揺する神代だったが、とりあえずはもらったリンゴを食べることにした。カシャリと爽やかな音が鳴って、神代の口に水気と共に甘酸っぱさが訪れる。それをゆっくりと堪能しながら味わっていると、高嶺が神代に笑顔を向けて話しかける。
「.....で、要件は?」
「....?」
「バカ言いなさい、いつもあんたをいじめている私のところに見舞いに来るなんて....何か要件があるんでしょう?」
「....まぁ、そうなるな。」
確かに神代は芳泉に言われて高嶺の見舞いに来たが、それが本当の目的ではない。逆に見舞いだけだったら来ていないだろう。その目的とは神代にとって1番重要であり、達成しなければならないもの。
それはーー
「なぁ、高嶺.....」
「はい?」
「お前....言ったよな?....許してくれたらなんでもするって?」
「......それがどうしたの?」
「お前.....人、殺せるか...?」
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